TikTokを、サードパーティの販売事業者が利用できるようになるかもしれない。同社が最近公開した販売事業者向けのショッパブル機能紹介ページには、ブランドやサードパーティの販売事業者による自社ストア展開の方法が記載されている。プラットフォーム間で加熱するストア機能の強化にTikTokも参入する形だ。
TikTokを、サードパーティの販売事業者が利用できるようになるかもしれない。
TikTokが最近公開した「TikTokショップ:セラー大学(TikTok Shop: Seller University)」というページには、ブランドやサードパーティの販売事業者による自社ストア展開の方法が記載されている。アプリ内ストアでユーザー対応をおこない、支払いを受けるという内容だ。このページを最初に取り上げたのは、SNSコンサルタントのマット・ナバラ氏である。米DIGIDAYの姉妹サイトのモダンリテール(Modern Retail)が関係者から聞いた話では、「TikTokはインドネシアでTikTokショップの試験運用を開始しており、上述の記載はその試験運用から派生した試みだ」と明かしている。
英フィナンシャル・タイムズ(Financial Times)によれば、インドネシアでは、ほかにもブランドの製品カタログの展開やライブコマース、ユーザー各人が販促により手数料を得られるシステムなどの試験運用がおこなわれているという。「セラー大学」のサイトでは、これらの機能はいずれもベータ版のサードパーティ販売プログラムである「TikTokショップ」から入手できるようになると書かれている。これは、競合するインスタグラムショップ以上に洗練されたサードパーティのマーケットプレイスに発展する可能性を秘めている。
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あらゆる事業者にショッパブルサービスを提供
プラットフォーム分析サービスを提供するネクストブランド(Nexttbrand)で、ブランドのトレンドを研究するサーシャ・シルコ氏は、「TikTokは小規模販売業者だけでなく、規模の大小を問わず企業がアプリを通じて販売できるよう開発を進めている」と分析する。
TikTokショップのダッシュボード内の、TikTokの販売事業者向けオンボーディングページ
TikTokのEC事業への進出は、今回が初ではない。2020年10月にはショッピファイ(Shopify)との連携を開始し、12月にはウォルマート(Walmart)と協力してショッパブルな生配信をおこなった。ウォルマートのアパレル商品をアプリ内購入できるという取り組みだった。
TikTokが今後展開するショッパブルなサービスについては、公表済みの複数の情報から読み取ることができる。一例が、TikTokの中国版アプリであるドゥイン(抖音)だ。抖音は、2018年からアプリ内ストア「ドゥディアン(抖店)」を展開している。ドゥディアンは、個人販売業者や中小企業、大企業とあらゆる規模の業者が利用できる。ベンダーは販売開始前に前払金を、さらに売上の5%をドゥインに手数料として支払う。
オンラインショッピングは、ドゥインの収益源のうち大きな割合を占める。中国のテック企業について報道するサイトのレイトポスト(LatePost)によると、2020年のTikTokのオンライン売上は前年比で3倍の約5000億元(約8兆2000億円)にまで急増した。ただし、アリババなどのサードパーティのサイトを通じた比率も高く、ドゥインのアプリ内のみの売上高は1000億元(約1兆6400億円)となっている(ただし、CNBCによれば、ドゥインはこの数字に異議を唱えている)。
「ドゥインの数字からも明らかなように、TikTokはショッパブルなサービスについて十分な知見を持っている」と、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)教授でインフルエンサーマーケティングを研究するリア・ヘイバーマン氏は分析する。「だが、北米市場においては機能を小出しにするなど、慎重な姿勢で臨んでいる」。
高いポテンシャルを秘めているが
実際、TikTokショップは、ドゥインのショッパブルサービスに類似したものになる可能性がある。ベータテストでは、ブランドもユーザーもTikTokの販売事業者として応募できるようになっている。承認されれば、TikTokの「セラーセンター」のポータルにアクセスして、TikTokショップを設定する。セラーセンターでは商品と価格情報をアップロードし、注文の受領と処理、配送の追跡、払い戻し、その他購入者とのやり取りをおこなう。また、TikTokショップでの1回の注文あたりの手数料は最低2%に設定されているほか、「政治的な商品」をはじめとする一定の商品は販売できない。
さらに、運用試験結果からはTikTokのアフィリエイトプログラムがどのようなものになるかも見えてくる。ブランドが商品をTikTokのセラーセンターにアップロードすると、インフルエンサーを使ったキャンペーンの「TikTokアフィリエイトプログラム」を利用できる仕組みになっている。インフルエンサーは、アプリ内でフォロワーに直接商品を販売し、ブランドから手数料を受け取る。リンクツリー(Linktree)やLinkin.bioのように、プラットフォーマーにマージンを請求されることもない。
以上のことから、現在運用試験中のTikTokのマーケットプレイスは、大手ブランドとインフルエンサーの双方にメリットをもたらすポテンシャルを秘めていると言える。ブランドにとって、TikTokが力を入れる独自の広告プラットフォームと販売ポータルは魅力的だろう。
このポータルは、商品を購入するユーザーのデータを収集する。チョコレートからクランベリージュースに至るまで、さまざまな動画がバズるTikTokは、今や販促の面で極めて価値の高いツールとなっている。だが、何がバズるのか予測するのは容易ではない。「確かにTikTokはバズることもあるが、必ずしもROIが改善されるかは不明という状況だ」とシルコ氏は語る。
インフルエンサーにとっては、TikTokショップは「自身の商品を販売する」、そして「ブランドと提携してブランドの商品を販売し、手数料を受け取る」という2通りの活用ができる場となる。インフルエンサーが薦める商品は、Amazonで莫大なトラフィックを生み出していることがすでに分かっている。TikTokでアフィリエイト手数料が入るような販売システムが導入されれば、TikTok内でのよりスムーズなコンバージョン購入を可能にする仕組みができあがることになる。ヘイバーマン氏は「クリエイターとしては新たな収入源になるし、またクリエイターとしてビジネスにどう関わるかを明確にできるはずだ」と指摘する。
プラットフォームの参入が相次ぐストア機能
アプリ内でアフィリエイトプログラムのローンチを目指すプラットフォーマーはTikTokだけではない。インスタグラムでも最近、同様の取り組みが進められている。Facebookも、保有する全プラットフォーム間でより統合されたECサービスの提供に向けて動いている。インスタグラムはすでにショップ機能を拡大し、Facebookはマーケットプレイスに投資をおこない、ライブコマースをローンチした。
さらに、最近ではWhatsApp(ワッツアップ)でショッパブルなストアを追加している。いずれのケースも、プラットフォーム内部での取引の促進が目的だ。目指すところは、Facebookを広告主、そしてインフルエンサーにとってより魅力的な発信の場にすることにある。
ネクストブランドのシルコ氏は「現在のTikTokのECへの取り組みは、宣伝目的という側面も見て取れる」と指摘する。現在TikTokショップの手数料は2%とかなり低く、TikTokにとって大きな収益源にはならないだろう。おそらくオーディエンスを購入者に成長させる「マーケットプレイスがある」ということ自体が重要なのだろう。実際、このマーケットプレイスの確立は、Googleも力を入れている分野だ。
「TikTokが、既存のユーザーにシームレスな購入体験を提供できれば、ブランドにとっても価値の高い広告が提供できることになる」とシルコ氏は語る。そして「TikTokには、宣伝の価値を高めるための要素が揃っている」と最後に言い添えた。
[原文:TikTok is testing out a seller marketplace]
Michael Waters(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)