「これは氷山の一角」:サイズミック破産申告に見る、アドテク業界の混乱

アドテク企業サイズミック(Sizmek)の破産申告の余波はまだ終わりそうにない。

アドテク業界筋によると、サイズミックの苦境は、アドテク業界のエコシステムと業界構造の深い脆弱性を露呈させるものだという。この数週間のうちに、モバイルネットワークのバーブ(Verve)やデマンドサイドプラットフォーム(以下、DSP)のデータシュー(DataXu)など、他のベンダーでもレイオフが行われたというニュースが恐怖感を生み出している。一連の動きが契機となって、持ちこたえられないほどの負債を抱える可能性があるのは業界内のどの企業か、アドテク投資家がより神経質になるかについて、業界トークが盛んに起こるようにもなった。分析企業ビクトリー・ミディアム(Victory Medium)の創業者、ザック・エドワーズ氏のように、いまの状況は金融危機のときの貸付産業の崩壊に似ているという者さえいる。パブリッシャーの多くは、サイズミックが債務不履行になると、それほど深刻なダメージを受けないとしても、負債の責任を負わされることになりそうだという事実を受け入れている。

ロンドン・メディア・エクスチェンジ(London Media Exchange)の最高経営責任者(CEO)ダン・ウィルソン氏はこう話す。「サイズミックは不運だったが、これは氷山の一角ではないかと思う。十数社のサプライサイド企業が、自身もかなりリスクにさらされている他のDSP(のリスク)にさらされているに違いない。ドミノ倒しのような影響がある」。

サイズミックは現金を調達し、業務を再開したと伝えられているが、結果がどうあれ、DSPの躓きは今後も続くと考えているアドテク情報筋はいくつかある。

アクセンチュア(Accenture)でデジタルマーケティング部門を率いるアミール・マリク氏は、「サイズミックに関するニュースは、我々が知っているアドテク業界のランドスケープの衰退を意味する。マーテックとアドテクが衝突していて、強力なスタック統合によるエンド・トゥ・エンドの顧客体験が、より包括的なベンダーソリューションを推進している」と話す。

それと引き換えに、エコシステムは以前よりも閉鎖的になり、独立系アドテクベンダーはチャンスを失うことになるだろうと、マリク氏は付け加える。一方で、一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:GDPR)の規定の遵守と、アドスタックについてさらなる可視化を求めるクライアントの傾向により、アドテクやアドネットワークのプレイヤーは抑制と均衡が求められるようになるだろうと、マリク氏は語る。

あるアドエクスチェンジの幹部はこう語る。「このようなDSPの債務不履行は前例がないが、これで最後ではないかもしれない。サードパーティクッキーに関する圧力に加え、大資本企業へのDSPの統合により、今後数カ月のあいだに債務不履行に陥るところがもう1~2社出てくると思う」。

ゼロサムゲーム

短期的には、DSPで将来起こりうる同様のリスクを回避するために、サプライサイドプラットフォーム(以下、SSP)やエクスチェンジで慌ただしい動きがありそうだ。複数のアドテク企業幹部が、SSP内で購入サイドにいるチームは、(債務不履行になる状況を避けるため)他のDSPへのインボイスで、より積極的に支払い請求するようになると予測する。

SSPの元幹部は「SSPは自身の信用状況を引き締め、DSPについて、より積極的に管理するだろう。いい時にDSPの信用を広げたエクスチェンジには、それを取り下げる圧力がかかるだろう」という。他のDSPパートナーについてより綿密な信用調査をはじめたり、支払条件について再交渉しはじめたりするところもあると、別のアドテク企業幹部は述べる。

もっと露骨に言えば、サイズミックの危機は、アドテクベンダーの価格構造のコスト圧力というさらに深い問題を強調している。たとえば、クライアントである広告主とエージェンシーのあいだのキャッシュフロー設定や長々と続く支払期間ゆえに、サプライチェーンの一方の端にいるSSPは、エージェンシーの持ち株グループや広告主のための浮き輪の役割を果たすだけに終わってしまう可能性があると、SSPの元幹部はいう。

クライアントは通常、プロジェクトの引き渡しから平均90日後にエージェンシーへの支払いを行う。それからエージェンシーはトレーディングデスクに支払い、トレーディングデスクはDSPに支払う。情報筋によると、SSPはインボイスでDSPにより短い支払い期間――通常は30日――を通知する。パブリッシャーに短い支払い期間を提示できるSSPは、結果的に事業を終わらせることが多い。

だがこれは、SSPが毎月の運転資金の必要量において数千万ドル単位を用意していることを意味する。決して安い金額ではない。追加コストを負担する主な方法は、銀行で短期の貸し付けを受けてコストをカバーすることだが、そうした貸し付けはDSPの債務不履行が起こったとしても延長されるものではない。

責任という厄介な問題

サイズミックが払うべき大きな額を支払わされる羽目になったSSPを使っているパブリッシャーは、サイズミックが引き続き債務不履行である場合に備えて、SSPの債務に目を光らせている。

複数のパブリッシャー幹部は、パートナーのSSPが、失った売り上げを取り戻そうとパブリッシャーの純益からその分を削り取ろうとしていると話す。

あるパブリッシャーの幹部は、「これが今後起こることだと感じている。エージェンシーと彼らが利用するDSPとSSP、そしてパブリッシャーのあいだでいくつかの法的対立が起こるような気がする」と話す。

サイズミックの破産申告のニュースが伝えられて以来、その影響を和らげるために、支払い期間をさらに30日間延長したエクスチェンジもある。

一般的にパブリッシャーは、サイズミックが債務不履行になったら、SSPがその責任を彼らに転嫁してくるので、自腹を切って対応することになるという事実を受け入れている。パブリッシャーやSSPが契約のなかにシーケンシャル・ライアビリティ条項(当事者がそれぞれの支払いを済ますたびに「支払義務」が「順次」移り変わっていくという意味とのこと)を設けるのはかなり標準的なことだと、アドテクやパブリッシャーの情報筋は説明する。つまり、他の会社が払うべきものをSSPが払わされる事態になった場合に、そのSSPが払われるべき額を払ってもらえるまで、パートナーに支払う必要はないという意味だ。

「ほとんどのSSPは、バイヤーの信用度をチェックした上で業務関係を持ち一方の役割を果たしているにも関わらず、バイヤーが支払い不能になった時にはシーケンシャル・ライアビリティを通じて、自らを免責にしようとする」と、元パブリッシャーで現在はアドテク幹部の人物は語る。

当然、そのコストは複数のパブリッシャーパートナーに分散されるので、ひとつのパブリッシャーの収支に深刻なダメージを与えることはない。それでも彼らは明確な情報を欲しがっている。

同じアドテク幹部はこう語る。「サイズミックが債務不履行になったら、SSPは、すぐに見えるところにはない控除を通じて、負担をパブリッシャーに静かに転嫁しようとするだろう。ベンダーへの転嫁を認める契約書にパブリッシャーがサインしていたとしても、この控除は宣言されるはずだ」。

Jessica Davies(原文 / 訳:ガリレオ)