DMPは数年前からトレンドになり、いまやデジタルマーケティングツールの一ジャンルを形成している。さまざまな企業がサービスを提供しており、ひと口に「DMP」と言っても、サービスごとにもっとも得意とするところは異なる。ブレインパッドの近藤嘉恒氏、トレジャーデータの堀内健后氏に、その違いについて話を聞いた。
企業のデジタルシフトが急速に進んでいる。
社内に蓄積したさまざまなデータを収集・統合・分析し、新たなデジタルマーケティングアクションへの一助とする。こうした施策の代表的な伴走者がDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)だ。
DMPは数年前からトレンドになり、いまやデジタルマーケティングツールの一ジャンルを形成している。さまざまな企業がサービスを提供しており、ひと口に「DMP」と言っても、サービスごとにもっとも得意とするところは異なる。
そのなかで、目立つ動きとなっているのが、プライベートDMPシェアNo.1のRtoaster(アールトースター:※)とTREASURE CDP(トレジャーCDP)を同時に導入する企業が増えていることだ。一見、競合サービスに見える両社だが、むしろ積極的に連携をアピールする関係でもある。現在は共同でOne to Oneプラットフォームを提供している。
本稿では、Rtoasterの開発・販売を行うブレインパッドのマーケティングプラットフォーム本部で副本部長を務める近藤嘉恒氏、TREASURE CDPを提供するトレジャーデータでマーケティングディレクターを務める堀内健后氏に、DMPに関する誤解、それぞれのDMPの特徴と提携のメリット、今後の展望についてお話しいただいた。
堀内 健后 氏(以下、堀内):ブレインパッドは、創業以来10数年にわたってデータ分析を軸に展開してこられたわけですが、その立場から、現在の企業のデジタルシフトに関する動きを、どう見られていますか?
近藤 嘉恒 氏(以下、近藤):構造化、非構造化データを問わず、企業は、実はデータをたくさん保有しています。しかし、多くの場合、堀内さんたちが「サイロ化している」とよくおっしゃっているように、「データはたくさん積みあがっているけれど、それぞれの山を繋ぐものが何もない」状態です。
ビッグデータがビジネスの潮流となっているいま、多くの企業が、繋ぐものさえあれば、「サイロ化された情報」が「宝」になると気付いたのでしょう。それこそが、現在におけるデジタルシフトの急速化が起きている一番の背景だと思います。
堀内:さまざまなデータを保有していたとしても、横断的に活用できる状況になければ結局、ひとつのサイロから導き出された結果しか知り得ない。それは、企業も昔から分かっていたはずです。でも、できなかった。
今後は、顧客がウェブやアプリで接している面や、POSだけでなく、家電や自動車を使うことでもデータが貯められるようになっていきますが、それに伴ってレコメンドする内容もリッチになっていくはずです。そういう意味で、デジタルシフトはますます進むと考えています。
最近のプロダクトを見ると、Bluetooth(ブルートゥース)搭載や、アプリ連携などと謳い、最初からデータを出力できるように設計してあるものが多くなりました。データを「繋ぐ」という意識を持つ企業が増えたのではないでしょうか。

「データを『繋ぐ』という意識を持つ企業が増えた」と堀内氏
「機能的になにが違うの?」
近藤:弊社では社風的に自社製品のカテゴライズに関してやや無頓着だったのですが、TREASURE CDPと連携する機会が増えて以来、考えを改めるようになりました。「どちらもDMPだったら、機能的になにが違うの?」と聞かれることがあまりにも多いので。
堀内:DMPは一般的に、第三者データを対象とするパブリックDMPと、第三者データのほか自社データも対象とするプライベートDMPに大別されます。その区分で言えば、弊社のTREASURE CDPも、ブレインパッドのRtoasterも、両方ともプライベートDMPにカテゴライズされるサービスです。同じカテゴリー内のサービスを連携して、何の意味があるの? と思われても仕方ないとも言えます。
TREASURE CDPの得意分野は、簡単に言えば、構造/非構造データに関わらず、さまざまな種類のデータを収集・保管・分析でき、そのデータをほかのデジタルサービスへ連携するところです。他サービスへ繋ぐところまではやりますが、その先のアクションはタッチしません。蓄積したデータを活用してもらってこそのDMPですので、マーケターにとって使いやすいアクションツールとの連携は長らくの課題でもありました。
近藤:いわばTREASURE CDPは、「データレイク型プライベートDMP」という感じですよね。その一方、弊社では、Rtoasterをレコメンドエンジン搭載の「アクション型プライベートDMP」という名称で説明しています。この名前がすべてを物語っていますが、Rtoasterは、TREASURE CDPが「タッチしない」と言っている、データ統合後のアクションのほうが本領です。最大の強みは3つの手法による高機能なパーソナライズと、それに基づいたウェブ接客的機能。これらを包括的に提供できるのが我々の特徴ですが、せっかく良いエンジンだったとしても、分析元のデータの質が悪ければよりよい結果を出すことはできない。より精度の高いパーソナライズを行うためにも、きちんと統合・管理された質の高いデータとの連携は弊社にとって大きな課題でした。
Rtoasterのリリースは2006年。先日、そのときのプレスリリースを見返したら、「顧客の属性データや購買データ、その他CRMデータとの連動を用いて、ウェブでのパーソナライズドレコメンデーションをします」と書いてありました。それは、いまも変わりません。
互いに最強のパートナー
堀内:DMPを「データ分析」という観点からマーケットに供給したのは、ブレインパッドさんが先駆けですよね。
近藤:そもそもRtoasterはレコメンドエンジンを核にしたところからはじまっています。レコメンドエンジンの機能を最適に発揮させるために、結果としてDMPとして発展することになりましたが、本質的にレコメンド、パーソナライズド、ターゲティングといったアクションこそがコアであるという意識が強くあります。その点が、データベースを由来とするTREASURE CDPと異なるところであり、だからこそ、お互いの強みを最大限に発揮できるパートナーになりえたのだと思います。
堀内:TREASURE CDPとRtoasterの連携のメリットのひとつに「DMP施策に関する開発工数が下がる」というのもありますが、特に実務者にとっては嬉しいことだと思います。我々の提携の利点は一見わかりにくく見えるからこそ、細かなことも含めて、そのメリットを丁寧に説明していきたいですね。

「サイロ化された情報が宝になる」と近藤氏
2製品の連携導入事例
近藤:自動車メーカーでの事例なのですが、先にトレジャーデータが依頼を受けていて、TREASURE CDPを導入済みでした。メーカー本体だけでなく、系列のディーラーも含めてグループ全体のデータを一元化する最大の目的は、そのデータを使って効果的にCRMを実施することにあったので、トレジャーデータから紹介を受けて、Rtoasterも導入いただいたのです。
サイロ化されたデータを繋いで、個々のデータをパーソナライズドすることは、TREASURE CDPでもできますが、メーカーが求めていたのはそれだけに留まらない、さまざまなアクションを可能にするツールの導入でした。TREASURE CDPでデータの統合を行い、Rtoasterで複合的なマーケティング的アクションを行う。まさしく、我々が理想とする形でご利用いただいた事例のひとつです。
堀内:ほかにも総合通販会社のような、オンラインビジネスでデータを集めやすい企業でも、この2製品を連携して導入していただきましたよね。
近藤:そうですね。一般に通販会社はデータの宝庫ですので、その企業でもすでにさまざまな形でデータをたくさん持っていました。企業としても、このデータを社内のマーケターたちに活用してほしいと思っていましたが、そのあいだに情報システム部という高い壁があるのが、ひとつの問題でした。アイデアレベルのことをシミュレートするだけでも、その都度、社内手続きが必要というのは、あまりにも非効率です。
そのために、まず一番底辺にある基幹システム、事実データを引き上げて、マーケターが自由に操れる状態にしました。データの統合、管理よりも、データを操ることが上位の目的だったので、Rtoasterの方が適任だとご紹介いただいたのです。
データが手元にあるので、マーケターたちはターゲティングのレコメンドや自動レコメンド、ポップアップやコンテンツのコントロールなどができるようになり、スムーズにコンテンツマネジメントが実行できるようになりました。Rtoasterにはマーケティング実行支援ツールという側面もありますが、その特徴を存分に活用いただいた事例となりました。
このような事例の紹介は、我々のサービスのリファレンスであるとともに、同じような目的意識を持つベンダー同士で共有する情報でもあると思っています。リファレンスを持っている者同士が話し合うことで、新しい「その先」への道筋も、見えてくるのではないでしょうか。
「DMP」の新しい解釈
堀内:我々も同じようなことを考えていて、いま重視しているのは、クローズドに顧客の課題を聞けるイベントを開催することです。「データ統合後のその後」をきちんと聞き取って、想定しうる限りの課題をソリューション化できるようにしたいと考えています。マーケターの嗜好、目的に合わせて組めるオーケストレーションを提案する、そこを深めるのが目標です。
近藤:Rtoasterの目標はふたつあります。ひとつは、トレジャーデータが昨夏TREASURE DMPをTREASURE CDPにリブランドしたように、我々もまた、プライベートDMPというカテゴリーを超えて、独自のポジショニングを謳っていかなければならないということです。
もうひとつは、Rtoasterを現場のマーケターにとって使いやすいモノにしたいということです。UIはもちろん、本質的なユーザビリティも含め、仕組みの機能強化に関してもっと深く取り組もうと思っています。マーケターがアクションについて考えることに時間を費やしてもらいたいというのは、Rtoasterの密かなコンセプトでもあるのです。
堀内:これまでの話を伺うと、近藤さんが言うDMPとは、「データ・マネジメント・プラットフォーム」ではなく、「デジタル・マーケティング・プラットフォーム」ということなのでしょうね。
新しいマーケットを作る
近藤:まさしくそうです。Rtoasterは業界の中では最先端のレコメンドエンジンを搭載しています。それに加えて、MA的な発想のシナリオをWeb上で設計できるのは、実は唯一Rtoasterだけなのです。Web接客ツールのようなパーソナライズのポップアップも設定でき、かつそのなかでアイテムのレコメンドも出せる。これもRtoasterだけが持つ機能です。だからこそ、このRtoasterという唯一無二のポジションを、イメージの誤りなく伝えていく術を考えるのが、来年度の課題です。
堀内:データサイエンティストとデジタルマーケティングコンサルタントは、立ち位置の異なる仕事ですが、我々2社の連携とは、実はこの2つの連動とも言えます。これを本質的に理解するベンダーさんも増えて、徐々に業界内の認知も進んでいます。なので、今後は、インテグレーターも含めて、もっときちんとした、新しいマーケットを作っていきたいですね。
▼堀内 健后(左)
トレジャーデータ株式会社 マーケティング担当 ディレクター
プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント株式会社(現 日本アイ・ビー・エム株式会社)に入社。業務改革、システム改革のプロジェクトに多数参画。2006年、マネックスビーンズホールディングス(現 マネックスグループ株式会社)に入社、業務・システム刷新プロジェクトを担当。その後、組織改革や投資先支援、顧客向けWebサービスの企画・開発のプロジェクトマネージャーとして活躍。2013年2月、トレジャーデータ株式会社入社、日本国内での事業展開を進めている。
▼近藤 嘉恒(右)
株式会社ブレインパッド マーケティングプラットフォーム本部 副本部長
大学卒業後、オービックにてERP営業に従事。その後、自社マーケティング部門を新規に立ち上げ、プロモーション全般を担当。2011年にエクスペリアンジャパン(現チーターデジタル)に入社し、「MailPublisher」の営業統括、「CCMP」の国内営業立ち上げを行う。2016年よりブレインパッドに参画。プライベートDMP「Rtoaster」を中軸としたマーケティングプラットフォームの事業企画を担当。
※「プライベートDMPシェアNo.1のRtoaster」:ITRが発行している「ITR Market View:メール/Webマーケティング市場2018」に記載された内容を引用したものです。
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Written by 内藤貴志
Photo by 渡部幸和