ユーザー個人の追跡をあらめて否定したGoogleに対して、アドテク業界は楽観的な態度を装おうが、先行きの不透明さは隠しようもない。 アドテク企業たちが、何にもまして思いをめぐらせるのは、Googleが個人単位の追跡を排除 […]
ユーザー個人の追跡をあらめて否定したGoogleに対して、アドテク業界は楽観的な態度を装おうが、先行きの不透明さは隠しようもない。
アドテク企業たちが、何にもまして思いをめぐらせるのは、Googleが個人単位の追跡を排除した結果、その痛みを負うのは誰で、その余波から得るものはあるのかということだ。必然的に、明確な答えが出るまでは、皆、無難な対処法をとるようだ。
「市場は混沌としており、大手のパブリッシャーの多くは、『思考停止』の状態にある。誰もが次の一手を模索するなか、少なくとも短期的にはそうならざるをえない」。そう語るのは、アドテク企業のアドフォーム(Adform)で最高技術責任者を務めるヨッヘン・シュロッサー氏だ。「これは容易に理解できるテーマではない。どのアドテク企業も限られた情報を分析し、正しい判断をくださなければならず、社内の技術者は大きなプレッシャーにさらされている」。
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短期的には両面作戦を選択
実際に、ひとつかふたつのユーザー識別子に肩入れしてきた企業は、急遽、もっと広範なソリューションに投資先を分散させた。
たとえば、プログラマティックマーケットプレイスの大手、パブマティック(PubMatic)とザンダー(Xandr)は、どちらもGoogleが提唱するFLoC(Federated Learning of Cohorts:コホートの連合学習)という集計ベースのターゲティングを試験運用している。だがその一方で、独自ソリューションの開発に取り組むパブリッシャーを支援するため、Unified ID 2.0というFLoCと競合する識別子にも対応している。
短期的には両面作戦を採ることが、もっとも賢明なアプローチと思われる。
パブマティックのラジーブ・ゴエル最高経営責任者(CEO)は次のように述べている。「我々の業界では、多面的なアプローチを採ることが重要だ。したがって、ほかの識別子やFLoCに加えて、プライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)やコンテクスチュアルターゲティングもサポートしている。いま現在、広告バイヤーたちから聞こえてくるのは、ID技術に関するかぎり、選択肢がひとつでは困るという声ばかりだ。多様な代替識別子をサポートする我々のプラットフォームは、高精度なターゲティングに対応できるインベントリーを提供できる」。
パブリッシャーの大きな課題
それでも、ID技術の進歩に関しては、パブリッシャー次第の部分が大きい。
カスタマーデータプラットフォームを提供するブルーコニック(BlueConic)で、最高執行責任者(COO)を務めるコリー・マンチバック氏はこう述べている。「データ収集の根拠をユーザーエクスペリエンスの改善だと言いながら、[アドテク企業たちと]事実上の新たなCookieプールを構築するパブリッシャーがいるなら、規制当局者の懸念を招くどころの話ではない。これまでに築き上げた顧客の信用が失われる危険もある」。
パブリッシャーのデータがなければ、ユーザー識別子はソリューションなどではなく、単なるテクノロジーにすぎない。現状を見るかぎり、アドテク企業の課題は山積している。パブリッシャーたちはオーディエンスから集めたデータを効果的に分析し、収益化できずにいるばかりか、そのデータの共有にも慎重だ。
欧州を拠点とするパブリッシャーでアドテク部門を統括するある人物は、匿名を条件にこう語った。「アドテクのエコシステムが新たな統一IDを求めて必死に戦う理由を忘れてはならない。アドテク業界が統一IDでめざすのは、昨日までの世界を再現することだが、そこはパブリッシャーにとってとくに居心地の良い場所ではなかった。その世界で、パブリッシャーはユーザーを供給するだけの存在になり果てた(しかもその価格は下がる一方だった)。ファーストパーティデータとジャーナリズムは、ほとんど何の意味も持たなかった。サードパーティがサイト横断的にユーザー行動を追跡し、巨大なデータプールを構築していた」。
検討すべき選択肢がほぼない
手短に言えば、パブリッシャーたちはアドテクベンダーへの信用を回復したいのだ。それはつまり、彼らがプライバシー規制に対するコンプライアンスを、より慎重に考えているということでもある。この期待に応えるためにも、アドテク企業はパブリッシャーとのデータ取引におけるこれまでの慣行を省みる必要があるだろう。クリテオ(Criteo)が目下取り組んでいるのもまさにこの問題で、パブリッシャーがプログラマティックマーケットプレイス内で安全にデータを増やしたいとき、利用してもらえるベンダーになることをめざしている。
「現在開発中のソリューションが有効なら、広告主やパブリッシャーとの直接的なつながりを通じてアドレサブルなオーディエンスを構築するという計画を含め、アドレサブルなインターネットの最大30%を維持できると考えている」。クリテオの最高製品責任者を務めるトッド・パーソンズ氏はそう語った。
Googleによるユーザー識別子の排除表明に続く、ある種反抗的な楽観主義は、これを否定するパブマティックやクリテオらの動きを反映するものではなく、むしろ検討すべき選択肢がほとんどないことを肯定するものだろう。あとは勝利を信じて戦うしかない。
一縷の望みは、アドテク企業の説得に応じて、パブリッシャーたちがこれら代替識別子をサポートしてくれることだ。そうなれば、サイト横断的な個人の追跡という、Googleと競合せず、しかも高収益の機会が開かれる。確かに、広告主たちはGoogleのウォールガーデンで広告費を使わざるをえない。なにしろ、主要なプラットフォーマーが抱える月間のアクティブログインユーザーは数百万人あるいは数十億人にのぼる。その一方で、ウォールドガーデン以外の選択肢を求める広告主は確実に増えている。
「業界全体が未曾有の障害に直面している。解決を遅らせたくない、少なくとも混乱を最小限に抑えたい業界としては、挑戦的あるいは楽観的な、かつソリューション本位の姿勢をとりたくなるのも無理はない」。アドテク企業インフォリンクス(Infolinks)のボブ・レギュラーCEOはそう語る。「津波が襲い来れば、誰しも生き延びるために手近な物体にしがみつく。それは人の性(さが)だ」。
Googleによる、ある種の挑戦状
Googleの(個人追跡の排除を表明した)ブログ記事は、この現状を再確認するものでもあった。Googleの広告製品は、個人のオンライン行動について大量のデータを収集するいかなるツールもサポートしない。はっきりとそう表明することで、Googleは業界に対してある種の挑戦状を突きつけているようにも見える。他社の識別子を使うなら使え。もっと安全に、かつプライバシー規制に則して個人を追跡できるとしても、それはGoogleの方針に逆行するし、いずれ使用禁止になるだろう、と。
言い換えれば、Googleは、Cookie排除後の選択肢を同社が提案するプライバシーサンドボックス一択に絞らせるべく、アドテク業界全体を誘導しているようにも見える。実際、このメッセージは一部のベンダーに再考を促すことになった。結局のところ、Googleには、数百万人どころか数十億人とも言われる月間のアクティブログインユーザーがいる。どんな広告会社にとっても、放棄するには惜しい大金だ。
あるアドテク企業の幹部は、匿名を条件にこう述べている。「主要なアドテク企業は、早晩、Googleの方針を支持せざるをえなくなる。というのも、ユーザーレベルの識別子は、ほどなくChromeでは利用できなくなるからだ。それが公平であるか否かは別の話だ。実際のところ、Google上で大きなビジネスができなくなるわけではない。マイティハイブ(Mightyhive)が良い例だ」。
とはいえ、プライバシーサンドボックスがアドテク企業にもたらすメリットが明確に示されないまま、投資すべき代替技術を決めてしまうのは、あまりに見通しが甘い。たとえば、FLoCの情報に対して、Googleは特権的なアクセス権を有するのか。Googleは今後週間のうちに、IABヨーロッパに対して、ユーザー識別子に対する自社の立場を説明する予定だが、これら懸案事項のいくつかは、この場で議題にのぼるものと思われる。
業界の観測筋が懸念すること
仮に、Googleが次に打ち出す本格的なソリューションが、消費者IDを用いた透明性の高いターゲティングというコンセプトを曖昧にするものならば、それが一番の気がかりだろう。Googleがプライバシーサンドボックスの支配権を手放さない場合、業界の観測筋が懸念するように、その影響力を行使して、他社よりも、自社のプラットフォームでより多くの広告費が落ちる仕組みもつくれるかもしれない。
そんなことになれば、広告主、パブリッシャー、データプロバイダーあるいはファシリテーターを含め、誰もキャンペーンの成功要因や失敗要因を理解できなくなり、今後の成功を中身の読めないGoogleのソリューションに依存せざるをえなくなる。
なるほど、アドテクベンダーたちが、あらゆる選択肢を残しておこうとするのも無理はない。
SEB JOSEPH(翻訳:英じゅんこ、編集:長田真)