Amazonマーケットプレイスは2000年に開業した。当時、どのセラーも規模が小さく、株式公開など検討することすらなかった。ところがこの1年で、Amazonの顧客基盤全体が大きく膨らみ、それに伴って売上高上位を占めるセラーの規模拡大が一気に加速した。
多くのAmazonセラーたちが、株式公開の機会をうかがっている。
Amazonマーケットプレイスは2000年に開業した。当時、どのセラーも規模が小さく、株式公開など検討することすらなかった。ところがこの1年で、Amazonの顧客基盤全体が大きく膨らみ、それに伴って売上高上位を占めるセラーの規模拡大が一気に加速した。直近の収支報告書によると、2020年のセラーサービス収入(サードパーティセラーがAmazonに支払う販売手数料や配送代行手数料)は、前年比で57%増加。Amazonセラー向けに支援を行うジャングルスカウト(Jungle Scout)の調べによると、いまやAmazonセラーの2%が、1000万ドル(約10億円)超の生涯利益を得ているという。たとえば、ファーマパックス(Pharmapacks)の年間売上高は、少なくとも2億5000万ドル(約263億円)にのぼるという。
トップレベルのセラーたちにとっては、株式公開はもはや夢のような話ではない。2020年8月に行われたアンカー(Anker)の上場は、その好例といえる。同社は中国の電子機器メーカーで、Amazonにはじめて出品したのは、創業年でもある2011年。いまではベストバイ(Best Buy)などの実店舗でも商品を販売しており、時価総額は100億ドル(約1兆円)近くにのぼる。また、アンカーほど話題とはならなかったが、モホークグループ(Mohawk Group:以下、モホーク)も上場を果たしており、株式公開後、1年半におよぶ苦闘を経て、ようやく事業に弾みがつきはじめた。規模としてはアンカーよりもはるかに小さく、時価総額は8億7300万ドル(約921億円)だが、株価は現在急騰中。2020年3月半ばには、1株当たり1.70ドル(約180円)の安値をつけたが、いまでは33ドル(約3400円)前後まで上昇している。このような株価の上昇にも示される通り、Amazonのマーケットプレイスが力をつけるに伴って、ベンダーたちも上場企業としての実力を養いつつあるようだ。
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「株式公開を試みるAmazonセラーは、確実に増えている」。こう語るのは、投資会社のエイヴォリー・アンド・カンパニー(Avory & Co.:以下、エイヴォリー)創業者、ショーン・エモリー氏だ。同氏はさらに、AmazonのサードパーティセラーがAmazonマーケットプレイスでの販売を経て株式公開に至る道筋と、一般的なブランドが上場に至る経緯は異なるとも述べる。「商品を市場に投入する際の伝統的な戦略は、ブランドを確立して、伝統的な実店舗で売ろうというものだ。少なくとも歴史的にはそうだった」と同氏は話す。一方Amazonでは、重要なのはブランドネームではなく、検索結果での商品の見付けやすさだという。
たとえば、モホークのブランドのひとつであるホームラブズ(hOmeLabs)は、除湿機、製氷機、冷蔵庫など、多くの家電製品を扱っているが、いずれの商品も、検索結果では常にフリッジデール(Frigidaire)のような、大手家電メーカーよりも上位に表示されている。さらに同社は、自ら立ち上げた製品だけでなく、成功を収めたセラーから事業を買収して展開している(エイヴォリーもモホークに投資している)。モホークグループの社名に馴染みのない人でも、Amazonで同社の製品を見たことはあるはずだ。
上場はリスクが伴うが、メリットも
株式公開は危険を伴う試みだ。それは、中小のブランドにとってはなおさらだろう。それでもモホークは、創業からわずか5年後の2019年6月に、株式を公開。ところがこの上場は不発に終わった。会社の規模はあまりに小さく、リソースが十分ではなかったのだ。実際、株式市場の分析サービスを提供するシーキングアルファ(Seeking Alpha)は当時、これを「期待外れのIPO」と酷評。新規公開株の発行から同社が得られた収入総額は、予想額の5000万ドル(約52億円)よりはるかに少ない3300万ドル(約34億円)だった。モホークのファブリス・ハメイド最高財務責任者(CFO)は、米DIGIDAYの姉妹メディア、モダンリテール(Modern Retail)の取材に対して、「我々のIPOは確かに時期尚早だった。しかし、気付いたところであとの祭りだ。結果は甘受するしかない」と語っている。
ところが、2020年にAmazonが過去最高益を達成すると、モホークの売上にも弾みがついた。2020年12月に投資会社のオッペンハイマー(Oppenheimer)を含む、ウォール街の著名な銀行がモホーク株を担当するアナリストを選任すると、投資の申し出が相次いだ。エイヴォリーのエモリー氏によると、アナリストたちのお墨付きがあれば、「株価には自ずと弾みがつく」という。
また、サードパーティセラーにとってIPOは確かにリスクを伴うが、ハメイド氏によると、メリットもいくつかあったという。
モホークは、Amazonなどのマーケットプレイスで売れ筋製品を買収するという戦略を採用している。モホークは、キーワードのトレンドや価格の変動など、複数のeコマースプラットフォームをまたいで約550項目の変数を追跡するアルゴリズムを持っており、これを活用して買収に値する製品を特定している。このような買収交渉において、流動性の高い株式の保有は大きな魅力になるという。「今日のM&Aにおいて、その優位性は証明済みだ」とハメイド氏は述べている。
Amazonセラーの成長は必然
ただ、現在モホークはAmazon、ウォルマート(Walmart)、楽天など、複数のeコマースサイトで商品を販売しているが、自らコントロールできないマーケットプレイス頼みの企業は、いずれもリスクを負うことになる。たとえば、Amazonで最有力のセラーたちは、検索結果の上位表示をテコに商品を売っている。だが、Amazonがアルゴリズムの変更など、現状を大きく変える何らかの施策を打ち出せば、それら頼みの商品があっという間に失墜することも、まったくあり得ぬ話ではない。
その反面、エモリー氏によると、ウォルマートをはじめとする競合プラットフォームの台頭により、そのリスクは軽減されつつあるという。「彼らとしても、第6位の除湿機を恣意的に上げて、第1位の除湿機を落とすようなことはしないだろう」と、同氏はいう。それどころか、ウォルマートのおかげで、「Amazonはますます、消費者のニーズに配慮せざるをえなくなる」。モホークとしては、マーケットプレイスの変化を1時間単位で追跡するというそのアルゴリズムを最大限に活用すれば、Amazon側でどのような変更が起ころうとも、自社の利益を保護できるとしている。
ハメイド氏は、ほかにも多くのセラーがモホークの規模にまで成長するだろう(そして、いつかはIPOに挑戦するのではないか)としつつ、Amazonのマーケットプレイスは巨大なエコシステムだと強調する。「この広大な領域に、巨大な企業がぽつんとひとつ存在するなどありえない。複数のプレイヤーの混在はむしろ必然だ」。
[原文:Why Amazon brands are choosing to go public]
MICHAEL WATERS(翻訳:英じゅんこ、編集:村上莞)