TikTok 、ついにセルフサービスプラットフォームをローンチ : Facebookへのボイコットが広がるタイミングで

TikTokとFacebookの競争が激しさを増している。

Facebookと米国広告業界の緊張が高まりを見せている7月第2週、TikTokは世界中の広告主に向けてセルフサービスの広告プラットフォームをオープンした。TikTokは今、新しい広告主へとその枝葉を広げつつあり、Facebookのコアな広告構成要素である中小企業向けに、無料広告クレジットを初めて提供している。

Facebookのひとり勝ちとも言える広告業界だが、今の市場の動きのなかでTikTokがFacebookへの本格的な挑戦者になりつつあるというのが専門家らの見解だ。

メディアエージェンシーのスターコム(Starcom)のパフォーマンスマネージメントパートナー、ポール・カサミアス氏は「TikTokは今、マーケットシェアを奪うために極めて強い攻勢をかけている」と語る。「TikTokが狙いを定めているのはFacebookであり、Snapchatなどではない。もはやそれは企業の姿勢として明らかだ。奪おうとしているもわずかなシェアではない。彼らは本気で、数年のうちにFacebookより大きく成長できると信じているようだ」。

TikTokはほかのソーシャルプラットフォームの戦略をなぞり、セルフサービスのプラットフォームを立ち上げてパフォーマンス重視の広告主から大きな収益源を確保しようとしている。専門家らは、TikTokが製品のロールアウトやサードパーティによる測定と検証サービスを競合他社よりもはるかに迅速に展開し、経験を蓄積していると分析する。TikTokは昨年秋からプラットフォームのベータテストを行っており、エージェンシーの関係者からは、ここ2カ月で働きかけがあったという声があがっている。TikTokの広報担当は、ローンチははじめから今夏を予定しており、特に急いだわけではないと述べている。

カサミアス氏は、これまでの市場を振り返ったうえで今の広告オークション市場の需給を考えると、TikTokにとっては最初の3カ月が新規の広告主獲得のために重要なチャンスになるだろうと指摘する。Facebookの元社員で、現在スタートアップの創業者として技術コンサルタントを務めているアンソニー・マグワイア氏もこれに同意する。Facebookは躊躇する新規の広告主に対して3カ月の試験運用期間を提供し、獲得につなげてきた。

カサミアス氏は、Snapchatが2017年にセルフサービスの広告管理プラットフォームを立ち上げたとき、最初の3カ月はFacebookよりも30%ほど広告料金を安くしたうえで、採用する広告主が増えるにしたがって値上げしていったと振り返る。また、TikTokのセルフサービスプラットフォームの閲覧数あたりの単価は現在、Facebookより30%ほど安くなっているという。

Facebookの苦戦はTikTokにとってのメリットに

コロナ禍の発生にともない、大企業のマーケターたちはすぐに広告支出を抑えた、これによりFacebookのCPMが急落、各社がECの運用を強化せざるを得ないなかで、多数の中小企業やD2C広告主が参入してきた。それだけでなく、D2Cブランドでは通常より高いコンバージョン率を達成できたところが多く、Facebookとインスタグラムは一躍パフォーマンスマーケティングとして重要なチャネルとなった。

だが、FacebookのCPMは5月には回復。6月にはFacebookをボイコットする「ストップ・ヘイト・フォー・プロフィット(Stop Hate for Profit)」が始まり、7月や場合によってはそれ以降もFacebookへの支出を取りやめるブランドが数百社にものぼっている。また大手広告主のなかには、ほかのソーシャルプラットフォームからも広告を撤去すると約束したところもある。だがD2Cでは、この運動に参加できていないところが多い。米DIGIDAYの姉妹サイト、モダンリテールが報じたように、デジタルネイティブブランドもキャンペーンの精神は支持しているものの、収益の大半をFacebookとインスタグラムに依存しているのだ。中小企業はFacebookの広告主の大きな部分を占めると考えられている。TikTokは、7月のボイコットの真っ只中にFacebookの代替プラットフォームとして躍り出た。同週に、Facebookは独立監査報告書によって「公民権の深刻な妨げ」になっていると指摘されている。

アイプロスペクト(iProspect)の元EMEA担当プレジデントで、現在は中小規模のマーケティングコンサルタントを務めるステファン・バーデガ氏は「私が話した中小企業やベンチャーキャピタルのなかには、Facebookへの依存度の高さを懸念しているところが多い。そんななか、パフォーマンス予算の使いみちを多様化させられる選択肢が登場したのだ」と語る。TikTokによるローンチについて同氏は、「第4四半期の小売収益を狙うなら、今すぐ始めたほうが良い」と語る。

TikTokは、利用者の急増に合わせて新しいセルフサービスプラットフォームを立ち上げた。モバイルアプリの測定企業センサータワー(Sensor Tower)によると、App StoreとGoogle PlayにおけるTikTokアプリのダウンロードの累計数は実に23億回にものぼる。これは中国版TikTokのドゥイン(抖音)のダウンロード数も含めた数字だ。そして、これまでのダウンロード数の約19%にあたる約4億3900万インストールが、コロナ禍が世界中に広まった3月1日から7月8日の間のものとなっている。コムスコア(Comscore)によれば、米国ユーザーの同アプリの平均利用時間は、昨年10月から今年5月にかけて93%増え、月間855.6分となっている。

マグワイア氏は、半年前であればTikTokの名前しか知らず、マーケテイングに活用するつもりはないという中小企業も多かったかもしれないが、新型コロナウイルスの感染拡大によって急激に変化したと指摘する。また中小企業のなかにはTikTokのオーガニックなリーチに利点を見出すところも少なくないという。

たとえば腰痛を緩和するストレッチで人気のカイロプラクター、@dr.cracksはTikTokだけで230万以上のいいねを獲得している。とはいえ、TikTokがプラットフォームとして成熟していくことで、中小企業がバズるようなコンテンツを作りやすくなるかは不透明だ。

価値あるところにクレジットを

TikTokは7月第2週、コロナウイルスの影響を受けた企業を支援する「バック・トゥ・ビジネス(Back to Business)」プログラムの一環として、米英を含む18カ国の中小企業に今年を期限とする1億ドル(約107億円)の広告クレジットの提供を約束している。このプログラムのなかで同社は、300ドル(約3万2000円)の1回限りの無料クレジットと、最大2000ドル(約21万円)の追加支出に対応するクレジットを提供する。300ドル(約3万2000円)のクレジットは、地域ごとに1日あたりのキャップが設定されており、適格な企業については翌日の申請も行える仕組みだ。広報担当によれば、クレジットは認証プロセスを経て適格な企業に同時に支給されるとのことだ。

オンライン広告業界では、新規カスタマー向けに無料の広告クーポンを提供するのは珍しいことではない。特にコロナ禍の拡大によって、大手プラットフォームのあいだでは支援の手段として広告クレジットを配布するところが増えている。

Facebookは3月に現金1億ドルと、30カ国以上の中小企業に広告クレジットでの支援を約束した。だが、Facebookの同プログラムページによれば、本稿の執筆時点(7月9日)では、リストに記載されている36カ国のうち94%で適格性を調査中とのことだ。また同プログラムは、すでに米国およびカナダからの申し込み受付は完了している。

Facebookの広報担当は、「当プラットフォームの中小企業コミュニティからは財政支援が必要という声を多くいただいており、当社はそのための支援に取り組んでいる」と述べている。「当社は世界規模で1億ドルの支援プログラムを実施している。7月末までに複数の国で1万社以上の中小企業が支援金を受け取り、夏が終わるまでには全プログラムの実施を完了する予定だ」。

Googleもまた、3月に中小企業向けの3億4000万ドル(約365億円)の広告クレジットプログラムを発表した。同社の広報担当は、過去の支出に基づいて各アカウントに7月に自動で支給すると述べている。

TikTokの課題

FacebookとTikTokはプラットフォームとしてのさまざまな面で異なる。専門家らは、TikTokのターゲティングや測定機能はまだ成熟しておらず、オーディエンスは若いと指摘する。そしてデータやブランドセーフティの質についても疑問がついてまわるという。TikTokでは、ユーザーに人気の「チャレンジ」やダンスといったトレンドを活かす全画面の動画広告フォーマットがあり、Facebookの動きのないニュースフィード広告といった普通のクリエイティブよりも制作にリソースを要する。だが専門家らは、ほかの広告マネージャーにも似たTikTokの新たなセルフサービス広告インターフェースはユーザー体験として洗練されており、オーディエンスにリーチできる新たなチャンネルとして有力だと指摘する。

ハバスのマーケティングエージェンシー、ケイク(Cake)でソーシャルディレクターを務めるキャット・ハーディング氏は「オーディエンス面での強みが非常に大きい。TikTokによれば、TikTokのオーディエンスの40%はFacebookを利用していないのだ。まだまだ飽和状態になく、コストパフォーマンスは非常に高い」と述べている。

デジタルエージェンシーのウィ・アー・ソーシャル・シンガポール(We Are Social Singapore)でグローバルデジタル戦略ディレクターを務めるワーナー・ラックス氏は若いオーディエンスをターゲットとしていない広告主にとっては、YouTubeがFacebookの代替として有力な選択肢になるだろうと指摘する。YouTubeのオーディエンス層や広告フォーマットなどが理由だ。

TikTokの広告主への魅力は高い一方で、大きな課題にも直面している。TikTokを所有する中国企業のバイトダンス(Bytedance)と、同社によるユーザーデータの中国政府との共有について、いくつかの政府が懸念を表明しているのだ。たとえばインドではTikTokを含む何十という中国製アプリが6月下旬に禁止された。7月7日、米国務長官のマイク・ポンペオ氏はインタビューで、米国はTikTokなどの中国製ソーシャルメディアアプリの禁止を「検討している」と述べている。

TikTokは中国政府とデータを共有したことはなく、依頼されても共有することはないとしている。同社は最近、米国を拠点とする著名なディズニーの元役員、ケビン・メイヤー氏をCEOとして迎えた。ウォールストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)は7月第2週、バイトダンスが企業内でTikTokの位置づけを変えて、中国の親会社からさらに距離を置いた存在にすることを検討していると報じている

TikTokのFacebookに追いつくための取り組みは、すぐに達成できるものではない。ロイター通信は先月、関係者2名とのインタビューを通じ、バイトダンスは1月から3月までの四半期の収益は56億4000万ドル(6050億円)であると報じた。一方、Facebookの3月までの四半期収益は177億ドル(約1兆9000億円)となっている。

[原文:TikTok’s self-service platform launch is perfectly timed to kick Facebook while it’s down

LARA O’REILLY(翻訳:SI Japan、編集:長田真)