C2C(個人間商取引)はデジタルのなかで目を見張るトレンドだ。企業が人々にサービスを提供するのではなく、Uber、Airbnbという人々のニーズをマッチングするサービスが急速に成長している。
フィンテックでもこのC2Cが興隆している。「レンディングクラブ」のような、個人間の直接融資を調整するP2P(ピアツーピア)レンディングのほかにも、さまざまな分野でC2Cのスキームが試されている。
人々の国際送金のニーズをマッチングするサービスがある。TransferWise(トランスファーワイズ)だ。トランスファーワイズ・ジャパン代表取締役の越智一真氏とTransferWiseCEOのターベット・ヒンリクス氏はDIGIDAY[日本版]の取材に応じ、既存ビジネスより格段に少ない手数料で国際送金ができるサービスの実相と、従業員数が1年で4倍以上になるなど、急拡大を見せる事業の見通しついて語った。
C2C(個人間商取引)はデジタルのなかで目を見張るトレンドだ。企業が人々にサービスを提供するのではなく、Uber(ウーバー)、Airbnb(エアビーアンドビー)という人々のニーズをマッチングするサービスが急速に成長している。
フィンテックでもこのC2Cが興隆している。「レンディングクラブ」のような、個人間の直接融資を調整するP2P(ピアツーピア)レンディングのほかにも、さまざまな分野でC2Cのスキームが試されている。
人々の国際送金のニーズをマッチングするサービスがある。TransferWise(トランスファーワイズ)だ。トランスファーワイズ・ジャパン代表取締役の越智一真氏とTransferWise・CEOのターベット・ヒンリクス氏はDIGIDAY[日本版]の取材に応じ、既存ビジネスより格段に少ない手数料で国際送金ができるサービスの実相と、従業員数が1年で4倍以上になるなど、急拡大を見せる事業の見通しついて語った。
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「透明性と利便性の高いサービスを提供すれば、消費者は非公式の送金を公式にすることに躊躇がないはずだ」。フィンテックスタートアップが集まるコワーキングスペース「FINOLAB」(東京都千代田区)。消費者がTransferWiseで享受できる利点について、越智氏はそう説明した。「世銀によると、国際送金額は54兆円規模に迫っている。この送金の大半は出稼ぎ労働者によりされている。しかも、非公式な送金は含まれないため、市場規模としてはさらに大きいだろう」。非公式な送金を、公式で便利な送金に取り替えられるなら、出稼ぎ労働者、学生はTransferWiseを選ぶはずだ。
TransferWiseはロンドンに拠点を置く、P2P技術を用いた国際送金サービス。2011年に提供開始し、海外送金にかかる手数料負担を10分の1程度まで減らした。現在では50カ国以上でサービスを提供、35通貨を対象にする。スカイプ最初の従業員であるヒンリクス氏が、スカイプのアルゴリズムを応用し開発したという。スカイプのフィンテック化だ。エストニア出身・英ロンドン在住のCEO2人が両国間の送金をめぐり不透明さを感じたことが起業のきっかけになったという(Lifehacker[日本版]に詳しい)。
2013年にPayPal(ペイパル)創業者のピーター・ティール氏らが600万ドル(約6億6000万円)、14年にヴァージングループ創業者リチャード・ブランソン氏らが2500万ドル(約28億円)、15年にネットスケープ創業者のアンドリーセン・ホロウィッツらが5800万ドル(63億円)を投資。名だたる創業者・投資家の資金を集め、瞬く間に評価額10億ドル(約1100億円)以上のユニコーンに成長した。
送金手数料を透明化
銀行が提供する国際送金サービスでは、インターバンクレート(銀行間相場)に銀行の手数料が載せられたレートが使われている。加えて、送金手数料が課せられる。越智氏は「国際送金には複数の金融機関が関わり、不透明なコストが生じている。窓口で待たされることに加え、送金完了まで3〜7日間かかる」と指摘する。
この送金に関して透明性が高く便利な手段を提供するのが、TransferWiseだという。「我々はインターバンクレートを採用し、手数料も銀行の数分の一まで圧縮した」。日本の銀行で国際送金をするには、40〜50分かかる。銀行からみると、少額の取引に対し、行員の40〜50分をあて、人件費を割くことはあまり合理的ではないかもしれない。TransferWiseは日本における外国送金(仕向送金)を2016年3月に開始しているが、送金額上限は100万円以下のため、銀行のビジネスにとくに抵触する部分がないと、越智氏は説明する。
もうひとつの主要な国際送金サービスはウエスタンユニオンだ。同サービスでは国際送金を市中のさまざまなところからできるが、越智氏はTransferWiseには「モバイルでシームレスに利用できる利便性がある」と語った。日本では三菱東京UFJ銀行に口座を開設。3月に外国送金(仕向送金)サービスを開始した。TransferWiseの利用には銀行口座の保有が求められ、顔写真や免許証などの本人確認書類、住所確認のための郵便送付が必要になるという。
「TransferWiseの仕組みの類似例として、グローバル企業が採用するネッティングと呼ばれる方法がある」。ネッティングは企業が為替リスクの低減、為替手数料の削減、決済資金の削減する手段だが、個人もこの方法を利用できるようになる。
急がれる拡大、各国法規への対応
TransferWiseは送金網の拡大を急いでいる。同様のビジネスモデルの追走を防ぐためだろうか。アジアも重視される地域だ。「我々はアジアでは日本、シンガポール、香港で支社をオープンする。中国へ送金することは可能になった。中国から国外に送金するのは、当局との調整が必要になる。我々ができることはひとつひとつ送金網を確保していくことだ」と千葉・幕張で開かれたSlush Asiaの会場で、ヒンリクス氏は語った。
アジアには華人(移住先の国籍を取得する中華系)のネットワークがあり、彼らはインフォーマルな送金ネットワークを発達させていると言われる。このネットワークは潜在的な競争相手かもしれない。ヒンリクス氏は「イスラム教徒の伝統的な送金システム『ハワラ』は数百年前から存在している。こういうインフォーマルな送金ネットワークは現金に依拠している。現代はお金がデジタルになっている時代であり、人々はデジタル上で滑らかなサービスを受けられることを歓迎するだろう」。世界的に移民を生み出しているインドへの送金はすでに開始しており、アフリカにはまだ支店はまだ持っていないが、来年以降から検討したい、と語った。
「もしかしたら、送金をしたい人にとって、インフォーマルなネットワークの利用の方が銀行より使いやすいことがあるかもしれない。ただ、インフォーマルよりも利点のある、フォーマルなサービスを提供することで、世界中の人たちがそれを利用するようにしてもらうことができる」とヒンリクス氏は説明する。銀行とのサービスの違いに関しては「多くの銀行は人為的に設定されたレートを利用している。我々は銀行の10分の1の手数料で、クイックな国際送金を提供している」と話した。
「昨年から今年にかけて豪州、カナダ、シンガポール、香港、日本、ニュージランドなどで支店をローンチする。ビジネスをグローバル化するため我々は従業員の雇用を続けている。TransferWiseのサービスは各国に支店と口座を開設する必要がある。ライセンスをもらえない限りは店を出さない。ただ、世界的な需要がある分野であり、速度を重視したい」
また、二国間の送金需要をマッチさせる手法だけでは、送金なしに通貨量のバランスをつくることは難しいという課題があるとみられる。また、多数の支店と送金ルートをつくると、支店ごとの保有通貨のバランスを保つことも難しいかもしれない。ヒンリクス氏は「コンピューターがバランスをつくってくれる」と説明している。
「TransferWiseがもっともバイラルしたケースはフランスだ。小さなサークルのなかで『TransferWiseは銀行よりも便利な送金手段だ』と広がることだった」。
ヒンリクス氏は利用者拡大に関してはミレニアル世代(1980〜2000年生まれの若年層)の消費行動の変化に期待を託している。この層はUber、AirbnbのようなC2Cサービスについては登場後すぐさま使っており、新しい金融の形にも、モバイルアプリで簡単になれるだろうとヒンリクス氏は見込んでいる。
C2Cのサービスで、スカイプのテクノロジーを応用した便利なサービス面が注目される一方で、各国の規制当局、既存の金融エコシステムとの折衝という現実的な部分がサービスを成り立たせている。フィンテック分野は各国政府の対応により差が出ることになる。ヒンリクス氏の母国のエストニアは人口130万人の小国だが、電子政府によりビジネスフレンドリーなことで知られており、シンガポール同様、規制面で素早い対応を取れる国は、企業を生み出したり、集めたりするのに優位性を発揮するだろう。
Written by 吉田拓史
Photo by Thinkstock / GettyImage