GoogleのオンラインマーケットプレイスであるGoogleエクスプレス(Google Express:米国のみのサービス)は、消滅の危機に直面しているのかもしれない。ウォルマート(Walmart)はちょうど2年間、Googleエクスプレスで商品の販売を行ってきた。だが、去る1月の第4週、その販売を中止した。
出店から6年目を迎える、GoogleのオンラインマーケットプレイスであるGoogleエクスプレス(Google Express:米国のみのサービス)は、消滅の危機に直面しているのかもしれない。
ウォルマート(Walmart)はちょうど2年間、Googleエクスプレスで商品の販売を行ってきた。だが、去る1月の第4週、その販売を中止した。そのため、長い目で見たとき、eコマースマーケットプレイスとしてのGoogleエクスプレスの未来に暗雲が立ち込めた形だ。アナリストから見ると、数多くのブランドが最終的にこのプラットフォームから撤退すると見られているなかで、ウォルマートの撤退はその先頭を行くものといえそうだが、小規模のセラーにとってはこの撤退が逆にチャンスとなる可能性がある。
ウォルマート撤退の影響
Googleは、自社がAmazonに取って代わる企業であることを売り文句にしているが、当初パートナーであった複数の大手ブランドが撤退し、マーケットプレイスに求心力がないことは暗に示唆されている。アメリカンイーグル(American Eagle)やステイプルズ(Staples)、ラッキー(Lucky)、オフィスデポ(Office Depot)、ブルーボトルコーヒー(Blue Bottle Coffee)、アールイーアイ(Rei)をはじめとする初期のパートナー企業は、同プラットフォーム上ではもはや販売をしていない。
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加えて、同社は昨年、中国のeコマースマーケットプレイスであるJD.comに5億5000万ドル(約600億円)を投資し、Googleのマーケットプレイス上でJD.comの商品を売りにする予定だが、この取り組みはまだはじまっていない。また、GoogleはAmazonに対抗するだけの倉庫や物流のインフラを持っていない。俯瞰すると、Googleの提供するサービスは、eBayのようなマーケットプレイスと、それよりも大規模なハイブリッドリテーラーであるAmazonのあいだのどこか中間的な位置付けである。
「ウォルマートが撤退するのは、Googleにとっておそらく大きな痛手だ」と、マークル(Merkle)でリサーチ部門のアソシエイトディレクターを務めるアンディ・タイラー氏は言う。「ウォルマートの撤退は(ほかのブランド)にとってはチャンスとなる可能性がある。あるいは、ほかのブランドがこのプラットフォームに留まる余地が大きくなるかもしれない」。
ウォルマートの広報担当者は、Googleエクスプレスからは撤退するが、それでも、音声ショッピングにおいて協働を続けるなど、Googleと「戦略的パートナー」であることに変わりはないと言った。
Googleが狙う方向性
Googleエクスプレスは昨年、同社のセラープラットフォームをひそかに成長させてきた。eコマース分析企業であるマーケットプレイス・パルス(Marketplace Pulse)によると、ターゲット(Target)やウォルグリーン(Walgreens)、ホームデポ(Home Depot)、ベストバイ(Best Buy)をはじめとする大規模小売店を含めて、現在、938のマーチャントがこのプラットフォームを利用している。
Googleエクスプレスでは、eBayやAmazonで閲覧するのと同様に、顧客は商品やブランドストアを閲覧することができる。当初、Googleエクスプレスはサブスクリプションサービスとして提供が開始され、Googleが商品を顧客に届けていた。そのあと、同サービスは、ブランドが手間のかかる作業の大半を請け負うセラー重視のフルフィルメントプラットフォームへと変貌した。Googleのプラットフォームには、Google検索やGoogle画像検索、YouTube、Googleアシスタント(Google Assistant)が含まれるが、Googleエクスプレスを介して販売するブランドは、Googleショッピングアクション(Google Shopping Actions)と呼ばれるプログラムを通して、このGoogleのプラットフォーム上でGoogleショッピング広告を表示してもらうこともできる。そしてGoogleは、販売額の一部から収益を得る。
電子メールで送られてきた声明で、Googleの広報担当者は、同社はカスタマーエクスペリエンスの向上や同社のプラットフォームを利用するマーチャント数を継続的に増やす計画に重点を置いていると発表した。ウォルマートの撤退が長期的にどのような影響を及ぼすかははっきりとは分かっていないが、GoogleエクスプレスにはAmazonに不満を持つ小規模セラーを引き付けるチャンスがある。
「セラーがAmazonに持っているたくさんの不満は各社各様、千差万別だ。そのため、(Googleが)取り得る売り込み方法は無数に存在する」とマーケットプレイス・パルスの創業者、ユオザス・カジウケナス氏は言う。「Googleがより多くの(顧客)データを与えることができれば、また違った種類のプラットフォームになるだろう」。
データ利用が今後のカギ
Googleはまた、デフォルトの検索結果としてGoogleエクスプレスを介して販売している製品を際立たせて表示できるだろう。しかし、成功を収めるためには、Googleエクスプレスはユーザーエクスペリエンスに焦点を置き、セラーにとって十分に魅力的な売り文句を作り上げる必要がある。
「Googleは、Google的な視点からではなく、Amazonの視点から問題に取り組んでいる。このデータを使用してどうすればもっと創造力を持つことができるかをじっくり努力して考える必要がある」と、デジタルエージェンシーであるT3で戦略・イノベーション部門のバイスプレジデントを務めるジェームズ・ランヨン氏は言う。「ウィッシュリストを使用するか、あるいは閾値を判断基準にして自動購買配送処理を実施できるだろう」。
Googleは大量に保存されている顧客データを活用して独自の有利な位置に立つが、その利点を利用してAmazonやそのほかのマーケットプレイスとは異なるニッチ市場を構築すべきだと、ランヨン氏は付け加えた。
ターゲットやウォルグリーンはGoogleエクスプレスに対する今後のプランに関してはコメントを控えた。
消費者心理という根本問題
「Googleエクスプレスを使用するうえで重要な側面として、損をする恐れがあることが挙げられる。これは特に、競合他社が存在することやこのプラットフォームを利用していることが理由で起こり得る」と、タイラー氏は述べた。
また、ブランドに関する問題もあり、一部のセラーがこのプラットフォームに全面投資することを妨げている可能性がある。
「Googleエクスプレスは少しわかりにくい。見つけるのが難しく、消費者の認識や理解に関する課題がある」とeマーケター(eMarketer)のリテールおよびeコマースのアナリストであるアンドルー・リプスマン氏は言う。「消費者の心を捉え切れていない。それは固有の課題であり、それこそがウォルマート撤退の動機の背後にあるのかもしれない」。