テクノロジーの進化により、マーケターに求められる知識やスキルは、専門化・高度化している。その結果、業界ではいま人材不足が大きな問題に。トレジャーデータのマーケティングディレクター堀内健后氏とKaizen Platformプロダクト責任者の瀧野諭吾氏の対談から、業界の人材問題をどう解消していくべきかを探る。
マーケティング業界の人材不足が深刻化している。
デジタル環境やツールの絶え間ない進化によって、必要な知識やスキルは専門化・高度化した。そのため、企業の内部人材だけでは、マーケティング全般を十分にハンドリングできなくなっているのだ。また、同時に、スキルアップやキャリアアップを追求するクリエイターやマーケターは、ひとつの企業に縛られない新たな働き方を模索しはじめている。つまり、デジタル技術の進化やグローバル化が、企業の経営環境とマーケターの働き方に大きな影響を与えはじめているのだ。
トレジャーデータは2018年5月、働き方をテーマにしたイベント、「TREASURE DATA ”PLAZMA” TRANOMON」を開催。そこでは、VUCA(ブーカ:Volatility[不安定]、Uncertainty[不確実]、Complexity[複雑]、Ambiguity[曖昧]の略)時代を生き抜くための働き方はどうあるべきか、熱い議論が行われた。一方、人材問題に果敢に挑み、常に新しい働き方をクリエイターに提供しているのが、Kaizen Platformだ。同社プロダクト責任者である瀧野諭吾氏は、「取り引きのある300社ほどの企業の9割が、人材不足を原因とした業務のボトルネックを抱えている」と語る。
VUCA、予測不能な時代に、企業やマーケターはどのようなマインドセットを持つべきか。理想の働き方はどのように実現できるのか。前述の瀧野氏と、トレジャーデータのマーケティングディレクター堀内健后氏との対談から、業界の人材問題をどう解消していくべきかを探る。
堀内:最近、TREASURE CDPを導入した多くのお客様に共通して見られる問題となっているのが、「ツールはあるけれども、自社のマーケティングをハンドリングするのに最適な人材がなかなか拡充できない」ということです。この問題が、我々としても見過ごせない状況になっています。
瀧野:本当によく聞く話ですよね。いまや、インターネット専門職の求人倍率は5倍を超えているというデータもあり、IT業界全体として、重要な問題だと思います。
堀内:必要な人材がなかなか見つからないのはなぜかと考えると、ひとつには、従来とは異なる働き方を求める人が増えてきているということがあります。もうひとつは、あまりにも業務が複雑化、細分化されすぎてしまい、業務ごとに最適な人材をあてるということが、非常に難しくなってしまったということもあると思います。
瀧野:我々も300社ほどのお客様とお付き合いがありますが、その9割が人材不足を原因とした業務のボトルネックを抱えています。
堀内:最適な人材を探すことと、これからの働き方を考えることは、密接にリンクした問題です。では、そういった人材はどこにいるのか、そして、彼らにとって、プライオリティの高い条件とは何か。5月のPLAZMAでは「働き方改革」をテーマに、経営側、働く側、それぞれからお話しいただき、大変気づきの多いものとなりました。「人」に特化したプラットフォームであるKaizen Platformは、働き方にどのような影響を与えるのでしょうか?

最適な人材を探すことと、働き方を考えることはリンクしている」と堀内氏
チーム単位でリソース提供
瀧野:Kaizen Platformをご存じの方は、クラウドソーシングを介して、グロースハッカーと呼ばれる社外のデザイナーやタレントから、改善案の提案を受けられることを特徴としたA/Bテストツールのイメージが強い方もいらっしゃると思います。現在はそこから発展して、おもにマーケティング、クリエイティブ領域で、発注側企業の事業領域に合わせた実績・スキルを持つグロースハッカーチームを作り、クラウド上で提供するサービスを展開しています。
堀内:いわゆるクラウドソーシングとは、どこが違うのでしょうか。
瀧野:我々の最大の特徴は、発注側企業の戦略実行に最適な人材を、チーム単位で提供するところです。戦略を作っても実行リソースがないという問題を抱えている企業は非常に多い。分析、PM、ディレクター、グロースハッカー、QA(品質保証)など、戦略実行に必要なスペックの異なる人材を集めて、合計20~30人程度のチームとして提供しています。

Kaizen Platformの概要(提供:Kaizen Platform)
堀内:人的リソースのポートフォリオを公開しているところも特徴的ですよね。しかも、企業側からの評価に加え、チームメンバーからの評価も確認できる。これって、ソーシャルリファレンスのようなものですね。
瀧野:人の評価って、単純に何ができる、過去に何をしたという情報だけでは足りない。すごい経歴を持っている人でも、一緒にやってみるとなんか違うと思った経験って、誰にでもあると思います。特に我々は、チームとしてリソースを提供する以上、人との相性というのも大事な評価基準になります。これまでの蓄積から、誰がどう評価しているかという定性評価をチューニングすることで、スムーズにチームのインテグレーション(統合)が進むことがわかってきました。
堀内:いまや、デジタルマーケティング関連の業務は複雑化していて、そのチーム内でのコミュニケーションも多く発生しますからね。相性を度外視しした人員確保は、ミスマッチに繋がりかねない。その点、さまざまな角度からの評価を可視化できるプラットフォームの存在は大きいですよね。
瀧野:特にソーシャルフィードバックが可視化されるところに、大きな価値があると考えています。我々としては、登録いただいたクリエイター、タレントの強みを可視化することによって、その人だけではなく、発注側の企業にも大きなメリットがあると信じてやっています。
原理原則を打ち崩す
堀内:Kaizen Platformでは、発注側である企業の戦略に対するフィット&ギャップ分析は実施しているんですか?
瀧野:はい。いまは社内のスタッフが分析しています。ただ、中長期的なビジョンを持った戦略を作るという文化があまり浸透していないクライアントもいらっしゃるので、まずその具体化から入るということも多いです。戦略がしっかりしていないと、どんなにいいチームを提供してもうまくいかないことが多いので。
堀内:そこがすごく気になっていて。Kaizen Platformでは、受注側はポートフォリオで過去に受注した案件が一覧され、評価も公表される仕組みですよね。もし、発注側企業の戦略とのあいだにギャップがあったことによって、クリエイターやタレントがよい成果が上げられなかった場合は、圧倒的に個人である受注側が不利になりそうです。
瀧野:おっしゃるとおりです。発注側の戦略と受注側のスキルにミスマッチが発生する可能性は否めません。その対策として検討しているのが、発注側と受注側の相互レビューです。発注者が強いという原理原則がなくならない限り、日本のストラテジカルな人材って育たないんじゃないかなって、ちょっと思っているんですよね。
堀内:たしかに、そこは、大きな課題ではありますよね。
瀧野:Kaizen Platformに登録して働く目的は人それぞれです。その目的に応じて、自由に引き受けたり、断わったりできるプラットフォームであらねばならないと思っています。そのためにプラットフォーム側としてできるのは、多様な選択肢を用意することなんですよね。
堀内:そのうえで、仕事の中身を可視化する仕組み作りも必要になってくる。
瀧野:そうですね。具体的に言えば、先ほど言った相互レビューですが、そのほかに、クライアントの戦略を可視化して、プラットフォームに反映させるということも考えています。

「発注者が強いという原理原則が崩れなければ、戦略的な人材は育たない」と瀧野氏
変化する勇気を持つ
堀内:カギになるのは、発注側企業がどうマインドセットを変えられるかですが、正直、企業にとってはちょっと怖い部分もあるかもしれませんね。
瀧野:発注側からすると、戦略を公開するのは勇気がいります。しかし互いに対等な立場で仕事を発注し受注をするというやりとりが常態化するためには、このマインドセットを変えることが絶対に必要。この部分に時間がかかるのは当然なので、じっくり取り組むべきところだと思っています。
堀内:受注者側も、これまで受注した仕事の成果が総合評価で可視化されるし、発注者側の戦略を理解した上で総合的にコミットしなければならず、これまで以上に仕事は高度化していくはず。まずは、お互いに、変化する勇気を持つというところからはじめなくてはいけないんでしょうね。
瀧野:そう思います。
「インフレスパイラル」
堀内:働き方のマインドセットを変えるには、Kaizen Platformのポートフォリオの機能を発注側に理解してもらうことがまず必要ですよね。そして、有効活用してもらう。
瀧野:我々も最近ようやく、イベントに出たり、Webサイトを更新したりしているのですが、やはり、啓蒙活動を続けることは大切ですね。理解してくれた人や企業としっかり付き合って成功事例を積み重ねる。気長な話ですが、着実に実行していきたいです。
堀内:個別の事例を紹介するのもいいけど、受注側にとっては、Kaizen Platformを使うと「正しく評価されて、儲かる仕事が増える」、発注側にとっては、Kaizen Platformを使うと「スピーディーに課題が解決する」、という事実だけをプッシュするのもありですね。
瀧野:それはいいですね。一足飛びにあるべき姿を実現するのは無理なので、変化することにメリットがあると、段階を追って徐々に実感してもらうことで、インフレスパイラルを起こしていきたいんです。
堀内:インフレスパイラルですか。具体的には?
瀧野:発注と受注の関係で言えば、現状、発注側が圧倒的に力を持っていますよね。お金が介在するのだから当たり前だという考え方もありますが、そこを突き詰めた結果が昨今の賃金低下・人手不足の状態を招いているとも考えられるわけで、ある種デフレスパイラル状態とも言えます。そこを是正するためには、受注側がきちんと選択権を行使できるような仕組みを整えることだと思うんです。
堀内:発注側と受注側の相互評価というのは、そのための仕組みのひとつですね。
瀧野:相互評価を導入すれば、受注側に無理を強いる発注は淘汰され、健全な発注が増えていく。その結果、多彩なスキルを持った有能な人たちを集めることになり、発注側の利益にもつながる。そういったインフレスパイラルを作り上げたいのです。
堀内:「変わらないと生き残れない」というフィアメッセージ(恐怖や不安を煽るメッセージ)ではなく、「変わるといいことがある」というポジティブメッセージを発信し続けることが大事ということですよね。
瀧野:フィアメッセージでは人は動かない。変わった方がいいことあるよ、と言うほうがはるかに変化を促すはずです。適切な仕事を適切な人に流す「ライトジョブ、ライトパーソン」がKaizen Platformの基本姿勢。それによってIT業界の雇用のあり方を変えたいと思っています。
▼堀内 健后(写真左)
トレジャーデータ株式会社 マーケティング担当ディレクター
1976年、東京生まれ。2001年、東京大学大学院工学系研究科修了後、プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント株式会社(現 日本アイ・ビー・エム株式会社)へ入社し、経営コンサルタント業に携わる。2006年、マネックス証券の親会社であるマネックスビーンズホールディングス(現 マネックスグループ株式会社)へ転職。2013年2月にトレジャーデータ株式会社へ入社し、ジェネラルマネージャーに就任。2014年7月、日本事業の拡大に伴い、マーケティングディレクターとなる。
▼瀧野 諭吾(写真右)
株式会社Kaizen Platformプロダクト責任者
個人事業主として、インターネットを活用したマーケティング施策のコンサルティング・実行代行事業を提供する形でキャリアをスタート。グリー株式会社にて、国内外のソーシャルゲーム・ゲーミングプラットフォーム・広告事業領域プロダクト企画・開発・運用部門の戦略立案ならびに実行マネジメントを担当。2013年より、株式会社Kaizen Platformのプラットフォーム成長・開発戦略の企画・実行、およびプラットフォームのアセットを利用した商品開発を統括するプラットフォーム責任者を担当。
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Written by 内藤貴志
Photo by 渡部幸和