ストリーミング動画を巡る、大戦の火蓋が切って落とされた

多くが予想していたように、大手エンターテイメント企業やテック企業による数年にわたるNetflix(ネットフリックス)への対抗は、2019年第1四半期に一気に発表された。テレビ広告の将来に向けての闘いはまだまだ続きそうだが、テレビネットワークたちが自らの領域でデジタルプラットフォームに取り組みはじめたことで、新しい競争前線が現れた。テレビ・動画業界の2019年前半における注目の事件や現象を以下に並べたい。

大手の合併のあとにやってきた大手の移行

ここ数年間、大手メディア企業の合併が業界を揺るがしてきた。AT&Tとタイム・ワーナー(Time Warner)、ディズニー(Disny)とフォックス(Fox)、コムキャスト(Comcast)とスカイ(Sky)、そしてディスカバリー(Discovery)とスクリップス(Scripps)といった具合だ。そして、これらの合併取引が完了したいま、合併によって生まれるメリットをどのように活用するのか、彼らは動きを見せている。

AT&Tは、同社の広告部門であるザンダー(Xandr)がワーナーメディア(WarnerMedia)のターナーネットワーク(Turner networks)と共同で、AT&Tの顧客データをベースにしたターゲット広告を販売すると発表した。そして、ワーナーメディアの役職も大きく動いた。HBOのCEOであるリチャード・プレップラー氏、ターナーのプレジデントであるデービッド・レヴィ氏は社を離れ、ワーナー・ブラザーズ(Warner Bros.)のCEOであるケビン・ツジハラ氏はスキャンダルを受けて退き、元NBCエグゼクティブであるボブ・グリーンブラット氏がワーナーメディアのエンターテイメントとストリーミング部門を監督するために就任した。

一方、フォックス買収によってHulu(フールー)の過半数支配を得たことで、ディズニーはHuluの株をコムキャストから買収することができ、Huluのサブスクリプションをディズニー+とESPN+のストリーミング・サービスと抱き合わせると予測されている。コムキャストはスカイとNBCユニバーサル(NBCUniversal)の海外オペレーションを統合しはじめており、同時に両社の広告営業部門のいくつかも統合しつつある。そして、ディスカバリーはスクリップスネットワークスからのオーディエンスデータを使い、広告ターゲット性能を向上させようとしている。

大手メディア企業の合併がこれで終わり、というわけではない。CBSとバイアコム(Viacom)のあいだでの合併話は(これで3回目になるが)浮き上がっており、今回は実現する可能性が高い。

大手エンタメ企業は、Netflixのライバルとなった(もしくは近々なる)

テレビ番組や映画を自宅のテレビ、電話、コンピューターでストリーミングするために、一般消費者がお金を支払ってくれる、ということをNetflixは証明した。いま、ほぼすべてのエンターテイメント大企業たちがそのマーケットに参入しようとしている。

ディズニーが自社ストリーミングサービス開発を発表し、Netflixから自社プログラムを引き上げてから1年半が経ち、11月のサービス開始(月額7ドル[約760円])を前にして、彼らのプロダクトやオリジナルプログラムを見せつけている。ライバルのAppleもストリーミングサービスApple TV+を発表したが、まだ利用料は発表されていない。サービスは今秋開始ということになっている。

一方のNBCユニバーサルのストリーミングサービスは、視聴料は無料と発表されている。これは、来年ローンチされたときに、コンテンツと同時に広告も配信されるからだ。しかし有料で広告なしのバージョンに加入することもできる。ワーナーメディアの場合は、今年末に向けてテストを開始し、値段は16ドル(約1740円)から17ドル(約1850円)と報道されている。

コンテンツ貿易戦争がはじまった

コンテンツが王であれば、あらゆるプレイヤーがその王座を狙っている状態だ。Netflixがライバルとなる争いで勝つためには、視聴者の興味を巡って、Netflixのコンテンツライブラリーと争えるコンテンツを有する必要がある。そこで彼らはまず、Netflixのライブラリからコンテンツを取り戻そうとしている。この流れを開始したのは、やはりディズニーだ。Netflixに提供していた自社コンテンツを引き上げ、自社プラットフォームで配信する。NBCユニバーサルもまた、Netflixで独占配信されている彼らの人気ドラマ「ザ・オフィス(The Office)」を、2021年1月に自社サービスに載せるために引き上げると発表している。ワーナーメディアもまた、彼らの人気ドラマ「フレンズ(Friends)」に関して、同様の戦略を取るだろう。

コンテンツをめぐる貿易戦争はプログラムだけに限らず、新しいプログラムを製作する人材にも及んでいる。ライアン・マーフィー氏やションダ・ライムス氏といった作品を多く生む人気プロデューサーたちと独占契約を取り付けた一方で、競合他社たちもプロデューサーたちと同様の契約を新コンテンツについて取り付けている。Appleは「フライデイ・ナイト・ライツ(Friday Light Nights)」と「ペアレントフッド(Parenthood)」のジェイソン・カティムズ氏、そして「ザ・ファスト・アンド・ザ・フューリアス(The Fast and the Furious)」の監督であるジャスティン・リン氏を獲得。しかし、J・J・エイブラムズ氏に関しては獲得できず、ワーナーメディアに奪われたようだ。Amazonは「ザ・マーベラス・ミセス・メイゼル(The Marvelous Mrs. Maisel)」のクリエーターであるエイミー・シャーマンーパラディーノ氏とダニエル・パラディーノ氏を抱え、そしてHBOの「ウェストワールド(Westworld)」クリエーターであるジョナサン・ノーランとリサ・ジョイをワーナー・ブラザーズTVから奪った。

デジタルプラットフォームがテレビ予算を狙うなかで、テレビネットワークはデジタル予算を狙う

HuluやYouTubeがテレビのアップフロント市場(広告の先行販売)へのロビイングを開始し、実際にそこから収益を獲得しはじめてからずっと、テレビとデジタル広告市場は衝突コースに乗っていた。昨年ロク(Roku)もそこに参加し、今年、AmazonFacebookが参加した。しかし、テレビから動画ストリーミングへの移行に伴って広告支出から収益を得ようとしているのは彼らだけではない。テレビネットワークもそうだ

広告主たちからのデジタル広告におけるオーディエンスベースの広告への興味、視聴者数が下がるなかで広告価格が上がるリニアテレビに対するデジタル代替への興味、が存在することを理解したテレビネットワークたちは、アップフロントの広告主たちに対して売り込みのうち、デジタル要素を強めている。プルートTV(Pluto TV)を買収したあと、ヴィアコムはすぐにプルートTV(広告サポートをするストリーミングサービス)を今年のアップフロント売り込みの中心のひとつに据えた。NBCユニバーサルはアップフロントプレゼンテーションで、彼らの広告付きストリーミングサービスについて語りディスカバリーとAT&Tのワーナーメディアとザンダーはデジタル広告ターゲットオプションをプロモーションした。

テレビクオリティのコンテンツに対するターゲット広告への広告バイヤーたちの興味は大きくなりつつある。そして、それに対応するデジタルプラットフォームの性能も大きくなりつつある。テレビネットワークたちは来年のアップフロント売り込みにおいてターゲット広告をさらに大きな要素にするための取り組みをはじめている。今年のアップフロントサイクルがはじまったと同時に、テレビネットワークたちのコンソーシアムが、ヴィジオ(Vizio)の自動コンテンツ認識企業インスケープ(Inscape)とともに集い、プロジェクトOARを立ち上げた。これはコネクテッドテレビにおけるターゲットテレビ広告の標準設定をするための取り組みだ。そして、アップフロントシーズンの真っ最中に、複数のテレビネットワークによるグループ、オープンAP(OpenAP)が、ターゲットテレビ広告のためのバイイングプラットフォームを展開すると発表したのだ。

サブスクリプション動画セールスは急騰

サブスクリプション動画マーケットは急速に飽和状態になりつつある。Netflix、Hulu、Amazonプライム(Prime)動画といったサブスクリプション業界の巨人たちに加えて、前述のApple、ディズニー、NBCユニバーサル、ワーナーメディアによるストリーミングサービスが登場しつつある。そしてサブスクリプションのリセラーたちの存在もある。AmazonがAmazonプライム動画チャンネル(Amazon Prime Video Channels)で成功したのを受けて、AppleロクFacebookもまた、サブスクリプションをほかの企業のサブスクリプション動画サービスに販売するという独自のプログラムを開発、もしくは展開している。これによって、サブスクリプションサービスが市場に出やすくなっているように思われる。

サブスクリプションサービスの過剰な供給は、ひとつの疑問を生む。消費者は一体いくつのサービスにお金を払って利用したいと思うのか、という疑問だ。この疑問に対する答えは、いくつかのサブスクリプションサービスの値段が膨らみつつあることからも不明瞭となっている。今年だけでもHulu、YouTubeテレビ、そしてディレクTV(DirecTV)がストリーミングTVの値段を上げている。サブスクライブ会員の解約やケーブル会社に対して払うチャンネル掲載料を賄うためだ。またNetflixも、利用者を楽しんでもらい、サブスクリプションをキープしてもらうためのコンテンツに費やす支出を賄うために、利用料を上げている。

今年前半に見られる、視聴者や広告主をめぐるこの競争の激化は、今後加速しなくとも、後半も続くだろう。ディズニー+とAppleTV+がローンチされることで、Netflixが直面する競争がどのレベルかがより明確になるだろう。そして、今年のアップフロント期間が終われば、従来のテレビとデジタル動画広告セラーのあいだのギャップがどれほど狭いか(もしくは広いか)も分かる。ストリーミング動画戦争はすぐには決着はつかないだろうが、来年に入る前には、最初のラウンドの勝者や負傷者が誰かは分かるだろう。

Tim Peterson(原文 / 訳:塚本 紺)