記事のポイント イーロン・マスク氏の指揮の下、SNSプラットフォームXはリンク付きポストの見出しを削除。ユーザーをXに長く留めることを目的としており、同氏は滞在時間の最適化を求めていると述べている。 多くのパブリッシャー […]
- イーロン・マスク氏の指揮の下、SNSプラットフォームXはリンク付きポストの見出しを削除。ユーザーをXに長く留めることを目的としており、同氏は滞在時間の最適化を求めていると述べている。
- 多くのパブリッシャーはこの変更に不満を持っており、ある幹部は「なんと馬鹿げた一手だ」と評価。一方、スレートはユーモアで対抗し、リンク付きポストに「おっと、こいつは必読だ」とだけ記載。
- この仕様変更により、パブリッシャーはX参照トラフィックの減少を懸念。短期的には見出し不在ゆえにユーザーがクリックする可能性が高まり、トラフィックが増加するとの予測も。
またひとつ、Xに仕様変更が加えられた。
このほど、Twitterの旧称で知られるこのソーシャルメディアプラットフォームで、リンク付きポストの見出しが自動表示されなくなった。この変更を受けて、米紙ニューヨークタイムズ(The New York Times)やワシントンポスト(The Washington Post)らを含むパブリッシャー各社は、それぞれのニュース編集室にXへの投稿に関するガイドラインを通達した。
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ワシントンポストのトラヴィス・ライルズ氏は、同紙のSNSおよび外部プラットフォームのキュレーションを統括する副責任者として、ニュース編集室の記者宛てに指示書を配信し、リンク付きポストの本文に記事の全文脈を含めるように促した。米DIGIDAYが入手したこの指示書には、「変更後はシェアテキストに見出しの役割を持たせること。過剰な説明を恐れず、フォロワーにリンクをクリックして続きを読むように誘導すること」と書かれている。
SNS投稿用コピーが重要に
この指示書はまた、リンク付きポストの投稿に際して、記事の内容に即した最適の画像を選ぶように促している。実際の内容は「投稿する前に、記事の内容に最適のシェア画像を検討すること。たとえば庁舎の外観写真など、記事の内容を直接反映しない一般的な画像は避けること」というものだ。さらに、ワシントンポストのメインアカウントはこのガイダンスに従わない記者のツイートをリツイートしないとも書かれている。
「何が起きても対処できるように警戒を緩めず、これまで以上に気を配らなければならない」とライルズ氏は話す。ワシントンポストは時折、見出し入りの画像付き記事を投稿するが、同紙のツイート量を考えると、「投稿ごとにカードを設計し、作成するのは現実的でない」と同氏は言う。
一方で、ニューヨークタイムズのSNS部門はニュース編集室にこう通達した。「言うまでもないことだが、リンクプレビューに見出しがなければ、SNS投稿用コピーの内容がこれまで以上に重要となる。我々全員にとって朗報なのは、ニューヨークタイムズのSNSスタイルガイドが基本としてこの点を考慮していることだ。記者が個人のアカウントから投稿するにせよ、あるいはNYTの公式アカウントから投稿するにせよ、このスタイルガイドは一読に値する」。
ニューヨークタイムズの広報によると、同紙のソーシャル部門は10月4日にSlackなどを通じてニュース編集室に通達を出し、ソーシャルメディアの利用に関する社内のスタイルガイドを徹底させたという。米DIGIDAYはこの通達を入手した。2020年に策定されたこのスタイルガイドにはこう書かれている。「ソーシャルコピーを書くときは、その記事について読者が目にする唯一の文面だと思って書くこと。特にTwitterでは、読者が記事のタイトルや画像を見るだろうとの思い込みは禁物だ」。
各社の対応
ニューヨークタイムズやザ・ハリウッドリポーター(The Hollywood Reporter)らは、すでにXに投稿する記事には見出しを自動入力するように設定しているようだ。一方、USAトゥデイ(USA Today)などは、ツイートの本文に短縮URLを追加して、記事へのリンクを含むポストであることを強調している。さらに、ロイター(Reuters)は別のアプローチを採用し、リンクを掲載する代わりに、記事のリード画像にURLを添付して投稿している。
ハフポスト(HuffPost)のシニアエディターであるアンディ・キャンベル氏は、タイトル、概要、執筆者名、記事へのリンク、および「代替テキスト」と呼ばれる画像の説明文を表示した写真を投稿に添付するなどのアドバイスを提供している。また、AP通信などは、代替テキスト機能を利用して、自社メディアのURLを表示する試みを始めている。
あるパブリッシャーの幹部によると、今年に入ってXでのエンゲージメントが著しく低下していることから、同社のSNS部門ではリンク付きポストの投稿からすでに手を引きはじめているという。「参照トラフィックは以前ほど多くない」とこの人物は語るが、具体的な数字には言及しなかった。「リンク付きポストの投稿はいずれにせよ縮小しており、もともと我々にとって大きな優先事項ではない」。
「見た目」重視の仕様変更?
Xがリンク付きポストから見出しを削除したことは、イーロン・マスク氏がTwitterを買収した昨年から続く、目がくらむほど数多くの仕様変更のひとつである。そしてこの直近の変更は、マスク氏が掲げる大きな目標、すなわちユーザーをXのプラットフォーム内にとどめ、外部サイトに誘導させない試みの一部でもある(複数のパブリッシャーが米DIGIDAYに語ったように、メタがニュース配信元との関係を解消したのも、ユーザーを自社のプラットフォーム内にできるだけ長く引き留めたいという同様の目標の一環だ)。
先日投稿したツイートで、マスク氏はこう述べている。「我々のアルゴリズムはXでの滞在時間の最適化を図ろうとしている。ユーザーがリンクをクリックして外部へ流出すれば、Xでの滞在時間が短くなる。そういうわけで、リンクは以前ほど重視されない」。
「なんと馬鹿げた一手だ」。別のパブリッシャー幹部のこの嘆きは、多くのパブリッシャーの総意を表すものだろう。
たとえば、スレート(Slate)のソーシャル部門は今回の仕様変更にユーモラスなアプローチで臨み、「おっと、こいつは必読だ」というシンプルなテキストを添えて一連のリンク付きポストを投稿した。スレートの広報は「これは一時的な演出だ」と説明しつつ、こう続けた。「イーロン・マスクはTwitterでニュースの優先順位を下げるのに、斬新かつ独創的な手法を使ってきた。こちらも、このやり方にふさわしい、できれば効果的で、確実におもしろいお返しがしたかった。これからもXに記事を投稿するつもりだが、投資効果が落ちているため、壊れたプラットフォームのための戦略を考える時間と労力は抑制することになるだろう」。
パブリッシャーには敵対的
マスク氏がその経営権を掌握して以降、Xはパブリッシャーとの関係に対してより敵対的なアプローチを取ってきた。たとえば今年の4月、Xは一部のニュースサイトから認証バッジを削除した。先月には、ニューヨークタイムズやロイターなどの報道機関、さらにはサブスタック(Substack)にようなプラットフォームへのリンクの読み込み速度を遅くした。その結果、ニューヨークタイムズでは参照トラフィックが減少しているという。
マスク氏はリンク付きポストへの変更は自分の功績だと言い、ユーザーエクスペリエンスの改善が目的だと主張している。同氏は8月に、「これは私のアイデアだ。見た目が大幅に改善されるだろう」とツイートしていた。
しかし、米DIGIDAYが話を聞いたパブリッシャーの幹部たちはこの言い分に強く反論している。前述の2人目のパブリッシャー幹部はこう話す。「Xはこんなことをしても誰の得にもならないとすぐに気づくと思う。記事に関連する画像にはどうしても見出しが必要だ。画像ばかりに依存するようになると、YouTubeでよく見るような過度に刺激的で安っぽいサムネイルばかりになってしまう」。
参照トラフィックへの影響は?
パブリッシャーたちはすでにXから流入する参照トラフィックの減少に苦悩している。今回の仕様変更で事態はさらに悪化するかもしれない。
ワシントンポストのニュース編集室に出された指示書では、この変更によって参照トラフィックがさらに減少する恐れがあると警告している。「今回のXの仕様変更はクリックスルー率に悪影響をおよぼす可能性が高いだけでなく、添付の画像にまつわる情報や文脈が制限され、誤情報の拡散につながりかねない」。
ライルズ氏はこの仕様変更が参照トラフィックに与える影響について「判断が難しい」としながらも、「Xへの投稿から文脈が失われれば、リンクのクリックは減ることはあっても増えることはないと思う」と述べている。
最初にコメントしたパブリッシャーの幹部は現在、クリックや参照トラフィックには何の影響も出ていないと述べている。しかし短期的には、Xの仕様変更はマスク氏の思惑とは逆に、リンク付きポストのクリックを増やす方向に働くのではないかと推測する。
この人物いわく、「短期的にエンゲージメントの数値を膨らます策ではないかと半分本気で考えてしまう。クリックしてみなければ何のリンクか分からないとなれば、人は5回でも6回でも余計にリンクをクリックするかもしれない。次の四半期に参照トラフィックを人為的につり上げるにはもってこいの方法だ」という。
[原文:‘What a bozo move’: Publishers react to X update removing headlines from posts]
Sara Guaglione(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)