ウォルマートとマイクロソフト、 TikTok 買収で共同戦線:eコマースへの影響は?

中国企業のバイトダンス(ByteDance)が運営するTikTokに対して、米国企業との買収交渉開始を迫る米大統領令が8月に発出されて以来、この短編動画共有アプリをすぐにも手に入れたいという意外な求婚者たちがいくつも現れている。

ここ数週間、マイクロソフト(Microsoft)はTikTokの買収に関心を寄せる最有力候補のひとつに数えられてきた。ドナルド・トランプ大統領が発出した大統領令は、同アプリの米国事業を45日以内に売却するか、さもなくば同国での事業を停止せよという事実上の命令であったため、TikTokも買収提案を検討しはじめていた。だが8月27日に予想外の動きがあった。思わぬ伏兵が現れて、マイクロソフトと手を組み、TikTok米国事業の共同買収をめざすと発表したのだ。その伏兵というのがウォルマート(Walmart)である。

最終的にマイクロソフトとウォルマートがTikTokの新しいオーナーにおさまるか否かは分からない。オラクル(Oracle)にもTikTok買収を狙っているとのウワサがある。だが、ウォルマートがソーシャルメディアアプリを買収するために数十億ドル(数千億円)規模の投資を検討しているという事実こそが、小売環境における変化の甚大さを物語っている。デジタルネイティブのD2Cスタートアップたちもこの潮流の変化を注視する必要があるだろう。

Amazonの成功が意味するところ

ウォルマートとマイクロソフト連合によるTikTokの買収は、FacebookとGoogleというデジタル広告の2強に代わる選択肢が欲しいeコマース企業たちにとって、朗報となるかもしれない。ウォルマートならTikTokのeコマース事業をより強力に推し進め、ライブ配信機能付きのショッピングアプリに進化させることもできるだろう。このようなライブコマースは中国市場などではすでに大きな人気を集めている。最近は、米国でもAmazon、インスタグラム、Facebookなどがライブコマースに注力しはじめているが、本格的なブレイクはこれからだ。一方この動きは、ウォルマートなどの大手小売企業が直近の投資先として何に関心を寄せているかを如実に表している。それはもはやD2Cのスタートアップではなく、むしろテクノロジー企業だ。

ウォルマートは声明で「TikTokがほかの市場で進めてきたeコマース機能や広告機能の統合は、各市場のクリエイターやユーザーにとって明らかなメリットとなっている」と指摘し、買収交渉への参戦についてもこう述べている。「マイクロソフトと連携してTikTokの米国事業と関係を築くことにより、これら重要な機能を追加し、オムニチャネルの顧客開拓とこの人々へのサービス提供に道が開ける。また、サードパーティの商品を扱うマーケットプレイス事業と広告事業の成長にもつながるだろう」。

eコマースの台頭とネット広告の2強たるFacebookとGoogleのおかげで、ウォルマートやターゲット(Target)のような流通大手も自前の広告事業を立ち上げ、Amazonのように第三者の商品を販売するサードパーティマーケットプレイスを構築しつつ、eコマース事業の拡大に注力している。ついさきごろ、クローガー(Kroger)もこの競争に参戦した。数年前にクローガープリシジョンマーケティング(Kroger Precision Marketing)という広告事業を立ち上げたのに続いて、先月、独自のサードパーティマーケットプレイスを構築すると表明した。

Amazonの成功は、企業広告が小売企業にとって大いに旨みのある事業となりうることを証明した。Amazonは今年第2四半期の決算で「その他の事業」(その大半は広告事業なのだが)の売上高として42億2000万ドル(約4470億円)を計上している。3年前、「その他の事業」の売上高はどの四半期も10億ドルをやや上回る程度にすぎなかった(ウォルマートは自社の広告事業であるウォルマートメディアグループ[Walmart Media Group]の売上高を公表していない)。

ウォルマートがTikTokを望む理由

グラムスクワッド(Glamsquad)で成長戦略を担当するバイスプレジデントのモニッシュ・ダッタ氏は、Facebookとウォルマートの両方で勤務経験を持つ人物だが、同氏はこう説明する。「ウォルマートは現在、顧客の取引データをFacebookやGoogleなどのプラットフォームと共有しているが、TikTokを傘下に収めれば、もっと効果的にオムニチャネルの顧客にリーチし、サービスを提供することができる。サードパーティ向けの持続可能な広告プラットフォームの運用も可能だろう」。

これまでウォルマートの広告事業は消費財ブランドや新興のeコマース事業者に同社ウェブサイトの広告枠を買ってもらうことが中心だった。ウォルマートの購入データを活用すれば、各社の製品に関心を持つ顧客により正確にターゲティングできることがセールスポイントだ。だがメディアバイヤーたちは、顧客の購入履歴や検索履歴は活用できても、デモグラフィックデータに基づいてターゲティング広告を配信する能力がウォルマートには欠けていると口をそろえる。

「必ずしも十分なデータが得られるわけではない。ロケーションベースのターゲティングができるわけでもない。特定のブランドに紐付くデモグラフィックデータや年齢層的なデータがあるわけでもない」。そう指摘するのは、コマースカナル(Commerce Canal)のライアン・クレイバー最高経営責任者(CEO)だ。コマースカナルはリテールとeコマースを専門に扱うエージェンシーで、ヘインズ(Hanes)やアディダス(Adidas)を顧客に抱える。クレイバー氏のクライアントにとってもっとも望ましいオンライン広告プラットフォームと言えば、「第1位がFacebook、第2位がAmazon、第3位がGoogleで、第4位はターゲット、ウォルマート、ベストバイ(Best Buy)などの大手小売企業が運営する広告事業」だという。

TikTokの広告事業はまだ始まったばかりだが、メディアバイヤーたちに対しては「Facebookに対抗できるより成熟したターゲティング機能を構築したい」と話しているという。デモグラフィックデータだけでなく、購入データも活用してターゲティングができるプラットフォームで広告を配信するというのは非常に心惹かれるシナリオだ。しかも、ウォルマートにとっては実質的にオンラインでのリーチを倍増させる機会ともなる。TikTokによると、8月現在、同アプリの米国内の月間アクティブユーザーは1億人だ。一方、ウォルマートのウェブサイトの月間アクティブユーザーも約1億人いる。

「マイクロソフトとの連携は実に合理的」

SNSアプリの運営は一筋縄ではいかない。ウォルマートはコンテンツの管理や監視に必要なノウハウも、TikTokのようなアプリが成長を続けるために必要なソーシャル機能を構築する技術力も持っていない。だが、たとえTikTokがFacebookやGoogleの事業規模を超えられないとしても、このアプリの買収でメディアグループ事業やその他の事業に弾みがつくなら、それはウォルマートにとっては勝利と言ってよい。

「この点はマイクロソフトとの連携が実に合理的だと言えるひとつの理由だ」。そう語るのは、リテール分野の市場調査を専門に扱うグローバルデータリテール(GlobalData Retail)のマネジングディレクター、ニール・サンダース氏だ。「両社のノウハウの組み合わせのみならず、TikTokを本格的にコマース化できるウォルマートの能力が加われば、両社の共同買収提案はTikTokにとってより興味を引かれ、かつ経済的に引き合うオプションとなるだろう」。

[原文:What a Walmart-Microsoft bid for TikTok could mean for e-commerce

ANNA HENSEL(翻訳:英じゅんこ、編集:長田真)