「韓国のAmazon」の異名をとるクーパン(Coupang)は、米国証券取引所での上場を控え、500億ドル(約5兆2500億円)の評価額をめざしている。これは、2020年に前年比ほぼ倍増(91%増)の売上約120億ドル(約1兆2600億円)を達成した、長期にわたる好調ぶりが背景にある。
「韓国のAmazon」の異名をとるクーパン(Coupang)は、米国証券取引所での上場を控え、500億ドル(約5兆2500億円)の評価額をめざしている。これは、2020年に前年比ほぼ倍増(91%増)の売上約120億ドル(約1兆2600億円)を達成した、長期にわたる好調ぶりが背景にある。
2010年の創業以来、クーパンは韓国の小売業界における覇者として君臨している。最大の勝因は、圧倒的な配送スピードだ。創業者のキム・ボム氏は、配送効率の向上に強い関心を示しており、eコマース競争は「1分1秒の戦い」だと語っている。実際、クーパンのスピードのおかげで、消費者の「物流への期待度に変化が訪れた」と、韓国のテック業界を解説するWebメディア、ピックール(Pickool)を運営するフィリップ・リー氏はいう。
クーパンはAmazonに比べて非常に若く、まだ黒字化に至っていないどころか、2020年は5億ドル(約525億円)近い損失を出している。一方で、同社はAmazonの効率至上主義を極限まで推し進め、Amazonですらまだ実現できていない配送スピードを韓国の消費者に提供している。
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クーパンとは?
クーパンは当初、グルーポン(Groupon)の韓国版のような形でスタートした。だが、最初の3年のうちにeコマース市場に進出し、短期間で国内の競争を制した。2014年、主に米国の投資家から3億ドル(約315億円)を早々と調達すると、2015年と2018年には、ソフトバンクから30億ドル(約3150億円)を獲得。クーパンは創業から11年で、従業員5万人の大企業へと成長した。
同社が誇る、顧客への最大のアピールポイントは配送スピードだ。全国各地に倉庫を保有し、同社のフォームS-1(新規株式公開の際に、米証券取引委員会に提出が義務付けられている書類)によると、韓国国民の70%が「100カ所以上にのぼる」同社のフルフィルメントセンターから7マイル(約11.3km)以内に居住している。さらに、同社の注文の99.3%が購入から24時間以内に配達されるという。2019年、同社はドーン・デリバリー(Dawn Delivery:早朝デリバリー)を導入し、深夜0時より前の注文に関しては、翌日午前7時までの配達を保証している。これほどのスピードはAmazonでさえ実現していない。しかし、効率化の負担は従業員に重くのしかかっている。2020年秋に、Webメディアのレスト・オブ・ワールド(Rest of World)が報じたところによると、クーパンは「従業員の安全よりも、迅速な配送を優先する企業倫理」を推進しており、従業員からは長時間にわたる過酷な労働に対する不満が出ているという。
最新の資料によれば、クーパンのアクティブユーザーは約1500万人で、Amazonに比べればはるかに小規模だ。サードパーティセラーに関しては、少なくとも20万の企業が、同社のプラットフォーム上での販売にサインアップしているという。また、2020年4月の最新データによれば、クーパンは韓国のeコマース市場の24.6%を占める主要企業でありながら、Amazonのように市場飽和を迎えていない。クーパンはS-1において、「純売上の総計は、依然として韓国市場における小売・食料品・外食・旅行の総消費額のごく一部を占めるにすぎない」と述べている。
その他、Amazonとの違い
Amazon同様、クーパンもメンバーシップ制度に大きく依存している。現在、顧客の32%がクーパン・ワウ・ロケット・メンバーシップ(Coupang Wow Rocket Membership:Amazon Primeに相当するプログラム)の有料会員だ。
最近では、同社はアパレル、美容、電子機器の分野でプライベートブランドを拡大中。配送料が安いため、ほとんどの商品に関して利益が薄い傾向にあるが、クーパンはAmazonと同じように、ファーストパーティ製品に賭ける戦略を打ち出している。「顧客をクーパンに依存させて、プライベートブランドからも利益を得ようとしている」のだと、リー氏はいう。
しかし、クーパンはAmazonの完全なコピーではない。Amazonと違い、まだ実店舗は持っていない。また、配送の速さと倉庫がどこにでもある強みのおかげで、同社はAmazonよりはるかにはやい段階で、食料品のオンライン販売に進出している。さらに、S-1において、同社は韓国最大のオンライン食料品販売企業であり、また韓国のオンライン食料品小売は、他国と比べはるかに大規模だと主張している。ただ、クーパンの食料品部門に関する、具体的なデータは公開されていない。
ほかにも、Amazonとは単純比較できない部分もある。たとえば、クーパンがここまで効率的なeコマース企業になれた理由のひとつとして、韓国のeコマース受容度の特殊性があげられる。韓国は世界でもっとも人口密度の高い国のひとつであり、携帯電話やインターネットの普及率も高い。韓国人の80%は、都市住民であり、95%がスマートフォンを保有している(米国の80%を大きく上回る)。
今後の方向性は?
2020年、クーパンはeコマースとは異なるビジネスに乗り出した。2020年12月に、Prime Videoに相当する動画配信サービスクーパン・プレイ(Coupang Play)を開始したのだ。加えて、ライブストリームショッピング事業も計画中だという。
また最近では、1月にクーパン・ロジスティクス(Coupang Logistics)を立ち上げ、広大なフルフィルメントネットワークのインハウス化を実現した。これまでは、注文品の発送と配達を複数の下請け業者に頼っていたが、現在はクーパン・ロジスティクスがこれらを担っている。また一部報道によると、同社は従来の配送業者と同じように、クーパンとは無関係の企業の商品配送業務にも関心を示しているという。これは、Amazonも踏み出していない領域だ。
クーパンが投資している事業は、ほかにもある。リー氏によると、同社が設立した社内広告プラットフォーム、クーパンメディアグループ(Coupagn Media Group)について、Amazonやウォルマート(Walmart)の小売広告事業の成長にならったものだという。さらにクーパンは、開発中のクーパン・ペイ(Coupang Pay)を通じ、フィンテック分野にも進出しようとしているほか、クーパン・イーツ(Coupang Eats)というフードデリバリーサービスも展開している。
「クーパンは、旅行やレンタカーも含め、あらゆる業界に進出するだろう」とリー氏はいう。同氏はクーパンが最近、中古車販売専門のブランドの商標登録を果たしたことを指摘し、その申請書類には「レンタカー業界への進出を検討中だと書かれている」と述べた。
そんななか、クーパンがまだ達成していないのが、海外での成長だ。同社はS-1のなかで、海外進出の意欲を示している。実際リー氏は、中国でのプレゼンス構築に取り組んでいるいくつかの証拠を見つけたと述べている。
ただしリー氏は、個人的な意見だと前置きしつつ、いまのところ「彼らは引き続き、国内に主眼を置くことになるだろう」と述べた。
[原文:What to know about Coupang, the South Korean Amazon that is about to go public]
MICHAEL WATERS(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:村上莞)