Amazonマーケットプレイスの新しい機能として、プロの編集者やライターによるレコメンデーション記事が掲載されるようになった。Amazonセラーたちは、早くもその活用方法を模索しはじめている。その有効性や仕組みは不透明なものの、レコメンデーション記事を掲載できるように手配するエージェンシーまで現れている。
Amazonマーケットプレイスの新しい機能として、プロの編集者やライターによるレコメンデーション記事が掲載されるようになった。Amazonに商品を並べるセラーたちは、早くもその活用方法を模索しはじめている。
Amazonは、2018年にオンサイトアソシエイツ(Onsite Associates)というパブリッシャー向けの招待制プログラムを公開した。その目的は、Amazonのプラットフォームに、パブリッシャーのコンテンツに基づく商品の推奨機能を導入することだった。
オンサイトアソシエイツに登録したパブリッシャーは、特定のキーワード(たとえば、「マスク」)に対し、推薦したい商品について記事を書く。この「おすすめ記事(エディトリアル・レコメンデーション)」は通常、検索結果の3段目に表示される。そして推薦した商品がクリックされ、売れるたびに、パブリッシャーには手数料が支払われる。
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アルゴリズムの重要性は低下?
米国でオンサイトアソシエイツプログラムに登録するパブリッシャーは、公開当初の30社前後から、現在ではざっと200社ほどに増えている。その顔ぶれは、ワイヤーカッター(Wirecutter)のような製品レビュー業界の重鎮から、クリーン・イーティング・マガジン(Clean Eating Magazine)のような無名のプレイヤーまでさまざまだ。
Amazonにしてみれば、登録パブリッシャーの編集者やライターが執筆する「おすすめ記事」の台頭により、これまでAmazonのプラットフォームを支配してきたアルゴリズムによるレコメンデーションが一歩後退したようにも見える。この傾向は「Amazon’s Choice」のラベルにもっとも顕著で、結果的にその重要性はやや低下しつつあるようだ。
セラーのあいだでも、「おすすめ記事」はすでに大きな注目を集めている。なにしろ、検索結果の最初のページに表示されるのだから、ここで紹介されればその商品の売上は確実に跳ね上がる。Amazonの検索結果におすすめ記事が表示されはじめると、Reddit(レディット)のフォーラムやFacebookグループには、「どうすればここで取り上げてもらえるのか?」というセラーからの質問が殺到した。ここ数カ月で、オンサイトアソシエイツの登録パブリッシャーとAmazonセラーの仲を取り持つというエージェンシーもちらほら見えはじめた。検索結果の最初のページに商品を表示させる手助けをしようというブローカーたちが現れて、いわば舞台裏の業界を形成しつつある。
リバーベンドコンサルティング(Riverbend Consulting)もそのようなエージェンシーのひとつで、Amazonセラーをオンサイトアソシエイツの登録パブリッシャーに仲介するサービスを提供している。同社の成長戦略を統括するジャック・ビジュー氏はこう述べている。「我々はある種の情報ブローカーだ。PR会社のような役割を果たす。クライアントに代わって、彼らの商品をパブリッシャーの前に提示する」。
セラーたちはどのように「おすすめ記事」を獲得しているか
リバーベンドが提供するサービスは単純だ。セラーから「おすすめ記事に商品を掲載したい」という引き合いが来ると、ビジュー氏がその内容を審査する。同社の基準を満たす案件であれば、次にはそれをオンサイトアソシエイツに登録するパブリッシャーの代理人に引き渡す。そして数社のパブリッシャーを顧客に抱えるこの代理人が、推薦の是非について検討する。もちろん、リバーベンドのようなエージェンシーの売り込みがあっても、当該の商品がおすすめ記事に掲載される保証とはならない。決めるのはあくまでもパブリッシャーだ。それでも、ビジュー氏は自分たちの成功率は高いと主張する。同氏が提示した案件の大部分が採用され、パブリッシャーはそれに基づいておすすめ記事を書くという。
成功の理由のひとつは、審査のプロセスにあるとビジュー氏は話す。リバーベンドが引き受けるのは、星の個数が3.8以上、評価の件数が100以上で、健康効果や栄養機能を謳わず、ランキングで一定の基準を満たしている商品に限られる(同氏によると、理想的な商品は、たとえば「衣類、靴、ジュエリー」といったメインカテゴリーで50000位以内、「メンズのスポーツシャツ&Tシャツ」のようなサブカテゴリーで100位以内の商品とのことだ)。「うまくいくこと、うまくいかないことが、ようやく分かってきた」とビジュー氏は語った。
リバーベンドから提示された商品が、おすすめ記事への掲載に至る道筋は平坦ではない。パブリッシャーがビジュー氏の売り込みを受け入れて、おすすめ記事を書くと決めても、肝心のAmazonが青信号を出さなければ日の目を見ない。Amazonでは、内部の審査機関がおすすめ記事の内容を個別にチェックして、承認を出している。そして掲載の承認が下りた記事でも、必ず検索結果に反映されるとは限らないのだ。
あるパブリッシャーのオンサイトプログラムを管理するディレクターが、米DIGIDAYの姉妹サイトであるモダンリテール(Modern Retail)に語ったところによると、このパブリッシャーがAmazonに提出するおすすめ記事のうち、承認を得られるのは20%から30%にすぎないだろうという。そして承認された投稿も、顧客が当該のキーワードを検索するたびに、必ず表示されるわけではない。特定のキーワードに対して複数のおすすめ記事が承認されることもあり、そのような場合には、Amazonはこれら複数の記事をローテーションで表示させ、コンバージョン率の違いを分析するという。
このディレクターはまた、1日に表示されるおすすめ記事は、承認された記事100本につき、だいたい6本から7本程度であるとも語っている。ちなみに、Amazonセラー向けに販売支援ツールを提供するジャングルスカウト(Jungle Scout)は、おすすめ記事が検索結果に表示される確率を約25%と推定している。
これは金を払って参加するシステムなのか?
リバーベンドのようなブローカーの売り込みからおすすめ記事の掲載に至るケースが、いったいどのくらいあるのかは不明だが、すべてがそうでないことは確かだ。モダンリテールの取材に答えた前出のディレクターは、売り込みは受けつけないと言っている。Amazonマーケットプレイスを専門に扱うコンサルティング会社のマカータ(Macarta)で、戦略担当のバイスプレジデントを務めるスティーブン・レイガン氏によると、彼のクライアントのあいだでも、おすすめ記事は「ホットな話題」となっているが、彼の知るAmazonセラーで、おすすめ記事で紹介されたことのある事業者の大半は、特に何もせず、自然に掲載されたものだという。
マカータのクリエイティブディレクターであるカーリー・ミラー氏も、「我々が知るかぎり、おすすめ記事への表示の多くは偶発的だ」と述べている。クライアントから掲載の依頼があったわけではなく、あくまでもパブリッシャーの選択であり、ミラー氏言うところの「うれしい偶然」の賜物だという。それでも、仲介システムの存在は、Amazonがおすすめ記事のような新しい機能を打ち出すと、それに付随する裏の業界が、またたく間に形成されることを如実に表している。
ビジュー氏によると、掲載までのハードルの高さゆえにリバーベンドでは、実際におすすめ記事がAmazonのサイトに表示された場合にのみ、報酬が支払われるという。記事が公開された時点で、セラーには1500ドルから2000ドル(約16万円〜22万円)の前金と、おすすめ記事が貢献した売上に応じて月額手数料が発生する。リバーベンドは独自のダッシュボードで、おすすめ記事から購入に至った販売件数を追跡している。
セラーとパブリッシャーの双方にとって、オンサイトアソシエイツの内部の仕組みはいまも不透明な部分が大きい。以前、複数のパブリッシャーが米DIGIDAYに語ったところによると、収益は週単位で大きく変動しうるという。その理由のひとつは、Amazonがおすすめ記事のもっとも効果的な運用を試行錯誤しているためと言われている。
「常々クライアントに言っていることだが、おすすめ記事はブランディングの機会だ」と、ビジュー氏は述べている。「プロの編集者やライターが書いた記事にブランド名が露出され、それが数カ月にわたってAmazonのページ上に存在しつづける。記事がもたらす売上はボーナスのようなものだ」。
おすすめ記事の「寿命」は短い
いずれにしても、おすすめ記事はすぐにどうこうできるものではなさそうだ。推薦する商品を吟味するのがアルゴリズムではなく、人間なのだからなおさらだろう。上位キーワードのすべてに、何十ものおすすめ記事が設定されるようになれば、過飽和状態を招く恐れもないとは言えない。そうなれば、個々の記事が表示される機会は少なくなる。ただし、ビジュー氏によると、Amazonはそのための対策を講じているようだ。
同氏によると、一定期間が経過すると(通常は2カ月から4カ月、ただし場合によって、もっと短くも長くもなるが)、「Amazonは記事を削除する」という。Amazonとしては、このプログラムを回転させたいからだ。つまり、Amazonのおすすめ記事は、セラーたちにかつてないほどのビジビリティをもたらすが、その反面、これら推奨記事の寿命はもとより長くはないということだ。
[原文:‘We’re like a broker’: Inside Amazon’s opaque editorial recommendations ecosystem]
Michael Waters(翻訳:英じゅんこ、編集:分島 翔平)