記事のポイント メタ(Meta)やTikTokが有料化への一歩としてアドフリーのサブスクリプションプランを試験運用。安定しない広告収入を補うためと思われる。 依存度が高い中小企業やスタートアップにとってはターゲティング広 […]
- メタ(Meta)やTikTokが有料化への一歩としてアドフリーのサブスクリプションプランを試験運用。安定しない広告収入を補うためと思われる。
- 依存度が高い中小企業やスタートアップにとってはターゲティング広告の制限が懸念材料に。
- これにより、インフルエンサーマーケティング、クリエイター経済、ニッチなコミュニティへのマーケティングの重要性が高まる可能性も。
TikTokやメタ(Meta)などソーシャルメディア大手は、SNS有料化に向けた一歩として、米国以外でアドフリー(広告非表示)のサブスクリプションプランの試験運用を始めた。こうした有料サービスは、SNSプラットフォーム運営各社にとって新たな収益源確保のチャンスだ。
一方、SNSのターゲティング広告が頼りの中小事業者やスタートアップ企業には悩みの種となりそうだと、エージェンシー幹部らは予想する。
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「SNSでターゲティング広告が使えなければ、自社の認知度向上のためオーディエンスのターゲティングを必要とする中小企業が不利な状況に陥るのは明らかだ」と、クリエイティブエージェンシーのメカニズム(Mekanism)でソーシャルメディア戦略ディレクターを務めるジェフ・マクドナルド氏は語る。
サブスクに傾倒し始めるプラットフォーマーたち
メタは10月初旬、ヨーロッパ域内のインスタグラム利用者向けに、ターゲティング広告を目的とする個人情報提供に同意しない場合の選択肢として、月額14ドル(約2100円)のサブスクリプションプラン(広告非表示有料プラン)を提供すると発表した。EU当局のデータプライバシー保護規制強化を受けた施策とみられる(メタが個人データ転送問題で過去最高の制裁金を課された件を扱った記事はこちら)。この件に関し、メタは米DIGIDAYの取材に応じなかった。
一方、TikTokは米国以外の1カ国においてアドフリーのサブスクリプションプランを試験運用中であると公表した(料金は月額4.99ドル[約750円]を想定)。非表示の対象はTikTok本体が配信する広告のみで、インフルエンサーによるマーケティングキャンペーンには適用されない。現時点ではこのプランの試験運用を米国に拡大する予定はないという。DIGIDAYがTikTokにコメントを求めたところ、米国外での計画については確認できた(詳細は開示されず)。
SNSのターゲティング広告は従来、売上増とブランド認知度向上の一助となるプラットフォームとして、スタートアップやD2Cブランドなどの中小広告主に支持されてきた。メタが運営するFacebookとインスタグラムは、中小ブランドの成長とオーディエンスへのリーチ拡大のチャンスを提供している。中小企業との関わりを維持して広告投資を促すべく、メタは2017年、30都市を対象に事業者のデジタルスキル向上を支援するFacebook Community Boostプログラムを始動させていた。
安定しない広告収入をサブスクで補う?
サブスクリプションモデルに投資しているソーシャルメディアはほかにもあり、Xはイーロン・マスク氏による買収後、このモデルを導入した。同社が提供する定額課金型サービス「X Premium」は、月額8ドル(約1200円)の料金で利用者のタイムラインに表示される広告の量が無料ユーザーに比べ半分に減るというもの。
スナップ(Snap)は2022年、米国など数カ国で月額3.99ドル(約600円)のサブスクリプションプラン「Snapchat+」を導入し、ストーリー広告とレンズ広告を非表示にできるアドフリープランを追加した。今年2023年9月下旬にブルームバーグ(Bloomberg)が報じたところによると、スナップの有料プラン加入者は増加傾向にあり、2022年の同社総売上高46億ドル(約6900億円)に対し、2億4000万ドル(約360億円)を稼ぎ出した。
一方、Google傘下のYouTube は2015年以来、アドフリーのサブスクリプションプラン「YouTube Premium」(米国向け料金は現在月額13.99ドル[約2100円])を提供している。各種プレミアムプランの加入者数はGoogle PixelスマホやGoogle Homeスピーカー等とのバンドル販売分も含めると2020年に2000万人を超えた。プレミアムプラン関連の売上は「非広告収入」としてGoogle本体の「その他」カテゴリーに計上されており、ザ・ヴァージ(The Verge)によると2019年第4四半期の売上は53億ドル(約7950億円)に達したという。ちなみに、YouTubeの同年の広告収入は155億ドル(2兆3250億円)だった。
広告エージェンシーVMLY&Rの最高メディア責任者であるジェン・コール氏はDIGIDAYの取材にeメールで応じ、次のように述べた。「SNSがサブスクリプション方式に移行する最大の理由は、経常的な収入が保証されるからだ。SNS運営各社は、変動が大きく安定しない広告収入への依存を減らそうとしているのだろう」。
インフルエンサーマーケにも影響
プラットフォームの収益源の面での好材料は、SNSユーザーの多く(サブスクリプション疲れを起こした人々以外)が有料化に抵抗がないとみられることだ。とくに、ストリーミング業界では各社が広告なしのプランに追加料金を設定する一方で、新たな広告つきプランの試験運用を始めている。
ターゲティング広告への依存度が高い中小ブランドにとっては認知度向上の機会が少なくなるかもしれない。中小企業はただでさえAppleのATT導入によるプライバシー保護強化で広告運用に影響が出ているだけに苦しいところだ。マーケティングチャネルとしてはメタ傘下のインスタグラムがいまだに優位で、DIGIDAYリサーチが2023年3月に発表したレポートによると、調査に参加したエージェンシーの93%が、自社のクライアントがマーケティング予算をわずかな割合であれインスタグラムに割り当てていると回答した。
一方、自社のクライアントがマーケティング予算をわずかな割合であれTikTokに割り当てていると答えたエージェントは全体の76%だった。
メタもTikTokも、米国についてはアドフリーのサブスクリプションプラン導入の意向を表明しておらず、米国内の広告主はいまのところ安心していられそうだ。しかし、エージェンシー幹部は、アドフリーで利用できるSNSをめぐる議論が盛んになるにつれ、インフルエンサーマーケティング、クリエイター経済、ニッチなコミュニティを対象としたマーケティングの重要性がさらに高まるとみている。
「ソーシャルメディア利用者のなかで、表示されるターゲティング広告の量が減るのと引き換えに有料プランを選ぶ人が増えれば、インフルエンサーとのパートナーシップの価値が上がるだろう」と、メカニズムのマクドナルド氏は指摘する。
プラットフォームへの関わり方がより重要に
近年、企業のインフルエンサーマーケティング予算は徐々に増加しているが、その傾向はSNSのアドフリープラン普及に後押しされて今後も続くだろうと、エージェンシー幹部らは予想する。DIGIDAYリサーチが2023年4月に発表した調査でも、広告主によるインフルエンサーマーケティングへの投資が1年前より増えたとの結果が出ている。2022年第1四半期に、マーケティング予算をわずかな割合であれインフルエンサー施策につぎ込んだ企業は調査に回答したブランドの62%だったが、この割合が2023年の第3四半期には73%に上昇した。
「ソーシャル広告予算にいますぐ大きな変化が起こるとは思えない。ソーシャルメディアは広告出稿先としていまだに影響力があり、外すわけにはいかないからだ」と、IMGNメディア(IMGN Media)の最高戦略責任者であるノア・マリン氏は言う。
けっきょくインフルエンサーマーケティングは、企業の広告予算のなかで最重要の位置を占めるまでには至らないだろう。広告の費用対効果がSNSプラットフォームから提供されるデータに比べてわかりにくいうえ、インフルエンサー起用は、やり方を誤った場合の消費者からの反発など、厄介な事態を招きかねないからだ。
とはいえ、SNS運営各社のアドフリープラン導入が加速するなら、広告主はSNS以外のマーケティングチャネル(たとえばインフルエンサーのコミュニティやニッチなコミュニティなど)を新たに見つける必要があるだろう。
マリン氏はこう、続ける。「オーガニック検索などによるオンラインでの存在感を十分に確立していない広告主は、広告を出稿したとしても消費者へのリーチを確保するだけで、それ以上の成果を上げるのが難しい。だからこそ、ソーシャルメディアを単なる広告出稿先として見るのでなく、プラットフォームと真摯に関わり合う姿勢がますます重要になってくる」。
[原文:What ad-free social media could mean for marketers and advertisers]
Kimeko McCoy(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)