WeWorkはコワーキングの分野を超えて事業を拡大させており、DTC小売企業などに対する初期のスタートアップ指導プログラム「WeWork Labs(ウィワーク・ラボ)」もその一環だ。同社は、現在会員数が40万人を数え、さまざまな地域に展開。そうしたネットワークを売りに、小売企業のサービス提供支援に注力している。
再使用可能な家庭用品を提供するストージョ(Stojo)は、設立から3年のブランドだ。同ブランドの共同創設者であるジュリアン・スワーツ氏は、ニューヨーク市のダンボにあるWeWork(ウィワーク)をオフィスとして利用している。そんな同氏にとってWeWorkはただの職場ではなく事業における玄関口でもある。DTC(Direct to Consumer)企業であるストージョは、WeWorkとのつながりを通じて拡大し、資金を確保してきた。ストージョは、WeWorkが提供するDTC小売企業をはじめとする初期のスタートアップ指導プログラム「WeWork Labs(ウィワーク・ラボ)」に加入している。
WeWorkは6カ月前、スワーツ氏に同プログラムへの参加を呼びかけた。同氏によると、WeWorkにおける人脈を通じて、ベンチャーキャピタルとの非常に重要な関係性を確固たるものにできたという。また、同プログラムではWeWorkのエコシステム内外の専門家と会合することが可能で、マーケティングや法律上の問題といったスタートアップが抱えるさまざまな困難において大きな手助けとなっているという。
同氏によると、このプログラムは「資金調達を必要としているスタートアップを見つけ、コンサルティングやフリーランス業務というより、成長に伴い社員が増える実際の企業向けのサービスや製品を提供しているプログラム」であり、「資金調達の準備を進めていくなかでこれはチャンスだと思った。戦略的に見て、参加することは、非常に理にかなっていた」という。
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WeWorkはコワーキングの分野を超えて事業を拡大させる計画を立てており、WeWork Labsもその一環だ。WeWorkの親会社であるWe Company(ウィカンパニー)は近年、家具付きの部屋を提供するWeLive(ウィリブ)や学校運営を行うWeGrow(ウィグロウ)といった事業にも手を広げている。設立から9年が経つ同社は、現在会員数が40万人を数え、さまざまな地域に展開している。そうしたネットワークを売りに、小売企業のサービス提供支援に力を注いでいるのだ。
DTCの小売スタートアップ企業が大きな関心を集めるなか、WeWorkはそれをチャンスと捉えており、投資家の目をひく空間となっている。最近の調査によると、DTCのスタートアップ各社は合計で10億ドル(約1100億円)以上の資金調達に成功している。WeWorkはすでにエコシステム内にDTC企業を抱えており、新興の小売ブランドへの対応を通じて、より幅広いサービスを提供できる可能性がある。起業家との人脈形成を通じて、ほかのコワーキング事業との差別化にもつながる。
同社はふたつの手段によって小売スタートアップを成長させようと試みている。ひとつ目はDTC企業の指導を行うWeWork Labsだが、もうひとつがWeWorkメンバー企業の商品をWeWorkのサイト上で販売することだ。この場合もWeWorkはイベントや人脈作りを通じて非公式のアドバイスや支援を行う。小売分野の取り組みが注目されるWeWorkだが、3月11日には食品技術のアクセラレータープログラムを、昨年9月には「仕事の未来」のためのスタートアップとしてベンチャーファンドを立ち上げている。
インキュベーターとアクセラレータープログラムのあいだの微妙な線引き
WeWork Labsは2011年に、ニューヨーク市内の2軒のビルで立ち上げられた。そんな同プログラムだが昨年、世界展開の一貫としてあらためて立ち上げ直されている。現在WeWorkが展開する15カ国、32都市、49拠点にWeWork Labsの専用セクションが設けられている。WeWork Labsに参加するにはその旨をWeWorkに伝える必要があるが、WeWorkから直接話をもちかけるケースもある。さらにWeWork Labsのプログラムに参加するため売り込みをかける企業も存在する。WeWork Labsへ参加してもWeWorkの賃料以外に料金は発生しない。
従来のインキュベーターやアクセラレータープログラムと異なり、WeWork Labsは柔軟性に富んだ構造となっている。各企業はそれぞれの目標を定め、定期的にネットワーキングイベントに参加する。またスワーツ氏はSlackを通じてほかの参加企業とも関係を築けると語る。WeWorkは、WeWork Labsを通じてメンバーの新興ブランドとの関係性を築く基盤を整えている。従来のアクセラレータープログラムとは異なり時間制限はない。
WeWork Labsのプログラムを率いるオスナット・ベナリ氏は、WeWork Labsの企業に対してWeWorkが投資することはないが、企業には投資家とつながるチャンスがあると語る。だが、WeWorkは1月に、上位複数社が同社から投資を受けられる売り込みのコンペティションを開催しており、1位となった企業は15万ドル(約1650万円)の投資を獲得している。スワーツ氏はこのコンペティションで2位となり、7万5000ドル(約825万円)を獲得している。同氏によるとWeWorkは同社の株式をいくらか取得したとのことだが、WeWorkは出資の取り決めについての詳細は明かせないとしている。
ベナリ氏は「WeWork Labsはさまざまなスタートアップを育成するためのもので、WeWorkとともにさまざまな形で成長し、ともに歩んでいければと考えている」としている。
長期戦略
WeWorkによる小売分野への取り組みは、WeWorkという内部での取り組みだけではない。同社は小売プログラムを立ち上げており、さまざまなブランドに声をかけている。財布とアクセサリーブランドのダイノマイティ(Dynomighty)はWeWorkの参加企業ではないが、同社の売り込みコンペティションで結果を残し、WeWorkのウェブサイト上の店舗で商品を展開している。同社の創設者であるテレンス・ケレマン氏はWeWorkについて、とりわけスケーリングやマーケティングに関して貴重なアドバイスを得られる場所だとしており、「非常に丁重にあつかってくれている印象を受ける。よく世話を見てくれる」と語る。WeWorkからはSEOをはじめ、オンライン事業拡大に役立つWeWork所属の専門企業を紹介してもらえるほか、メディアとのつながりも築くことができるという。
このような取り組みはWeWorkにとっても長期的にプラスの影響をもたらす。スワーツ氏によると、企業にとってWeWorkによる指導が受けられるというのは、成長しながらWeWorkとの提携を続ける大きな動機になるという。 「WeWorkはさまざまな企業をサポートしているが、こうした企業の成功にWeWorkが寄与していれば、WeWorkの提供する空間とサービスを使い続けようと考えるのは自然だ」と、スワーツ氏は語る。
スタートアップのインキュベーションによって付加価値がもたらされ、ほかのスタートアップ小売ブランドもWeWorkを利用して関係を深めようと考えるようになるかもしれない。
ベンチャーキャピタルのループ・ベンチャーズ(Loup Ventures)でマネージングパートナーを務めるアンドリュー・マーフィー氏は、「最終的に、これはWeWorkにとってリードジェネレーションのツールなのだ」と指摘し、次のように分析する。「この戦略は極めて理に適っているのだ。WeWork Labsからすれば、これから成長するスタートアップとのつながりを作り、利用者の拡大につながる。店舗からすれば、小売空間を活用して通常よりもずっと安い値段で提供できる」。
だが、スケーリングのサービスを提供するのは容易ではない。こうした事業分野の拡大はまだ実証されていない新たな領域だ。ウィカンパニーは複数の強みを持つサービス企業へと成長するという野心的な目標を掲げているが、移行はシームレスなものとはならないだろう。
マーフィー氏は次のように語る。「当然次の段階として、さまざまなサービスを試さなければならない。そして複数サービスのパッケージへの移行が成功したかどうかは、時が経たねばわからない。ウィカンパニーのようにひとつのコアスキルによって急速に成長した企業が、中核をなすDNAを新たな形態へと移行させるのは非常に難しい」。
だが、WeWorkは指導の中心的な目的は、プログラムに参加する小売企業の成長を支援することだとしている。 WeWorkの小売および飲食料運用部門のグローバルバイスプレジデントを務めるユンジン・ソン氏は次のように語る。「当社の小売プラットフォームは商品メーカーらが持つストーリーを伝えるとともに、現実世界においてアイデアを共有するネットワークを提供するためのものだ」。
SUMAN BHATTACHARYYA(原文 / 訳:SI Japan)