[ DIGIDAY+ 限定記事 ]コネクテッドTVの台頭は多くの点で従来のテレビ業界を一変させている。テレビ業界はコネクテッドTVに視聴者を吸い上げられ、広告収入を奪われる脅威にさらされている。しかし、それだけではない。テレビネットワークが従来の有料テレビプロバイダーと結んでいる配信契約をコネクテッドTVが混乱させる可能性もある。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]テレビネットワークへの警告:コネクテッドTVプラットフォームにOTT広告インベントリー(在庫)を無償提供している場合、ケーブルテレビや衛星テレビのプロバイダーにつけ込まれ、従来型テレビ広告インベントリーの取り分を強引に増やされる可能性がある。
主なポイント:
- Amazonとロク(Roku)は通常、コネクテッドTVプラットフォームのコンテンツを視聴できるOTTアプリに対し、広告インプレッションの30%を販売用に提供するよう求める。
- テレビネットワークは通常、ケーブルテレビ、衛星テレビプロバイダーとの配信契約で、広告インベントリーの12.5%を有料テレビプロバイダーに提供している。
- 有料テレビプロバイダーはテレビネットワークにキャリッジ料(配信費)を支払うが、Amazonとロクは支払っていない。
- テレビネットワークと有料テレビプロバイダーの契約には「最恵国待遇(most favored nation)」条項が含まれる。ネットワークがすべてのプロバイダーに同等の条件を提示することなく、特定のプロバイダーに有利な条件を提示することを制限する条項だ。
- 有料テレビプロバイダーが最恵国待遇条項を引き合いに出し、従来型テレビ広告インベントリーの取り分をコネクテッドTVプラットフォームと同等まで増やすよう求めてくる可能性がある。
- 一部のテレビネットワークは、コネクテッドTVプラットフォームのインベントリー要求を突き返すことで問題に対処し、広告インベントリーの一部を販売するよう提案している。
コネクテッドTVの台頭は多くの点で従来のテレビ業界を一変させている。テレビ業界はコネクテッドTVに視聴者を吸い上げられ、広告収入を奪われる脅威にさらされている。しかし、それだけではない。テレビネットワークが従来の有料テレビプロバイダーと結んでいる配信契約をコネクテッドTVが混乱させる可能性もある。テレビネットワークがコネクテッドTVプラットフォームにOTT広告インベントリーを分配する方法にグレーゾーンがあり、その結果、有料テレビプロバイダーが広告インベントリーの取り分を増やすよう求めてくる恐れがあるのだ。
テレビネットワークの懸念
フォレスター・リサーチ(Forrester Research)のプリンシパルアナリスト、ジム・ネイル氏によれば、この問題に対する認識は「限りなくゼロに近い」という。ただし、有料テレビプロバイダーが契約者の減少を穴埋めするため、アドレサブルTV広告事業を構築しているいま、テレビネットワークと有料テレビプロバイダーの配信契約が更新されるタイミングで、この問題も注目を集める可能性が高い。
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テレビネットワークとケーブルテレビ、衛星テレビプロバイダーの配信契約は比較的単純だ。プロバイダーがネットワークに契約者1人当たり一定の金額を支払い、自社の有料テレビサービスでネットワークの番組を放送。一方、ネットワークはプロバイダーに広告インベントリーの一部を提供し、プロバイダーはそれを販売することで、キャリッジ料の一部を捻出する。
ただし、このような配信契約には「最恵国待遇」条項が含まれる。この条項はもともと、テレビネットワークがほかのプロバイダーに同じ条件を提示せず、より低いキャリッジ料のような異なる条件に同意することを防ぐためのものだ。しかし、この条項が現在、コネクテッドTVプラットフォームでコンテンツを配信するテレビネットワークの心配のタネになりはじめている。コネクテッドTVプラットフォームには独自の条件があり、それがネットワークとプロバイダーの配信契約に違反する可能性があるためだ。
「見事なグレーゾーン」
問題となっているのは、AmazonとロクがコネクテッドTVプラットフォームのコンテンツを視聴できる広告付きアプリに対し、広告インプレッションの30%を販売用に提供するよう求めながら、広告収入の一部をアプリ所有者に支払わないという事実だ。ネットワークとプロバイダーの配信契約では通常、プロバイダーがネットワークに従来型テレビとオンデマンド動画の広告インベントリーの12.5%(または、ネットワークが1時間に流す広告16分のうち2分)を要求する。しかも、 Amazonとロクは有料テレビプロバイダーと異なり、キャリッジ料を支払っていない。
これらの違いが提起しているのは、コネクテッドTVの配信契約は最恵国待遇条項の対象かどうかという疑問だ。さらに、この疑問が、テレビネットワークは有料テレビプロバイダーにコネクテットTVプラットフォームと同等の広告インベントリーを提供すべきかどうかという疑問を提起している。
コネクテッドTVの広告インベントリーに関する条件が最恵国待遇条項に違反するかどうかはまだわからない。OTTアプリ経由で配信するコンテンツに有料テレビプロバイダーとの契約は適用されないと、テレビネットワークが主張する可能性もある。しかし、すべてではないにせよ、大部分のコンテンツが、ネットワークの従来型テレビチャンネルで放送される番組と重複しているため、有料テレビプロバイダーは適用されると主張するかもしれない。「これは見事なグレーゾーンであり、間違いなく弁護士のあいだでも激しい議論になるだろう。契約書が作成されたときには存在しなかった問題だ」と、ネイル氏は話す。
コネクテッドTVの台頭
ネイル氏によれば、6カ月前でさえ、コネクテッドTVはテレビネットワークの重要な収入源と見なされておらず、有料テレビプロバイダーが注意を払うことはなかったという。しかし、状況は変わりはじめている。
テレビネットワークの幹部たちによれば、近年は配信契約の更新時期が来るたび、有料テレビプロバイダーからの広告インベントリーの要求が高まっているという。テレビ契約を解除する人が増えているため、プロバイダーは広告収入による穴埋めを画策しているのだ。その証拠に、AT&Tはアドバンスドアドバタイジング部門ザンドラ(Xandr)を新設し、ワーナーメディア(WarnerMedia)とアドテク企業アップネクサス(AppNexus)を買収した。
しかし、 有料TVプロバイダーがGoogleやFacebookと競争し、広告主の予算を勝ち取るには、1時間当たり2分の広告インベントリーでは不十分だ。だからこそチャーター(Charter)、コムキャスト(Comcast)、コックス(Cox)はアドレサブルTV広告事業を統合するためにNCCメディア(NCC Media)を立ち上げ、ザンドラはほかの有料TVプロバイダーとアドレサブルTV広告インベントリーの販売契約を結んでいるのだ。
業界そのものが崩壊する?
そして現在、有料テレビプロバイダーは、コネクテッドTVの広告インベントリーに関する条件を利用すれば、テレビネットワークからさらに広告インベントリーを引き出すことができると気付きはじめているようだ。あるテレビネットワーク幹部は「彼らが(コネクテッドTVプラットフォームの広告インベントリーに関する)要求に気付いていることを事実として認識している。彼らは(どのテレビネットワークがプラットフォームにインベントリーを提供しているかを)知りながら、静観している。まだ動く準備ができていないのかもしれない」と話す。
一部のテレビネットワークはすでに、コネクテッドTVプラットフォームの要求を突き返すことで先手を打とうとしている。Amazonやロクにとってテレビネットワークのアプリは重要性が高いため、プラットフォームから排除されることはないと予想し、広告インベントリーへのアクセスを拒否するという賭けに出ているのだ。プラットフォームとの関係を維持するため、彼らはAmazonやロクに対し、広告インベントリーを無償ではなく有償で提供することを提案している。そうすれば、有料テレビプロバイダーとの契約に違反することはないというのが幹部たちの考えだ。
それでも、有料テレビプロバイダーの広告事業が拡大し、配信契約の更新時期が来れば、プロバイダーはコネクテッドTVの条件を引き合いに出し、従来型テレビ広告インベントリーの取り分を増やそうとするだろう。そして、テレビネットワークの広告事業は苦境に陥るだろう。ただでさえ、テレビネットワークは従来型テレビの視聴率低下に直面し、広告事業が脅かされている。もし残された広告インベントリーの30%を有料テレビプロバイダーに譲ることになれば、「業界そのものが崩壊するだろう」と、前述のテレビネットワーク幹部は述べている。
Tim Peterson(原文 / 訳:ガリレオ)