モバイルアプリのフラウド対策ツール app-ads.txt に続き、IAB Tech Labが簡潔な名前のツールをリリースしました。それが「Sellers.json」および「OpenRTBサプライチェーンオブジェクト(OpenRTB Supply Chain Object)」です。
モバイルアプリのフラウド対策ツール app-ads.txt に続き、IAB Tech Labが簡潔な名前のツールをリリースしました。それが「Sellers.json」および「OpenRTBサプライチェーンオブジェクト(OpenRTB Supply Chain Object)」です。
両ツールはひとつのパッケージとして提供されます。このパッケージは最初の販売代理店だけでなく、インプレッション販売に関与するデジタル広告サプライチェーン全体のベンダーの信頼性を高めることを目的としているもの。言い換えれば、バイヤーがパブリッシャーのインベントリーを再販する許可を得ていない、怪しい業者に騙されるのを回避するため、信頼性を高める取り組みです。
デジタルマーケティングの新語について解説する「一問一答」シリーズ。今回は、このツールの概要について、噛み砕いてご説明しましょう。
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――まず、簡単にいうと Sellers.json とは何でしょう?
それを説明するにはまず、ads.txt や app-ads.txt について、振り返っておく必要があります。これらはいずれも、不正なインベントリー再販やドメインのなりすまし対策の取り組みです。Sellers.json は、そこからさらに一歩進んだツールで、txt ファイルのかわりに json を用いているものです。
ads.txt では、それを確認すれば、広告バイヤーはどのアドテクベンダーのパブリッシャーがインベントリー販売を許可されているかを確認できるのですが、通常、オープンエクスチェンジにおけるアドテクベンダーのインプレッション売買には、多数の中間再販業者がそれぞれ協力しながら関わっています。あらゆるインプレッション販売には複雑に絡み合った多数の業者が関与しているため、インベントリーの再販を誰が行ったか追跡したり、パブリッシャーと直接関係を結んでいるベンダーの認可を受けた業者かどうかを判断したりするのは、現実にはほぼ不可能でした。そこで登場したのが Sellers.json です。
――具体的には、どのような仕組みなのでしょう?
Sellers.json はパブリッシャーの ads.txt ファイルのSSP版とも呼べる内容となっています。SSPとエクスチェンジは、Sellers.json に認可した再販業者をすべて掲載しています。そして、販売業者のIDと企業を保有する事業者も記載しなければなりません。
――それでは OpenRTBサプライチェーンオブジェクト は?
インプレッションで何が起こったかを記録するものが、それです。ビッドリクエストごとに、バイヤーがどの販売業者と再販業者が関与したかを把握できるのです。いくつかの「ノード」がセットになっており、各ノードはビッドリクエストの販売に参加したベンダーを表しています。サプライチェーンにおける最後の再販を行ったベンダーもわかる仕組みとなっています。バイヤーはこれを ads.txt のパブリッシャーから提供された販売業者IDと照らし合わせ、本物のパートナーかを見極めることができます。メディアエージェンシーのエッセンス(Essence)でEMEA部門のプログラマティック責任者を務めるマット・マッキンター氏は「DSPと広告主の側で、どのような業者から購入したか、そしてパブリッシャーまでの関係者全員を確認できる」と語っています。
――誰にとってメリットがあるものでしょうか?
理論上は、全員がメリットを享受できるはずです。被害を受ける者がいるとすれば、そもそも運営すべきではない怪しい業者だけです。オープンエクスチェンジでの広告購入において、すべての再販業者を把握できれば、バイヤーやDSPもオープンエクスチェンジへの支出を増やす可能性があります。これまでサプライチェーンにさまざまな業者が入り込むことで、徐々に信頼性が損なわれてきました。エージェンシーを信頼できない広告主、DSPを信頼できないエージェンシー、SSPを信頼できないパブリッシャーなどが生じてきたのです。サプライチェーンの購入側も販売側も、昨年ベンダーの数を減らしています。ads.txt はドメインのなりすましや不正なインベントリー再販対策に効果を発揮してきましたが、それでも抜け道は残されていたのです。しかも ads.txt はエンドツーエンドの透明性は保証されていません。それを理論上保証してくれるのが、このシステムです。
「これによって再販業者に対する信頼性が大きく向上する」と、マッキンター氏は指摘します。「DSPはこの追加情報でしっかりと確認できるようになり」、不適切なベンダーを発見してブロックできるようになるといいます。
――実装は難しいのですか?
難しくはないはずです。次世代の Open RTB 3.0 ではなく、現行バージョンの2.5に対応しています。つまり、現在の技術インフラに対応しているのです。これが ads.txt のより安全なバージョンで、まだロールアウトせず採用が進んでいない3.0でしか動かない ads.cert と異なる点です。
――デメリットはある?
Sellers.json は、ベンダーが自分たちの情報を非公開にするオプションがあります。公開を選択できる一方で、非公開にした場合は透明性が損なわれます。たとえば、ホワイトラベルのサービスを提供している場合など、契約上の理由から非公開にしなくてはならない場合などのための処置ですが、抜け道になりうるオプションです。
――次の段階は?
IAB Tech LabのOpenRTBワーキンググループは、同ツールを業界からのフィードバック目的で今年4月11日にリリース。そのフィードバック期間は、30日間でした。現在は、それを受けて調整を行っている最中で、その後あらためてリリースされる予定です。
Jessica Davies(原文 / 訳:SI Japan)