2015年にスタートしたDiscordは、広告掲載を行っていない。その代わりに、このソーシャルネットワークはサブスクリプションで収益を得ており、ブランドにとってはオーガニックなマーケティングの場となっている。
ブランドがDiscord(ディスコード)を発見した。
チポトレ(Chipotle)、ジャック・イン・ザ・ボックス(Jack in the Box)、ウェンディーズ(Wendy’s)、そしてリセールマーケットプレイスのストックX(StockX)といった企業による、人気チャットアプリでのデビューが最近相次いでいる。この夏からは、ニューヨークを拠点とするオルタナティブ投資プラットフォーム、オーティス(Otis)も、Discord(ディスコード)を利用するブランドに加わった。
2015年にスタートしたDiscordは、広告掲載を行っていない。その代わりに、このソーシャルネットワークはサブスクリプションで収益を得ており、ブランドにとってはオーガニックなマーケティングの場となっていることを米DIGIDAYは以前もでも伝えている。投資スタートアップのオーティスは、このアプリをコミュニティプラットフォーム、カスタマーサービスチャネル、および製品レビューのフィードバックループとして活用しているという。特にオーティスは、ユーザーが投資に際して、自身の社会保障番号と銀行口座情報を提供しなければならないプラットフォームだということもあり、Discordへの参加はつまるところ、顧客との信頼関係を構築する取り組みのひとつだという。なお、Discordのサブスクリプションは、月額4.99ドル(約570円)、年額49.99ドル(約5700円)からとなっている。
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「そこでの対話は非常に価値のあるものなので、いまでは我々の(マーケティング)サイクルの一部として定着している。何か発表があるたびに、『Discordで会話に参加してください』といっている」と、オーティスのマーケティング責任者キャム・レイ氏は話す。
「本当に価値のあるもの」
開設以来、オーティスの「サーバー(複数人でのテキストメッセージや音声通話が可能なグループスペースのようなもの)」は、メンバーが400人を超え、少なくとも29のチャンネルがあり、毎日会話が行われていると広報担当者は明かす。これらのチャンネルは、ディスカッショングループとして機能しており、トレーディングやNFT(非代替性トークン)、プロダクトドロップなど、Discord全体でもゲームと並んで人気のあるトピックが取り上げられている。
サーバー自体はブランドアカウントのものだが、レイ氏やオーティスの創設者マイケル・カーンジャナプラコーン氏も、グループのメンバーとして積極的に活動しており、定期的に問い合わせやメッセージに対応し、業界の専門知識を提供している。彼らが特に重要視しているのは、Discordコミュニティから寄せられるオーティスのビジネスに関するフィードバックや、投資関連のニュースについての意見だ。「それを見たとき我々は、これは本当に価値のあるものだ、もっとここに人を呼び込まなければと思った」とレイ氏はいう。
ブランドのDiscordへの参入はゆっくりとしたペースで進んでおり、2020年から広告主たちの支持を得ているTikTokなどとは対照的だ。
どのプラットフォームとも異なる構造
「ただ、Discordへの参加は、正直いって勇気がいる。私が経験したどのプラットフォームとも構造が異なる」と語るのは、広告エージェンシーVMLY&Rのアナリストを務めるカロリーナ・マック氏だ。マック氏は今年、ソーシャルメディアチームとともに、ウェンディーズの5万人のメンバーからなるDiscordサーバーを立ち上げた。「ここは、まるでワイルドウエスト(開拓時代のアメリカ西部)だ。このプラットフォームにいる人の数は心強いが、いつ面倒なことが起こってもおかしくない」。
Discordは主に招待制で、ユーザーはほとんどの場合、招待用のリンクがないとプライベートサーバーに参加できない。Reddit(レディット)と同様、Discordのユーザーはスクリーンネームやアバターのプロフィール画像で匿名性を確保していることが多い。加えて、広告ユニットや簡単に追跡できる指標がないため、投資利益率(ROI)の追跡が難しいとマック氏は述べている。
「主にブランドへの親近感を高めるための取り組みになるだろう。特に、何らかの形でゲームに関わっているブランドにとってはそうなる。1対1のつながりを築く機会が得られる」とマック氏はいう。
安易な参入は禁物
メディアの多様化が叫ばれるなか、今後はレガシーブランドからスタートアップまで、より多くのブランドがDiscordに参入するのではないかとマック氏はみている。「いま我々は、ブランドがブランドとして機能するより、人として機能しはじめる岐路に立っている」とマック氏は話す。そしてそのレベルのブランド親和性は、特にZ世代へのアプローチにおいては、従来のテレビスポットを流すやり方では達成できないという。
それでもマック氏は、広告主が強引にプラットフォームに乗り込むようなことをしてはいけないと警告する。そんなことをすれば、Discordのユーザーから「ブランドは黙っていろ」という反応が返ってくるからだという。それは、楽しさや親しみやすさを売りにしようとするブランドへの反撃としてよく使われるフレーズだ。
「招待された場所で、なおかつ場違いでないところに出ていくべきだ」とマック氏はいう。「若い世代の人々を追いかけていくなかで、彼らのほうがはるかにメディアリテラシーが高い。ブランドが特に招待されたわけでもない場所に出ていったら、すぐさま彼らの反感を買うだろう」。
オーティスのレイ氏は、Discordをマーケティング戦略に継続的に組み込むことで、タッチポイントを増やしてメンバーを増やしていきたいと考えている。
「Discordは、ユーザーとの直接的で生産的な会話やユーザー同士の交流の場として、我々が積極的に活用する場所になるだろう」とレイ氏は述べている。
[原文:‘This is the wild west’: How an investment startup brand is building community trust with Discord]
KIMEKO MCCOY(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:村上莞)