旧Twitterのプラットフォーム「X」。社員の共有メールによると、現在Xではブランドセーフティの新しいトップを探しているという。
この情報が流れたのは、Xにとって「今が正念場」というべきタイミングだ。Xは2022年のイーロン・マスク氏による敵対的買収以来、広告主を取り戻そうと躍起になってきた。あの買収からというもの、このテキストベースのアプリでは「言論の自由こそ、最高」といった状態が続いている。信頼の問題とブランドセーフティの問題は、買収に伴う内乱や大量辞職から発生した結果論にすぎないのだ。
加えて、あの買収以降、ユーザーからもマーケターからも同じような不満が噴出していることも忘れてはならない。誰もが「Xは偽情報、誤情報、ヘイトスピーチであふれている」と騒いでいるのが現状である。「Xがブランドセーフティのトップを探していると聞いても驚きはしないが、動き出すのにこれだけ時間がかかったことに驚いている」とソーシャルメディアエージェンシーのソーシャルエレメント(The Social Element)で、ソーシャルイノベーション担当バイスプレジデントを務めるエイミー・ギルバート氏は話す。
イーロン・マスクが先延ばしにしているもの
空席であるブランドセーフティのトップをそれまで担っていたのはAJブラウン氏だった。当時在籍約6年だった同氏は、2022年10月にマスク氏がTwitterを買収するとすぐに昇進した。しかし、当時トラスト&セーフティを統括していたエラ・アーウィン氏が6月に辞表を出した翌日には、ブラウン氏も辞職している。外野からすれば、これではまるでトラスト&セーフティ部門全体がないがしろにされたようにも見える。この件に関して米DIGIDAYはXにコメントを求めたが、回答はなかった。
デジタルエージェンシーのブレインラブズ(Brainlabs)でペイドソーシャル担当バイスプレジデントを務めるジョン・モリーナ氏は、「採用が最終的にはイーロン氏の判断だとすると、Xの信頼回復をコントロールするという観点から、彼が何を先延ばしにしようとしているのかがこれでわかる」と話す。
Xの採用ページもLinkedInのプロフィールも(2023年8月3日現在、「Twitter」のまま)、人材募集全般に関する新しい情報を一切提示していない。ブラウン氏は、自身のLinkedInのプロフィールで、「自分はTwitter(当時)のブランドセーフティチームと広告品質チームの責任者であり、上司は同プラットフォームのトラスト&セーフティのリーダーだった」と述べている。
これまでのところ、新たなブランドセーフティリーダーに課された具体的な責任はすっかりベールに包まれているようだ。つまり、今言えるのは、Xではブランドセーフティリーダーの役割は決して楽な仕事ではないということくらいだ。そこで米DIGIDAYでは、リーダーとして候補者には何が求められるのかを理解するために、マーケター6名から話を聞いた。
まず何よりも、トップから認められることが必要
ブランドセーフティのリーダーの欠員を埋めることはもちろん重要だが、この役職に就く人物はマスク氏と上手くやっていかなければならない(それに、マスク氏に報告する義務がある)という点も考慮すべきだ。TwitterのCEO募集時に米DIGIDAYが報道しているように、CEO候補者の場合、四六時中ツイートしたり、思い付きで次々と決断を下したりするマスク氏の手綱を引くことができそうな人でなければならなかった。
リンダ・ヤッカリーノ氏のCEO就任から、この点は若干改善しているが(若干といっても、ほんのわずかだが)、今回のブランドセーフティの新しいトップにも同じ条件が当てはまる。また、ブレインラブズでペイドソーシャル担当ディレクターを務めるカニ・ダン氏によれば、ブランドセーフティの新しいトップは芯のある人物でなければならないという。
「必要とされているのはイーロン・マスクの取り組みを後回しにして、後片付けという極めて重要な自分たちのタスクを着実に進められる人物だ」とダン氏は話す。
旧Twitterのプラットフォーム「X」。社員の共有メールによると、現在Xではブランドセーフティの新しいトップを探しているという。
この情報が流れたのは、Xにとって「今が正念場」というべきタイミングだ。Xは2022年のイーロン・マスク氏による敵対的買収以来、広告主を取り戻そうと躍起になってきた。あの買収からというもの、このテキストベースのアプリでは「言論の自由こそ、最高」といった状態が続いている。信頼の問題とブランドセーフティの問題は、買収に伴う内乱や大量辞職から発生した結果論にすぎないのだ。
加えて、あの買収以降、ユーザーからもマーケターからも同じような不満が噴出していることも忘れてはならない。誰もが「Xは偽情報、誤情報、ヘイトスピーチであふれている」と騒いでいるのが現状である。「Xがブランドセーフティのトップを探していると聞いても驚きはしないが、動き出すのにこれだけ時間がかかったことに驚いている」とソーシャルメディアエージェンシーのソーシャルエレメント(The Social Element)で、ソーシャルイノベーション担当バイスプレジデントを務めるエイミー・ギルバート氏は話す。
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イーロン・マスクが先延ばしにしているもの
空席であるブランドセーフティのトップをそれまで担っていたのはAJブラウン氏だった。当時在籍約6年だった同氏は、2022年10月にマスク氏がTwitterを買収するとすぐに昇進した。しかし、当時トラスト&セーフティを統括していたエラ・アーウィン氏が6月に辞表を出した翌日には、ブラウン氏も辞職している。外野からすれば、これではまるでトラスト&セーフティ部門全体がないがしろにされたようにも見える。この件に関して米DIGIDAYはXにコメントを求めたが、回答はなかった。
デジタルエージェンシーのブレインラブズ(Brainlabs)でペイドソーシャル担当バイスプレジデントを務めるジョン・モリーナ氏は、「採用が最終的にはイーロン氏の判断だとすると、Xの信頼回復をコントロールするという観点から、彼が何を先延ばしにしようとしているのかがこれでわかる」と話す。
Xの採用ページもLinkedInのプロフィールも(2023年8月3日現在、「Twitter」のまま)、人材募集全般に関する新しい情報を一切提示していない。ブラウン氏は、自身のLinkedInのプロフィールで、「自分はTwitter(当時)のブランドセーフティチームと広告品質チームの責任者であり、上司は同プラットフォームのトラスト&セーフティのリーダーだった」と述べている。
これまでのところ、新たなブランドセーフティリーダーに課された具体的な責任はすっかりベールに包まれているようだ。つまり、今言えるのは、Xではブランドセーフティリーダーの役割は決して楽な仕事ではないということくらいだ。そこで米DIGIDAYでは、リーダーとして候補者には何が求められるのかを理解するために、マーケター6名から話を聞いた。
まず何よりも、トップから認められることが必要
ブランドセーフティのリーダーの欠員を埋めることはもちろん重要だが、この役職に就く人物はマスク氏と上手くやっていかなければならない(それに、マスク氏に報告する義務がある)という点も考慮すべきだ。TwitterのCEO募集時に米DIGIDAYが報道しているように、CEO候補者の場合、四六時中ツイートしたり、思い付きで次々と決断を下したりするマスク氏の手綱を引くことができそうな人でなければならなかった。
リンダ・ヤッカリーノ氏のCEO就任から、この点は若干改善しているが(若干といっても、ほんのわずかだが)、今回のブランドセーフティの新しいトップにも同じ条件が当てはまる。また、ブレインラブズでペイドソーシャル担当ディレクターを務めるカニ・ダン氏によれば、ブランドセーフティの新しいトップは芯のある人物でなければならないという。
「必要とされているのはイーロン・マスクの取り組みを後回しにして、後片付けという極めて重要な自分たちのタスクを着実に進められる人物だ」とダン氏は話す。
「言論の自由」を標榜しつつ広告主をなだめられるか
Xではこの6カ月だけで、すでに4名のシニアエグゼクティブがブランドセーフティチームとトラスト&セーフティ部門を去っている。原因は、問題の多いビリオネア、マスク氏との衝突と、あれこれ方針を変える彼のやり方にある。現在のチームの規模がどの程度なのかはまだ明らかではないが、LinkedInを見る限り、ブランドセーフティ所属が2名、トラスト&セーフティ所属が24名いるようだ。
どのような企業であれ、シニアエグゼクティブが辞職すれば、それまでの一貫性や調和がぽっかり抜け落ちた状態に陥る。Xのような企業であれば、コンテンツモデレーション(投稿監視)や具体的な方針の実施で致命的な問題になる。
その空白部分を埋める人物はそれが誰であれ、マスク氏のビジョンである「言論の自由」を掲げたプラットフォームを実現しながらも、その言論の自由の厄介な部分を抑えて、広告主をなだめるという、針の穴に糸を通すような方針で上手く空白を埋められる人でなければならない。どのようなプラットフォームの経営陣でも、それを実現するのは至難の業だ。ましてそれがXのようにごたごた続きの企業となればなおさらである。
デジタルエージェンシーのクラウド(Croud)でペイドソーシャルアカウントディレクターを務めるダニエル・カーター氏は、「候補者ならおそらく、マスク氏がこれまでのように思い付きで方針をすべてひっくり返したり、変更したりしないという確信がほしいだろう」と指摘する。ブランドセーフティの新しいトップは、皆が同じチームのメンバーであり、同じ戦いに挑んでいるように感じる必要がある。そうではなく、このまま混沌とした状況が続くのだとしたら、新しいトップが来たところでまったく意味はない。
長期的な目で見ると、広告主は寄りつかなくなるだろう。もうすでに「このプラットフォームは予算をかけるにはハイリスクな選択肢だ」と考える大勢の広告主が、一斉にXを止めており、それ以降、いったん離れた予算はまだ戻ってこない。
広告主が必要としているもの
確かに、「役員クラスの人材を新たに採用する」となれば、よさそうに聞こえるかもしれないが、Xがまともで信頼できるプラットフォームであるという具体的な確証がない限り、広告主はXに予算を投入しようとは考えないだろう。
たとえば、ヤッカリーノ氏のCEO就任が発表されたとき、大半の広告主はもろ手を挙げて喜び、これでTwitter(当時)も業界で今一度、確固たる立ち位置を確保できるだろうと期待した。
しかし、それから2カ月もしないうちに、マスク氏はさらに混乱と物議を引き起こした。ツイートのレート制限を引き下げ、TwitterをXにリブランディングしたからだ。
決して、ヤッカリーノ氏がマスク氏の決断に同意しなかったというわけではない。この混乱のなか、マーケターは皆、Xが信用も分別もあるプラットフォームだと示すひとつの形として、ヤッカリーノ氏自身の声を求めていたにもかかわらずだ。実際にその声が届くのには数日を要し、それまではマスク氏自身がツイートでプラットフォームの進捗状況の最新情報を業界に知らせていた。
ブレインラブズのモリーナ氏が指摘しているように、ブランドセーフティのトップを採用するからといって、このプラットフォームで何らかの礼節のある対話が取り戻されるのか、それにかかわる本質的な変化がもたらされるのか、この段階で判断するのは難しい。
そもそも広告主が必要としているのは、「Xにはまだオーディエンスがいる」「このプラットフォームは、以前と同じパフォーマンスをまだ提供できる」と確信できることなのだ。「広告主が知りたいのは、Xがオーガニックであれ有料であれ、そのマーケティングの取り組みが単に利用するプラットフォームが変わったというだけではなく、自社の戦略を補完するものになり得るのかなのだ」と、クラウドのカーター氏は話す。
「現時点では、Xへの広告掲載をすすめられない」
信頼を構築するひとつの方法は、決定とその決定を下した理由をオープンにすることだ。ただ、これまでのXのやり方をみると、ほとんどの決定を思い付きで発表したり、行き当たりばったりのTwitter投票(現在はX投票と呼ぶべき?)で決定したりしているため、これは少々ハードルが高い。
Xが広告主を取り戻したいのであれば、ブランドセーフティは自社にとって重要だと言えるようにならなければならない。とくに、一番の競合相手であるメタ(Meta)が大きく二歩三歩と踏み出して、ブランドセーフティがいかに自分たちにとって重要なのかを示しているのだから、なおさらだ。
確かにXは広告主の関心を引こうとして、デジタルメディア測定の広告検証企業ダブルベリファイ(DoubleVerify)と2023年1月に再び契約を締結している。しかし、まだその段階で広告主が大いに納得していたとはいえず、様子ががらりと変わったようにも見えない。
もちろん、カンヌライオンズ期間中にはXのグローバルセールス&マーケティング担当バイスプレジデント、クリス・リーディ氏が、「Twitter(当時)はブランドセーフティ関連の取引企業を増やし、各社と会合を始めている」と投稿している。その取り組みの一環として、リーディ氏のチームでは、新たな提案依頼書(RFP)を発行し、ゼファー(Zefr)、インテグラル・アド・サイエンス(Integral Ad Science:IAS)、ダブルベリファイ、ユニタリ(Unitary)のような企業が提供するサービスの検討を計画していた。
ブレインラブズのダン氏も指摘するように、広告主が今何よりも必要としているのは透明性と明確性である。つまり、この数カ月、Xで安全に対する対策が欠落しているのは明らかであり、ブランドセーフティのトップに立つ新しい人材が、いかにしてこの問題に対応するのかをはっきりと示してもらうことなのだ。
「現時点では、弊社の顧客に対してXへの広告掲載をすすめられない。それは閲覧注意のコンテンツや政治色丸出しのコンテンツの隣に弊社の広告が出るのか出ないのか、出るとしたらそれはいつなのか、弊社で把握できないからだ」とダン氏は言う。「つまり、広告主やエージェンシーが、コンテンツ規制の方法をしっかりと把握できるようになるまでは、Xでブランドセーフティが担保されるとはとても思えないということだ」。
[原文:What X — the artist formerly known as Twitter — needs from a head of brand safety]
Krystal Scanlon(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)