本記事はYouTubeと電通、DIGIDAY[日本版]のコラボレーション企画である。鼎談参加者はGoogleのYouTubeプロダクトマーケティングマネージャー 中村全信氏、電通のコンサルティング・ディレクター 小西圭介氏、そして、DIGIDAY[日本版]プロデューサー 谷古宇浩司だ。
スマートフォンの普及が生活者のコンテンツ体験を劇的に変えたのは周知の通りだが、その変化を仔細に見ていくと、実は「コンテンツフォーマットの多様化」という要素が意外に重要なことに気づく。つまり、テキストと画像が中心だったデジタルコンテンツフォーマットの、動画フォーマットへの移行である。
生活者におけるコンテンツの(消費)環境およびコンテンツフォーマットの変容は、企業のマーケティング戦略に否応なく変化を迫る。鼎談を通じて三者は、プラットフォーム、エージェンシー、メディアそれぞれの立場で、動画マーケティングを巡る変化の状況を整理する。
本記事はYouTubeと電通、DIGIDAY[日本版]のコラボレーション企画である。鼎談参加者はGoogleのYouTubeプロダクトマーケティングマネージャー 中村全信氏(写真中央)、電通のコンサルティング・ディレクター 小西圭介氏(写真左)、そして、DIGIDAY[日本版]プロデューサー 谷古宇浩司(写真右)だ。スマートフォンの普及が生活者のコンテンツ体験を劇的に変えたのは周知の通りだが、その変化を仔細に見ていくと、実は「コンテンツフォーマットの多様化」という要素が意外に重要なことに気づく。つまり、テキストと画像が中心だったデジタルコンテンツフォーマットの、動画フォーマットへの移行である。
生活者におけるコンテンツの(消費)環境およびコンテンツフォーマットの変容は、企業のマーケティング戦略に否応なく変化を迫る。鼎談を通じて三者は、プラットフォーム、エージェンシー、メディアそれぞれの立場で、動画マーケティングを巡る変化の状況を整理する。
このインタビューの模様は、「電通報」でもお読みいただけます。
Advertisement
◆ ◆ ◆
マイクロモーメント:生活者の意図に近づく
谷古宇:スマートフォンが普及する前と後では、動画の視聴環境が大きく変化しています。中村さんはその変化をどのように捉えていらっしゃいますか?
中村:スマホのYouTube視聴は目に見えて増加しており、現在日本では全体の約65%がスマホを含むモバイルデバイスからとなっています。この伸びの背景には、通勤や通学時など、これまで動画をみることができなかった状況でもスマートフォンがあれば視聴可能になった、という視聴環境の変化が影響しているのだと思います。YouTube視聴のモバイルシフトは今後ますます進んでいくと考えています。
小西:スマートフォンがテレビに替わる“ファーストスクリーン”となった今、視聴者が手に入れたのは「自由」だと思います。
谷古宇:「自由」ですか?
小西:はい。スマートフォンが普及する前は、生活者が情報収集をする時間帯というと、テレビのゴールデンタイムがメインでしたが、いまはスマートフォンによって、通勤・通学時間といったスキマ時間も情報収集に当てられるようになりました。つまり、自分の欲するときが「いつでもゴールデンタイム」化したわけです。生活者の一連の行動をマーケター的に「顧客時間」と考えると、スキマ時間には大きなビジネスチャンスがあると言えます。つまり、数秒、数分という断片的な時間に、マーケティング的な希少価値が生じ始めたということです。
谷古宇:そうですね。特に15~19歳までのユーザーは、布団に入ってからスマートフォンを使う傾向が強いというデータがあります。これはつまり、従来、生活者が市場にアクセスしていなかった時間帯/場所の“市場化”を意味します。企業にとっては、若い世代の情報消費/購買動向をいかにキャッチしていくかがますます重要になってくるように思います。
小西:若い世代にとって、動画共有サイトの視聴内容を見ても、テレビのコンテンツ自体の需要は依然高いように思いますが、ブランドのファンや消費ターゲットをキャッチするデバイスとして(テレビを)見ると、物理的にアクセス回数が多いスマートフォンの方が適していると思います。つまり、マーケティングサイドでは、スマートフォンで動画を視聴する生活者に向けた独自のメディアプランニングが必要になってくるわけです。
中村:今までは「暇な時に見る」という動機が強かったのが、目的を持った視聴へと変わってきているというのも大きな変化だと思います。スマートフォンを使って調べ物をすることが日常化してきた現在、生活者は「何かを知りたい、見たい」というマイクロモーメント、つまり具体的な目的を持ってコンテンツにアクセスするようになってきています。
生活者にとっては、瞬間的に沸き起こった欲求に合致するもの、生活者自身がその時、面白いと思うものであれば、必ずしもテレビのゴールデンタイムにやっているコンテンツでなくてもいいのです。それは例えば、クラスメイトと休み時間におしゃべりしている時の「話題の動画」だったり、寝る前にスマホでチェックする「気になっていた番組」だったりします。
スマホの普及によって、コンテンツの視聴のされ方だけではなく、求められるコンテンツも変わってきているのが現状ですね。また、広告の効果を高めるためにも広告の配信先であるコンテンツを選別することも大事です。(現在でも)日本ではデモグラフィックでターゲティングして広告配信するというのがメインだと思うのですが、海外ではパッケージ化した人気コンテンツ群をターゲティングして広告配信するケースが増えてきています。
単純に動画広告を広く届ける、リーチするということのその先に高い広告効果を獲得するという目標がある以上、視聴者の興味関心などの気持ち(意図)の部分まできちんとターゲティングすることが何より大切で、さらにその効果をしっかりと測定することで重要です。
谷古宇:従来型のメディア、例えば、新聞や雑誌、テレビ、ラジオなどでは年齢や性別、趣味・嗜好といったデモグラフィックデータで広告の配信先をターゲティングするしかありませんでした。配信された広告がターゲットに受容されたのかどうかを把握するのは非常に難しく、その効果を数値で計測することはさらにハードルが高かったわけですが、「スマホ+デジタルメディア」という新時代のチャネルにおいては、戦略設計の段階から数値ベースで議論ができるようになりました。
◆ ◆ ◆
YouTubeは世界で2番目の検索エンジンでもある。視聴の前に検索をかけて、自分が知りたいことを探している。つまり、検索という行動には、ユーザーの意図がこもっていると推測することが可能だ。意図をもって視聴するのだから、ユーザーはその動画にエンゲージメントしている、とみることもできる。このため、YouTubeはその高いエンゲージメントに対して、関連性の高い広告を打てるというのが、Googleの特徴だ。
Googleは「何かをしたい」という意図が生じたとき、すぐに目の前にあるデバイスを使って調べる・買うといった行動を起こす瞬間をMicro-Moments(マイクロモーメント)と定義し、この瞬間は、生活者が何かを決断したり、ブランドに対する好みを形成する大切な瞬間でもあると提唱している。生活者の手元には常にスマホがある。彼らはなんらかの意図、関心を持った時、スマホを通じてそれを達成しようとする。つまり、自分事化するのにふさわしい情報を探すことになるのだ(時に無意識に)。マイクロモーメントとは生活者にとっての「その瞬間」を指す概念である。
人には「知りたい(Know)」「行きたい(Go)」「したい(Do)」「買いたい(Buy)」という4つの意図が発せられる瞬間がある。これらの意図をリアルタイムにとらえるには、文脈(Context)と即時性(Immediacy)を把握することが重要だ。つまり、生活者が起こすアクションのすぐ近くにあり、とても便利で、素早くできそうなことを、マーケターサイドが提供することが重要だとGoogleは考えている。
◆ ◆ ◆
検索、視聴者参加……。エンゲージメント中心のコミュニケーション
谷古宇:チュートリアル(ノウハウ)型、視聴者参加型など、生活者が積極的な意欲を持って接する種類のコンテンツが動画共有サイトには多い印象があります。実際、目的志向でYouTubeの動画を検索する生活者は増えているのでしょうか。
中村:YouTubeで検索をするユーザーはとても多く、「YouTubeは世界で2番目に規模の大きな検索エンジン」と言われています。これはアメリカのデータなのですが、81%の母親がハウツー動画、つまり育児や洗濯などの方法を調べるのにYouTubeを利用しているそうです。「何かをしたい」と思った時には、テキストを読むよりも動画で見た方が分かりやすい。動画を実際に見ている人がいるのであれば、マーケターとしてはその事実をマーケティングにどう生かすべきかを考えるべきだと思います。
小西:タイムラインに流れてくる動画などと比べると、検索で見られることの多いYouTubeは目的視聴性が高いことで、実際の視聴時間やエンゲージメントが高いというデータもありますね。スマホが普及したことで、検索面でも目に見えた変化が出てきているのでしょうか?
中村:Google全体で見ると、モバイルからの検索がパソコンの検索を超えている国は世界に10カ国あるのですが、日本もそのうちのひとつです。検索ツールとしてYouTubeを利用するユーザーがいるということは、マーケティング目線でそれを見越したアプローチを考えるのも有効ではないでしょうか。
小西:これまでのデジタルの広告というのは比較的、販促プロモーションの手段として使われていましたが、その中でも動画マーケティングというのがここ1~2年くらいはブランディング目的へシフトしていて、実際に大きな役割を担うようになってきました。テレビという映像メディアが今まではブランディングの中心にありましたが、YouTubeなどのオンラインの動画メディアが従来のメディアとの関係の中でどう機能していくかについて、今のマーケターはすごく考えていて、まさに試行錯誤の段階にあるのではないかな、と思います。
◆ ◆ ◆
テレビCMの基本的な尺(放映時間)は、日本では15秒、米国では30秒と定められているが、デジタル動画には制約がない。「尺の制約」は、テレビとデジタルメディアの性質を分ける大きな存在となっている。マーケターサイドの視点から見ると、長尺は一般的にブランドストーリーを語るのに最適な条件だと言える。
CHANELは2分32秒にわたってマリリンモンローの映像をふんだんに使い、深いブランド体験を提供することに役立てている。同社の動画にはファッションショーの舞台裏を描いたストーリーなど十数分を超すものすらある。このような手法は、CHANELのようにマスのリーチを必要としない高級ブランドに最適だ。
メディアの断片化が進んだ現在、テレビとデジタル動画をシームレスに運用することが検討されている。両者のリーチを補い合うことで、よりマーケティングの効果を高めようとするためだ。
だが、両者の間には共通した指標が存在しないため、効果測定が困難だ。テレビはGRP(延べ視聴率)を“通貨”とし、デジタルメディアはインプレッションを“通貨”とする。両メディアをつなげる指標を必要とする指摘もある。
◆ ◆ ◆
情報を「プッシュする」のではなく、クリエイターを介して生活者にメッセージを届ける
小西:動画の場合だと、再生回数などの「数字」が分かりやすい指標として求められがちですが、話題になった動画でも実際には短期間に消費されて忘れられるものが多い。ブランディングの視点から考えると、視聴者の記憶に残るもの(ストック)を作れなければ成功とはいえないと思います。たとえばYouTubeでは視聴者参加型の動画や、YouTuberのようなクリエイターを介して拡散した動画が数多くヒットしていますが、視聴数だけでなく「ファンとの関係を築く」という意味では、非常に有効な方法ですよね。
中村:そうですね、「2015 年下半期に話題になった YouTube の動画広告」でも紹介しているのですが、江崎グリコの「シェアハピ ダンスコンテスト」という企画では、三代目J Soul Brothersの踊っている動画のみならず、お手本用のチュートリアル動画、そして参加者が実際に踊ってみて同行した動画の視聴回数もかなり伸びていました。
また、ユーチューバーについては、ファンとのエンゲージメントの深さに驚かされます。昨年11月にYouTube FanFestというファンイベントを開催したときも、ファンの皆さんが物凄く熱狂していて、涙を流している方もいたほどです。そういったライブ会場の中での熱狂も、エンゲージメントの証しだと思います。そしてGoogleでは、動画へのユーザーのレスポンスが多い動画を「プレミアムコンテンツ」と考えており、視聴時間が長かったり、繰り返し見られていたり、数多くシェアされたり、高い評価やコメントが付けられたりといったユーザーのアクションが重要な指標だと考えています。
谷古宇:視聴者にとっては動画の内容もさることながら、評価やコメントでどういう人がどう感じているコンテンツなのか、という「文脈」の方が重要である場合も多いと思います。というのも、生活者が接するチャネルの種類と数はいまや数えきれず、そんなチャネルを通じて彼らが接する情報の量は膨大です。それぞれの情報は、配信者側からすれば、意味付けをしてリリースするわけですが、受け手は配信者のメッセージを正確に受け取るわけではありません。複雑な流通機構を経由する過程で情報に付与されている意味は変質します。受け手は、例えば、まとめサイトやニュースアプリなどのキュレーターが設定した意味、つまり「文脈」に沿って、ある情報に接するかもしれません。実は、生活者が接する情報の本質は、流通過程で生じた「文脈」なのかもしれません。
中村:そういう意味では、企業の皆様に参考にしていただきたいのが、ファンが多いユーチューバーほど、「視聴者がその動画にどんなコメントをつけてソーシャルメディアで共有するか」というところまで意識して動画を制作しているということです。
小西:そう、映像を制作するとき、従来の一方的に放送するメディアではコンテンツのクオリティにばかり目が行きがちでしたが、コンテンツには「会話のネタ」としての役割もあるので、そのコンテンツがユーザー同士の会話のきっかけになることも重要な価値ですよね。ブランディングの観点からも、イメージ形成からユーザーとのエンゲージメント形成のためのコンテンツ制作・共有の発想転換が必要になってくる。
中村:多額の予算をかけて制作したコンテンツでなくとも、個人のクリエイターがファンを獲得しているというのが、YouTubeの強みと言えます。例えば、原宿ファッション文化を発信する人気ユーチューバーのくまみきさんの場合、彼女がDIYで何かを作った動画を見て、数時間後には「くまみきさんの動画を参考にして自分も作ってみました」という動画をアップするファンが出てきています。
そうなることで、「クリエイターがやったことがさらに再プロデュースされて広がっていく」ということになる。そういった熱狂的なファンを持つユーチューバーが非常に増えてきていて、YouTubeとしても「好きなことで、生きていく」というキャンペーンを展開し、クリエイターとファンの交流を支援しています。
また、ファンのエンゲージメントレベルが高い人気ユーチューバーのチャンネルは、コンテンツの前に挿入される動画広告にも好意的に反応するケースが多いというデータがあり、YouTube内でおける広告在庫の中でも広告想起やブランド認知度の獲得においては高い効果を見込める、非常に効果的なチャンネルとなっています。今後もYouTubeとしてこういったデータやインサイトを提供しながら、みなさまと一緒にマーケティングにおける動画活用の成功事例を作っていきたいと思っています。
(おわり)