メディアとマーケティングのエコシステムは、コンテクスチュアルターゲティングがこの先、広告費の主要な投入先として復活すると予測している。どの程度の額になるかは誰にも定かでないが、関係各社はすでにポジション争いを始めている。
メディアとマーケティングのエコシステムは、コンテクスチュアルターゲティングがこの先、広告費の主要な投入先として復活すると予測している。どの程度の額になるかは誰にも定かでないが、関係各社はすでにポジション争いを始めている。
コンテクスチュアルターゲティングは長らくベンダーの眼中になかったのだが、ここにきて再び注目を集めており、メディアバイヤーおよびパブリッシャーの受信トレイや予定表はすでにその件で溢れつつあると、バイとセル双方の情報筋は言う。
いわゆる「Always-on(常時接続)」広告バイイングシステムの洗練にこれまで大量の資金を投入し、今後もその維持に期待しているマーケター勢は、同構造の動力源であるオーディエンスおよび行動傾向の手がかりを知るための代役にコンテクスチュアルを立てる術を模索している。
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ただ、たとえ体制が完全に整ったとしても、サードパーティCookieが姿を消したのち、コンテクスチュアルターゲティングがどれほど大きな存在になるのかは、現段階では何とも言えない。コンテクスチュアルターゲティング界ではいまだ、バイヤーとセラーをシームレスに結びつけられる分類法が確立されていない。また、マーケターはサードパーティCookieと同様の道筋をつける試行を始めてはいるが、いまだ結果は出せていない。
そして、もしも揺り戻しが起き、取引に用いるいわば貨幣が変わったとしても、パブリッシャーは依然として、デジタルメディアにおける高効率と低コストを当然視するバイ側と交渉することになる。
「マーケターは、そしてエージェンシーも、今後も効率性を求めることになる」と、電通のデジタル投資部門EVP、ディーヴァ・ブロンソン氏は断言する。「我々のなかではすでに低価格が当たり前になっている。したがって、CPMに27ドル(約3000円)を支払うわけがない。どこも15ドル(約1700円)に慣れきっていることを考えれば、それはありえない」。
ターゲティングの振り子が戻る
コンテクスチュアルターゲティングは、もともと広告界のいわばメシの種だったのだが、プラットフォーム、データ供給業者、テック企業がこぞってオーディエンス/個人ベースのターゲティングという、主にサードパーティCookieを使う簡便なソリューションを広めたことで、その寵愛を失っていた。
だが、オーディエンスターゲティングの構造が根底から揺さぶられているいま、広告主はターゲティングの振り子が、少なくとも部分的には、再び戻ることになると見ている。今年度初頭にDIGIDAYリサーチがバイ側のプロ146社にアンケートを実施したところ、回答者のうち半数をやや上回る企業がオーディエンスターゲティングの屋台骨であるサードパーティCookieの終焉に備え、コンテクスチュアルターゲティングへの資金を増額していることがわかった。
そして、これは新たな動きも生んでいる。コムスコア(Comscore)やピア39(Peer39)、アドビ(Adobe)傘下のグレイプショット(Grapeshot)といった古株に加え、ダブルヴェリファイ(DoubleVerify)やインテグラル・アド・サイエンス(Integral Ad Science)といった数多くの新規組が、現在、独自のコンテクスチュアルツールの売り込みをかけている。3つのソリューションによる独占時代が長らく続いていたが、昨年だけで突然、新たに6つも登場したと、グループエム(GroupM)のプログラマティック部門グローバルマネージングパートナー、マックス・ジャフィ氏は言う。
関連ベンダーの攻勢に辟易する人々
早くも、その攻勢を迷惑に感じているパブリッシャーさえいる。「物理的にも、気持ち的にも、返事はできない」と、とあるチーフレベニューオフィサーはコンテクスチュアルツールを提供するベンダーのピッチについて言う。「文字どおり、削除キーを叩くだけだ」。
さらに、このピッチ攻勢が生むのは迷惑だけではない。大量の新規参入は、投じられる広告費の大半がパブリッシャーに直接行かず、いわゆるオープン市場に流れることを意味する。欲しいオーディエンスをいわばプライベートな市場に囲い込んでいるパブリッシャーは今後も広告主の関心を引ける一方、「全自動およびプログラマティックプラットフォーム勢の場合、コンテクスチュアルの割合が急増することになる」と、UMのチーフデジタル/グローバルブランドセーフティオフィサー、ジョシュア・ロウコック氏は言う。
今後、コンテクスチュアルターゲティングを再び取り入れる広告主が増えていけば、独自のファーストパーティデータの併用を武器にバイヤーに売り込みをかけるパブリッシャーも出てくるだろう。たとえば、キッチンの改装に関する記事を100万人が読んでいることは、パブリッシャーもベンダーも同じくバイヤーに伝えられるが、然るべきインフラを備えたパブリッシャーはさらに、その内20万人は地下室やバスルームの改装に関する記事も読んだ、という追加情報も伝えられる、というわけだ。
「パブリッシャーの価値は増している」
こうした情報/データによる武装強化は、オーディエンスに広告を的確に送る可能性を高めるとともに、まったく別の広告主を惹きつける力にもなりうる。「パブリッシャーが行なえる価値提案は以前よりも増している」とジャフィ氏。「価値提案に対し、自身のテックスタックの基盤をなす重要な一部として積極的に取り組むパブリッシャーには、一定の優位性がある」。
今後は、パブリッシャーがどんな類のセグメントを利用可能にしたいのか、そしてその存在を広告主にどうやって知らしめるのかが鍵となってくるだろう。「直接かプログラマティックかの話ではない」と、UMのインテグレーテッドインベストメント部門SVP/グループパートナーのモリー・シュルツ氏は、コンテクスチュアル広告費の使途について言う。「これはアクセスの話だ」。
[原文:Vendors jostle for position ahead of coming contextual pivot]
MAX WILLENS(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
ILLUSTRATION BY IVY LIU