インスタグラムが、クリエイターの収益化を支援する新たなツールの開発を進めている。いずれの機能も、リリース日を含めて詳細は明らかにされていないが、実装内容によってはブランドとインフルエンサーの関係性が大きく進歩する可能性もある。さらに、新たな方法、新たな場所でユーザーに商品を提示するプラットフォームにもなりうる。
インスタグラムが、クリエイターの収益化を支援する新たなツールの開発を進めている。全貌こそいまだ明らかにされていないものの、EC市場全体に大きな影響をもたらす可能性を秘めている。
5月第1週にFacebookのCEO、マーク・ザッカーバーグ氏およびインスタグラムのCEOアダム・モッセリ氏は、数年以内にインスタグラムが大規模な新ツールを実装すると発表した。ツールにはアフィリエイト手数料関連サービスやインフルエンサー向けのインスタグラムショップ、ブランドとインフルエンサーをつなぐマーケットプレイスなどが盛り込まれる予定だという。いずれも、明らかに需要が見込まれる機能だ。たとえば、インスタグラムではこれまでクリエイターによるショップ立ち上げが話題になってきた。これは、インフルエンサーへのアピールを強めているShopify(ショッピファイ)に対しても競争力を発揮しうる。
小売業界からとりわけ注目されたのが、ブランデッドコンテンツのマーケットプレイスと新たなアフィリエイトプログラムだ。いずれの機能も、リリース日を含めて詳細は明らかにされていないが、実装内容によってはブランドとインフルエンサーの関係性が大きく進歩する可能性もある。さらに、新たな方法、新たな場所でユーザーに商品を提示するプラットフォームにもなりうる。
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今回は、このアップデートが秘めるポテンシャルについて考えてみよう。
インフルエンサーマーケットプレイス
モッセリ氏は、「たとえば、各ブランドの特徴に合わせて50人のクリエイターを紹介し、話し合いの場を提供するといったサービスになるかもしれない」と述べている。これは現在、インフルエンサーのフォロワー数の違いなどで生じている「報酬の格差」是正につながるだろう。「報酬が高すぎるインフルエンサーもいれば、逆に安すぎるインフルエンサーもいる。責任ある方法で、この状態を改善していきたい」とモッセリ氏は語った。
このツールは、TikTokへの対抗策という側面もあるだろう。TikTokが提供するクリエイターマーケットプレイス(TikTok Creator Marketplace)は非常に評判が良い。クリエイターのエンゲージメントやフォロワーの属性を追跡し、ブランドの特徴やキャンペーン内容に最適のインフルエンサーを結びつけるサービスだ。
インフルエンサーマーケティングを研究するUCLAの教授、リア・ヘイバーマン氏は「インスタグラムの新マーケットプレイスは、フォロワー数の少ないクリエイターにとって強い味方になるだろう」と分析する。実は、マイクロインフルエンサーにはブランドからも大きな注目が集まっている。それは、何十万、何百万人というフォロワー数のインフルエンサーひとりを起用するよりも、比較的フォロワーの少ないインフルエンサーを複数人起用したほうがコストパフォーマンスがいいということがわかり始めているからだ。ただしマイクロインフルエンサーの側からすれば、ブランドへの露出の場が不十分だという課題は解消されない。「これまで、フォロワー数の少ないクリエイターとブランドを引き合わせるのに適した場所がなかった」とヘイバーマン氏。
ブランド、そのなかでも特に中小企業にとって、各キャンペーンに適切なインフルエンサーを探しやすくなるというメリットもある。「大手ブランドであれば、インフルエンサーに特化した社内チームがあったり、インフルエンサーマーケティング専門のエージェンシーと契約したりしているのが一般的だ。しかし中小企業では時間や予算面で、そこまでの余裕がないことも少なくない」とヘイバーマン氏は指摘する。「インスタグラムの新サービスは、こういった中小企業の課題解決の一助となりうる」。
コマースの新機能も要注目
ザッカーバーグ氏は、インスタグラムのクリエイターが商品紹介で報酬を得やすくするための計画も発表した。「紹介した商品の売上の一部を報酬として得るというのは当然のことであり、これを実現するためのマーケットプレイスを構築したい」。
現在、インスタグラムでは、アフィリエイトリンクの収益化のためサードパーティ製ツールを使っているインフルエンサーも多い。これだとユーザーが投稿にリンクを埋め込むこともできず、結果として外部のアフィリエイトプログラム(主にAmazon)を使うインフルエンサーは、プロフィールに載せたリンクからしか収益化できていない。そういった状況もあって、リンクインバイオ(Linkin.bio)やリンクツリー(Linktree)、コージー(Koji)といった新しいオンラインストアが登場している(たとえばリンクインバイオでは、インスタグラムのフォロワー数が1万人以上であったり、青のチェックマークがついたりしているユーザーを対象に、オーディエンスが上にスワイプすることで特定商品を閲覧できるオプションを提供している)。
インスタグラムの現状の機能では、アフィリエイト収益を上げるのは非常に難しい状況にある。一方、TikTokはベータ版のアフィリエイト機能をインドネシアでテスト中だというが、β版ではあるもののTikTokショップと連携できるとあって、現在大きな注目を集めている。さらにYouTubeも、3月から動画で商品を表示する機能をテストしている。オーディエンスがクリックすると商品ページに飛ぶ仕組みで、クリエイターにも売上の一部が報酬として支払われる。SNSにとって、やはりフォロワー数の多いクリエイターとは良好な関係を築きたい。そのためには、クリエイターがスムーズに収益化できる仕組みを提供することが重要になる。
インスタグラムは、アフィリエイトの新機能について詳細を明かしていない。Amazonなどの外部のアフィリエイトプログラムとの連携なのか、独自プログラムを構築するのかも不明だ。
ショッピングの可能性を大きく広げるか
Amazonを利用するインフルエンサーをクライアントに抱えるリファラゾン(Referazon)のタナー・ランキン氏は、「少なくとも短期的には、クリエイターが投稿に外部リンクを追加できるように仕様を変更するだけではないか」と予想する。「インスタグラムの狙いは、新たなコンテンツの呼び込みと、それを提供するクリエイターが簡単に収益化できるようにすることにある」。そのためにはAmazonの商品リンクを表示し、手数料を得られるようにするのも有効な手段だという。
一方ランキン氏は、「いずれは社内でアフィリエイトプログラムを構築する可能性もある」と別の指摘もする。これはインスタグラムショップと連携する機能などが考えられる。たとえばナイキのインスタグラムショップでオーディエンスが購入した場合、売上の一部を報酬として受け取るといった仕組みだ。測定はインスタグラムが行い、外部リンクの設置も不要となる。「ただし、この仕組みを開発するには長期的な計画になるだろう」。
ヘイバーマン氏は「インスタグラムがどのアプローチを採るにしても、『プロフィールのリンクで収益化』という今のやり方は主流ではなくなっていくだろう」と話す。「昔はこんなやり方でやっていたな、と思い出されるだけになるはずだ。今回のアフィリエイトプログラムは、インスタグラムにおけるショッピングの可能性を大きく広げるポテンシャルを秘めている」。
[原文:What Instagram’s new monetization tools could mean for retail]
Michael Waters(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)