サードパーティCookieの終焉後のGoogleのプランに、新たな一手が加わった。その名を「Topics」といい、従来の計画で物議をかもした部分、つまりFLoC(コホートの連合学習)に代わるツールだ。これについて、広告業界が是が非でも答えを得たいと思っている、いくつかの問いについて以下にまとめた。
サードパーティCookieの終焉後のGoogleのプランに、新たな一手が加わった。その名を「Topics」といい、従来の計画で物議をかもした部分、つまりFLoC(コホートの連合学習)に代わるツールだ。Topicsは、ブラウザの履歴に基づいて、ユーザーがその週に関心をもった5つの話題を特定する形で機能する。最初の段階では350の既存の「Topics」が用意されているが、時とともに増える見込みだ。
GoogleはTopicsを、さんざんこき下ろされたFLoCの上位互換と位置づけている。判明していることは少ないが、Topicsはよりコントロールされ、情報の共有にはより強い制限がかけられると、Googleは述べている。広告主とパブリッシャーにとってこれらがどう役立つのかは、今のところ推測の域を出ない。Googleの最初の発表内容は、ディテールに乏しいものだった。
そうした状況により、サードパーティCookieなき世界で広告ターゲティングをおこなうためのGoogleの最新提案について、広告業界が是が非でも答えを得たいと思っている、いくつかの問いについて以下にまとめた。
Advertisement
――Topicsはブランド広告主にとって良いものなのか?
GoogleのTopicsに関する発表を額面通り受け取るなら、答えは「ノー」だ。ブランド広告主にとって、これは朗報とはいえない。
Topicsがおこなうようなブラウザ履歴の集計に基づくラベリングは、ブランド広告主の目的にはほぼ無関係で、とりわけリーチとフリクエンシー(頻度)に関しては役に立たない。なかでもフリクエンシーについては、Googleがユーザーが関心をもつトピックに基づいて大雑把にトラッキングするだけだとしたら、かなり信頼の置けないものになりそうだ。端的に言って、このアプローチはちょっと半端だ。
「Googleは本気で、ごく普通の人が関心を持つトピックは週に5つだけだと思っているのだろうか? いつも通りの1週間のうちに、たいていのユーザーは仕事、外食、エンターテインメント、通勤、それにおそらく休日や、健康・ウェルビーイングについても考える」と、デジタルマーケティングエージェンシーのアキュラキャスト(AccuraCast)でマネージングディレクターを務める、ファルハド・ディベチャ氏はいう。
これだけですでに6個だし、ここに挙げたのは現代人にかなり広く当てはまるものだけだ。1週間に5つのトピックというのは、極めて限定的で、他のトピックのターゲティングの可能性を妨げるものになるかもしれない。ただし、Googleが日常的なトピックを無視して、新しく関心をもったことだけにフォーカスするような、なんらかのメカニズムを導入するなら話は別だ。だが、そうなると今度は、日常的なトピックに基づいてユーザーのターゲティングをしたい広告主が頭を抱えることになるだろうと、ディベチャ氏は指摘する。
――最悪の場合、つまりユーザーがこの機能をオフにしたらどうなる?
広告主には関心やトピックに基づいた情報は何も与えられず、リーチやフリクエンシーについてのフィードバックもないのだろうか?
Topicsと同じく、プライバシーサンドボックスのツールのひとつであるFLEDGE(First Locally-Executed Decision over Groups Experiment)がヒントになりそうだ。これは、リマーケティングの支援を意図したもので、広告主やアドテクプラットフォームではなくブラウザ上で、広告主が定義し、そのブラウザに関連づけられている関心集団を管理できる機能だ。同じメカニズムが、フリクエンシーのトラッキングにも利用されるのかもしれない。ただし、Googleはこうした応用を明言しているわけではない。
――少なくとも、FLoCからは改善されたと考えていい?
ある意味ではそうだ。TopicsはデジタルトラッキングCookieをブロックし、集団全体のブラウザ履歴のトレンドではなく、個人のそれにフォーカスする。これにより、ユーザーはより匿名性が保たれ、またオプトアウトの選択肢もより容易に選べるようになる。「プライバシー擁護団体が納得するくらい配慮が行き届き、かつマーケターが求める十分なターゲティング能力を備えたものになるかは、まだ判断できる段階にない」と、アドテクベンダーのアドスワーブ(Adswerve)で最高売上責任者を務めるスコット・サリバン氏はいう。
現時点でTopicsに関して公表されているわずかな情報から、FLoCと比べてプライバシーの面で改善がみられるのは確かなようだ。コホートを介したフィンガープリンティングの問題は、これで解消される。
逆に、利点ははっきりしない。それどころか、データソースが文脈依存的で比較的一貫したものから、ドメインベースで一時的なものに変わるため、メリットが大きく損なわれることが懸念されると、ピュブリシス(Publicis)傘下のイプシロン(Epsilon)で最高分析責任者を務めるロック・ローズ氏は指摘する。実際のところTopicsは、ある程度サイトを超えて利用できるという強みこそあるものの、IAB(インタラクティブ広告協議会)が提供する詳細なラベルを上回るものになるかどうかは不透明だと、ローズ氏はいう。
――つまり、Googleは正確性を犠牲にしてプライバシーに配慮したことになる。このことは広告価格にどう影響を与えるのか?
一旦おさらいしよう。Topicsはどうやら、a) ターゲティング能力を大幅に低下させ、b) フリクエンシーキャップで広告主を悩ませる可能性が高く、c) さらに測定能力も大きく損なうとみられる。
こうした影響を考慮すれば、競争の激しい現在の市場において、Topicsベースの広告購入にはかなりの値下げ圧力がはたらくはずだ。そうなれば、Googleにとっての優先順位は、まずは自社利益、次いでパブリッシャーの利益となり、アドテクベンダーへの対応は後回しになると考えるのが合理的だと、ガートナー(Gartner)のアナリスト、エリック・シュミット氏は話す。
「Ad Manager、AdSense、AdXでの価格を(おそらくわずかに)引き下げることは、Googleにとって(優先順位のトップである)自社利益を多少圧迫しても、(2番目に優先順位の高い)パブリッシャーとインベントリー(在庫)サプライヤーとの関係維持に貢献する。こうして、独立アドテクベンダーが最大の痛手を被ることになる」と、シュミット氏は述べた。
この仮定のシナリオにおいて、広告費を節約したい広告主が最初に削ろうとするのは、Cookieベースのターゲティングや、データの管理と処理(ID照合・登録、測定、アトリビューションなど)にかかる費用であろうことは、想像にかたくない。これらの業務の多くは、独立アドテクベンダーが提供している。
「私の勘では、最初に苦境に立たされるのは彼ら(独立アドテクベンダー)だろう」と、シュミット氏はいう。「DSP(デマンドサイドプラットフォーム)とSSP(サプライサイドプラットフォーム)にも圧力がかかるだろう。Cookieベースの入札が途絶え、よりシンプルなTopicsベースのモデルでは、広告主がパブリッシャーから直接購入する取引が促進されるからだ」。
――Topicsは、ユーザーのプライバシーの支配を強めるGoogleの最近の姿勢とどう関連するのか?
Topicは、Chromeプラットフォーム上でのユーザーのプライバシー管理に関して、Chromeをデフォルトでプライバシーを尊重する中立的存在にするのではなく、Googleの主導権を維持するものであることは間違いなさそうだ。
Googleに対する、ここ最近の複数の反トラスト法訴訟における争点が改善されただけでも、良しとすべきなのかもしれない。なかでも昨年、テキサス州のケン・パットン司法長官をはじめ、米国の十数州の司法長官が懸念を示し、倫理学者たちも賛同した、FLoCには差別や権利侵害を助長するおそれがあるという批判は注目を浴びた。実際、Topicsではわずか350の話題のカテゴリーしか存在しないため、ユーザーの匿名性がやや高まっている。これはFLoCへの批判に対する、Googleの直接的な反応だろう。
そうはいっても、ユーザーがこうした機能のオプトイン/オプトアウトをどれだけ容易に実行できるかについては疑問が残る。GoogleはTopicsによって人々が「透明性とコントロール」を手にすると主張していて、確かに理屈の上では素晴らしいことだ。一方で、それは遠回しに、ユーザーはトラッキングされたくなければわざわざ自分でオプトアウトする必要がある、という意味なのかもしれない。実際には、トラッキングを快く思っていない人でも、たいていはオプトアウトしないものだ。
――パブリッシャーにとって満足のいくものか?
十分とはいえない。「Googleは、Topicsを誰がコントロールし、それがパブリッシャーにとってどんな価値提案なのかについて、もっと明確に語るべきだ」という意見が、パブリッシャー側の最初の反応の趨勢を占めた。
イプシロンのローズ氏が、この点を掘り下げて語ってくれた。「相変わらず、価値あるパブリッシャーからデータを取り上げて、それに基づいてほかのパブリッシャーに広告を出せるようにする手段のひとつでしかないように思える。したがって、もっとも価値の高いインベントリーをもつパブリッシャーには、機能を無効にするインセンティブがはたらく。だが、Googleが彼らにそれを許すかどうかはわからない」。
要するに、パブリッシャーはTopicsを改善というより、変化とみている。アップデートの究極的な目標は、Googleにとっては何も変わっていない。結局のところ、事業者レベルでバリューチェーンに新たなモデルを押し付けたがっているのだ。
欧州のあるパブリッシャーの最高デジタル責任者は、Googleへの批判を公言することの悪影響を考慮して、匿名を条件にこう語った。「Googleは常に、ユーザーデータは広告主の所有物であるとみなしてきた。しかし現実には、ユーザー、つまりオーディエンスは(媒体の)エディターのものであり、ナビゲーターにはエディターにモデルを押し付ける権利などない。FLoCかTopicsか、つまりコホートか個人のユーザーかは、エディターにとっては大した問題ではない」。
[原文:Understanding Google’s FLoC replacement Topics, and its unanswered questions]
SEB JOSEPH(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:長田真)