Amazonが展開するインスタグラムにそっくりな新機能が、ブランドのあいだで注目を集めている。2019年末に公開されたAmazon Posts(アマゾン・ポスト)は、商品詳細ページの底部に、ソーシャルメディアの体裁で写真を投稿できる機能だ。
Amazonが展開するインスタグラムにそっくりな新機能が、ブランドのあいだで注目を集めている。
2019年末に公開されたAmazon Posts(アマゾン・ポスト、以下Posts)は、商品詳細ページの底部に、ソーシャルメディアの体裁で写真を投稿できる機能だ。Amazonはここ最近、この新機能の利用促進に力を入れている。見た目はインスタグラムに投稿される写真と似ているが、eコマース業界の識者たちによると、Postsを使ってみたいというブランドが急増しているという。
ソーシャルメディア的な要素の導入に向けた、Amazonの取り組みの歴史は長い。Postsは、まさにその延長線上にある。特にここ数年、Amazonのプラットフォーム上では、もっとソーシャルメディア的な要素を加えるべく、多くの試行錯誤が重ねられてきた。そんななか、ローンチ以来あまり話題にならなかったPostsに対し、前向きな姿勢を示すブランドが増えている。その成否は、いまのところまちまちだが、一部のセラーはそれなりの手応えを得ているようだ。実際、Postsの投稿画像のうち、もっともパフォーマンスの高いものは、大手ブランドによるインスタグラム投稿と、同程度のインプレッションを獲得しているという推計もある。
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Amazonが重ねてきたソーシャルコマースの試行錯誤
AmazonはPostsのほかにも、ソーシャルメディア的な要素を追加すべく、いくつかのサービスを展開しきた。2017年に、プライム会員限定の写真投稿サービスとして発表されたAmazon Spark(アマゾン・スパーク、以下Spark)はそのひとつだ。同サービスのポイントは、魅力的なコンテンツを投稿したユーザーは、報酬が得られるという仕組みにあった。しかし米DIGIDAYが報じた通り、当時メディアバイヤーの反応は薄く、Sparkを試してみたインフルエンサーたちは、投資に対するリターンがあまりにも小さいと口を揃えた。
その後Sparkは大幅な改造を経て、ファッションに特化した#FoundItOnAmazon(ファウンド・イット・オン・アマゾン)に生まれ変わった。同サービスの売りは、インフルエンサーが自分たちのストアにユーザーを呼び込めるというもの。さらにScout(スカウト)という、ピンタレスト(Pinterest)風の機能も追加された。ユーザーが表示された商品画像を「いいね」または「ちがうね」で評価し、これを繰り返すことで、表示する商品をユーザーの好みに合わせて絞り込むものだった(その後、Scoutは主に家具を扱うディスカバー・ユア・スタイル[Discover Your Style]として再構築された)。
前途多難の出発であったが、ソーシャルメディアの美学をAmazonプラットフォームで実現するという目標に向けて、Amazonはさらにアクセルを踏み続ける。買い物情報をライブ配信するAmazon Live(アマゾンライブ)へのテコ入れは、まさにその一環だ。またPostsの存在も、これまであまり注目されては来なかったとはいえ、この目標達成に向けての大きな要素のひとつといえるだろう。
Amazonのこうした取り組みの背景には、ソーシャルコマースの台頭がある。ソーシャルメディアを活用した物販は、長らくショッピングの未来と謳われてきたが、ここに来てその未来が現実味を帯びてきた。インスタグラムのチェックアウト機能も、いまや米国全土で利用できる。また、Facebook、WhatsApp、さらにはTikTokも、アプリ内のストア機能をテスト中か、もしくは公開間近という状態だ。Amazonの最大の売りが使いやすさと効率であることを考えれば、インスタグラムやTikTokのコマース機能が、Amazonのビジネスにとって大きな脅威となりうることは想像に難くない。
「オンラインショッピングに、ソーシャルメディア的な要素を持ち込むというコンセプトには、我々も以前から注目してきた」。そう語るのは、市場調査会社のカンター(Kantar)でeコマースの分析を担当するレイチェル・ダルトン氏だ。同氏によると、Amazonは自社のプラットフォームにユーザーを引き留めるために、試行錯誤しているという。「Amazonの狙いは、みんながいつまでもいたくなるような、興味の尽きないプラットフォームを作ることだ」。
インスタグラムを模倣するAmazon Posts
現状を見るかぎり、Postsはインスタグラムに酷似している。eコマースエージェンシーのパターン(Pattern)で、シニアブランドパートナーを務めるクラーク・クラインマン氏によると、Postsの投稿には、「美しい背景」を用いた商品画像が、数多く見られるという。たとえば、スナック菓子のタキスを製造販売するバーセル(Barcel)の投稿では、筒状に巻かれたパリパリのトルティーヤチップスをベーコンで包み、いかにもSNSらしくアレンジした画像が使われている。
Postsは基本的にアプリ版に表示される機能だが、一部の投稿はブラウザ版でも適応される。なお、一般的な表示先は、商品詳細ページの低部に位置する「関連する投稿」欄だ。当該の製品を販売するブランドの投稿と、競合他社の投稿がランダムに表示され、ユーザーはそれらをスワイプしながら閲覧する(クライマン氏によると、まれに、ブランドのページや製品カテゴリーのフィードにも表示されることがあるという)。また、ブランドの投稿をフォローする機能もあるが、現段階でそのメリットはいまひとつ明らかでない。さらにクラインマン氏によると、Amazon側の説明は「Postsで企業をフォローする人々は、その企業の製品ページを閲覧する可能性が高い」というものだが、その明確な証拠は示されていない。
とどのつまり、Postsを利用するブランド側のメリットは、いまひとつはっきりしていない。というのもクライマン氏によると、商品の表示回数には大きなばらつきがあるのだ。たとえば、ある画像を投稿したところ、当日の閲覧回数は100だった。ところが別の日に似たような画像を投稿したら、今度は閲覧回数が10000だった。そのようなことも起こりうる。インプレッションの大半は商品詳細ページの「関連する投稿」から発生するため、閲覧回数のばらつきは、特定の投稿をどのように表示させるかという、Amazon側の設定に起因する。「どのような基準でそれを判断しているのかは、必ずしも明確でない」と、クライマン氏は述べている。
ただ、同氏によるとPostsへの投稿は、ブランドの関心を引くのに十分な数字を出しているという。現在、大手では菓子メーカーのUTZ、中小では野菜チップスで知られるウィッキッド・クリスプス(Wicked Crisps)など、大小さまざまなブランドがすでにPostsを活用中だ。クライマン氏は具体的な事例として、同氏が担当するクライアントで、インスタグラムでは15万フォロワーを誇るCPGメーカーについて言及。「彼らの場合、Postsの投稿で、パフォーマンスの高いものに関しては、ソーシャルメディアと遜色のないインプレッションを獲得している」。
とはいえ、やはりAmazonがどのような基準で、画像の表示の仕方を判断しているかは気になるところだろう。ソフトウェア会社のコヴィオ(Coveo)で、eコマース事業を統括するブライアン・マグリン氏は、コンバージョン率の良し悪しが、これに影響しているのではないかと主張する。また、同氏が担当するクライアント全般について、Postsの投稿がコンバージョン率の増加に貢献している証拠があるという。マグリン氏は具体的な増加率については言及しなかったが、「目に見える増加であることは間違いない」と述べている。
Amazon Postsは線香花火に終わるのか?
マグリン氏は、Postsの先行きについて判断するのは時期尚早だとしながらも、いずれは同サービスがAmazonの広告部門に、より重要な要素として統合されるのではないかと見ている(現在、Postsは、あくまでAmazon広告を構成するサブセットとして位置付けられている)。また、いまのところセラーは、Postsを無料で利用可能だが、マグリン氏によると、将来的には「広告としての性質がもっと強くなるのではないか」という。Postsに広告媒体としてのメリットがあるとすれば、それは典型的な広告には見えないことだ。「(広告に見えなければ)ユーザーにノイズとして本能的にはじかれることもない」と同氏は話す。Postsの投稿が広告として表示されても、明らかに広告だと分からなければ、「ユーザーの警戒心もそれだけ弱まるだろう」というのがマグリン氏の見立てだ。
Postsの実際の仕組みは、これを活用しているエージェンシーにとってさえ不透明なままだが、クラインマン氏によると、Amazonがこの機能の本格展開を画策している形跡が、いくつか見られるという。たとえば、ここ数カ月のあいだに、セラーのダッシュボードには新しい評価指標がいくつか追加されている。
同氏は「Postsは、まだ完成していないことは明らかだ」であるとしつつ、今後も機能の追加や改良は続くだろうと見ている。「Amazonの戦略の核心部分とまではいわないが、重点的に注力していることは間違いない」。
[原文:Why Amazon is taking cues from social media platforms]
MICHAEL WATERS(翻訳:英じゅんこ、編集:村上莞)
Image by Amazon