デジタル・マーケティングを変えるテクノロジーをわかりやすく説明する「一問一答」シリーズ。第1回のテーマは「OTT(オーバー・ザ・トップ)」です。この米国のテレビ業界でもっとも旬の言葉をめぐっては、「テレビは死ぬか?」という活発な議論が交わされています。なぜ、そのような議論が巻き起こっているのか、一問一答形式で紐解いていきましょう。
デジタル・マーケティングを変えるテクノロジーをわかりやすく説明する「一問一答」シリーズ。第1回のテーマは「OTT(オーバー・ザ・トップ)」です。この米国のテレビ業界でもっとも旬の言葉をめぐっては、「テレビは死ぬか?」という活発な議論が交わされています。なぜ、そのような議論が巻き起こっているのか、一問一答形式で紐解いていきましょう。
OTTとは、一体何でしょうか?
「オーバー・ザ・トップ(over-the-top=OTT)」は従来のインフラに頼らない、インターネットによるコンテンツ配信を意味しています。OTTにはさまざまなメディアが含まれますが、注目を集めているのは「OTTビデオ」で、ネット配信される動画を指しています。OTTだけで動画を指す場合もあります。
これまでは、テレビ放送の場合、コンテンツを配信したければ、米国ではケーブル・衛星テレビ網、日本の地上波の場合も主要テレビ局網を通じなければ実現できませんでした。しかし、インターネットのブロードバンド化に加え、スマートフォン、タブレットなどのデバイスの高機能化により、通信に関わるインフラが多くの事業者に開かれ、廉価で利用できるようになったのです。
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そんな背景から、従来のインフラを飛び越えたメディアサービス、OTTが誕生しました。OTTは航空用語「雲の上」がもとで、「従来のインフラを飛び越えた」という意味です。
その代表格は、動画配信サービス「YouTube」。さらに、最近はより「テレビ」寄りのコンテンツを大容量で配信する「ネットフリックス(Netflix)」が日本にも上陸して注目を集めています。OTTの登場でテレビの定義が大きく揺らいでいるのです。
既存事業者にとってOTTは試練ですね…どう乗り切るのでしょう?
確かに米国のテレビ視聴の6割を提供するケーブルテレビ事業者は、ケーブルテレビの解約を意味する「コードカッティング(コード切り)」に苦しんでいます。
OTTのサービスの勢いがありますが、ユーザーは依然としてブロードバンド接続を求められています。そのブロードバンド環境を提供するのが、米国では主にケーブルテレビ業者なのです。それに加え、ケーブルテレビ業者はコンテンツ配信者にはない営業やマーケティング、顧客管理などの知見をもっています。
OTTは最初から受け入れられたのですか?
いいえ。はじめは、なかなか浸透しませんでした。OTTの成長が停滞した理由は、インフラを握る既存事業者の大きな壁があったからです。米国では、ケーブルテレビ業者が玉石混交の数十、なかには100を超えるチャンネルを抱き合わせで売るビジネスモデルで長年に渡り、収益を得ていました。コンテンツをテレビ局から切り離して配信するOTTは、そのビジネスモデルの脅威だったのです。自分たちの利益をみすみす手放す人はいません。
でも、いまやOTTは破竹の勢いです。何が原因なのでしょう?
ネットフリックスの台頭が大きく状況を変えました。テレビ局や映画会社は、自分たちが制作した昔の番組や映画を、少額の放映料で喜んでネットフリックスに配信させました。これは短期的に見れば成功でしたが、視聴者がネットフリックスに移り、徐々にテレビ視聴率が下がっていく事態を招きました。いまや世間では、見たい番組は放送開始と同時に見るのではなく、見たい時にネットフリックスやHuluで視聴する人が増えゆくばかりです。
OTTと共存をはかるテレビ局もありますか?
大手テレビ局のHBOは、アメリカ国内では、ネットフリックスの登録者数が3770万人に達したのに対し、自社の登録者数は3140万人にとどまった(リサーチ会社SNL Kegan調べ)ことで状況を認識しました。ネット動画配信サービス「HBO Go」「HBO Now」を始め、自社の豊富なオリジナルコンテンツやアーカイブをOTTで楽しめるようにしました。
日本でも、フジテレビがネットフリックスとオリジナルコンテンツを制作し、ネットフリックスのネットワークで配信することで合意しています。日本テレビはHuluの日本事業を買収し、Hulu日本版を運営していますね。既存事業者がOTTに参入する動きが出ているのです。
OTTはネットフリックスやHBOだけなのでしょうか?
もちろん違います。アメリカの大手テレビ局のCBS、Showtime、LifetimeなどはすべてOTTサービスを始めると発表しました。YouTubeやVimeoやAOLなどのテック系のオンライン・ビデオ事業者も動画配信で大きな役割を演じたいと望んでいます。
OTTにはどんなビジネスモデルがあるのでしょう?
3つのモデルとして SVOD (Subscription Video On demand:ネットフリックスのような有料会員ベースの定額制動画配信)や、AVOD (Advertising Video On Demand:コンテンツ内の広告収入に依存した無料動画配信)、そしてTVOD (Transaction Video On Demand:iTunesやAmazon Instant Videoのような個別のコンテンツごとに課金する動画配信)があります。
OTTが成長を遂げるうえでの課題は?
配信インフラが大きな問題の1つでしょう。コネクテッドデバイスを装着した、インターネット接続のテレビが重要になってきています。調査企業フリーホイールの最新報告によれば、OTT機器でのストリーミングは、前年比で380%増に上ります。OTT機器とはApple TVやAmazon TV、Googleの「クロームキャスト」、Roku、Xboxまで百花繚乱の状況です。
コンテンツホルダーにとってOTTは恩恵なのでしょうか?
クラウド・動画配信サービスを手がける企業ブライトコーブのマイク・グリーン氏によると、いくつかのコンテンツホルダーは「陣取り合戦」をしている状況なのだそうです。コンテンツをさまざまなプラットフォームに配信して、ビジネスモデルは後で見つけ出すという感じですね。人気の高いOTTプラットフォームに、自分たちのコンテンツがないことでチャンスを失いたくないのです。
OTT事業者間でルールメイキングは進んでいますか?
業界関係者の間ではこう言われています。「我々はすでに飛行中の飛行機を完成させねばなりません」と。そのうちにルールは確立できると思われていますが、すでに多くの利害関係者が関わっているので、気が抜けない状況だそうです。
Sahil Patel(原文/ 訳:南如水)*編集部で一部加筆・改訂した。
photo by Thinkstock / Getty Images