中国は欧米に比べ、モバイルでの商取引が発達している。それを担うのが、6億のユーザーを獲得する巨大メッセージアプリ「WeChat(微信)」だ。Facebookで14億人、Twitterで3億2000万人、LINEに至っては1億8000万人といわれるユーザー数と比較すれば、その巨大さが理解できるだろう。しかも「WeChat」は、単なるメッセージアプリではない。
ある中華料理屋で、友人同士のグループが食事をとりながら、互いの携帯電話にQRコードを送り、仲間で支払いを割り勘にしている。受信した側は、携帯をタップすれば、自動的に負担額が携帯料金に組み込まれる仕組みだ。夕食後に映画の前売り券を購入した後、帰宅のタクシーを予約。これらの購買行動がすべて、同じアプリで完結する。
このような信じがたい未来的なアプリ。それが、メッセージアプリ「WeChat」だ。中国のインターネット企業、テンセント(騰訊)が2011年にリリースした「WeChat」は、月間ユニークユーザー(MUU)が6億に達している。モバイルコマースのインフラが閉鎖的につくられた、ほかに例を見ないアプリで、モバイルファーストな中国の消費者から支持を得た。
中国は欧米に比べ、モバイルでの商取引が発達している。それを担うのが、6億のユーザーを獲得する巨大メッセージアプリ「WeChat(微信)」だ。Facebookで14億人、Twitterで3億2000万人、LINEに至っては1億8000万人といわれるユーザー数と比較すれば、その巨大さが理解できるだろう。しかも「WeChat」は、単なるメッセージアプリではない。
ある中華料理屋で、友人同士のグループが食事をとりながら、互いの携帯電話にQRコードを送り、仲間で支払いを割り勘にしている。受信した側は、携帯をタップすれば、自動的に負担額が携帯料金に組み込まれる仕組みだ。夕食後に映画の前売り券を購入した後、帰宅のタクシーを予約。これらの購買行動がすべて、同じアプリで完結する。
カスタムしたナイキのシューズをオーダーしたり、最寄りのスターバックスでの注文や、バーバリーの最新コレクションをチェックすることも可能だ。1日の歩数を数え、家族旅行を計画し、TV電話会議も、ニュースの確認もできる。これらもすべて同じアプリで完結するという。
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このような信じがたいほど未来的なアプリ。それが、メッセージアプリ「WeChat」だ。中国のインターネット企業、テンセント(騰訊)が2011年にリリースした「WeChat」は、月間ユニークユーザー(MUU)が6億に達している。モバイルコマースのインフラが閉鎖的につくられた、ほかに例を見ないアプリで、モバイルファーストな中国の消費者から支持を得た。
モバイルコマースを自己完結できる「WeChat」
「1つのエコシステムだ」と語るのは、イーチー・チャン氏。北京とロサンゼルスにオフィスを構えるエージェンシーのマクガン・チャンを共同創業した中国生まれの中国人である。「中国にいるなら、これを使わねば」。
チャン氏によると、テクノロジーやパブリッシング、そして小売まで、アメリカの全業種のIT部門担当者がモバイル上で構築を目指そうとしているユーザー・エクスペリエンスを「WeChat」は実現しているという。
「アメリカでまだやれていないことを、中国人はやってのけている」と、消費者情報を提供する企業ボモダの最高経営責任者ブライアン・バックウォルド氏。「1つの都市を、ゼロから建設すると想定しよう。200年前のインフラに頼らねばならないぐらいなら、最新のテクノロジーで取り組んだ方が早いかもしれない。中国が行っているのは、そういうことだ。まずモバイルアプリでアクセスし、買い求める時代になっているのだ」。
中国のモバイル・ファーストな消費者
中国では、モバイルコマースの成長は、eコマースの拡大と同時に起きている。2000年代半ばにオンラインショッピング大手の「アリババ(Alibaba)」がショッピングサイトの「淘宝(Taobao)」を開業し、自由化が進んだのがきっかけだ。
中国の消費者の行動は、アメリカと正反対。アメリカではモバイルで検索し、購入はPCからというのがトレンドだが、中国ではPCで検索し、モバイルで購入する。
2011年以降における「WeChat」の四半期ごとのユーザー数の推移。12年第4四半期に一度低迷しているが、堅調に伸びている。出典:Statista
クレジットカードの代わりに、2つの大手オンライン決済サービスが中国のモバイルコマースを支えている。中国のECの王者「アリババ」のサービス「支付宝(アリペイ)」と「WeChat」の「微信銭包(WeChat Wallet)」だ。
「『アリババ』と『WeChat』との競争により、簡単で統合されたオンライン決済システムが生まれた」とバックウォルド氏。「『アリババ』の強みは世界最大のマーケットプレイスということだろう。『WeChat』には先んじていたが、PCファーストという設計思想だ。一方、『WeChat』はモバイルファーストの精神で作られている」。
「アリババ」と競争するために、「WeChat」はモバイルのマーケットプレイスでのサービスと、メーカーを結びつけた。チェン氏によると、モバイルでの決済プロセスはQRコードで可能な限り簡素化できる。それが「WeChat」での取引の素晴らしい基盤になっている。イタリアの衣料品・アクセサリー販売サイトの「ユークス(Yoox)」や、シンガポールのeコマースプラットフォームである「ザロラ(Zalora)」のようなeコマース企業は、「WeChat」のなかで完全に事足りるようにしている。タクシーの予約もできるし、各種料金の支払いや製品の購入が数回のタップで実行できる。
「支払いのプロセスはシームレスだ。30秒で済む。アプリ以外のサービスは不要だ」。チャン氏は一方で、アメリカのモバイル決済の不便さを指摘する。オンラインで検索し、モバイルウェブのブラウザを立ち上げ、クレジットカード情報を入力するかペイパル(PayPal)に頼る。その間ずっとアプリとタブを行ったり来たりで、貴重な時間を無駄にしているという。
中国のモバイルコマース市場は、アメリカのそれを突き放した。モバイルでの購買がアメリカの450%に達している。マーケティング調査会社eMarketerが2015年7月に実施した調査によると、同年に中国でのモバイルを通じた支出は世界記録になりそうで、同国のeコマースの49.7%を占めると予測。また、2019年にはすべてのオンライン小売での取引の71.5%がモバイルコマースになると予測している(下図)。
eコマース全体におけるモバイルコマースの比率(米国、中国)
一方、eMarketerはアメリカについては、モバイルコマースはオンライン購買の22%を占めるが、その成長は大変鈍いと予測。2019年時点でも、28%と微増するにすぎないという。
大手ブランド向けのプラットフォームを構築
「WeChat」は2012年、プラットフォームを法人アカウント向けに開放。最初に応じたのはマクドナルドの中国法人だった。続いて、クーポンやゲームも使えるようにしている。2015年にマクドナルドの中国法人は、特別なおもちゃの販売で「WeChat」を使った少額決済を導入した。2015年末には、支払い方法の一つとして「WeChat」の決済を導入するものと予想されている。
マクドナルドの広報担当者レジーナ・ホイ氏は、マクドナルドの「WeChat」ストアでは、利用者はデリバリー注文や店舗検索が可能で、630万人の「WeChat」ユーザーをファンとして確保できたと語った。
「お知らせの配信とは別に、ファン向けに特別制作したプロモーションも提案し、重要な顧客管理になっている」と、ホイ氏。「『WeChat』の決済システムを完全に利用できるようになれば、そのパーソナルデータによって包括的な顧客の理解が可能となり、よりパワフルになれるだろう」
このほかにも「WeChat」のユーザーを取り込もうとしているブランドがある。ナイキやバーバリー、スターバックスやコカコーラなどがそうだ。愛着の強い、多数のユーザーはデータの金鉱山だからだ。
コカコーラの「WeChat」のゲーム(左)と、セブンイレブンの清涼飲料水のクーポン
中国人がモバイルウェブに使う時間を考慮するなら、モバイル消費者のデータは見逃せない。中国のインターネットユーザーの87.4%が日常的にスマートフォン経由でネット接続している。一方、アメリカでは74.6%だ(eMarketer)。
ノースカロライナ大学のブライアンスクール・オブ・エコノミクスのニール・シェクラ教授は、「WeChat」の最大の強みはリピート率と分析する。取引数では1日500億回と、「アリババ」が「WeChat」を上回っているが、6億人という月間アクティブ・ユーザー数は、消費者行動データなどの取得で有利に働いてくると指摘した。
約束の地、東南アジア
しかし、中国のeコマース市場は飽和状態にあり、もう1つの成長地域に追い抜かされると見る関係者もいる。東南アジアである。eコマースのソリューションを展開するエーコマース(aCommerce)のシェジ・ホーCMOは、東南アジアの成長データを見ると、中国すら上回るモバイルファーストの地域になっていると指摘する。
ホー氏は、東南アジアはモバイルコマースにとって約束の地だと語った。マレーシア発で東南アジアで人気のECアプリ「ザロラ」(Zalora) =写真右=などが、地盤を固めつつある。だが、ホー氏は改善の余地があるという。東南アジア企業のアプリが提供するユーザー体験が、モバイルファーストな消費者のニーズに応えきれていないとホー氏は指摘した。
これに対し、中国のアプリは技術面での進化を止めようとしていない。「アリババ」のサービス「支付宝(アリペイ)」では、物理的な認証によるユーザー認証を試験中だと、先述の代理店マクガン・チャンのチャン氏は語った。タトゥーのような体の特徴をスキャニングして、スーパーマーケットなどの実店舗での決済を可能にするという。
「私は17歳の娘がiPhoneをどんな風に使っているかを観察している」と、消費者情報を提供する企業ボモダのバックウォルド氏。「使っている時間は私よりも長いし、娘が10歳だった頃よりも長い。だが、モバイル決済や電子決済などについては知らないだろう。そんな決済手段を、中国の消費者は今や当たり前のように使っているのだ」。
Hilary Milnes(原文 / 訳:南如水)
Photo by Cheon Fong Liew (CreativeCommons)