昨年秋に、Amazonは商品ランキング表示に関する新アルゴリズム「A10」を発表した。A10は、これまでのアルゴリズムとほぼ変わっていないように見えるが、とりわけ注目すべきは、外部サイト(ブログやインスタグラムなど)へのトラフィックが大きい商品をより高いランクに表示する設計になっている点だ。
オンライン販売市場における競争激化の波が、Amazonにまで押し寄せている。
昨年秋に、Amazonは商品ランキング表示に関する新アルゴリズム「A10」を発表した。A10は引き続き販売履歴やコンバージョン率、販売者履歴を重視した結果を表示するよう設定されており、これまでのアルゴリズムとほぼ変わっていないように見える。確かに変数の内容は上記のように以前同様だが、「どの変数に重きを置いているか」となると話が変わってくる。とりわけ注目すべきなのは、外部サイト(ブログやインスタグラム、リンクツリー[Linktree]など)へのトラフィックが大きい商品をより高いランクに表示する設計になっている点だ。
外部トラフィックの増加が狙い
とはいえ、今回のアップデートは商品のランク順位を根本から変えるほどのものではない。重要なのは、この更新に至った背景だ。実はオンライン販売競争の激化が大きく影響している。現在、ターゲット(Target)やウォルマート(Walmart)などの大手スーパーマーケットが、オンライン販売をさらに強化している。これを受けてAmazonもまた、ブラウザ検索でより上位に表示されるよう開発の焦点をシフトした。もちろん、オンライン市場におけるウォルマートやターゲットのシェアは、まだAmazonとは比べものにならない。だが両社の2020年のオンライン販売は1年を通して好調で、売上が前年から倍増するなど、破竹の勢いで成長を続けている。Amazonとしても、たとえばユーザーが「ヒョウ柄の布団カバー」と検索したときに、ウォルマートより上位にAmazonの商品ページを表示させたい。そこで有効になるのが、商品ページへの参照トラフィックだ。
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Amazonのコンサルタントを務めるタナー・ランキン氏は「Google検索で、最初のページに表示されるAmazonの商品ページがどんどん減っている」と懸念を抱く。「特に攻勢を強めているのがウォルマートで、Amazonとしては消費者心理はもちろん、検索結果でも一番の存在であり続けるための施策が必要だ」。
Amazon、ウォルマート、両者ともに検索結果が売上に直結している。シミラーウェブ(SimilarWeb)によれば、たとえばAmazonではトラフィックの約26.8%が検索エンジン経由で、ウォルマートに至ってはこの割合が43.8%にまで跳ね上がる。そしてこのような高い数字を支えているのが外部サイトの商品リンクだ。というのも主要な検索エンジンは、検索結果を表示するに当たり参照リンクの数を重視する設計になっている。つまり、Amazonの商品ページが検索結果の上位に表示されるためには、外部トラフィックを増やすことがもっとも効果的な手法となる。
SNSの参照トラフィックが鍵
Amazonで幼児向け商品や男性向け衣料品を多く販売しているメフムード・ハニフ氏によると、同氏や周囲の販売業者も今回の変更についてすでに通知を受けているという。Amazonの販売業者は、たとえ小さなものであっても常にアルゴリズムの変更に気を配っている。「なるべく早く変化を察知して、キャンペーンに反映させることが重要。乗り遅れると損失につながりかねない」とハニフ氏は語る。「Facebook上のさまざまなグループをフル活用するなどして、Amazonで長年販売してきた事業者ですら、ふとしたきっかけで廃業に追い込まれる可能性だってある」。
同氏はインスタグラムなどのインフルエンサーとの提携を強化するなど、すでにいくつかの対策を講じている。また今回のアップデートは比較的小規模なものであったため、特に問題はなかったという。
今回のアルゴリズムのアップデートは、Amazonが目指す大きな取り組みの一環とも考えられる。Amazonはこのアップデートの直前に、Amazonアトリビューションの運用を開始した。これは、サードパーティの販売業者がAmazon外部からのトラフィックを追跡する際に便利なツールだ。また、現在AmazonはSNSで人気のインフルエンサーを「Amazonインフルエンサープログラム(Amazon Influencer Program)」に積極的に勧誘している。同プログラムは複数の大手SNSプラットフォーマー(TikTokを除く)と提携しており、参照時にインフルエンサーには1%~10%の手数料が支払われる。
ランキン氏は、今後インフルエンサーの影響力はますます大きくなっていくと分析している。実際、インスタグラムやTikTokといったSNSで商品を探す人は増加の一途を辿る。また販売業者も参照リンク数を増やすべく多様な施策を講じている。そのため、たとえばGoogle検索経由で商品推薦サイト「ワイヤーカッター(Wirecutter)」などのトラフィックで上位表示させるのが、以前に比べ非常に難しくなっている。販売業者がSNSの参照トラフィックに力を入れるというのは、業者にとってもAmazonにとってもメリットが大きい。新たなチャネルで商品を露出させられるし、Google検索でもウォルマートなどの競合サービスより上位に表示されやすくなる。
アフィリエイトをめぐる新たな抗争
「Amazonは、アフィリエイトマーケティングにおける第一人者であり、絶対王者だ」とランキン氏は語る。「Amazonが取り組みを始めたのは、実に1996年にまで遡る」。ウォルマートも独自のアフィリエイトプログラムを展開しているが、Amazonと比べれば大きく遅れを取っているのは否めない。シミラーウェブによると、Amazonでは参照トラフィックがトラフィック全体に占める割合が約6.6%なのに対し、ウォルマートでは2.8%に過ぎない。それだけでなく、ウォルマートは2020年4月に、一部のアフィリエイト企業との提携を打ち切っている。
ランキン氏は次のように述べる。「しかしこの数字も徐々に変わっていくだろう。今ではウォルマートやターゲットといった競合他社も、Amazonの成功の裏にアフィリエイトの存在があったことに気付いたのだから」。
[原文:Why Amazon’s algorithm update takes direct aim at Walmart and Target]
Michael Waters(翻訳:SI Japan、編集:長田真)