今年3月にFacebookのCEOマーク・ザッカーバーグ氏が、Facebookをよりプライバシーを重視した空間にしていくと発表した。これは昨年大きな問題となったケンブリッジ・アナリティカ(Cambridge Analyt […]
今年3月にFacebookのCEOマーク・ザッカーバーグ氏が、Facebookをよりプライバシーを重視した空間にしていくと発表した。これは昨年大きな問題となったケンブリッジ・アナリティカ(Cambridge Analytica)によるFacebookの個人情報の不正利用スキャンダルと、その後の追求を受ける形で発表されたものだ。この発表が行われた頃、あるパブリッシャー役員は、同社のこの新戦略に関して、Facebookの社員と話をする機会があったという。たとえば、Facebookグループのようなプライベートな空間に同戦略がどう影響するかなど、パブリッシャーへの影響について話を聞いたというのだ。「それ以外はいつもどおりの取引だった」と同役員は語る。実際パブリッシャー各社とも、ザッカーバーグ氏の発表後もFacebookに特に変わった様子は見られないと、口を揃えている。
Facebookのプライベート化が具体的にどのような影響をもたらすかについて、パブリッシャーはいまだ詳細を伝えられていない。「Facebookがどう方向性を変えて何が変わるのか、時間が経つまでわからなそうだ」と、別のパブリッシャー役員はこぼす。
Facebookがこうして情報を共有しないのは、特に今回に限ったことではない。だが、こういった不透明な状況にパブリッシャー各社が警戒感を見せていないのは印象的だ。パブリッシャーが落ち着いている一因は、Facebookがこれまで何度も方針転換を繰り返してきたことにある。特にニュースフィードの方針転換はパブリッシャーに衝撃を与えた。それ以外にも、個人情報に関する法規制が差し迫っていることも要因となっている。「Facebookが舞台裏で何をするかしないかで気をもむようなことはない」と、冒頭のパブリッシャー役員は語る。
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「切迫はしていない」
Facebookの戦略変更は、なにも最近はじまったことではない。今回のプライベート化以外にも動画、ライブ配信、そして普通の動画と、同社は方針転換を繰り返してきた。以前のFacebookは、パブリッシャーの事業に絶大な影響力を及ぼしていた。Facebookが方針転換を伝えた時点で、パブリッシャーは結果を考える余地なしに付いていかざるを得ないような状態だったのだ。だが、いまは違う。
Facebookが2018年1月に行ったアルゴリズムの変更によって、ニュースフィード上でパブリッシャーのコンテンツの優先度が下がった。あるパブリッシャー役員はこれを「Facebookのパブリッシャー離れ」と表現している。そして、このあおりをもろに受ける形でリトルシングス(LittleThings)がつぶれたのを目の当たりにし、パブリッシャーはFacebookへの依存リスクをはっきりと認識するようになったのだ。リトルシングスの元コンテンツ獲得ディレクターで、現在はデジタルトレンズ(Digital Trends)のオーディエンス開発ディレクターを務めるポール・ドゥセット氏は次のように語る。「結局のところ、Facebookが何をするのかは分からない。彼らには彼らの事業が、我々には我々の事業がある。パブリッシャーが大丈夫なように気を使うのは、Facebookの仕事ではない」。
パブリッシャーがFacebook以外の選択肢へと多様化を進めていることで、同社の今回のプライベート化への方針転換の影響が小さくなっているのだ。「切迫した状況ではない。現段階での健全な戦略は、収益源とオーディエンス開発をさらに多様化させることにあるからだ」と、前述のパブリッシャー役員は語る。
さらにいえば、以前Facebookがニュースフィードのアルゴリズムを更新したおかげで、パブリッシャーは今回のようなFacebookの方針転換への備えができていたといえる。
「ニュースフィードの変更があったことで、今回の方針転換の半年や1年前から多くのパブリッシャーが準備を行ってきた」と、BuzzFeedで広告戦略およびパートナーシップ担当シニアバイスプレジデントを務めるケン・ブロム氏指摘する。「Facebookグループなどについても考え出したのは、その頃だ」。
Facebookグループへの移行
Facebookはニュースフィードからパブリッシャーコンテンツを減らした一方で、Facebookグループを利用するパブリッシャーを増やすよう取り組んできた。Facebookグループは同プラットフォーム上で人脈をより確固たるものにするためのツールとなっており、Facebookもパブリッシャーに対してグループを利用するよう推奨してきた。
前述のパブリッシャー役員によれば、Facebookが2017年8月に動画プラットフォームのFacebook Watch(ウォッチ)をローンチしたとき、同社はパブリッシャーに対してWatchの番組に関連するグループの作成を推奨していたという。番組についてオーディエンスが語り合える場を作ることで、視聴者をさらに呼び込むことが目的だ。だが、パブリッシャーはWatchの番組用にグループを立ち上げはしたものの、昨年のアルゴリズム更新まで積極的に活用することはなかった。そして、それから1年が経過したいまでも、複数のパブリッシャーがグループはまだ実験段階だと語っている。
「(Facebookグループが)ものすごい数のエンゲージメントを生み出しているのを見たことがない。大手パブリッシャー(のFacebookグループ)ですら、Facebook(本体)ほど影響力は大きくないのだ」と、冒頭の役員は明かす。
ウィーク(The Week)もまたグループを実験的に運用しているパブリッシャーで、今後も使い続ける予定だが大きな影響は見られない。「グループは読者とFacebook上で交流する面白い方法だとは思ったが、大きな力を持つだろうと考えたことはなかった」と、TheWeek.comの編集長、ニコ・ローリセラ氏は語る。
BuzzFeedはグループである程度の成功を収めている。同社の食品ブランドのテイスティ(Tasty)は本記事の執筆時点で4万9000人のメンバーを集めている。テイスティはFacebook上で1億人がフォローしており、グループのメンバー数はそれと比べれば微々たるものだ。だが、ブロム氏はFacebookグループはフォーカスグループとして活用できると指摘する。たとえば、テイスティが調理器具の販売を開始するにあたって検討すべき商品や、エディトリアルやブランドコンテンツに関するフィードバックを募集する場として優れているというのだ。「Facebookのプライベート化によって、細分化された小規模なFacebookグループへの移行がさらに進むのではないか。それは同時に、よりはっきりとした意図をもってエンゲージメントの高いオーディエンスにアプローチできるということでもあり、そういった点はパブリッシャーにとってもメリットなはずだ」と、同氏は語る。
個人情報に関するより差し迫った懸念
パブリッシャー各社は、今後もグループの活用を続けていく見込みだ。グループは、Facebookが発表したプライベート化のコンセプトに沿ったサービスでもある。だが、パブリッシャーは今回の方針転換への対応手順をFacebookから通達されるのをただ息を潜めて待っているわけではない。プライバシー関連のより具体的な懸念があるためだ。
「ニュース系パブリッシャーに現時点で個人情報関連の懸念を挙げさせても、Facebookのプライベート化はトップ10にすら入らないだろう」と指摘するのが新聞業界団体のニュースメディア・アライアンス(News Media Alliance)でプレジデント兼CEOを務めるデビッド・チェイバーン氏だ。
多くのパブリッシャーにとって懸念事項となっているのが、2020年1月1日からカリフォルニア消費者プライバシー法(California Consumer Privacy Act: CCPA)だ。上述のパブリッシャー役員は「今年末までに準備しなければならない。昨年のGDPRと同レベルの優先事項だ」と語る。さらにGDPRに関しても、欧州当局が違反への措置を強めるなかでパブリッシャーはいまだ対応に追われているのが現状だ。また、AppleとGoogleは自社製ブラウザで個人情報関連のアップデートを実施した。これもターゲティングや広告効果の測定に関するクッキー使用が制限されるほか、ペイウォールの回避につながるようなプライベートブラウジング機能も搭載されており、パブリッシャーの広告やサブスク事業に影響を及ぼすと懸念されている。
パブリッシャーがこれらの個人情報関連の対策を完了する頃には、おそらくFacebookの今回の方針転換についての詳細とパブリッシャーへの影響もより明らかになっているだろう。冒頭のパブリッシャー役員もまた「半年後にまた連絡してくれれば良い」と語っている。
Tim Peterson(原文 / 訳:SI Japan)