困難な1年を経て、Amazonが支援するフードデリバリー企業が株式公開を計画している。英国のスタートアップ企業デリバルー(Deliveroo)は3月8日、ロンドン証券取引所における新規株式公開(IPO)の意向を表明する書類を提出した。
困難な1年を経て、Amazonが支援するフードデリバリー企業が株式公開を計画している。
英国におけるオンラインフードデリバリーのスタートアップ企業、デリバルー(Deliveroo)は3月8日、ロンドン証券取引所における新規株式公開(IPO)の意向を表明する書類を提出した。同書類では、デリバルーの2020年における3億900万ドル(約337億円)の損失を含む財務情報が開示されている。
まだ正式な日程を決定していないが、デリバルーのIPOは、ロンドンにおける2021年最大級のIPOになると予想されており、評価額は100億ドル(約1兆916億円)に達する可能性もある。そして、このデリバリーサービスの最大の支援者が、同社の取締役会にも名を連ねるAmazonだ。Amazonは2019年5月にデリバルーの株式16%を取得したが、この投資は競争上の懸念から、規制当局の許可が下りるのに2020年夏までかかったという。
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Amazonがデリバルーに関心を示したことは、興味深い出来事といえる。Amazonは最初の投資を行った以外に、まだ自社や自社のサービスをデリバルーにほとんど結びつけていないが、Amazonの支援は、以前にAmazonレストラン(Amazon Restaurants)など、一連のプログラムを通じて進出しようとしたフードデリバリー市場が、Amazonにとって依然として強い関心事であることを示唆している。
デリバルーのこれまで
デリバルーいわく、彼らの強みは「ゴーストキッチン(デリバリーに特化した調理施設)のコンセプトを生み出した点」にあるという。
デリバルーは2017年に、デリバリー専用のメニューを調理するために作られたゴーストキッチン、デリバルー・エディション(Deliveroo Editions)をスタート。2021年には、ゴーストキッチンの数を32カ所から64カ所へと倍増させる計画だという。
なおデリバルーは、ヨーロッパ各地のほか、香港やオーストラリアなどの一部地域でも事業を展開しており、もっともプレゼンスを発揮しているのは英国だ。実際、英国のフードデリバリー業界の市場シェアを見ると、デリバルーとウーバーイーツ(Uber Eats)はほぼ拮抗している。ただし、どちらも同カテゴリーを牽引するジャスト・イート(Just Eat)に大きくリードされている。
しかし、リサーチ企業のエジソン・トレンズ(Edison Trends)がまとめ、米DIGIDAYの姉妹サイトであるモダンリテール(Modern Retail)に共有されたデータによると、英国におけるデリバルーの市場シェアは、過去1年間で着実に拡大している。2020年3月の英国市場におけるデリバルーのシェアは22%で、ウーバーイーツは25%、ジャスト・イートは52%だった。しかし2021年2月現在、デリバルーのシェアは26%、ウーバーイーツは27%に上昇したのに対し、ジャスト・イートは45%に低下したと、エジソン・トレンズは報告している。「デリバルーは競合2社と比較して、この期間における市場シェアが大きく拡大した」と、エジソン・トレンズの共同創設者、ヘタル・パンジャ氏は、メール取材で述べている。
なお、ジャスト・イートがここまで大きく成長したのは、買収のおかげでもある。同社は2020年の春に、大手デリバリー企業テイクアウェー・ドットコム(Takeaway.com)と合併。同年6月には、米国の同業社であるグラブハブ(GrubHub)を73億ドル(約7970億円)で買収している。
窮地を救ったAmazon
パンデミックはデリバルーの成長を加速させる一方で、同社の以前からの弱点も明らかにした。デリバルーは、多くのフードデリバリー事業者と同様に収益性の確保に苦労しており、最初のロックダウンにおいて、KFCといった一部の大口顧客が営業を停止した結果、破たん寸前まで陥った。
その窮地を救ったのが、2020年夏にAmazon主導でデリバルーに投じられた、5億7500万ポンド(約872億円)の資金だ。デリバルーによると、これは同社が事業を継続するために必要な資金だったという。デリバルーは、今回提出した書類のなかで、2020年に3億900万ドルの損失を出したことを認めている。
それでもこれは、合計4億4060万ドル(約480億円)に上った2019年の損失よりは少ない。また、デリバルーは提出書類のなかで、同社のプラットフォーム上での総取引額が、2020年には64.3%増加したことや、毎月の支払いと引き換えに、一定額以上の注文で配送料が無料になるデリバルー・プラス(Deliveroo Plus)といった、サブスクリプション型サービスが同社の「成長事業」になっていることを明らかにしている。加えて同社は、デリバルー・エディションのゴーストキッチンが、より効率的な注文の処理に役立ち、それが「Customer Obsessed(顧客を第一に考えて行動するという意味)」という同社のミッションを達成し、競合の上を行くことに貢献していると述べている。
Amazonが目を付けた理由
Amazonは、デリバルーに少数株主として出資した理由を明らかにしていないが、同社にとっては特に奇妙な投資先ではない。Amazonは現在、米国でレストランのデリバリー事業を手がけていないが、この業界への参入を目論み、失敗に終わっている。たとえば2015年には、米国の20以上の都市でプライム会員向けにレストランから食事を届けるサービスAmazonレストランを開始したが、2019年6月に終了。また同時期に、Amazonは職場にランチを届けるサービス、デイリー・ディッシュ(Daily Dish)も立ち上げたが、こちらも終了している。
一方でAmazonは、2019年5月、両サービスが終了したのと同時期に、デリバルーへの投資を開始。これは、Amazonがフードデリバリー競争から撤退する一方で、市場を注視し続けていることをうかがわせた。モダンリテールが以前報じたように、大手テック企業は、新たな市場を探る手段としてスタートアップに投資する傾向があり、Amazonのような大企業が投資を行うときは多くの場合、市場の詳細を知りたいという意図があることを示唆している。
現在も、Amazonはデリバリー市場から完全に撤退したわけではない。現に同社は2020年、インドでAmazonフード(Amazon Food)というレストランのデリバリーサービスを立ち上げている。このサービスは、Amazonがインド市場への参入を強化する取り組みの一環となるものだった。同サービスはさしあたり、ベンガルールの一部地域のみでの小規模なスタートとなっているが、今後数年間で提供地域を大きく広げていく可能性がある。
またAmazonは現在、英国でのプレゼンス拡大も目指しており、特に食品分野の強化を狙っている。実際、先日には英国で初となるAmazonフレッシュ(Amazon Fresh)の実店舗をオープン。同サービスに関しては、これが米国以外では初の出店となる。
エジソン・トレンズのパンジャ氏は、英国は特にプレイヤーが少ないため、フードデリバリーの実験場とするのは理にかなっているとして、次のように述べている。「米国ではフードデリバリーサービスの競争が激しいため、後発である英国から事業を展開することは、デリバルーのような企業に、より大きな成長の機会をもたらす」。
スーパーアプリになろうとしている?
今後、Amazonの関心がどこに向かうかは不明だ。専門家のなかには、AmazonがいずれWeChat(微信)のように、さまざまなサービスをひとつのアプリにまとめた「スーパーアプリ」を構築しようとするのではないかと推測する向きもある。もしAmazonがデリバルーの事業を強化し、規制当局がそれを許せば、顧客はAmazonアプリ内で、ほかのサービスと合わせて、出前注文を利用できるようになるかもしれない。
「スーパーアプリの展開、あるいは既存ユーザーを擁するアプリに新たなサービスを組み込むことは、顧客ベースをオーガニックに構築しようとするよりも、はるかに簡単だ」と、アナリストのジェイムズ・ロッキヤー氏は2月、CNBCに語っている。「Amazonがデリバルーを自社アプリに組み込む可能性は、大いにあり得る」。
[原文:What to know about Deliveroo, the Amazon-backed food delivery company about to go public]
MICHAEL WATERS(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:村上莞)