9月第1週、モジラ(Mozilla)が最新のFirefoxブラウザアップデートに追加すると発表した「トラッキング保護強化」機能は、デフォルトですべてのサードパーティCookieをブロックする。同様の機能は、これまで新規にダウンロードしたユーザーだけが利用できたが、今後は全ユーザーが対象となる。
広告ターゲティング目的でのユーザー個人データの利用の取り締まりに関して、主導的立場にあるのは規制当局ではなく、ブラウザだ。
9月第1週、話題をさらったのはモジラ(Mozilla)だった。同社が最新のFirefoxブラウザアップデートに追加すると発表した「トラッキング保護強化(Enhanced Tracking Protection)」機能は、デフォルトですべてのサードパーティCookieをブロックする。同様の機能は、これまでアプリまたはデスクトップからブラウザを新規にダウンロードしたユーザーだけが利用できたが、今後は全ユーザーが対象となる。
Firefoxはとても覇権を握っているとはいえない。ネットマーケットシェア(Netmarketshare)によれば、全世界における月間の市場シェアはデスクトップで9.3%であり、Google Chromeに次ぐ2位につけてはいるものの、Chromeの66%には遠く及ばない。それでもAppleのSafari(3.6%)よりは上だ。Firefoxのモバイル市場シェアはさらに微々たるもので、モバイルデバイスで使われるすべてのブラウザのうち1.3%に相当する。Chromeは64%、Safariは27%だ。
しかし、Appleのトラッキングに対する厳しい姿勢や、広まるデータ保護規制の圧力とあわせて考えると、今回のFirefoxの動きはデジタル広告業界に緊張を走らせるのに十分だ。とりわけ、Google Chromeがこの流れに追従し、サードパーティCookieをデフォルトでブロックすると言い出すことを、関係者は恐れている。
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ブラウザ間の軍拡競争
AppleもMozillaも、時間をかけて個人データ保護のスタンスを強め、サードパーティ広告トラッキングの抜け穴をふさぐアップデートを繰り返してきた。ブラウザはAppleのアンチトラッキングの方針に追随し、信頼できるデータ所有者という、消費者からの評価の獲得をめざしているとの見方もある。
「データプライバシーはブラウザ間の軍拡競争の様相を呈している」と話すのは、ロンドン・メディア・エクスチェンジ(London Media Exchange)のCEO、ダン・ウィルソン氏だ。「まやかしの要素がかなり含まれている。プライバシー面で誰が何をするのかを、どうしてブラウザが決めるのか? どうも胡散臭い。彼らはプライバシーの何たるかを定める権威にでもなるつもりなのだろうか?」。
Firefoxのアップデートは、Google Chromeが同様の措置をとるのではないかという、潜在的な不安を刺激した。Chromeの5月のアップデートでは、ユーザーがブラウザのCookieを有効にするか無効にするかを選択できる機能が導入された。先日、Googleはほかのブラウザの一括ブロックの姿勢を批判したが、多くのパブリッシャーやアドテクベンダーはいまだ警戒を緩めていない。一部からは、ChromeにいずれサードパーティCookieのデフォルトブロッキングが導入されるのは不可避だという予測もなされている。
「Firefoxのトラッキング保護強化は、同ブラウザの市場規模が小さいため、それ自体は英国におけるリアルタイム入札のエコシステムに大きな変化をもたらす事件ではない」と、動画アドテク企業アンルーリー(Unruly)のプログラマティック責任者、ポール・ガビンズ氏はいう。「とはいうものの、SafariもサードパーティCookieをデフォルトでブロックするようになったいま、英国市場で最大のシェアを誇るブラウザ、すなわちChromeがいずれ追従するかもしれない前例が確立されたのは確かだ」。もしそうなれば、市場に出回るデータ量は激減し、メディアのサプライチェーン全体にとって頭の痛い問題になるだろうと、同氏は付け加えた。
「パブリッシャーは損失」
Firefoxのアップデートにはプラスの側面もある。たとえば、いまだにアービトラージの手法をパートナーにもユーザーにも無断で利用する、信用ならないアドテクベンダーを締め出すことにつながる。しかし、パブリッシャーはリソースを余分に消耗し、放っておけばCPMの下落を許すだろう。
「パブリッシャーは損失を被るはずだ」と、パブリッシャー向けのテックベンダーであるMGIDでCMOを務めるニコラス・レケダ氏はいう。「彼らは収益化パートナーに、Firefoxの承認を受けることを義務づけるほかない。市場はまたしてもパブリッシャーに問題を押し付け、Firefoxのオーディエンスはマネタイズできないと言い放つのだ」。
プログラマティック収益に頼るパブリッシャーにとって、一連のブラウザのアンチトラッキングの動きは不穏だ。
「彼らの多くは、いまや直接取引よりもエクスチェンジを通じての売上の方が多い」と、ガビンズ氏は話す。
GAFAと組むしかない
もしデマンドサイドプラットフォームが今後サードパーティCookieを利用できないとしたら、バイヤーは従来のCPMを払うのをためらうだろうと、ガビンズ氏は指摘する。ユーザーとのマッチングが不可能になり、リーチや訪問頻度、アトリビューションといった基本的な指標が手に入らなくなるからだ。サードパーティCookieの代替手段として、現在有力視されているのはコンテクスチュアルターゲティングだが、まだオーディエンスターゲティングほど洗練されていない。グループ・エム(Group M)など一部のメディアエージェンシーは、業界がオーディエンスターゲティングに依存しすぎたのが敗因だと認めるが、オーディエンスターゲティングを続けたいという欲求が消えることはないと考える者もいる。
「オープンなインターネットがすべてを網羅する共通IDを提供できないなら、買い手側はそれができる相手、つまりGoogle、Apple、Facebook、Amazonと手を組む以外にない」と、ガビンズ氏は述べた。
Jessica Davies(原文 / 訳:ガリレオ)