YouTubeの新しいショート動画プラットフォーム「YouTubeショート(YouTube Shorts)」が米国で2021年3月にリリースされた。これは、単なるTikTokの類似機能とみなされがちだが、検索ツールをはじめとするユニークなインフラのおかげで、非常に魅力的なプラットフォームになるかもしれない。
YouTubeの新しいショート動画プラットフォーム「YouTubeショート(YouTube Shorts)」に、エージェンシーが多くの可能性を見出している。
YouTubeショートが米国でリリースされたのは、インドでの数カ月のベータテストを経たあとの2021年3月のことで、奇しくもインスタグラムが独自のショート動画プラットフォーム「リール(Reels)」をリリースしてから半年後というタイミングとなった。リールがインスタグラムに組み込まれた機能のひとつであるように、YouTubeショートもYouTubeの大規模なプラットフォームに組み込まれている。モバイルアプリでは「Shorts(ショート)」タブが提供され、デスクトップではショート動画の閲覧と検索ができるようになった。ユーザーが作成できる動画の長さは最大60秒だ。しかも、YouTubeの全ビデオアーカイブからコンテンツを再利用できることが、ライバルと決定的に異なっている。おかげで、クリエイターは2011年以降のあらゆるダンスチャレンジ動画を使って、簡単にデュエット動画を作成できる。
YouTubeの発表によれば、YouTubeショートはリリースから数週間で、1日あたりの再生数が全世界で65億回に達したという(YouTubeは比較可能な全動画の再生数を明らかにしていないが、1日の動画視聴時間は10億時間を超えている)。また、バイラルなショート動画を制作しているクリエイターに、合わせて1億ドル(約110億円)を支援することを5月初めに表明した。これは、SnapchatがTikTokのクローンといえる「スポットライト(Spotlight)」で成果を上げたアプローチと同じだ(TikTokも2億ドル[約220億円]のクリエイターファンドを立ち上げている)。
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「YouTubeショートはここ1週間ほど、マーケティングに関する議論にきわめて大きな影響をもたらしている」と、インフルエンサーマーケティングエージェンシーのバイラルネーション(Viral Nation)で上級事業開発責任者を務めるゲイブ・フェルドマン氏はいう。とはいえ、少なくとも米国では、ブランドがYouTubeショートで本格的なマーケティング活動を始めるにはまだ早い。フェルドマン氏によれば、同氏がともに仕事をしているブランドは、クリエイターがYouTubeショートでどのような方向性を打ち出すのか見極めるまで投資を控えているという。それでも、ブランドの多くはYouTubeショートに大きな可能性を見出している。
ライバルとの違い
YouTubeショートは、単なるTikTokの類似機能とみなされがちだ。だが、検索ツールをはじめとするユニークなインフラのおかげで、長期的なつながりを維持できるコンテンツを制作したいと考えているブランドにとっては、非常に魅力的なプラットフォームになるかもしれない。
YouTubeショートには、TikTokやリールと大きく異なる点がひとつある。それは、過去のコンテンツを探しやすいことだ。TikTokやリールでは、1週間以上前の動画が表示されることはめったにない。どちらもすばやいリアクションやエンゲージメントを重視しているため、ほとんどのソーシャルプラットフォームと同じく、古いコンテンツはすぐに埋もれてしまう。だがYouTubeショートは、YouTubeの基本的なインフラである検索エンジンを備えており、ユーザーの検索内容に基づいて、数週間や数カ月、あるいは数年前のコンテンツを呼び出すことができる。「我々がYouTubeをどのように見ているかといえば、YouTubeはソーシャル機能を持った検索エンジンだ」と、フェルドマン氏は語る。
このことが重要になる理由は、YouTubeのようなプラットフォームが、YouTubeショートを含む動画の寿命を延ばす機会をブランドに提供してくれるからだと、フェルドマン氏は指摘する。「ブランドは、インスタグラムやTikTokのような場所より、YouTubeショートのコンテンツにより多くのライフタイムバリューを見い出すようになると思う。(検索アルゴリズムのおかげで)ショート動画を見つけやすくなる点が、ほかとは異なるのだ」。
また、YouTubeショートを最終的に採用するブランドのグループは、すでにYouTubeで活動しているグループとは異なるだろうと、フェルドマン氏は予想している。その大きな理由は、動画の長さの違いだ。ほとんどのYouTube動画は数分で、トップクリエイターの動画なら平均で13~14分にもなるため、ブランドにとって制作コストがかかる可能性がある。一方、ショート動画であれば1分を超えることはない。「ブランドにとって、長編コンテンツを大規模に制作するのは驚くほどのコストがかかる」と同氏は述べ、YouTubeチャンネルの開設を検討しているブランドにとって、YouTubeショートは「より気軽な参入機会」になるはずだと付け加えた。
新しいタイプのブランドを惹きつける
YouTubeに特化した事業開発を手がけるバズマイビデオズ(BuzzMyVideos)の創業者兼CEO、パオラ・マリノーネ氏によれば、小売業界ではYouTubeショートを利用する企業がそれほど見られないのに対し、ACミランのようなスポーツチームはYouTubeショートへの投資をすでに始めており、プーマ(Puma)のようなパートナーとスポンサード動画を展開しているという。5月7日に投稿されたプーマとのスポンサード動画は、再生回数が1万回を突破した。
マリノーネ氏は、YouTubeショートがフェルドマン氏が指摘したのとは異なるグループを引き寄せる可能性があると考えている。具体的には、YouTubeを利用しながらも、TikTokには乗り気でないか馴染みのないブランドだ。なぜなら、多くのブランドはすでにYouTubeチャンネルを持っている。YouTubeショートにはYouTubeのアーカイブ動画の映像をショート動画に組み込めるという大きな特徴があるため、ブランドは古いコンテンツを新たな形で再利用できるのだ。
たとえば、あるブランドが1時間の投資家向けプレゼンテーションを自社のチャンネルで公開したとしよう。その場合、「重要な瞬間や重要なメッセージを伝えるシーンが3つあるとすれば、基本的にはその3つのシーンが3つの新しい動画になる」という。また、長めのYouTube動画を作成し、それを複数のショート動画に分けてプロモーションすることもできるだろう。「YouTubeショートの良さはそこにある。一種のサークルのようなものだ」とマリノーネ氏はいう。「どのチャンネルのアーカイブにも非常に多くの価値がある」ため、すでにYouTubeを利用しているブランドにとっては、TikTokよりYouTubeショートに投資するほうが安く済む可能性があるわけだ。
もうひとつの重要な違いは広告だ。TikTokは最近、ニールセン(Nielsen)と提携して広告ターゲティング機能を強化したほか、2020年の広告売上が前年比で500%増加したことを明らかにしている(具体的な金額は未公表)。それでも、TikTokが比較的歴史の浅い広告プラットフォームであることには変わりない。これに対し、YouTubeにはGoogleが組織として蓄積している広告のノウハウがある。TikTokのようなショート動画の広告を作成したいと考えながらも、TikTok自体に広告を掲載することには懐疑的な企業にとって、YouTubeは潜在的な手段となるのだ。
ブランドにとっては、「やりたいと思っている人がいるときが、やるべきタイミングだ」と、マリノーネ氏は話す。同氏の会社では、チームがYouTubeショートをテストして、驚くべき成功を収めているという。ある社員は、ゼロからチャンネルを作成して、自分のイヌを取り上げた1本のショート動画をアップロードしたところ、1日で5万5000回もの再生回数を記録した。
「YouTubeを長いあいだ見てきた人からすれば、こんなことは絶対にあり得ない。それが可能になっているのは、YouTubeのアルゴリズムがYouTubeショートを非常に重視しているからだ」と、マリノーネ氏は話す。同氏にとって、YouTubeショートは今のところまったく新しいものとなっている。しかも、YouTubeがアルゴリズムを利用して、YouTubeショートを視聴者に浸透させるべく熱心に取り組んでいる。そのため、ブランドは「まったく新しいオーディエンスをゼロから作り出すことができる」と、マリノーネ氏は指摘した。
[原文:Unpacked: How YouTube Shorts differs from TikTok]
MICHAEL WATERS(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:長田真)