激しい競争が続く米国フードデリバリーサービス市場。シェア拡大のための合併合戦も生じているが、最近のトレンドは食品以外の分野への進出だ。業界トップのドアダッシュはコンビニやドラッグストアチェーンとの提携を進め、食品以外も配達するサービスの構築を狙っている。消費者からも食品以外の配達を望む声が挙がっているためだ。
何でも自宅まで配達してもらえる未来が近づいている。
7月第3週、フードデリバリーサービスのドアダッシュ(DoorDash)は大手ドラッグストアチェーンであるウォルグリーンズ(Walgreens)と提携し、市販薬や日用品の配達サービスを提供すると発表した。同プログラムはまずシカゴ、デンバー、アトランタで試験運用される。同社は「コンビニエンススペース」の実現に向けて動いており、これまでセブンイレブン、ワワ(WaWa)、ケーシーズ(Casey’s)などのコンビニチェーン、ドラッグストアチェーンのCVSファーマシー(CVS Pharmacy)などが協力している。ウォルグリーンもここに加わる形だ。
メルカリ(Mercari)も6月にこれに似た集配サービスを、フードデリバリーサービスのポストメイツ(Postmates)と提携し試験運用すると発表している。サンフランシスコでは2時間で宅配するサービスも提供されている。これは販売業者が最寄りの郵便局へ荷物を持ち込んだり梱包したりしなくても注文を受けられる仕組みだ。ポストメイツは昨年11月からショッピファイ(Shopify)の販売業者向けにこのようなサービスを展開している。
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このように米国では最近、次々と小売の物流プログラムが打ち出されている。衣類やアクセサリーを同じ都市内で配送するサービスには、ギャップ(GAP)傘下のオールドネイビー(Old Navy)やH&M、ルルレモン(Lululemon)といったの小売チェーン企業が参入している。
これらの新たな物流サービスは食品業界にとどまらない。ときに大手企業が提携しながら、持続可能な宅配プラットフォームの実現に向けて邁進している。提携企業が増えるほどさばける注文量は増え、コストも削減される。サードパーティ製の宅配アプリはこれまでもあったが、その大半は収益性がほぼ皆無だった。ベンチャーキャピタルも食事の宅配サービスの方向で支援をおこなってきた。そんななか宅配サービスの多様化が進むことで、市場シェアの拡大と利益率の増加、収益性の向上が見込める。
消費財とアパレル分野で利益率を高める
多くの企業が食品以外の分野へ積極的な進出を目指している。「こうした配達サービスは、これまでも今後の物流プラットフォームの姿として常にドアダッシュの中で検討されてきた」とドアダッシュの元バイスプレジデントであり、現在はモバイル決済とギフトカードのプラットフォームのレイズ(Raise)でCEOを務めるジェイ・クラウミンツァー氏は語る。現在は食品の宅配サービスに傾倒している競合他社が多いが、「いずれは、あらゆる商品を消費者に届けるサービスが広まるだろう」と同氏は予測する。
今は各社が競合サービスを展開していることで、大幅な割引など消費者にとってメリットの大きい状況となっている。だがクラウミンツァー氏は、宅配のスタートアップやレストランオーナーにとっては顧客単位の収益性の面で持続可能性に欠けると指摘する。
プラットフォームがこういった多様なサービスを提供するには、昼食や夕食の注文ラッシュ時以外に「宅配注文を常に多く受ける状態にする」必要があるのだ。一般的に、集荷や宅配で一番コストがかかるのが配達人だとクラウミンツァー氏は語る。アメリカでは一般的に配達人の時給は16ドルから17ドル(約1700円〜1800円)ほどとなっている。現時点では、配達人の給与はレストランが負担するか、プラットフォームと分担する形式が多い。
このコストを削減するには、ラッシュ時以外の同一地域からの注文をまとめて処理するのが有効だ。ウォルグリーンとドアダッシュの提携もまた「こういった効率を高め、地域のエコシステムを最適化する」仕組みなのだ。たとえば夕方の短時間だけ料理を配達していた配達人も、比較的忙しくない時間帯にウォルグリーンの市販薬や日用品の配達ができるようになる。ベンダーが増えれば配達人も増え、それによってドアダッシュの収益性が高まるという仕組みだ。
激しい競争で合併合戦の様相
市場調査会社エジソン・トレンズ(Edison Trends)共同創業者ヘタル・パンジャ氏は、ドアダッシュとウォルグリーンの提携は非常にシェアの高いドアダッシュの宅配アプリをより盤石にするための戦略だと述べている。エジソン・トレンズの今年4月のデータによれば、ドアダッシュのアプリは2019年3月から常に市場シェア1位を維持しており、米国ではウーバーイーツ(Uber Eats)より利用者が多い。さらに前年比で17%伸びており、今やフードデリバリー市場のシェアは45%にもなる。もしウーバーイーツとシェア3位のグラブハブ(Grubhub)が統合されれば、シェアはドアダッシュと並ぶ。グラブハブはこの中でも客単価も注文あたり41ドル(約4300円)ともっとも高い。
上場してから長いこと赤字となっていたドアダッシュは2018年に初めて黒字に転じたが、黒字をキープするのに苦戦してきた。たとえば2019年第3四半期の純利益はわずか100万ドル(約1億500万円)で、前年同期の2300万ドル(約24億円)から大幅減となっている。最新の業績発表のなかで、同社は3340万ドル(約35億円)の純損失を計上している。これは、パンデミックにより大きな損失を被った地元のレストランをグラブハブが支援したことによるものされている。だがパンデミック以前であっても、同社の収益はフードデリバリー事業ではなく技術販売によるところが大きかった。昨年10月の業績報告では「物流面による利益が非常に大きい」とされている。
パンジャ氏は数年前より顧客獲得コストが激増しており、配達サービスのさらなる統合が見込まれると予想する。少数の企業が長年激しく競争してきた結果、マーケティング費用がかさみ、新規ユーザーの獲得コストが増えているのだ。さらにSNS上のデジタル広告の競争激化がECの顧客獲得コストを押し上げているのはいうまでもない。
「数字を見れば競争がいまだ激しいことは明らかだ」とパンジャ氏は語る。シェアの獲得がますます困難になっていることが、最近の吸収合併につながっているというのが同氏の分析だ。ドアダッシュは昨年シェア下位のキャビア(Caviar)の買収に向けて動き、グラブハブは最近ジャスト・イート(Just Eat)を買収した。ウーバーイーツもまたポストメイツを買収したと伝えられている。
勝者総取りの戦略
フードデリバリー以外の宅配について、「どの企業もあらゆる分野に手を出したがっている」とパンジャ氏は語る。これは消費者動向がここ4ヶ月で大きく変わったことも大いに関係している。宅配プラットフォームは今の宅配ブームに乗ろうとしているのだ。パンジャ氏は、ドアダッシュはこれまでも都市部以外など競合他社の弱点をついて一気に成長してきたと指摘する。
一方、小売プラットフォームであるクララス・コマース(Clarus Commerce)の2020年のデータによれば、サードパーティの宅配サービスのあいだで有料のサブスクサービスが加速度的に増えているという。ポストメイツやグラブハブ、そして現在はドアダッシュも月額9.99ドル(約1050円)で配送料が無料になるサービスを提供している。有料会員向けの無料かつ速い宅配サービスについて消費者にアンケートを行ったところ、81%が「喜んで加入する」と回答している。さらに回答者の54%が衣類やアクセサリーを対象とした同様の有料プログラムに加入したいと回答しており、薬を含めた美容健康関連の商品についても35%が同様に回答している。
グロースマーケティング企業のイテラブル(Iterable)で取引戦略担当ディレクターを務めるギャリン・ホブス氏は、この競争の行方を次のように予測している。「やがて、あらゆる商品を宅配するごく少数のサービスが勝者として生き残るだろう」 。
[原文:Why delivery services are increasingly expanding into non-food categories]
Gabriela Barkho(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)