Amazonの動画プラットフォーム、Twitch(ツイッチ)。彼らはeスポーツチームにTwitch上のストリーミング配信に対する報酬を払っていたが、このプログラム内容を削減した。受け取る金額が減少したことで、eスポーツチームたちはTwitchのライブストリーミング動画をYouTubeに投稿する流れが生じている。
Amazonが所有する動画プラットフォーム、Twitch(ツイッチ)。彼らはeスポーツチームにTwitch上のストリーミング配信に対する報酬を払っていたが、このプログラム内容を削減した。受け取る金額が減少したことで、eスポーツチームたちはTwitchのライブストリーミング動画をYouTubeに投稿する流れが生じている。Twitchはゲーム中心のストリーミングサービスだが、Twitchに対する依存を減らし、YouTubeに動画を投稿することで失われた収益を補うことが狙いだ。
ここ1年の間、Twitchはeスポーツチームに対する報酬プログラムを削減し続けてきた。これはゲーミング分野におけるメディア企業、エンターテイメント企業の幹部たちが証言している。毎月決まった尺のストリーミングを行うことの対価として報酬を与えることは、いまでも行われている。しかし、エグゼクティブたちの証言によると、この報酬額が減らされたり、報酬プログラム自体から排除される、といった事例が出てきている。このプログラムにおいて何チームが支払いを受けてきたかは明確ではない。契約内容や報酬額、そして最近の変更の影響を受けたチームがどれくらい存在しているかも明らかではない。Twitchは出された声明以上の説明をすることは断った。
「長年、eスポーツコンテンツが真っ先に集まる目的地が、Twitchだ。業界の成長と成功の最前線に位置している。そして、eスポーツとゲーミング競争に対する投資は、我々のコンテンツ戦略全体の一要素として、今後も継続するだろう」と、eメールの声明で広報担当者は語った。
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混戦のゲーミング動画市場
一連の変更は、報酬プログラムをトップのチームに集中させることが狙いのように思われると、エグゼクティブたちは語る。eスポーツチームを含めたデジタル動画クリエイターをクライアントとして抱えるタレント管理企業、ベント・ピクセルズ(Bent Pixels)の売上部門バイスプレジデントであるルイ・ティムチャック三世氏によると、Twitchの報酬プログラムに参加しているチームのなかには、コンテンツ投稿条件を満たすために、人気ものながらゲーミング競争力がないクリエイターたちをチームに参加させたところがある。
いくつかのeスポーツチームにとっては、Twitchからの支払いは収益源のなかでもトップ3に入る大きなものだった。そして支払いが減らされたことで、チームたちはTwitchの外へと収益源の多様化をせざるを得なくなったのだと、メナシ・ケチェンバウム氏は言う。ケチェンバウム氏はゲーミングコンテンツに特化したデジタルメディア企業であるエンシュージアスト・ゲーミング(Enthusiast Gaming)のCEOだ。
すでに多くのゲーミングクリエイターたちやeスポーツチームたちがプラットフォームの外へと展開しようとしてきている。そんななかでのTwitchの支払い変更だ。今月初頭、Twitchが抱えていたもっとも人気のストリーマーであるタイラー“ニンジャ”ブレヴィンズ氏が、Twitchのライバルであるマイクロソフト(Microsoft)のプラットフォーム、ミキサー(Mixer)へと移ることを発表した。ブレヴィンズ氏の移籍に限定して言えば、マイクロソフトが提示した金額の影響が大きいだろう。しかし、Twitchが直面している競争を分かりやすく炙り出した形だ。ゲーミング動画のプラットフォームとしては、YouTubeがいまだに大きな存在を持っている。その一方で、FacebookとミキサーがTwitchの領域に食い込もうと試みている。
しかし、YouTubeは独自のゲーミングアプリに失敗し、Twitchのデイリー視聴者数は1500万人と少ない。このことからもゲーミング動画市場はひとつの企業がひとり勝ちをするような競争ではなく、複数のプレイヤーが参加するものであることが読み取れる。
マルチに投稿を行う理由
eスポーツチームたちはTwitchの外へと展開しているものの、Twitchを離れているわけではない。むしろ、YouTubeを使って、Twitchのストリーミングを拡大しようとする例が増えている。これはスポンサーが関わっている事例では特に顕著だ。
「ストリーミングにおいては、Twitchがいまだに圧倒的な存在を持っている。YouTubeは、まだ録画された動画においての圧倒的プレイヤーとなっている」と、ケチェンバウム氏は言う。
個人で参加しているクリエイターたちやeスポーツチームは、ときに何時間という長さでTwitch上でストリーミングを行う。合計では大きな視聴者数を稼ぐことはできるかもしれないが、生で配信を見ている視聴者はすべてを見るわけではなく、視聴をしたり、しなかったりを繰り返すことになる。その結果、スポンサー紹介部分を見逃すことがある。そのため、配信からハイライトとなる部分を短く編集し、それをYouTubeに投稿するわけだ。YouTubeが抱える月間視聴者数は20億人にも上る。これで、Twitchよりもより広い視聴者にリーチすることができる。
Twitchのストリーミング配信動画からハイライト版を作成し、YouTubeに投稿することは新しい慣習ではない。ゲーミングにフォーカスしたデジタルメディア企業オムニア・メディア(Omnia Media)のゲーミングパートナーシップと戦略部門バイスプレジデントであるオースティン・ロング氏は、Twitchのクリエイターやeスポーツチームたちが、独立したYouTubeチャンネルを作ることにメリットがあるポイントに、約2年前に達したと気付いたという。
マーケターたちが求めるもの
しかし、マーケターたちがeスポーツへの投資を増やすにつれて、Twitchのストリーミング動画を短いクリップへと編集してYouTubeに投稿するという慣習はeスポーツチームのあいだで、ますます広がっている。「ほかのバーティカルにおける、従来のソーシャルインフルエンサー契約を考えてみたときに、ブランデッドコンテンツができるだけスケールできるように複数のチャンネルにまたがって投稿することは、ほとんどの契約で行われている。eスポーツも例外ではない」と、MRYのコミュニティマネージャーであるサラ・シュニーバウム氏は言った。
ハイライト動画をYouTubeに投稿することで、マーケターたちがTwitchクリエイターやeスポーツチームへスポンサー提供を行いやすくなる。多くのマーケターたちにとってゲーミングとeスポーツはまだまだ新しいカテゴリーだからだ。視聴者数が増えることに加えて、YouTubeはTwitchよりもより深いアナリティクスを提供する。Twitchの場合は、視聴者の属性構成といった基本的なアナリティクスも提供されないと、ティムチャック氏は言う。「ブランドたちは彼らの投資を正当化するためにデータとアナリティクスを必要とする」と、マインドシェア(Mindshare)のスポンサーシップとコンテンツ+のアカウントディレクターであるメイソン・ベイツ氏は語った。
Twitchはアナリティクスの詳細を提供しないものの、提供される情報を用いてクリエイターたちが作るハイライト動画がストリーミング動画のなかでも適した箇所かどうかを確かめることはできる。ストリーミング配信全体において、視聴とコメントがどのような流れで起きているかを見ることがTwitchでは見ることができる。視聴とエンゲージメントがどこでピークになっているかを知ることで、ハイライト動画編集の助けになると、ベイツ氏は言う。
YouTube傾倒の別の理由
こういったクリップを投稿する理由はYouTubeのオーディエンス規模だけではない。YouTubeのマネタイゼーションプログラムによって収益を追加することができるからだ。そして、ライブ配信ではない動画が再生回数を得るという点では、YouTubeの方がTwitchよりも優れている。Twitchでもライブ配信でない動画をアップロードすることはできるが、こういったオンデマンドの動画を紹介する点ではTwitchは優れていないのだ。その結果として、再生回数もふるわないと、メディア企業のエグゼクティブたちは説明してくれた。ベント・ピクセルズがマネージメントをするTwitchの人気クリエイターの場合、Twitchでオンデマンド動画が獲得する再生回数は2000回から5000回程度だ。しかし、YouTubeではそれが、30万回から50万回になると、ティムチャック氏は言う。
「Twitchでは、ライブ配信でない限りは、良いコンテンツを作っていても発見されるのは難しい。誰も見ないからだ」と、ロング氏は言う。
Tim Peterson(原文 / 訳:塚本 紺)