三井物産はなぜ、データ事業をDrawbridgeではじめたか?:トレジャーデータ 堀内健后 ✕ 三井物産 芹澤新

日本初の総合商社である三井物産は、明治の創業以来、あらゆる分野のフロンティアをどこよりも早く切り拓いてきた。

そんな歴史のある三井物産がいま、デジタルマーケティング分野で手掛けているのが、クロスデバイスマッチングのデータ事業だ。クロスデバイスマッチングとは、異なるデバイスを利用する同一ユーザーを、CookieやIPアドレスなどのデバイス情報をもとに、高い精度で識別する技術のことである。

三井物産は2017年、クロスデバイスマッチング分野の米国リーディングカンパニーであるDrawbridge(ドローブリッジ)と資本業務提携を結んだ。以来、Drawbridgeの日本法人的な存在として同社は、デジタルマーケティング分野において、すでに数多くの日本の事業者へデータ提供を進めてきている。

「我々が見据えているのは、IoTの次のフェイズ。モノの次には、必ずヒトが来る」と、三井物産でデジタルマーケティング事業を担当する芹澤新氏は力強く語る。「人の行動や属性データを使ったビジネスは、三井物産グループ全体に付加価値を付けていくという意味でも、いま手掛ける価値のある事業だと考えている」。

 

トレジャーデータの堀内氏(左)と三井物産の芹澤氏(右)

トレジャーデータの堀内氏(左)と三井物産の芹澤氏(右)

 

今回は、トレジャーデータ株式会社のマーケティング担当ディレクター、堀内健后氏と芹澤新氏の対談を実施。三井物産がこのようなデータ事業に乗り出してきた経緯、ならびにDrawbridgeのどこに魅力を感じているのか、TREASURE CDPと連携することで、デジタルマーケティングのあり方は、今後どのような進化を遂げるのかについて伺っていく。

◆ ◆ ◆

堀内 健后 氏(以下、堀内):三井物産がクロスデバイスのデータ事業をはじめた一番の理由は何ですか?

芹澤 新 氏(以下、芹澤):「ピープルベースドマーケティング」、つまり「ヒト」にフォーカスしたマーケティングは、必ずデジタルマーケティングの中心になるだろうとの思いがあるからです。クロスデバイスマッチングという技術の存在を知った当時、これに対応できる国内のソリューションはほとんどなかった。だからこそ、これは三井物産として取り組んでいくべき課題であるという、ビッグピクチャーを描いて進めることにしたのです。

堀内:三井物産は、いつ頃からDrawbridgeに関わられているのでしょう。

芹澤:2015年の末ごろからです。当時、三井物産は米国AOLとのジョイントベンチャー(JV:合弁事業)であるAOL Platforms Japan(現Oath Japan)を共同経営をしており、同JVにとってバリューになるサービスをソーシングできないかという観点から、いろいろなサービスや技術を検討していたのですが、そこで挙がったキーワードが「クロスデバイス」でした。そのころ、デジタルマーケティング界隈で「ピープルベースドマーケティング」という言葉が出はじめていましたが、それをテーマに検討していたうちの1社がDrawbridgeでした。

堀内:もとは、AOLとのJVのために検討していたサービスだったんですね。

芹澤:はい。三井物産とAOLがJVパートナーだったというと、驚かれる方も多いのですが、2006年以来ずっと、日本での経営は三井物産、テクノロジーはAOLという座組みでやってきました。AOLとのJVの社長も代々弊社から出向で出しております。以前には、ASPのリンクシェアも同様に手がけていましたし、事業ドメインとしてのデジタルマーケティングの経験は、案外古くからあるんですよ。

堀内:そもそも、Drawbridgeに注目した理由は。

芹澤:当時、私自身はアドテク分野に取り組んでいたのですが、Drawbridgeが展開するデータビジネスはアドテクのみならずマーケティングテクノロジー全体をカバーできる点が魅力であり、弊社戦略とも合致しておりました。また、クロスデバイス分野に複数存在する企業のなかでも、Drawbridgeは技術力が高く、すでに高い実績を持っていたため、同社との提携を決めました。

「モノ」から「ヒト」へ

堀内:いわゆる新規事業という形になると思うのですが、社内の承認や理解、共有を得るには、やはり苦労されたのでしょうか?

芹澤:もともと、ICT事業本部全体でIoT(Internet of Things)関連の事業はすでに複数実施していました。そこで、「モノ(Things)」の次は、「ヒト」だということで、人の行動や属性データを使ったビジネスも、IoTの戦略とアラインして進めていくべきだ、といった方針を我々の事業部で提案し、承認を得ていたので、そのなかの具体的な施策のひとつであるDrawbridge事業に対する、社内の理解は比較的早かったと思います。

導入方針や戦略の説明のほかに、やはり問われるのは採算の話。弊社のなかで投資を行う場合、そのリターンに力点を置くビジネスもありますが、本件は日本で事業を行う際の事業規模や採算予測を重視しました。

堀内:将来性のある分野だということを強調したわけですね。

芹澤:また、弊社のICT事業本部には、実はふたつの役割があります。事業収益もしくは投資収益でしっかり儲けるというビジネスのほかに、社内の各営業本部のデジタルトランスフォーメーションを機能的に支援するというミッションがあります。社内の投資先や関係先に、我々が手掛ける技術やサービスを提供することで、三井物産全体に付加価値を付けていく、そういう役割もあるのです。Drawbridgeは、その側面でも手掛ける価値のある事業だということも強く主張しました。

 「『モノ』の次は『ヒト』がインターネットとつながる」と芹澤氏

「『モノ』の次は『ヒト』がインターネットとつながる」と芹澤氏

クロスデバイスの意義

堀内:2017年7月に日本にサービスインしましたが、データはどれくらい溜まったんですか?

芹澤:DSP(デマンドサイドプラットフォーム)、SSP(サプライサイドプラットフォーム)、DMP(データマネジメントプラットフォーム)など、いろいろなアドテク企業とのあいだで、Drawbridgeをハブにデータを共有し合う形で導入いただいたおかげで、量的には十分な量が溜められました。日本のネット人口が1億人だとすると、昨年末の段階で7100万人ほど。デバイス数でいうと4億台ほどです。精度も向上しており、現在は正確性9割といった数字も出ています。

堀内:現状は広告分野での活用がメインだと思いますが、どういった使われ方をしていることが多いですか。

芹澤:広告主目線でお聞きするニーズのひとつは、フリークエンシーキャップのコントロールですね。Drawbridgeを使えば、複数のデバイスをまとめて1人とカウントし、そのうえで1人当たりのインプレッション上限値を設定できるので、ROI向上やCPA改善に役立ちます。

ほかにも、すでにスマートフォンでCVR(コンバージョン率)を達成しているのに、別のデバイスには引き続きリターゲティング広告が表示され続けるといった問題も、Drawbridgeで対応できます。

堀内:クロスデバイスだからこそ、可能な対応ですよね。

芹澤:そうですね。もうひとつ、広告施策の詳細な検証が可能になるのも強調したい点です。複数デバイスにまたがった行動も、1人の行動として検証・分析することが可能になります。マーケティング予算もより適切に配分できるようになるので、効果的にPDCAを回せるようになります。

また、最近目立つのが、テレビとスマホをリンクできないかというお問い合わせです。日本だとネットにつながり、かつデータ利用のオプトインが取れているものはまだ少ないですが、将来的には、テレビCMを見て、スマホで見て、最終的にどこでCVRを達成してといった検証も、全部一気通貫で管理できるようになるはずです。

堀内:デバイスごとに分断されたデータだと、仮説止まりになってしまいますものね。

芹澤:アトリビューションやカスタマージャーニーは、まさにその分断が課題だったわけですが、異なるデバイス間の分断や、ブラウザとアプリ間での分断などで、なかなか分析できなかったところを、Drawbridgeがお手伝いするという感じです。

箱入りならもっと効率的

堀内:そもそも、企業がTREASURE CDPを導入する一番の目的は、顧客の行動を蓄積することで、そのインサイトを理解したいということです。特にマーケターは、顧客理解を課題として持っているから、その文脈で考えると、Drawbridgeデータはまさにその要求に最大限に応えられるものだといえます。しかも、データだけで提供するよりも、「箱」に入れて提供したほうが効率的です。その箱にアルゴリズムが付いていれば、なおいいですね。

芹澤:そうなんですよね。お客様からのご要望にすぐに応えられる形で渡そうとすると、やはり「箱入り」で渡す必要が出てきます。Drawbridge単体として提供するよりも、Drawbridgeを入れたTREASURE CDPを提供したほうが、ご要望のことはこれを使えばすぐできますよ、と言える。我々としては、TREASURE CDPが売れて、そこでDrawbridgeデータが使われるという形で展開できればいいなと思っています。

堀内:Drawbridgeのデータが入った状態でTREASURE CDPを導入すれば、最初からクロスデバイスマッチングの技術を使った同一ユーザーの特定と、精度の高い分析が可能になりますからね。

芹澤:Drawbridgeのデータを活かすプラットフォームやソリューションはアライアンスで補完して、はじめて実効性を持つので、今後も日本国内でどんどんパートナーを見つけて組んでいきたいですね。

 「これからは『個人情報のない個人データ』が重要になる」と堀内氏

「これからは『個人情報のない個人データ』が重要になる」と堀内氏

行動がベースになっていく

堀内:いま、我々も多少関わらせていただいていますが、位置情報も取り込んだクロスデバイスマッチングにも取り組んでいますよね。これが一般化すると、データマーケティングの常識が大きく変わりそうですよね。

芹澤:Drawbridge自体にはオフラインの位置情報を提供する機能はありませんが、そういったサービスを提供している企業と一緒に組んで、アプリとブラウザのcookieをDrawbridgeで繋ぐことで、位置情報とスマホとPC、まさにオンラインとオフラインをつないで、1人の人間の情報としてまとめることが可能になると思います。

堀内:「個人情報のない個人データ」を作れるのがいいですよね。これまでのデータマーケティングは、デモグラフィックデータをもとに、F1、M1など、年齢別区分などで分析せざるを得なかったですが、これからはこのような単純な年齢区分などは意味をなさなくなると思います。40代と言っても、落ち着いた嗜好の人もいるし、逆にアクティブ嗜好の人もいる。だったら、行動をベースに「20代の行動をする人」とセグメントしたほうが、端的に言って使いやすいですよね。人は必ず原因があって行動するので、因果関係がきちんと取れれば精度の高い元データが作れるはずです。

芹澤:クロスデバイスは日本でまだ啓蒙が必要な分野だと思っているので、今年は具体的な事例を積極的に作っていって、理解が進めばいいと思っています。あくまで個人的な考えですが、TREASURE CDPを介して、三井物産グループ内で試験的に関係会社や出資先でデータを共有し合うのも、いろいろなデータが集まって面白いのではないかと妄想しています。

堀内:ある意味壮大なPoC(概念実証)ですね。そういえば、少し話は変わりますが、新しい施策の話をすると、決まって出てくるのは「人材」の相談なんです。それ面白いね、でも、それを回せる人誰かいない? と。前回対談したLegolissのような方たちがいないと、結局、新しい展開って難しいんですよね。

芹澤:LegolissのようなCDP導入支援のコンサル的な部分は、いまも強いニーズがあります。さらにDrawbridgeのような新しい技術やサービスが加わってくると、できることが広がる分、ますます伴走者の存在も重要になってきますよね。我々だけでなく、Legolissのようなパートナー企業も巻き込んで、ぜひ新しいことをやりたいですね。

 

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▼堀内 健后
トレジャーデータ株式会社 マーケティング担当ディレクター

 

1976年、東京生まれ。2001年、東京大学大学院工学系研究科修了後、プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント株式会社(現 日本アイ・ビー・エム株式会社)へ入社し、経営コンサルタント業に携わる。2006年、マネックス証券の親会社であるマネックスビーンズホールディングス(現 マネックスグループ株式会社)へ転職。2013年2月にトレジャーデータ株式会社へ入社し、ジェネラルマネージャーに就任。2014年7月、日本事業の拡大に伴い、マーケティングディレクターとなる。

▼芹澤 新
三井物産株式会社 ICT事業本部 デジタルマーケティング事業部チームリーダー

 

2003年三井物産株式会社へ入社。業態変革プロジェクトに参画し、海外拠点でのERP導入を担当後、2008年より現事業本部にてICT分野の新規事業開発等に従事。中国北京駐在時には、AOL Platforms Japan(現Oath Japan)の中国事業での現地大手ネット広告代理店等とのアライアンス等を担当。本社帰任後も同社のアライアンス構築支援等を行うとともに、新規事業開発に従事し、本年7月に米国Drawbridge社と資本業務提携の上、同社事業の日本展開を開始。

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Written by 内藤貴志
Photo by 渡部幸和