プラットフォーマーへの風当たりが、これまでになく強い。米国で進む対Google反トラスト訴訟、英国で起きているGoogle分割提言、低下傾向にあるメタ関連のプラットフォームへの投資――テック大手による寡占に対する危機感が […]
プラットフォーマーへの風当たりが、これまでになく強い。米国で進む対Google反トラスト訴訟、英国で起きているGoogle分割提言、低下傾向にあるメタ関連のプラットフォームへの投資――テック大手による寡占に対する危機感がここ数カ月で一気に噴出したかのようだ。
日本でも同様の動きが見られ、10月23日には公正取引委員会がGoogleに対する独占禁止法の個別審査を開始し、第三者からの情報・意見を募集し始めている。EUをはじめ豪州やカナダで進む、ニュースコンテンツ使用料に関する交渉を後押しするかのような動きもあり、長らくプラットフォーマーに対して圧倒的にプレゼンスを発揮できていなかったパブリッシャー各社にとっても追い風のように思える。
実際、多少の追い風にはなるかもしれないが、この問題の本質はニュースコンテンツ使用料で僅かばかりの収益を上乗せすることでない。パブリッシャーがコストをかけて制作するコンテンツがプラットフォーマーによって事業(検索や広告、そのほかあらゆるサービス)の一部にうまく利用されている、という視点も今更感は拭えない。プラットフォーマーにトラフィックを依存した時点で、そもそもコンテンツの価値の決定権がパブリッシャーにないのだ。いつ何時「ニュースなんてもう必要ない。メディアと関係を持つつもりもない」と宣言されることになるだろうか。そうなったときを想定して、万全のアプローチを取っているのだろうか。
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FacebookもXもニュースを不要物とみなしている
厳密に言えばニュースに限らず、すでにFacebookやXはパブリッシャーが手がけるいわばプレミアムコンテンツ(が自サービスで配信されること)を必要としていない。
ほんの数年前まで、Facebookはパブリッシャーに多額の金を支払い、コンテンツをFacebookのキュレートされたニュースタブに表示させていた。パブリッシャーがコンテンツを収益化できるように、読み込みの速いモバイル記事機能「インスタント記事」まで提供していたのだ。いまやそれらの機能は完全に消え去り、パブリッシャーのコンテンツへの参照トラフィックを激減させているアルゴリズムの「バグ」はずっと放置されている。メタでグローバルメディアパートナシップの責任者を務めた、元CNNのキャンベル・ブラウン氏もすでに退社した。
Xはリンク付きポストから見出しを削除し、同プラットフォームの「おすすめ」では完全にブラックボックスのアルゴリズムが、再生数やインプレッション数ベースでウケているポストをひたすら表示する。検索機能でも特定のURLやポストなどはしばしば非表示にされる。イーロン・マスクはメディアやニュースを不要だと公言して憚らない。パブリッシャーサイドからしても、すでにXは相応しい場所ではなく、価値もないと考えていることは、DIGIDAYリサーチの結果から明らかだ。
「ニュースは必要ない」とプラットフォーマーに言われるのは起こり得る未来などではなく、すでに現実なのだ。
これからどんなアプローチを取るのか
Googleの場合、「Web検索」という巨大システムに組み込まれている以上、ニュースをはじめとするコンテンツが突然排除されることはないという逆説的な安心感がなくもない。だが、過去のスペインでの事例や現在のカナダで起きているように、ニュース配信やニュース使用料についての交渉が頓挫し、Googleニュースの配信停止やURL削除といった対応がとられる可能性ももゼロではなく、決定権がない状況は変わらない。
ニュースキュレーションアプリなどのサービスも米国ではウォールドガーデン化が始まっており、ニッチなコンテンツを取り扱う中小パブリッシャーはこうしたサービスに手数料を支払ってわずかなトラフィックと広告収益を獲得すべきか否か、決断を迫られている。
メディアの苦境を嘆き、プラットフォーマーやニュースキュレーションサービスの透明性の欠如を指摘するのはもちろん重要だが、ニューヨーク市立大学教授でメディア評論家のジェフ・ジャービス氏は、プラットフォーマーがニュースから離れていることについて、「ニュース業界は自らを責めるべき」として、Facebookにこう投稿している。
「パブリッシャーはこのようなことが起こり得るとわかっていて、もっと強固なアプローチをとることができたはずなのに実行しなかったのだ」。返す言葉もない。
主な数字
16ドル(1,960円):Xの「おすすめ」と「フォロー中」のフィードから広告を削除することができる、「Xプレミアムプラス」の価格(月額)。
60%:いまやパブリッシャーの貴重な命綱であるAmazon。10月に開催された「プライム感謝祭」において、CNNのバーティカルメディア「CNNアンダースコアード」は昨年比で収益が60%増加したという。
1億4000万ドル(約210億円):BuzzFeedが現在交渉中とされるComplex Networksの売却価格。BuzzFeedは2021年に約3億ドルを支払って獲得していた。