クリテオ(Criteo)は9日、IPONWEBを3億8000万ドル(約432億1600万円)で買収する計画を発表。クリテオは広告リターゲティングからリテールメディアへの転換を目指しており、極めて重要な買収になる可能性がある。
12月は例年、休暇を自宅で過ごしたい企業幹部がM&Aをまとめる時期だ。
2021年も例外ではなかった。クリテオ(Criteo)は12月9日、アイポンウェブ(IponWeb)を3億8000万ドル(約432億1600万円)で買収する計画を発表。クリテオは広告リターゲティングからリテールメディアへの転換を目指しており、極めて重要な買収になる可能性がある。
この買収は規制当局の承認が必要で、買収の完了は2022年第1四半期になる見込みだ。買収費用のうち、3億500万ドル(約346億8600万円)は現金、残りは自社株で支払われる。
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クリテオのCEOメーガン・クラーケン氏はプレスリリースのなかで、この買収について、成長と何より「収益の多様化」を目指す「クリテオの変革における決定的瞬間」と述べている。クリテオは5月にもマバヤ(Mabaya)を買収している。
クリテオは時価総額20億ドル(約2275億円)を優に超える上場企業で、デジタル広告業界でもっとも有名な企業のひとつだ。中核事業である広告リターゲティングのため、これまでサードパーティCookieに依存してきたが、そこから脱却しなければならないというのは、よく知られている話だ。AppleやGoogleが、自社プラットフォームにおける広告ターゲティングの規制を強化すると発表するたび、クリテオの株価はしばしば打撃を受けてきた。
「アドテクのゴッドファーザー」
おなじみの巨大テクノロジー企業を除き、クリテオはもっとも認知度が高いデジタル広告ブランドのひとつかもしれないが、アイポンウェブはほぼ間違いなく、アドテクに精通する人々の会話にしか出てこない名前だ。2000年に英国で創業されたアイポンウェブが、アドテクに与えた影響は計り知れない。主にロシアに拠点を置くエンジニアリングチームは、アドエクスチェンジやビッダーなど、業界の頭文字だらけの分野、つまりアドテクのあらゆる階層を支える頭脳集団だ。
情報筋は米DIGIDAYの取材に対し、そんなアイポンウェブの知名度が比較的低いのは、ボリス・ムーズカンツキー博士に起因するところが大きいと語る。というのも、ムーズカンツキー氏は学者からアドテク起業家に転身し、アイポンウェブを立ち上げた人物で、CEOと「チーフサイエンティスト」を兼任してきた。そのため、多くの人がムーズカンツキー氏を「アドテクのゴッドファーザー」と呼ぶが、同社はあえて広告技術のデベロッパーにとどまっていたため、表舞台ではあまり目立っていなかったのだ。
前述の通り、サードパーティCookieはゆっくりと衰退しているため、クリテオは株価上昇の新たなシナリオを探していた。リターゲティング予算への依存から脱却する手段として、このフランス企業はいまリテールメディアの台頭に期待をかけている。
米DIGIDAYが取材した複数の関係者は、スポンサードプロダクトサービスを提供するマバヤの買収は明らかにその方向への動きだった。だが、現在進行中のアイポンウェブの買収によって、クラーケン氏ははるかに大きなものを手に入れようとしていると口をそろえる。
クリテオの経営陣は「彼らはエコシステム内のほぼすべての主要プレイヤー、そして広告主のために技術を構築してきた」とアイポンウェブのエンジニアリングの専門性を称賛し、ムーズカンツキー氏が「チーフアーキテクト」としてクリテオに加入することを強調している。また、クリテオはビッドスイッチ(BidSwitch)やビッドコア(BidCore)、メディアグリッド(MediaGrid)といったアイポンウェブの多彩なサービスをフル活用できるようになる。
アイポンウェブの多彩なサービス
ビッドスイッチは、100を超えるデマンドサイドとセルサイドのアドテク業者の取引を促進するマーケットプレイスで、クリテオは自社のファーストパーティデータ製品のアドレサブルな市場を拡大する製品を手にすることになる。クリテオによれば、「(ビッドスイッチは)サードパーティCookie後の世界で、ファーストパーティデータのシームレスなアクティベーション、相互運用性、測定」を実現する製品だという。
一方、ワイヤーコープ(WireCorp)のCEO、シアラン・オケイン氏はビッドコアの獲得について、クリテオは自社のサービスをミッドテールからロングテールの小売企業に拡大できると分析している。ビッドコアは、広告主が入札戦略を効果的にカスタマイズできるアイポンウェブのセルフサービス型DSP(デマンドサイドプラットフォーム)だ。
「ビッドスイッチが、エコシステムの多くの部分をまとめる粘着テープのようなものだとしたら、ビッドコアはそれを(エコシステムに)接続するパイプだ」とオケイン氏は補足する。「クラーケン氏は、リテールメディアのダブルクリック(DoubleClick)になる可能性に賭けたのだ」。
またメディアグリッドは、メディアバイヤーを厳選されたオーディエンスインベントリー(在庫)と適切に結び付けることを目的としたツールだ。クリテオの最高製品責任者、トッド・パーソンズ氏は株式アナリストとの電話会議で、メディアグリッドについて、広告主とメディアオーナーの両方にとって魅力的なサービスだと説明する。
さらに同氏は、「メディアグリッドは、マーケターとメディアオーナーの双方にとって、ファーストパーティデータ活用を促進する」と付け加える。「その取引をプログラマティックの世界に移行すれば、よりスムーズで直接的な経路が実現する。しかも、常にサプライパスの最適化を求められることもない」。
サードパーティCookie依存からの脱却
プルーフ・イン・データ(Proof in Data)の創業者で、アイポンウェブのシニアバイスプレジデントだった経歴を持つネイサン・ウッドマン氏は、クリテオにアイポンウェブの技術が加わることで、クリテオの主要顧客であるパフォーマンスマーケター以外の広告主、なかでも、ニューヨークのマディソンアベニューに軒を連ねる、エージェンシー持ち株会社への訴求力が高まると述べている。
現状、多くのエージェンシー持ち株会社は、すでにDSPと長期契約を結んでいるため、新興勢力が参入するのは難しい。そのため、クリテオがメディアエージェンシーの予算を獲得するには、価値の増加を証明しなければならないのだ。その点でも、今回の買収はプラスに働くというわけだ。
ウッドマン氏は、アイポンウェブの技術がどのように価値の増大につながるかも説明している。「アイポンウェブの広範なデバイスグラフ機能があれば、クリテオはエージェンシーに対し、『ザ・トレード・デスク(The Trade Desk)やGoogleを使っていても問題ない。私たちは(バイヤーが契約しているDSP経由で)マネージドサービスのPMPを実行できる。それがメディアグリッドだ』と売り込むことができる」。
つまり、アイポンウェブの広告スタックによって、クリテオはアドテク機能をフル活用できるようになり、(理論的には)間もなく消滅するサードパーティCookieに、あまり依存しない方法で取引をキュレートできるということだ。
エンジニアリングこそが買収の狙い
クリテオはアイポンウェブとともに、広くリスペクトされているエンジニアリングの才能を獲得することになるが、M&Aのデューディリジェンスを専門とする情報筋は、クリテオとアイポンウェブのエンジニアリングチームの統合こそが、重要だと指摘している。
ビジネス的配慮から匿名を希望しているこの人物によれば、統合がうまくいかなかった場合、計画が台無しになる可能性もあるという。この点に関してクリテオの広報担当者にコメントを求めたが、本記事の公開時点(米国時間12月10日)では、回答を得られていない。
[原文:Why Criteo is purchasing the best-kept secret in digital media for $380 million]
RONAN SHIELDS(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:村上莞)