広告業界団体のネットワーク・アドバタイジング・イニシアチブ(NAI)は、メールアドレスによる広告ターゲティングやトラッキングをオーディエンスがオプトアウトできるオプションの提供を開始した。だが、その最大手であるFacebook、そしてライブランプ(LiveRamp)に対して機能しないことが問題視されている。
サードパーティCookieを使ったトラッキングが禁止されようとしている今、広告業界関係者の間でユーザーのメールアドレスの利用に注目が集まっている。
そんななか、広告業界団体のネットワーク・アドバタイジング・イニシアチブ(Network Advertising Initiative、以下NAI)は、メールアドレスによる広告ターゲティングやトラッキングをオーディエンスがオプトアウトできるオプションの提供を開始した。これはメールアドレスによるトラッキングの防止を謳っているものの、最大手であるFacebook、そしてライブランプ(LiveRamp)に対して機能しないことが問題視されている。現在、プログラマティック広告ではさまざまなメールアドレス関連の識別子が使われているが、今回のオプトアウトがどのように適用されるのかについて不透明な部分も少なくなく、いくつか疑問が投げかけられている。
エージェンシーは以前から、広告主のターゲティングのためにオーディエンスのメールリストを収集してきた。NAIはCookieが使えなくなったときに備えたオーディエンスのトラッキングのオプションを提供しているわけだが、それと同時にメンバー企業に対して「ブランドの顧客データとアイデンティティグラフなどのオーディエンスマッチングシステムとのあいだのリンクとして、ハッシュ化または暗号化したメールアドレスを使用する場合」に、そのサービスからユーザーがオプトアウトできる機能を追加するよう求めている。
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すでにオプトアウトできるよう機能追加しているNAIのメンバー企業がある。クリテオ(Criteo)だ。クリテオの商品管理・アイデンティティ・プライバシー担当シニアディレクターを務めるカーステン・リーケ氏は「当社は、オプトアウトの要請に応じて、ハッシュ化されたメールアドレスによるオーディエンスマッチングやカスタマイズ広告を停止している」と話す。「これによりメールに関するNAIの新ガイドラインに完全に準拠した形になり、パーソナライズした広告の配信も回避できる」。
注意しなければならないのは、マッチングからオプトアウトしたいオーディエンスはNAIのサイトを閲覧し、メールアドレスを入力しなければならないという点だ。NAIのウェブサイトには次のように書かれている。「メールアドレスに付随する情報がオンライン広告に利用されるのを回避したい場合は、以下にメールアドレスをご入力ください。入力されたメールアドレスは、NAIのメンバー企業による広告に利用されなくなります」。基本的に、今回のNAIのプログラムに参加しているメンバー企業の大半は、コーポレートサイトの個人情報保護方針や収集対象データについて記載されたページにNAIのオプトアウトツールへのリンクを載せている。
しかし、個人情報保護方針のなかにオプトアウトのリンクが埋め込まれている状態では、利用するユーザーは限定的な数にとどまるのではないかという声もある。「このオプトアウトを見つけて、内容を把握しようとするユーザーが何人いるだろうか?」とコンシューマーレポート(Consumer Reports)の消費者個人情報および技術方針担当ディレクターのジャスティン・ブルックマン氏は指摘する。「とても親切なやり方とは言えない」。
残された課題
クリテオ以外にも、メールアドレスのオプトアウトを実施しているNAIメンバー企業が6社ある。Google、ニュースター(Neustar)、オラクル・データ・クラウド(Oracle Data Cloud)、インマー(Inmar: 旧OwnerIQ)、ベライゾンメディア(Verizon Media)の6社だが、業界でも最大規模の企業が含まれていないことにすぐにお気づきだろう。Facebookやライブランプの記載がない。実は両者はNAIのメンバーでないこともあり、この件にはそもそも関与していない。
また、Googleのオプトアウトの組込方法についても疑問符が投げかけられている。たとえばNAIのシステムを介してGoogleのオーディエンスマッチングからオプトアウトした場合、同社の展開するサービス内でターゲティング回避となるのか、オープンウェブにおけるターゲティング広告のみが対象となるのかが不明で、ユーザーへの説明もない。
NAIのコンプライアンス担当VPを務めるアンソニー・マティジェウスキー氏は「Googleのオプトアウトの詳細については、現時点では不明確で、今後確認していく」と述べる。Googleからは、この記事の公開時点で回答は得られなかった。
疑問視されている点はほかにもある。これまでサードパーティCookieの代替となるアイデンティティ技術が数多く生み出されたが、そのなかにはメールアドレス情報を使用し、暗号化した識別子でプログラマティック広告のターゲティングを行うものも少なくない。そして今回のオプトアウトでは、この種の識別子に対応していないケースも多い。かつNAIのメンバー企業の大半はアドテク企業であり、ハッシュ化されたメールで識別子を構築して広告のターゲティングを行ったり、メールベースのIDを広告システムに組み込んだりしている。
マティジェウスキー氏によると、NAIはこれらの識別子を利用する技術とマッチする適切なオプトアウトの方法を模索しているという。「業界はダイナミックな変化を必要としている。広告に関するアイデンティティ技術を扱う企業は、その時々の状況に合わせて商品を柔軟に変化させていかなければならない」。
「誰もが歓迎しているわけではない」
マティジェウスキー氏によると、オーディエンスマッチングのオプトアウトについて拒否感を示すメンバー企業もいたという。「誰もが歓迎しているわけではない」。
一方、「米国政府は広告主によるデータ収集と利用に対する圧力を強めている」とブルックマン氏。「企業側は法規制に真正面から向かい合うべきだ。今回のような対応では不十分で、その場しのぎに過ぎない」。
KATE KAYE(翻訳:SI Japan、編集: 長田真)