X(旧Twitter)のリンダ・ヤッカリーノCEOが8月10日にCNBCと行なった包括的なインタビューから、同プラットフォームの一貫したテーマが明らかになった。
技術部門のリーダーが、謎めいた経営者イーロン・マスク氏のもとでのプラットフォームの行く末を明示しようとすればするほど、謎はより深まっていくようだ。ヤッカリーノ氏がビジネスの論点に言及するたびに、それは新たな懸念の連鎖を引き起こし、まるで終わりのない不確実性の嵐のようだった。
以下は、そのインタビューの主な内容である。
ブランドセーフティに関するヤッカリーノ氏の見解
X社におけるブランドセーフティに対する闘いは、コンテンツコントロールという難しい現在進行形の課題と絡みあっている。ほぼ1年前のマスク氏の買収まで遡ることができるが、ヤッカリーノ氏がそれほど重要ではないと明らかに否定しているにもかかわらず、この問題が広告主にとっての主要な懸念事項として根強く残っていることは注目に値する。
NBCユニバーサル(NBC Universal)で同社のソーシャルパートナーとして当時のTwitter社と仕事をした経験について、ヤッカリーノ氏は「ツイッターは安全で、いつもそこにいることに安心感があった」と述べている。言い換えれば、広告主が現在アプリで体験していることとは真逆の経験だ。
不適切なコンテンツが後を絶たず、ヘイトスピーチが急増し、陰謀論が助長され、Xのオーナーさえも認めている問題に直面しても、彼女はこのプラットフォームがブランドにとって安全な環境であるという考えを堅持している。「あらゆる客観的指標から見て、Xは1年前よりもはるかに健全で安全なプラットフォームと言える。買収以来、私たちはブランドセーフティとコンテンツモデレーションツールを構築した。投稿された内容の99.9%は健全であると自信を持って言える」。
しかし、CNBCのサラ・アイゼン氏による「X社は『健全』をどのように定義しているのか」と質問に、ヤッカリーノ氏は明確に答えなかった。ただ、同氏は「表現の自由の核心とは何なのかを忘れてはならない。私たちは健全な討論と議論を行いたい。その核となる表現の自由は、あなたが支持できない誰かが、あなたが同意しないことを言ったときにのみ、本当に存続する。そして、もし私たちが同意できない人々のあいだで健全で建設的な議論を行なうことができたなら、この世はなんと素晴らしい場所になるだろうか」と述べた。
また、「特定の人々にレッテルを貼ったり、善悪を決めたりすることは、あるべき姿ではない。私たちの個々の意見に反対する人たちもいる。それこそ、私たちがブランドセーフティに対する取り組みを強化している理由だ」としている。
彼女は、ヘイトスピーチを抑止し、排除する方法として導入された「拡散の自由ではなく、表現の自由」という方針について頻繁に言及した。「違法な投稿や法律に反する投稿は、ゼロトレランスで排除する。しかし、もっと重要なのは、合法的な投稿であっても、それがひどいものであれば、ラベリングされるということだ。ラベルを貼られ、拡散が抑制され、共有できなくなる」。
では、ブランドはどうだろうか? ヤッカリーノ氏は、「ブランドは有害な投稿と隣り合わせになるリスクから守られている。また、投稿が一度ラベリングされると共有できなくなることも非常に重要だ」と話した。
CEOとしての役割とは
業界は当初、ヤッカリーノ氏がXの新CEOに就任するというニュースを歓迎した。ただ、彼女の就任後、プラットフォームの混乱がエスカレートしたため、信頼を高めることはできなかった。その一因は、マスク氏が束縛されることなく自分のやりたいことを追求し、その結果生じる影響に関してはほかの人物に対応させているためだ。このような状況を受けて、ヤッカリーノ氏のCEOとしての実際の権限に疑問を呈する向きもある。
両者の役割分担について、ヤッカリーノ氏は次のように語っている。「イーロンは製品設計に集中している。並外れたエンジニアのチームを率い、新技術に注力している。つまり、彼はリブランディングを加速させ、未来に取り組んでいる。一方、私は、パートナーシップ、法務、営業、財務など、会社運営全般を担当している」。
アイゼン氏から、自身の役割に実際に自主性があるのかどうか追及されると、ヤッカリーノ氏はこう答えた。「もちろん、私は自分の意志や判断で動いている。さらにイーロンという素晴らしいパートナーがおり、この8週間は信じられないほど協力的だった。私が仕事を始める前にイーロンと話したのは、それぞれの役割は明確に定義されているものの、私たちの目標達成に必要な信念によって、我々は強い絆で結ばれているということだった」。
まだ疑問が解消しないアイゼン氏に対し、ヤッカリーノ氏はさらに詳しく説明した。「その共通の信念とは、表現の自由が会社の根幹をなすコアバリューであるということだ。簡単に言えば、陸上競技のリレーのようなもの。イーロンは技術に取り組む。彼は次に何が来るかを夢見て、私にバトンを渡す。私はそれをマーケットに投入し、当社だけでなく、広告パートナーを含めたすべての顧客の経済的繁栄を実現する」。
確かに、2人のビジョンは一致しているかもしれないが、ヤッカリーノ氏を任命したのは彼女のこれまでの実績に裏付けされた戦略的なものであり、広告主を再び呼び寄せるためのものであることに変わりはない。しかしこのミッションは、会社のオーナーが自身の発言や行動による広告収入の減少に対して無関心であることを公然と認めているときにますます困難なものとなる。
ヤッカリーノ氏は、「イーロンの発言によって、私の仕事が不可能になるわけではない」と言い、「イーロンを含め、すべての人々が自分の意見を持つ権利があることを確認できることは、私の仕事に対するモチベーションが増すことになる。我々は考えを改め、必要に応じて行動を変えることがあるのだ」と続けた。
X(旧Twitter)のリンダ・ヤッカリーノCEOが8月10日にCNBCと行なった包括的なインタビューから、同プラットフォームの一貫したテーマが明らかになった。
技術部門のリーダーが、謎めいた経営者イーロン・マスク氏のもとでのプラットフォームの行く末を明示しようとすればするほど、謎はより深まっていくようだ。ヤッカリーノ氏がビジネスの論点に言及するたびに、それは新たな懸念の連鎖を引き起こし、まるで終わりのない不確実性の嵐のようだった。
以下は、そのインタビューの主な内容である。
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ブランドセーフティに関するヤッカリーノ氏の見解
X社におけるブランドセーフティに対する闘いは、コンテンツコントロールという難しい現在進行形の課題と絡みあっている。ほぼ1年前のマスク氏の買収まで遡ることができるが、ヤッカリーノ氏がそれほど重要ではないと明らかに否定しているにもかかわらず、この問題が広告主にとっての主要な懸念事項として根強く残っていることは注目に値する。
NBCユニバーサル(NBC Universal)で同社のソーシャルパートナーとして当時のTwitter社と仕事をした経験について、ヤッカリーノ氏は「ツイッターは安全で、いつもそこにいることに安心感があった」と述べている。言い換えれば、広告主が現在アプリで体験していることとは真逆の経験だ。
不適切なコンテンツが後を絶たず、ヘイトスピーチが急増し、陰謀論が助長され、Xのオーナーさえも認めている問題に直面しても、彼女はこのプラットフォームがブランドにとって安全な環境であるという考えを堅持している。「あらゆる客観的指標から見て、Xは1年前よりもはるかに健全で安全なプラットフォームと言える。買収以来、私たちはブランドセーフティとコンテンツモデレーションツールを構築した。投稿された内容の99.9%は健全であると自信を持って言える」。
しかし、CNBCのサラ・アイゼン氏による「X社は『健全』をどのように定義しているのか」と質問に、ヤッカリーノ氏は明確に答えなかった。ただ、同氏は「表現の自由の核心とは何なのかを忘れてはならない。私たちは健全な討論と議論を行いたい。その核となる表現の自由は、あなたが支持できない誰かが、あなたが同意しないことを言ったときにのみ、本当に存続する。そして、もし私たちが同意できない人々のあいだで健全で建設的な議論を行なうことができたなら、この世はなんと素晴らしい場所になるだろうか」と述べた。
また、「特定の人々にレッテルを貼ったり、善悪を決めたりすることは、あるべき姿ではない。私たちの個々の意見に反対する人たちもいる。それこそ、私たちがブランドセーフティに対する取り組みを強化している理由だ」としている。
彼女は、ヘイトスピーチを抑止し、排除する方法として導入された「拡散の自由ではなく、表現の自由」という方針について頻繁に言及した。「違法な投稿や法律に反する投稿は、ゼロトレランスで排除する。しかし、もっと重要なのは、合法的な投稿であっても、それがひどいものであれば、ラベリングされるということだ。ラベルを貼られ、拡散が抑制され、共有できなくなる」。
では、ブランドはどうだろうか? ヤッカリーノ氏は、「ブランドは有害な投稿と隣り合わせになるリスクから守られている。また、投稿が一度ラベリングされると共有できなくなることも非常に重要だ」と話した。
CEOとしての役割とは
業界は当初、ヤッカリーノ氏がXの新CEOに就任するというニュースを歓迎した。ただ、彼女の就任後、プラットフォームの混乱がエスカレートしたため、信頼を高めることはできなかった。その一因は、マスク氏が束縛されることなく自分のやりたいことを追求し、その結果生じる影響に関してはほかの人物に対応させているためだ。このような状況を受けて、ヤッカリーノ氏のCEOとしての実際の権限に疑問を呈する向きもある。
両者の役割分担について、ヤッカリーノ氏は次のように語っている。「イーロンは製品設計に集中している。並外れたエンジニアのチームを率い、新技術に注力している。つまり、彼はリブランディングを加速させ、未来に取り組んでいる。一方、私は、パートナーシップ、法務、営業、財務など、会社運営全般を担当している」。
アイゼン氏から、自身の役割に実際に自主性があるのかどうか追及されると、ヤッカリーノ氏はこう答えた。「もちろん、私は自分の意志や判断で動いている。さらにイーロンという素晴らしいパートナーがおり、この8週間は信じられないほど協力的だった。私が仕事を始める前にイーロンと話したのは、それぞれの役割は明確に定義されているものの、私たちの目標達成に必要な信念によって、我々は強い絆で結ばれているということだった」。
まだ疑問が解消しないアイゼン氏に対し、ヤッカリーノ氏はさらに詳しく説明した。「その共通の信念とは、表現の自由が会社の根幹をなすコアバリューであるということだ。簡単に言えば、陸上競技のリレーのようなもの。イーロンは技術に取り組む。彼は次に何が来るかを夢見て、私にバトンを渡す。私はそれをマーケットに投入し、当社だけでなく、広告パートナーを含めたすべての顧客の経済的繁栄を実現する」。
確かに、2人のビジョンは一致しているかもしれないが、ヤッカリーノ氏を任命したのは彼女のこれまでの実績に裏付けされた戦略的なものであり、広告主を再び呼び寄せるためのものであることに変わりはない。しかしこのミッションは、会社のオーナーが自身の発言や行動による広告収入の減少に対して無関心であることを公然と認めているときにますます困難なものとなる。
ヤッカリーノ氏は、「イーロンの発言によって、私の仕事が不可能になるわけではない」と言い、「イーロンを含め、すべての人々が自分の意見を持つ権利があることを確認できることは、私の仕事に対するモチベーションが増すことになる。我々は考えを改め、必要に応じて行動を変えることがあるのだ」と続けた。
ツイッターの「X」へのブランド変更について
2023年7月、ツイッターは「X」に公式ブランド名を変更し、さまざまな評価を集めた。
一方では、熱心なマスク氏支持者がこの移行を支持した。ヤッカリーノ氏は、「私たちのユーザーコミュニティでは、4人中3人が肯定的な感情を示している。彼らの多くは、私たちに慣れ親しんでいるため、リブランディングに非常に熱心なのだ。私たちの理念や方向性を理解してくれており、我が社のサービスは彼らの日常の一部となっている」と話した。
逆に、残りは変更に対する不満が目立った。実のところ、マスク氏がツイッターの手綱を取った時点で、この道は決まっていた。彼は常にあらゆるアプリを作ることを計画しており、Twitterはそれを構築するための土台になっただけなのだ。
「イーロンは非常に長いあいだ、X、つまり新アプリについて話してきた。私はイーロンのパートナーとして、TwitterをX、すなわち万能なアプリ(the everything app)に変えるために入社したのだ」とヤッカリーノ氏は言う。
しかし、ヤッカリーノ氏の広告業界での経歴を考えると、ブランディングがビジネスにとって重要であり、賛同を得ることが重要であることを理解しているはずだ。となると、疑問はまだ残る。なぜ、世界的に認知されたブランドを、気まぐれに見えるようなかたちで消滅させるのだろうか。
「仮にTwitterのまま、あるいは以前のブランドのままでは、変化はゆっくりとしかおきない。そして、過去の成功体験軸で評価されることになる。Xでは、できないことを少しずつ変えるのではなく、何が可能かを考える。この10カ月のあいだに起こった製品変更とインフラ改良の速度を考えれば、なぜリブランディングするのかという疑問の答えになる。そう、我々は過去の遺産に縛られているわけではないということだ」とヤッカリーノ氏は答えた。
会社の財務状況
マスク氏が従業員の約80%を解雇したこと、広告主が以前ほど広告費をかけていないことを考えれば、Xが依然として多額の資金を失っていることは容易に推測できる。7月、マスク氏自身が、広告費が50%減少したためにXのキャッシュフローがまだマイナスであることを認めたばかりだ。
ヤッカリーノ氏は、「私たちは8000人規模の会社だったが、絶対に必要なコスト削減を経て、1500人規模になった。そのため、何らかの影響があるのは自然なことだ」と言う。
しかし、いつキャッシュフローが黒字になるのかという質問に対して、ヤッカリーノ氏は「私は入社して8週間だが、今のところ経営収支はほぼプラスマイナスゼロだ。今申し上げたようなコスト削減方法を考えると、順調なペースと言える」と述べた。また、同社はすでに新しい役割を担う人材を募集していると語った。
Xの視聴者数について(推定5億人のユーザー)
マスク氏もヤッカリーノ氏も、Xが「史上最高」のユーザー数を記録していることをたびたび示唆してきたが、今まで公には数値を公表していなかった。しかし、ヤッカリーノ氏が「5億人のユーザーがプラットフォームを利用している」と明言した。
間違いなくこれはX社にとって重要な成果を示すものだ。スタティスタ(Statista)の調査によれば、Xのユーザー数は2022年12月現在で約3億8600万人。しかし、Xが1億3200万人のユーザーを追加するのに約7カ月を要したのに対し、主な競合相手であるThreads(スレッズ)はわずか5日間で1億人以上のユーザーを集めることに成功している。
ThreadsはXにとって脅威か?
Xはメタ(Meta)のライバルアプリであるThreadsを気にしていないと断言している。とはいえ、マスク氏はThreadsへのリンクやXの投稿ではThreadsの言及を禁止したり、Threadsのサービスローンチと同時に突然クリエイターへの優遇施策を行なった。このことは、会社の姿勢とは異なる視点を示唆しているとも言える。
なお、ヤッカリーノ氏は「チームはまだ新しいライバルを注視している」と述べ、Threadsへの意識を認めた。
「競争相手から目を離すことは決してできない。なぜなら、彼らは進化し続けるからだ。ローンチが停滞しているとしても、競合が行なっているすべてのことに注意を払っている。私たちが見ることができるのは、彼らがかつてのTwitterのようなものを構築しているかもしれないということ。我々はXがどうなるかに注目している。そして、それはThreadsとは全く異なるロードマップとビジョンを持つものなのだ」と、ヤッカリーノ氏は言い添えた。
Krystal Scanlon(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)