「データドリブン」の必要性は、もはや誰もが認めるところだ。しかし、それをバックアップするプライベートDMPに対しては、まだ十分に正しく理解されているとは言えない。そこで今回は、データ分析を核としたマーケティング支援を行う、レゴリスの重原洋祐氏・田中龍氏を迎え、トレジャーデータの堀内健后氏とともに鼎談を実施した。
「データドリブン」の必要性は、もはや誰もが認めるところだ。しかし、それをバックアップするCDP(Customer Data Platform)/プライベートDMPに対してはどうだろう。まだまだ十分に正しく理解されているとは言えないだろう。
プライベートDMPは導入に手間や時間がかかる、費用が高額だ、すでに十分なデータを持っている企業じゃないと導入しても意味がない、といった一部に広がる「誤解」は、導入を検討している企業に躊躇を感じさせている。一方で、CDP/プライベートDMPさえ入れれば、自動的にビジネス上の問題点が可視化されて、新たな戦略視点が生まれるはずといった、過剰に楽観的な期待も根強くある。
プライベートDMP導入の大きなメリットのひとつは、データの収集・分析から施策までのタイムラグを限りなくゼロにできるところにある。「だからこそ、導入はスピーディに済ませて、一刻も早くビジネスに役立ててもらいたい」と、トレジャーデータ株式会社のマーケティング担当ディレクター、堀内健后氏は言う。トレジャーデータは、さまざまなカスタマーデータを集約できる、プライベートDMPの進化系システム、TREASURE CDP(トレジャーCDP)を扱っている。
そこで今回は、データ分析を核としたコンサルティングや関連システムの導入支援を数多く行っている、株式会社Legoliss(レゴリス)で副社長を務める重原洋祐氏と同社マーケティングマネージャーの田中龍氏を迎えて、堀内氏とともに鼎談を実施した。豊富な現場経験から、TREASURE CDPをはじめとするCDP/プライベートDMPの導入に際して、どういった点がボトルネックになっているのか、どのような点が誤解されているのかを伺っていく。
堀内 健后 氏(以下、堀内):TREASURE CDPはある種のデータウェアハウス(DWH)を簡単にしたサービスだと思っています。なので、我々としては、導入の手間も出来る限り、簡便化したつもりでいました。ですが、以前、おふたりとお話して、実際は導入に際して敷居の高さを感じているお客様が思いのほか多いと伺って、まだまだだなと。
田中 龍 氏(以下、田中):マーケター主導で導入するにしても、社内の決裁ルートは結局、IT・システム関連部署なども通らざるを得ない場合も多いんです。この余分なルートが、TREASURE CDPの導入を難しくさせる理由のひとつのような気がします。
堀内:なるほど、そうですよね。
重原 洋祐 氏(以下、重原):実際の導入作業は、Webならちょっとタグを貼るくらいで、そんなに難しくはないはずです。ただ、マーケティングサイドの方々は、そのような作業を極端に苦手に感じる人が多い傾向があるような気がします。また、TREASURE CDPを使いこなすためには、SQLを使えるに越したことはありません。SQLのスキルは、必須ではありませんが、マーケターによっては心理的な障壁になる方もいるようです。
田中:導入自体が目的になってしまっているケースもありますね。トップダウンで導入が決まったり、競合が導入しているのを見て、横並びで「うちもやらなきゃ」と思ってしまったり。そうすると、リードタイムがかかったり、なかなか社内説得が進まなかったりして、決裁が遅れるところも見かけます。
重原:実際、CDP/プライベートDMPの導入は、全体的に面倒なのは事実です。ただ、それを乗り越えないとその先にはやっぱり行けません。だから、導入に際しては、なによりもそれを乗り越える「覚悟」は結構必要だったりします。
田中:導入がうまくいくプロジェクトには、なぜか必ずクライアントのマーケターのなかにひとり、積極的に導入を進めようとしている旗振り役、「確信犯」がいますね。そういった存在がまず重要に思います。

「積極的にシステムの導入を進めようとする旗振り役が重要だ」と田中氏
導入ハードルの誤解
重原:導入ハードルに関して言うと、料金もポイントでしょうか。特に、CDP/プライベートDMPを自力で使いこなせないからとSIerに頼むと、それだけで費用にプラス数千万円が加算されてしまう。その場合、導入の検討をはじめたところからカウントすると、実際にデータを入れて使いはじめるまでに1年間くらいかかるケースも珍しくありません。おかげで、思った以上にコストも期間もかかるというイメージが広がってしまい、それが導入の壁になっている気がします。
堀内:「1億くらいかかるんじゃないの?」と、思われている部分もあるようですね。
重原:実際はそこまでかかりません。クラウドサーバーでプライベートDMPを構築するとなると、本当に1~2億円ほどかかかります。ですが、TREASURE CDPだったら導入にかかる費用は2000万円くらい。ただ、この金額、弊社の感覚で言っても、ちょっと高いかなと思っているんですよね。
堀内:現状、セキュリティに厳しい会社などが、「暗号化パックを作ってください」となったら本当にSIer仕事になってしまい1〜2億ぐらいかかるでしょうか。当社はそういった要望や、さまざまな知見や経験が溜まっていき、標準機能として組み込み、選べるようにしているので、利用料を低減するだけでなく、最終的には導入のスピードや利便性は増すはずなんです。
重原:一方、我々も、最近は引き出しが多くなってきたので、導入作業の価格は下げてもいいかなと思ってはいます。
堀内:それは、結果経験を積んで使い回せるSQLが増えてきて、ナレッジが溜まってきて、どんどん作業負担が低減しているってことですよね。他社と比べて高い/安いの話は導入作業の内容や質も絡んでくるので難しい比較ですが、自社内で以前と比較して高い/安いというのはわかりやすいですね。
重原:そうですよね。
堀内:CDP/プライベートDMPを導入するということは、溜めたデータを分析して、打つべき施策を決めるということです。だから、データを溜めるまでに1年かかると、その分施策のスタートも1年遅れる。だからこそ、我々も、スムーズにお客様が導入できる状態に整えていかなければならないと思います。ちなみに、すでにTREASURE CDPを導入済みの会社から相談を受けることもあるんですよね?

「データ施策の導入は一刻も早く済ませて、ビジネスに役立てた方がいい」と堀内氏
使えるデータの在り処
田中:ありますね。「データもすっかり入っているけれど、さぁ、これからどうしたらいい?」という相談は実は、結構あります。その反面、データを分析して何かしたいけれど、うちには分析できるほどのデータはもっていないよという企業もあります。
重原:オンラインでビジネスしていない会社とか、エンドユーザーの情報を持っていない会社などはそう思い込んでいる傾向が高いです。ただ、その会社がやりたいこと・目的を伺うと、多くの場合、その答えは社内にあります。データがあることに気づいていないだけなんです。
堀内:使えないデータだと思っていたのが、実は使えるデータだったという実例って、どんなものですか?
田中:あるお客様の事例がわかりやすいですね。ゲームセンターと連動していて、チェックインするとポイントを付与するという自社アプリを持っているのですが、数十万ダウンロードされているにも関わらず、位置情報のデータをほぼ活用していなかった。
そこで、データを溜めて分析した結果、近くに店舗があるのに気づかず、遠くの店舗に行く人が結構たくさんいたことが分かりました。そういう人を、近くの店舗に誘導するようなプッシュ通知の施策などを考えれば、来店頻度が高くなるかもしれないですよね。
堀内:興味深い話ですね。
重原:テレビ東京さんの事例もそういったもののひとつです。同社では、動画配信を自社アプリの「ネットもテレ東」、民放共同配信アプリの「TVer(ティーバー)」、「GYAO!(ギャオ)」、そして「ニコニコ動画」の4つのアプリで行っていますが、配信の主体と形式が異なるため、単純にデータを統合することはできません。
ヒアリングをしていくと、テレビ東京さんは上記のような状況をふまえ、データマネージメントの観点から、すべて統一されたアドサーバーから広告を配信していることが分かりました。すでにTREASURE CDPを導入済みだったので、だとすれば話は早い。実は広告配信時にTREASURE CDPのタグを挿入しており、データは取れていたのです。データを探し出して見てみると、広告識別子やCookieIDなどがすべて取れていると分かり、データがすべてつながりデータの活用が可能となったということがありました。
堀内:ふたつの事例を伺うだけでも、導入前の段階からきちんと目的をヒアリングすることの重要さを感じますね。
重原:CDP/プライベートDMPを使った成功事例がまだあまり表に出ていないことも、目的なしに導入するケースを誘発しているのかな、と思います。CDP/プライベートDMPでできることや、メリットのイメージが希薄で、その効果の分かりにくさが導入のハードルのひとつかもしれない。
田中:LPO(ランディングページ最適化)ツールぐらい導入目的が明確なものだと分かりやすいですが、CDP/プライベートDMPはそこまでシンプルなものではない。いろいろなことができる汎用性や拡張性の広さが魅力的なので、何のために入れて、それによって成果がどう上がったかというのは、ある意味ケースバイケース。それを一般的な実績として見せるのは難しい。とはいえ、プライベートDMPを導入してから時間がたった事業主も多いため、そろそろ成功事例が表に出てきてもいいのかなとも思います。

「CDP/プライベートDMPの具体的な成功事例がまだ少ないのが問題だ」と重原氏
デジタルシフトの意味
重原:そういった意味では、ある消費財メーカーの事例が象徴的です。「データがあるので、とりあえず分析してみてほしい」という依頼を受け、3カ月ほどかけて分析したのですが、我々からすると、ごく常識的な結果しか出なかったですよね。それなのに、最後とても喜んでいただいたんです。
堀内:相手にとって、サムシングニューな知見があったわけですね。
田中:どうやら、これまで業界内の暗黙知であったものを、オンラインデータだけできちんとファクトとして出せたといったところが、興味深かったようです。いままで見ていたターゲット像やペルソナと、オンラインに溜まっていたデータで見たことが比較的近しい結果になった、というところに評価をいただいた。
重原:消費財のような最寄品は、おそらく、デジタルで捉えられるユーザー像と、現場でリサーチを重ねて作ったユーザー像は、昔は乖離が大きかったのではないかと思います。そこが一致するようになってきたんでしょうね。
堀内:それは我々にとっても、興味深い話です。デジタルマーケティングというと、従来のマーケティングとはちょっと違った取り組みが必要だと思い込んでいる人もまだ多いように思います。そのような傾向が出てくるならば、従来のマーケティングをデジタル化することが重要ですよ、という提案ができる。CDP/プライベートDMPの導入目的の敷居を下げる意味で、すごく有効なアプローチかもしれません。
データドリブンのコツ
重原:とはいえ、ただただ、ゴールもない中で、分析すれば何か問題点や解決策が出るはずという思い込みは、ちょっと考え直してほしいですね。
堀内:問いもなく、ただ丸投げというのは厳しいですね。
重原:我々としては、最初に問いを投げてくれて、回答が出るまで一緒に考えてくれればいいのです。単純に言うと、CPAを下げるためにどうすればいいですか、というオーダーでもいい。問いさえあれば、それが提案の足掛かりになる。
田中:明確な目標を持ったうえでTREASURE CDPを導入する流れがベストなのは間違いありません。ただ、TREASURE CDPはデータを溜めて、はじめて使えるものなので、目標よりも先に、とりあえず溜めてみようというスタートラインでもいいかなと思います。最終的な目的が揺れても、その揺れに合わせてTREASURE CDPを調整して使えばいいわけですし。
重原:本当にやりたいことというのは、大きな目標であることが多いので、すぐにはできないケースが多い。着実にそこに向かってやれるようなスモールスタートができると、いいんじゃないでしょうか。
田中:SIerに相談すると、とにかく要件定義ありきですよね。仕方ないことなのですが、それベースで構築してしまうと要件定義から外れることはできないし、できたとしても莫大な費用と時間がかかる。小さくはじめながら、さまざまな事案に対応していけるのは、TREASURE CDPのいいところだと思います。
堀内:要件定義が大切というのは、ある意味IT業界の常識だとも言えますが、それだけにそれ以外の業界の人からすると、戸惑いがあると思うんですよ。実際に導入/運用するのはお客様なのだから、導入に際してお客様の知らない独自の文化や言語だけを使って進めても難しいと思います。そこは我々も頑張って、お客様の理解の範囲のなかでスムーズに導入ができるようにしていかないといけない。
重原:Legolissのような、マーケターの皆様と伴走しますよという会社を挟むことで、事業会社のTREASURE CDP導入のハードルが下がるのは確かです。ただ、いつか、いま我々がやっているような業務は必要なくなるときが来ると思っていますし、本来的には、マーケターの皆様がご自身でデータ環境の整備をして、その企業ならではの課題にアジャストしたデータの可視化/使い方を模索していくようにならなければ、データ活用の未来はないとも思っています。我々はデータを使い倒す市場を皆様と共に創り、またその市場を広く一般化して行くことを理想に掲げ、常に先を見据えて新しい価値を皆様に提供していくつもりです。
▼田中 龍(写真左)
株式会社レゴリス 取締役 / マーケティングマネージャー
2003年、株式会社オリコム入社。2007年より、株式会社大広にて、アカウントプランナー/ストラテジックプランナーとして、事業戦略/新商品戦略構築や、ブランドコミュニケーション設計、データマーケティングなどを支援。2015年よりLegolissに参画。
▼重原 洋祐(写真中央)
株式会社レゴリス 取締役 副社長
2002年にDAC入社。様々なプロジェクトなどを経験し、アイメディアドライブ/モデューロの代表取締役就任。退任後はフリーを経てLegolissに参画。Legolissでは主にDMP関連の構造構築やビジネス開発を担当。
▼堀内 健后(写真右)
トレジャーデータ株式会社 マーケティング担当ディレクター
1976年、東京生まれ。2001年、東京大学大学院工学系研究科修了後、プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント株式会社(現 日本アイ・ビー・エム株式会社)へ入社し、経営コンサルタント業に携わる。2006年、マネックス証券の親会社であるマネックスビーンズホールディングス(現 マネックスグループ株式会社)へ転職。2013年2月にトレジャーデータ株式会社へ入社し、ジェネラルマネージャーに就任。2014年7月、日本事業の拡大に伴い、マーケティングディレクターとなる。
Sponsored by トレジャーデータ
Written by 内藤貴志
Photo by 渡部幸和