いよいよ盛り上がるライブ動画には、課題も多い。たとえばマネタイズだ。どのプラットフォームでもクリエイターの収益化機会がほとんどない。そんななか、「LINE LIVE(ラインライブ)」がユナイテッド運営のモバイル向け動画広告プラットフォーム「VidSpot(ビッドスポット)」と提携し、風穴を開けた。
ライブ動画がいよいよ盛り上がっている。いまや誰でもスマートフォンひとつで、簡単にライブ配信を行えるようになったからだ。プラットフォームによっては、ライブ動画専門のインフルエンサーも存在する。
その一方、課題も残されている。特に大きな問題のひとつがマネタイズだ。どのプラットフォームでも、パブリッシャーやインフルエンサーなど、ライブ配信を行うクリエイターの収益化機会がほとんど存在しない。このような状況が長引けば、せっかく芽吹いた文化も、持続性を保てず、尻すぼみになってしまう可能性がある。
そんななか、風穴を開けたのが、LINEが運営する「LINE LIVE(ラインライブ)」だ。9月下旬より提供がはじまった「LIVE Video Ads(ライブビデオアズ)」で、ライブ動画向けプレロール広告の配信を可能にした。その優先的な広告配信パートナーとなったのが、ユナイテッド株式会社が運営するモバイル向け動画広告プラットフォーム「VidSpot(ビッドスポット)」である。

左から、LINEの菊地氏、遠藤氏、ユナイテッドの岡部氏
「ライブ動画の広告マネタイズはまさにこれからだ」と、ユナイテッド アドプラットフォーム事業本部 VideoAd事業部 事業部長の岡部健二氏は語る。「そもそも動画広告の需要が本格的に増えたのが去年くらい。そこで、我々も本腰を入れるため、今年の3月にVidSpotを立ち上げた。LINE様よりお声がけいただいたのは、その矢先だった」。
本記事では、ユナイテッド/VidSpotの岡部氏に加え、LINE LIVE事業全体を統括するLINEエンターテイメント事業部 副事業部長の遠藤孝暢氏、同事業部でLINE LIVEにおける動画広告のチームでマネージャーを務める菊地敦郎氏に、今回の提携の背景について話を伺い、なぜユナイテッドのVidSpotが選ばれたのかを探る。
マネタイズを意識した成長フェーズへ
LINE LIVEがローンチしたのは、2015年12月。「サービス開始から2年近くが経ち、ライブ配信の特性である『その場でしか見られない、コンテンツの共体験』という点と、LINEの特性であるプッシュ通知等のリアルタイム性が相まって、現在、MAU(月間利用者数)は2800万人を超えるプラットフォームに成長している」と、LINEの遠藤氏は説明する。
LINE LIVEの利用ユーザーは、6割が女性で、半数近くが24歳以下。「トレンドセッターが流行を先取りし、認知が一般化して、今後は年代層も広がっていくことが考えられる。認知拡大のカギは、スマホならではのライブ配信の特性を生かしたコンテンツづくりにある」と、遠藤氏は分析した。
LINE LIVEの動画広告を具体的にリリースしようと、LINEが決めたのは今年に入ってから。事業自体は投資フェーズから、よりマネタイズを意識した成長フェーズに入り、サービスのアップデートもクイックに行っていきたい状況だった。
クレイジーな要求と提案
今回の提携パートナー選びの経緯について、LINEの菊地氏は「もっともスピード感があって、効率的な動きをするパートナーがユナイテッドだった」と振り返る。
それまでもブログ事業などを通じて関係があった両社だが、「クリエイターに利益を還元するための原資を生みたい」「スピーディに市場にリリースしたい」と考えるLINE側の要求は、用意された時間を考えるとあまりに高度で、発注側の菊地氏から見ても「クレイジー」な内容だったという。それに対して、「クレイジーな提案を返した」のがユナイテッドだった。
「お声がけいただいて、初回からパートナーを組むつもりで提案をした」と、岡部氏は当時を述懐する。「あらためて、ユーザーとしてLINE LIVEに触れ、『自分がユーザーだったらどんな広告がよいか』を考え、かつ『事業として収益を上げていくためのバランスをいかに両立させるか』に腐心した」。

「ライブ動画向けの広告では、コミュニケーションが鍵となる」と岡部氏
VidSpotが秘める可能性
もちろん、スピード感をもってサービスをリリースできるだけの優位性を、すでにVidSpotが持っていたことも事実だ。「ユナイテッドでは、2011年からプログラマティック広告を手がけており、SSP『adstir』とDSP『Bypass』のパートナーとの連携による基盤に加え、運用ノウハウや広告配信アルゴリズム、さまざまな広告フォーマットへの対応ノウハウなどがあった。だから、3月のVidSpot立ち上げのタイミングでは、すでに一定の広告在庫が持てた」と、岡部氏は説明する。
しかし、LINE LIVEとVidSpotの連携に関しては「正味、1カ月くらいのスケジュール」で進めたため、苦労も多かったようだ。特に、VidSpotにおいてインストリーム広告でのプレロール表示のフォーマットは、初の事例だった。
そこは、LINE LIVE側とのコミュニケーションにより、問題点を解消しながら開発を進めたと、岡部氏は語る。そのうえで、「提携リリース後は、出来る限り、ナショナルクライアントを中心としたブランド広告を配信していきたい」と、抱負を延べた。
ライブ配信に適した広告
「実際に広告配信がはじまったら、我々の想定しないような広告コンテンツの楽しみ方が増えていくだろう」と、LINEの菊地氏は予測する。「LINE LIVEはユーザーも配信者も若年層が多い。よく、ユーザーは広告をノイズとして排除したがるといわれるが、個人的な感覚としては、若年層は、それが広告なのかコンテンツなのか、それほど境界を意識していない」。

「ライブ動画では予想外の広告コンテンツの楽しみ方がされると思う」と菊地氏
ちなみに、LINEの遠藤氏によると、LINE LIVEのライブ配信で人気のジャンルは、「日々の出来事などをおしゃべりしているコンテンツ」。ユーザー属性も「LINEのユーザーをそのままLINE LIVEにシフトさせている印象」だ。また、影響力のある配信者は、ファンとのコミュニケーションを非常に大事にする傾向があるという。
「『ねお』さんという有名なインフルエンサーがいる。彼女は毎日、ライブ配信中にコメントをくれる人の名前を呼びかけている」と、遠藤氏は教えてくれた。「こうしたコミュニケーションにより、視聴者側も、よりコンテンツに対する没入感が増す。このような双方向性が一方的な動画配信とは違うライブの特性だ」。
それに対して岡部氏は、「ライブ動画広告は配信者と視聴者のコミュニケーション、VidSpotを通して、その関係性に広告を挟むことで、我々が思いもしない『何か』が生まれる可能性がある」と、付け加える。「クリエイティブの鍵を握るのは、コミュニケーションだ」。
ライブならではの懸念も解消
「今回の提携について広告主、代理店とも、感度高く見ている」と、岡部氏は述べる。「LINE LIVEのように若年層のユーザーに圧倒的な支持のあるメディアは、特に若年層をターゲットにした飲料やお菓子などの企業からの期待値が非常に高い」。
一方、VidSpotではブランドセーフティの面から、「どういう形式で、LINE LIVEに広告を出すか」も工夫しているという。具体的には、動画のジャンルだけでなく、オフィシャル配信者と一般配信者など、広告主が配信先を選べるようにした。また、ライブ動画に出すか、アーカイブ動画に出すかというセグメント設定も可能だという。
こうした、VidSpotで実現した機能面を通して、安心感を醸成し、広告主にブランドセーフティの考えを伝えていくという。
両社提携の先にあるもの
LINE LIVEとVidSpotとの提携の今後について、LINEの遠藤氏は、「まずは年内をメドに、ライブプラットフォームとして確固たる地位を確立したい」と抱負を述べる。そのために、配信者の方が退屈しないような機能提供が必要だという。
たとえばそれは、コミュニケーションをより促進させる多元放送や、コミュニケーションからアクションへ結びつく商品売買のような仕掛けだ。これによりエンゲージメントが高まり、滞在時間を延ばし、広告インプレッションも伸ばすことができる。「そういう方向性をめざすことで、配信者にもメリットがあり、広告主にとってもブランディングに寄与するようなプラットフォームになる」。

「配信者・広告主、両方にメリットのあるプラットフォームにしたい」と遠藤氏
そして、LINEの菊地氏は「幕間」に広告を使う表現手法もあると述べる。「たとえば、配信者が好きなタイミングで、自由にミッドロールの広告を表示させられるようなボタンの実装などだ。ライブ中継にひと息入れるときに『一旦CMです』のような間合いを入れることで、視聴者側にも広告を楽しんでもらえると思う」と述べた。
最後にユナイテッドの岡部氏は、「ライブ動画コンテンツに広告を出すこと自体、新しい取組みだ」と語る。そのうえで、「視聴者と配信者のコミュニケーションに広告を出すことで、どんなエンゲージメント効果があるか期待したい」と締めくくった。
Written by 阿部欽一
Photo by 今村拓馬