ウォルマートが出資する、「 双方向」動画プラットフォーム:「イコ」がめざすところ

Netflix(ネットフリックス)の「きみならどうする?(Choose Your Own Adventure)」スタイルの映画「ブラック・ミラー: バンダースナッチ(Black Mirror: Bandersnatch)」は、双方向動画番組のオーディエンスが存在することを証明した。メディア企業は関心を示しており、双方向動画プラットフォームのイコ(Eko)がこれらの企業に、双方向動画制作への出資話を持ち掛けている。イコはウォルマート(Walmart)の支援を受けている。

イコは2019年に入ってから、BuzzFeed、FBE、リファイナリー29(Refinery29)などの企業や「アベンジャーズ/エンドゲーム(Avengers: Endgame)」の監督であるアンソニー・ルッソ氏とジョー・ルッソ氏のデジタルスタジオ、ブリット(Bullitt)と契約を締結している。広告付きの無料サイト、アプリで配信する双方向番組を制作するという契約だ。イコは2018年にウォルマートから出資を受けた2億5000万ドル(約266億円)で制作費の一部を助成し、さらに、広告収入の一部がパブリッシャーの取り分となる。CEOのヨニ・ブロック氏は具体的な取り分を明かしていないが、Facebook、YouTubeなどのプラットフォームは通常、動画に挿入された広告から得られる収入の55%をパブリッシャーの取り分としている。イコは広告収入に加え、番組の制作を助ける双方向動画の専門家も提供している。番組は多くの場合、台本通りに展開する部分が5~8分、台本のない部分が1~3分という構成で、番組の長さは双方向性の度合いによって異なる。

「我々はパートナーを文字通りパートナーと見なしており、インセンティブは我々と同等にしたいと考えている。途方もない量の実験、学習、反復を一緒に行っているためだ」と、ブロック氏は語る。同氏はイコの月間ユーザー数を明言しなかったが、広報担当者は100万人以上1000万人未満だと述べている。ブロック氏によれば、ユーザーがイコでひとつの動画を見て過ごす平均的な時間は、その動画の長さの2~3倍だという。これは少なくとも1度は、同じ動画が見直されていることを示唆している。イコの担当者によれば、動画内で最初の選択を行った人の86%が最後の選択まで進むという。

BuzzFeedの成功事例

イコとパートナーのパブリッシャーはいずれも、双方向動画に最初から参加し、メディア業界で優位に立ちたいと考えている。当然ながら、360度動画やライブ動画、バーチャルリアリティー(VR)、チャットボット、ブロックチェーンに投資した企業も同じ希望を持っていた。しかし、パブリッシャーはすでに学んでいる。ピカピカの新しいおもちゃを追い掛けたら、道路に飛び出し、車にはねられるということを。

BuzzFeedのCMOベン・カウフマン氏は「我々が新しいフォーマットに求めるのは、我々が行っていることをすぐに増幅してくれることだ。5年後に賭け、それまで赤字に耐えるようなものは求めていない。デジタルメディアの世界では、そのような時代はもう終わったと感じている」と話す。

BuzzFeedは3月、イコではじめての双方向シリーズを配信。手元だけを映した料理動画「テイスティ(Tasty)」にひねりを加えたもので、視聴者は使用する食材を選べる。テイスティの次に配信されたのはBuzzFeedブランドのシリーズで、クイズを動画にしたもの。「パーティーで何をするかを教えてくれたら、あなたの年齢を当ててあげる!(Tell Us What You’d Do At a Party and We’ll Guess Your Age!)」といったタイトルが付いている。

ブロック氏とカウフマン氏によれば、イコの出資と広告収入のおかげで、BuzzFeedもイコもこれらの番組から利益を得ているという。

制作コストも圧倒的

リファイナリー29やFBEなど、2019年中にイコで番組を配信するメディア企業も、同様の結果が出ることを願っている。しかし、そのためにはまず、番組をつくらなければならない。筋書きがひとつしかない非双方向の従来型の番組より複雑だ。

FBEの共同創業者で、最高コンテンツ責任者を務めるベニー・ファイン氏は「何をフィルムに収めるか、どのようなセリフを入れるかだけでなく、どのように撮影するかを考えなければならない。視聴者による選択が1つ入るごとに、何秒か余分に撮影する必要がある。しかも毎回、3つか4つの筋書きを用意しなければならない」と説明する。FBEは現在、「エピック・ナイト(Epic Night)」という台本のあるコメディーシリーズを制作しており、イコに見せるため、10以上のパイロットエピソードを用意することになっている。

従来型の番組より圧倒的に筋書きが多い番組を制作するということは、制作サイクルも圧倒的に長くなるということだ。ただし、準備段階の作業を減らすことは可能だと、ファイン氏は述べている。たとえば、さまざまな筋書きに合うショットを効率的に用意する方法、つまり「進路」のようなものを決めておくこともできる。

ゲームのような性質

ブロック氏によれば、イコは番組制作を支援するため、番組ごとにプロデューサーを提供しているという。また、進路をつくるための専門知識が必要な場合は、双方向番組の物語デザイナーを雇う手助けも行っているという。進路は1つのエピソードにとどまらず、筋書きを変えながら、その後のエピソードに続いていくと、ブロック氏は語る。

リファイナリー29の北米担当プレジデント兼最高コンテンツ責任者エイミー・エメリッヒ氏は、双方向番組にはビデオゲームのような性質があるため、イコのシリーズの担当者として、ビデオゲームの制作に関わったことがある人物を探していると述べている。リファイナリー29は現在、イコで配信する番組を4つ制作している。その1つは、人々がどのように金を使うかを1週間にわたって追跡する「マネー・ダイアリーズ(Money Diaries)」を脚色したものだ。

リファイナリー29はイコから得られる制作費と広告収入だけでなく、プラットフォーム以外でもイコの番組から利益を得るチャンスを見いだしている。イコは筋書きごとのパフォーマンスに関するデータを共有している。どの筋書きがもっとも選ばれているか、エピソードが最後まで見られる確率がもっとも高いのはどの進路かといったデータだ。イコでの番組配信がはじまれば、リファイナリー29はこうしたインサイトから、イコの視聴者にもっとも受けている筋書きを判断できる。そして、それをもとに、双方向性のないエピソードをつくり上げ、自社で所有、運営するプロパティやFacebook、YouTubeなどのプラットフォームで配信できるほか、複数のエピソードをパッケージ化し、ストリーミングサービスに放映権を販売できる。

「成長すると思う」

パブリッシャーがほかのチャンスに利用できるのはイコの番組だけではない。もしイコとNetflix以外のストリーミングサービスが双方向番組の配信を検討すれば、番組制作の経験を生かすこともできる。FBEはすでに準備をはじめている。双方向番組の制作を専門とするインタラクティブ・コンテンツ・ラボ(Interactive Content Lab)を立ち上げたのだ。エグゼクティブプロデューサーに指名されたデーン・ライリー氏のもと、チームメンバーとして12人を雇用する予定だ。

リファイナリー29にもオリジナル番組チームがあり、テレビネットワークやストリーミングサービスに販売できる長尺番組を制作している。今後の制作に役立つ専門知識を磨くため、イコの番組も扱っている。エメリッヒ氏は「(双方向動画市場は)成長すると思う。我々は最前線にいなければならない」と述べている。

Tim Peterson(原文 / 訳:ガリレオ)