ハリウッドに食い込みたいと思っているのは、パブリッシャーだけではない。プラットフォームも同様だ。2年前、テキストベースのコンテンツをパブリッシュできるアプリ、ワットパッド(Wattpad)が新しい部門であるワットパッドスタジオ(Wattpad Studios)を立ち上げた。
ハリウッドに食い込みたいと思っているのは、パブリッシャーだけではない。プラットフォームも同様だ。
テキストベースのコンテンツをパブリッシュできるアプリで、「YouTubeのテキスト版」とも表現される、Wattpad(ワットパッド)が2年前、新しい部門であるWattpad Studios(ワットパッドスタジオ)を立ち上げた。アプリ上でパブリッシュされたコンテンツをテレビ番組、映画、そして小説にすることを目的とした部門だ。Wattpad Studiosは、NBCユニバーサル・ケーブル・プロダクションズ、そしてカナダのTV局エンターテイメント・ワン(Entertainment One)とコンテンツ開発契約を結んでいる。
今年に入り、Wattpad Studiosの業務はさらに加速した。テレビ局CWが保有するストリーミングサービスのCWシード(CW Seed)で、新番組の試験的な第1話を2月に放送。またソニー・ピクチャーズ・テレビジョン(Sony Pictures Television)と番組を制作する契約を結んだほか、オーサムネスTV(AwesomenessTV)と共同で番組を開発し、それはHulu(フールー)によって5月頭に買われている。これらはすべて、Wattpad上でパブリッシュされたテキストがもととなっている。
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Wattpadの狙い
Wattpadの狙いはブランド認知だけではない。メディア企業たちがデジタル動画業界に次々と参入してビジネスの多様化を図っているなかで、Wattpadがアプリ上のテキストからコンテンツを生み出そうとする、こういった試みも同様にビジネスの多様化を狙っているのだ。「やはり(デジタル動画は)強いビジネスラインとなっている」と、Wattpad Studiosの責任者であるアーロン・レヴィッツ氏は言う。
Wattpadの10代向けジャンル、SFジャンルにおいて、彼らはユニバーサル・ケーブル・プロダクションとファーストルック契約を結んでいる。この契約のもとでは、コンテンツ制作となった場合は、Wattpadがプロデューサーとして機能することになる。レヴィッツ氏は詳細を語らなかったが、この契約だとライセンス手数料やロイヤリティを通じてWattpadも収益を得ることができる。
Wattpad Studiosによるコンテンツ制作自体は、メディア業界では珍しいビジネスではない。映画やテレビ企業を相手に、すでにオーディエンスを獲得したテキストコンテンツを販売するという業態は、雑誌や小説などで行われてきた。デジタルの場合は、Vox Mediaやギムレット・メディア(Gimlet Media)といったデジタルメディア企業がしているように、映画やテレビ企業に対して制作したコンテンツを、オリジナルコンテンツのオーディエンスに対してプロモーションする広告を売ることもできる。そこに、Wattpadがプラットフォームを所有している強みがある。パブリッシャーたちが持っていないデータを持っているのだ。どのような種類のコンテンツが人気を呼んでおり、コンテンツを繰り返し消費する傾向はどれくらいあるかといったデータを、どの物語を映像化するかの判断材料として使うことができる。
「毎日収集している数十億ポイントのデータを、スタジオパートナーが意思決定のために使える判断材料として解釈するには何をすれば良いか、私たちは取り組んでいる」と、レヴィッツ氏は言う。
データ戦略で勝負
Wattpadは多くのデータを公開している。6500万人にものぼるユーザーのあいだでどの物語がもっとも人気があるか、それぞれが何回読まれているか、人気投票では票をどれくらい獲得したか、「10代」「2018」「夏の恋」といったそれぞれのカテゴリー内でのランキングは、どの程度か、というデータは誰でも確認できる。さらに物語の作者にプライベートのメッセージを送ることもできる。それを通じてWattpadを経由せずに映像化の契約に結びつけることは理論上は可能だ。
しかし、レヴィッツ氏によると、プラットフォーム外での成功を予測するには、こういったパブリックなデータだけでは十分ではないという。代わりにWattpadが注目するのはエンゲージメント時間、再読される頻度、物語を完了する割合、どの地域で読まれているか、といったプライベートなデータだ。トレンドとなりつつあるようなサブ・ジャンルを見つけるための努力も行っている。
こういったデータが、ストリーミングサービスやテレビ局がコンテンツ映像化の判断の際に役に立つわけだ。
「30年前であれば、本が出版されて何百万冊も売れたとしたら出版業としては大成功、そして映画化されてそれが失敗する、ということが起きた。なので私たちがしていることはもっとデータを中心に据えて、(これらの物語が)実際にオーディエンスの心に響くのかどうかを見極める、という作業だ。コンテンツを制作し、コンテンツが成功することを証明し、そのコンテンツに情熱を持っているオーディエンスにマーケティングを行う、というサイクルにおいて重要なキーとなっているプラットフォームにとっては、これは素晴らしいビジネスモデルだ」と、ガーションメディア(GershonMedia)のプレジデントであるバーナード・ガーション氏は言った。
ヒットを生み出す法則
最終的に重要になるのは、Wattpad Studiosが本当にこれらの物語からヒット作を生み出すことができるのかだ。その証拠は、まだ限られている。レヴィッツ氏によると、ローレン・パルフレイマンの物語『キューピッズ・マッチ(Cupid’s Match)』をCWシードのためにWattpadが映像化した作品は、放送から数週間以内に2番目にもっとも視聴された番組となった。CWからはコメントの返答をもらえなかった。
『キューピッズ・マッチ』はまた、ほかの映像作品にビューワーを誘導するWattpadの狙いも試されている。オリジナルのWattpad上の物語のなかには番組の予告編が広告として流された。また、パラノーマルやファンタシーのジャンルでも同様に予告編が流された。Wattpadは、ほかのプロジェクトでもこのプロモーション戦略を行う予定だ。オーサムネスTVによるWattpadコンテンツ『ライト・アズ・フェザー(Light as a Feather)』の映像化作品がHuluで配信されたときには、「配信開始日に多くの人に見てほしいと、Huluは思っている」と、レビッツ氏は語った。
Tim Peterson(原文 / 訳:塚本 紺)