「宅配ドライバー(ギグワーカー)が受け取るべきチップを搾取していた」として、米連邦取引委員会(FTC)から提訴されていたAmazonが、制裁金として6170万ドル(約64億8000万円)を支払うことが発表された。同社の宅配サービス「Amazon Flex」のドライバーは、以前からこの疑惑について訴えてきた。
「宅配ドライバー(ギグワーカー)が受け取るべきチップを搾取していた」として、米連邦取引委員会(FTC)から提訴されていたAmazonが、制裁金として6170万ドル(約64億8000万円)を支払うことが発表された。同社の宅配サービス「Amazon Flex」のドライバーは、以前からこの疑惑について訴えてきた。
今回の制裁金の報道を受けて、FacebookやReddit上には多くのドライバーからの投稿が掲載されているが、「所詮、我々に補償されるのは微々たる金額だ」、「これでドライバーの扱いが大きく改善されるとは思えない」など、悲観的な見解が多い。米DIGIDAYの姉妹サイトのモダンリテール(Modern Retail)のインタビューに対し、Amazon Flexに3年間勤務しているあるドライバーは「自分たちはじゅうぶんな敬意をもって扱われていない」とこぼす。「ドライバーは増やしたり減らしたりできる。我々は単なる数合わせで組み込まれているに過ぎない」。
今回だけでなく、これまでもさまざまな流通プラットフォーマーにおいて、契約社員の人件費カットが問題視されてきた。その背景にあるのが、配達料金の値下げ競争だ。この問題をめぐり、プラットフォーマーへの風当たりは強まっているものの、当のドライバーたちは無気力さを感じているようだ。Reddit上では「この流れも、どうせすぐに風化する。数カ月もたてば、ドライバー自身ですら葬ってしまうだろう」という声が相次いでいる。「どうせ、新しいドライバーに『交換』されるだけだ」。
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Amazon Flex、誕生の経緯
Amazon Flexのローンチ発表は2015年にさかのぼる。これはAmazon Freshやホールフーズ(Whole Foods)、プライムナウ(Prime Now)といったAmazonが提供する事業・サービスにおける宅配業務を、ギグワーカーに委託するものだ。以前からAmazonはギグワーカーの宅配ネットワークの拡大に取り組んでおり、ほかにも請負業者のトラックドライバーに宅配させるリレー(Relay)プログラムなどを展開している。Flexのドライバー数は非公開だが、2019年に投資銀行のコーウェン(Cowen)は、「現在のAmazonの配送の23%が請負業者によるもので、2024年までにこの割合は43%に達する」と予測している。
Flexのプロモーションの開始当初、Amazonはドライバーに対し時給で18ドルから25ドル(約1900円から2600円)を約束していた。これはチップを除いた額だ。FTCは、Amazonが「Amazon Flexの配送時のチップはすべてドライバーのもの」と明文化していたと指摘する。
モダンリテールに対し、Amazonはこの指摘について次のように回答している。「ドライバーへの支払いに関して、不透明な部分は一切ないと考えている。そして疑いの余地をなくすため、2019年からは明確に定義している。Amazon Flexのドライバーは、サービス利用者に毎日商品を届ける非常に重要な役割を担っている。彼らの平均時給は25ドル(約2600円)と、業界でも最高水準だ」。
疑惑を産んだチップの額面
しかし、ドライバーは支払われるチップが不自然に少ないことにすぐに気づく。だがチップはアプリで支払われるため、ドライバーには単純にチップが少ないのか、ほかの原因によるものなのかが分からない。そこで一部のドライバーは、システムの仕組みを解明するため、実際に自身の家へ配達する試みを開始した(ロサンゼルス・タイムス[the Los Angeles Times]、2019年2月の記事)。その結果、配達完了後にアプリでチップを支払ったにもかかわらず、その額が振り込まれていないことが判明した。
FTCは、「Amazonは、チップをFlexドライバーの基本給に加算する形で給与を支給していた。これは、チップを含めることにより、18ドル(約1900円)という最低時給を満たすための画策であったことを示している」と発表している。また、このやり口を行っていたのはAmazonだけではない。2019年に、ドアダッシュ(DoorDash)も同様の手法を行ったとしてワシントンの司法長官カール・ラシーン氏から提訴され、250万ドル(約2億6300万円)を支払って和解している。インスタカートも2019年上半期に、同じやり口を批判されたことを受けてチップに関するポリシーを変更している。さらに最近ではシップト(Shipt)の社員が、基本給の金額の算出方法について「ブラックボックス」だと訴えている。
モダンリテールのインタビューを受けた先述のドライバーは、「前夫宅へ配達に行った際、彼はチップ5ドル(約530円)を支払ったと言っていたが、実際に私の口座への支払いがなかったことでAmazonに対して疑いを持つようになった」と証言している。前夫に証拠となるレシートをもらい、Amazonに苦情を伝えたが、却下されたという。「証拠があるにも関わらず、とりあってもらえなかった。間違いかと思ってもう一度申し立てたが、再び却下された。仕事がなくなることの方が嫌だったので、あきらめるしかなかった」。彼女にとって、ギグドライバーは家族の面倒をみながらできる数少ない仕事であった。
影の部分も見え隠れした1年
FTCによれば、Amazonがこのチップに関する手口を始めたのは2016年下期からという。FTCの調査についてAmazonが知ったのは2019年8月頃で、それまでこのチップ問題は続いた。そしてAmazonがポリシーを変更したことで、すぐさま各ドライバーが待遇の変化に気づく。たとえば上述のドライバーは、チップの額が倍増したとのことだ。以前はシフトあたりのチップ額が15ドルから20ドル(約1600円から約2100円)だったのに対し、現在は40ドル(約4200円)となっている。
今回の6170万ドル(約64億8000万円)が和解金として、どれくらいのドライバーに還付されることになるか現時点では不明だ。ワイアード(Wired)の取材に対し、FTCは現在詳細をつめている段階と語っている。Amazonにとっての2020年は飛躍の1年であったが、同時に影の部分も見え隠れしたといえるだろう。FTCの発表と同じ日に行われたAmazonの業績報告会では、2020年の収益が3860億ドル(約40兆7000億円)で過去最高を更新したと発表された。一方で、その1週間後には同社で初となる労働組合の発足に向けた投票が、アラバマ州の倉庫で働く従業員によって執り行われた。
[Image via Amazon Flex]
[原文:‘We are just a number’: Amazon Flex drivers react to Amazon’s FTC settlement]
Michael Waters(翻訳:SI Japan、編集:長田真)