美容業界からTwitc(ツイッチ)へ進出するケースは増えている。コロナ禍の前から、Twitchで試験的に配信を行う美容ブランドも登場していた。マックコスメティックス(MAC Cosmetics)とメイベリン(Maybelline)は、2019年9月に行われたTwitchCon(ツイッチコン)に参加している。
エム・コスメティクス(Em Cosmetics)の創業者のミシェル・ファン氏は、YouTubeで900万人近いフォロワーを有する大人気の美容インフルエンサーでもある。そんな同氏が今、注目している動画プラットフォームがTwitch(ツイッチ)だ。
同氏は「ほぼ毎日Twitchを見ている」という。「寝るときまで見て、つけたまま寝るのが好きだ」。メイクの解説動画や商品レビューで有名なファン氏だが、毎日ゲームをプレーするかなりのゲーマーでもある。お気に入りは「リーグ・オブ・レジェンド(League of Legends)」で、コロナ禍で外出できないなか、「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド(The Legend of Zelda: Breath of the Wild)」をやりこんだという。
10月第4週に、同氏はエム・コスメティクスの新しいファンデーション、「デイドリーム・クッション(Daydream Cushion)」の販促も兼ねて、Twitchでファンと共に「リーグ・オブ・レジェンド」を生配信した。配信チャンネルのチャットではボットが商品購入リンクを投稿し、ゲームの休憩時間にはファンデーションのCMが流れた。
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「Twitchをやろうと思ったのは、ただのチャットとはまた違った方法でオーディエンスと交流したかったから」だと、同氏は語る。このイベントは大成功に終わった。デイドリーム・クッションはそれまでの商品と比べて、発売当日の売上が278%も伸びたのだ。同氏は約3時間半の生配信で、その日のTwitch全体のトラフィックの45%を集めた。そしてこの配信だけでエム・コスメティクスの全収益の17%をあげることに成功しており、そのうち売上の46%がデイドリーム・クッションだった。
Twitchへ進出した美容ブランドたち
1日あたり1750万人を超えるアクティブユーザーが集まるTwitchは、ゲーム業界以外からも大きな注目を集めている。たとえばバーバリー(Burberry)は9月にファッションショーの生配信を、10月にはアレキサンドリア・オカシオ・コルテス下院議員が人気ゲームの配信を行っている。世界的に右肩上がりで成長してきたゲームと生配信業界だが、コロナ禍によりその需要はさらに急増している。
美容インフルエンサーのあいだではTwitchのアーリーアダプターとして知られるファン氏だが、美容業界からTwitchへ進出するケースは増えている。コロナ禍の前から、Twitchで試験的に配信を行う美容ブランドもいくつか登場していた。たとえばマックコスメティックス(MAC Cosmetics)とメイベリン(Maybelline)は、2019年9月に行われたTwitchCon(ツイッチコン)に参加している。マックコスメティックスは同イベントでブースを提供し、メイベリンは人気配信者に同ブランドの製品を使わせた「ゲット・レディ・ウィズ・ミー(Get ready with me)」という配信を行い、購入ページへのリンクを流している。
Twitchのアメリカ大陸担当営業責任者、サラ・ルース氏は「今年はオーディエンスも自宅で過ごす時間が増えており、エンゲージメントだけでなくコンテンツの多様性も向上している」と語る。同氏によると、Twitchではゲーム以外のコンテンツがここ3年で4倍に増加しており、「美容」および「ボディアート」カテゴリのコンテンツは、2019年11月から2020年8月にかけて208%増となっているという。
競合よりもも嘘くささを感じにくい
ヒーローコスメティックスは、最近ではTwitchで人気のゲーム実況者セウム氏とコラボを実施。ゲームの生配信中にスキンケアやニキビパッチをつけさせるといった形で製品のプロモーションを行っている。同社の共同創業者兼CEOのジュー・リュー氏によれば、このプロモーションにおける広告費へのリターン(ROAS)は150%だったという。同氏は、気楽な雰囲気の生配信というフォーマットは、ほかのプラットフォームよりも嘘くささを感じにくいと指摘し、「インスタグラムではわざとらしくなってしまう」と述べている。一方、Twitchの方が「配信なのでより自然な印象を与える。商品について話すときに信憑性が高まりやすい」という。「信憑性を与えやすいプラットフォームとコンテンツなのだ」。
Twitchで活躍する美容インフルエンサーはほかにもおり、たとえばジェームズ・チャールズ氏は14万人のフォロワーを有しており、この記事の公開前にもゲームの生配信を行っている。同氏の場合はただゲームをするだけだが、ほかのインフルエンサーは美容コンテンツを織り交ぜるケースも多い。たとえば、TikTokのスキンケアインフルエンサー、ヤング・ユー氏は、Twitchで週に2~4回配信を行い、視聴者からのスキンケアに関する質問に回答している。
同氏はTwitchについて「IGライブ(IG Live)やTikTok Liveよりもはるかに優れている。TikTokなどではオーディエンスとの交流を取るのが難しい。インターフェイスのせいでコメントも読みづらい」と指摘する。
人とのつながりを感じさせる手段
一方、Twitchのインフルエンサーのアレクシス・フレミング氏(メイジュールック)は、自分のボディペイント作品を公開しながらゲームを配信し、6万8000人以上のフォロワーを獲得している。同氏は自ら立ち上げた化粧品のオンライン販売も行っている。
エム・コスメティクスのファン氏は、Twitchはほかのプラットフォームよりもファンとの交流を重視したサービスとなっており、コロナ禍において人とのつながりを感じさせる手段として優れていると指摘する。
「パンデミック前であれば、ニューヨークやロサンゼルスで直接ファンと会っていただろう」と、同氏は語る。「Twitchであれば、世界のどこからでも、誰でも見られて、交流できるイベントが開ける。より多くの人と交流できるし、場所や時間帯に縛られることもない」。
独特のコミュニティへの理解は必須
だが、Twitchはあまり商業化されていない独特のコミュニティだ。参入を試みるブランドも、このコミュニティについてしっかりと理解しておく必要がある。
「ブランドにもアドバイスするなら、プラットフォームについて本当の意味で理解していないのであれば、参入しないほうが良い」と、ファン氏は語る。「Twitchは非常にユニークなプラットフォームで、適切な人が適切なオーディエンスに向けて配信しなければ成功は難しいだろう」。
[原文:Twitch emerges as rising platform for beauty brands]
LIZ FLORA(翻訳:SI Japan、編集:長田真)