10月第4週、同社はAmazon.com以外での購入データを消費者から買い集める計画を発表した。消費者が購入を示すレシートを1カ月に10枚以上送付すれば、Amazonは1カ月あたり10ドル分のストアクレジットを提供する。
米Amazonはどうやら、米小売大手ターゲット(Target)やウォルマート(Walmart)のレシートを本気で覗き見たいらしい。
10月第4週、同社はAmazon.com以外での購入データを消費者から買い集める計画を発表した。消費者が購入を示すレシートを1カ月に10枚以上送付すれば、Amazonは1カ月あたり10ドル分のストアクレジットを提供する。ただ、どこのレシートでも良いわけではなく、Amazonの子会社であるリテーラー、つまりホール・フーズ・マーケット(Whole Foods Market)は対象外となる。ここからはっきりと見えるのは、Amazonがいまだ市場を独占できていない商品/分野の把握に向けて動き出した、という事実だ。
同社の目指すところは、ターゲティング広告の精度向上にあると思われる。ショッパー・パネル(Shopper Panel)と名付けられたこのプログラムは、Amazonの発表によれば、「広告キャンペーンの効果を測定」し、「Amazon.comおよびWhole Foodsといった関連店における品揃えのさらなる充実」に寄与するという。そしてこれは、ひいてはマイクロターゲティング精度の改善につながる――たとえば、自社サイト以外で何が買われているのかを突き止められれば、人々がオンライン購入を考えていなかったAmazon商品の広告を打てるようになる。
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広告事業は、Amazonの成長を支える最大の原動力のひとつだ。市場調査会社eマーケター(eMarketer)は最近、Amazonの広告事業について、GoogleやFacebookのそれをはるかに凌ぐ、前年比23.5%の伸びを予想した。いまのところ、市場占有率はその二大巨頭に比ぶべくもないが――今年度、Amazonの広告事業の売上は130億ドル(約1.3兆円)に達することが見込まれる一方、GoogleとFacebookは広告でそれぞれ396億ドル(約4.1兆円)と314億ドル(約3.2兆円)を荒稼ぎすることが予想されている――この2社によるデジタル広告界の複占状態は、まもなく3社による寡占に変わるだろうと、アナリストらは見ている。
広告市場における商機
実際、こと広告に関しては、Amazonはライバルよりもかなり優位にある。GoogleとFacebookは突き詰めていえば、人々が何を買っているのか、推測しているに過ぎない一方、Amazonは 1億5000万人のプライム(Prime)会員を含め、何億人にも及ぶ顧客の消費習慣に関する大量のデータに直接アクセスできる。そして、同社は新たに手にしたその力をすでに行使している。たとえば、ロク(Roku)といったライバルによるAmazon.comへの広告出稿を、完全に遮断しないまでも、制限するようになったと、ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)は報じた。
一方、FacebookとGoogleはAmazonのこうした動きへの防御策を講じはじめている。両プラットフォームとも、Amazonの例に倣い、顧客の消費行動を把握――および促進――できるよう、各々のショッピングセクションの再活性化を試みている。とはいえ、Amazonの新プログラムは、リテーラーとしての強みのさらなる強化を狙った試みにほかならない。
Amazonは今後5~10年後の広告市場における商機を見据えている――そして、それに十二分に備えたいと考えている。「サードパーティCookieが死に絶える運命にあるのは誰に目にも明らかであり、Googleは実際、徐々に手を引きつつある」と、市場分析会社テイカメトリクス(Teikametrics)のインサイツ部門ディレクター、アンドルー・ウェーバー氏はいう。「では、同じようなターゲット広告をWeb上で打ちたい場合、ブランド勢はどこに行く? Cookieの評価が徐々に下がっていくなか、大量のファーストパーティデータを有するAmazonは今後、彼らの目にますます魅力的に映るだろう」。
Amazonが抱える盲点
ただし、Amazonにも盲点はある――ターゲットやウォルマート、あるいは米グローサリーチェーンのトレーダー・ジョーズ(Trader Joe’s)など、ほかの小売店で人々が何に散財しているのかは、まったく見えていない。「広告主はAmazonに対して、こう文句を言っているかもしれない――おたくは、自分のところで何が売れているのかに関するデータは確かに持っているが、ほかで何が売れているのかについては、何の情報もくれないじゃないか」と、ボストン大学クエストロムスクールオブビジネス教授、ギャレット・ジョンソン氏は指摘する。「Amazon外での変化を予測する我々のデータがどれほど有用か? Amazonはその点をよく考えてみるといい」。
Amazonがレシートを集めることにした理由は、まさしくそこにある。理論上はこれで、たとえ参加者が少なかったとしても、自社サイトにおける消費行動と他店におけるそれとの共通点や違いについて、いまよりも明確に把握できるようになるからだ。
巨大テック企業が自社ツール向上のために消費者に対価を支払う動きは、じつはすでにさほど珍しいものではなくなっている。たとえば、Facebookは昨年(2019年)に導入したアプリ、ビューポインツ(Viewpoints)を介し、音声認識検索ツールの改善に役立つ声のサンプルを含め、種類を問わずさまざまなデータを送付したユーザーに少額の謝礼(通常5ドル)を支払っている。
10ドルという買取額の意味
事実、Amazonは昨年にも、ユーザーの検索履歴にアクセスする代わりに、10ドルのストアクレジットの支払いを始めている。ユーザーはAmazonアシスタントをダウンロードするだけでよく、それで同社はユーザーが他サイトで閲覧した商品を確認できるようになる、という仕組みだ。この取り組みについて、Amazonは『アトランティック(The Atlantic)』誌の取材に応え、ユーザーの特定個人情報の追跡はせず、「Amazonアシスタントで得た情報を自社の広告ビジネスに利用することはない」と説明している。
確かに、たとえAmazonが他リテール業者のレシートを利用して広告市場の独占を狙っているとしても、そのために何人の参加者が必要となるのかまではわからない。ただし、Amazonは外部コンサルタントを使わずに、自らデータを収集しており、だからこそ「そのデータをどう処理するのか、それをどう料理して、そこから何を得るのか、すべてがAmazonの手中にある」と、ウェーバー氏は指摘する。たとえば、インディアナ州に暮らす32歳の母親たちがオムツをウォルマートで好んで買っていることがわかれば、自社の安いおむつ製品の広告をその層に向けてピンポイントで打つ、いわゆるマイクロターゲッティングが可能になる。
いまのところ、このレシートプログラムに参加できるのはAmazonが招待した者だけだが、ほかのユーザーもShopper Panel上でウェイティングリストに登録することができる。ただ、同プログラムに興味を持つ層に何らかのバイアスが生じるのは避けられない――10ドルという報奨額を考えると、そこに魅力を感じる中・低所得層に偏ることになるだろうと、ジョンソン氏は指摘する。
大当たりする必要がない
「大成功を収め、それこそ3000万人がレシートを定期的に送付する、ということにはならないだろう」と、ウェーバー氏もいう。ただし、大当たりする必要がないのも事実だ。Amazonとしては、特定層に属する人々が相当数登録してくれさえすれば、マイクロターゲッティング広告が打てるわけであり、それだけでこの取り組みは成功したことになる。
リテール市場のなかにAmazonが手をつけていない分野がまだ広く残っているとすれば、消費者のレシートは同社に次に向かうべき先を指し示してくれるかもしれない。「Amazonが自社サイトでいまだ提供していない類の商品があるとするなら」、レシートはAmazonにそれを教えることになると、ウェーバー氏は断言する。
[原文:Why Amazon is paying customers to fork over their offline receipts]
Michael Waters(翻訳:SI Japan、編集:長田真)