ソーシャルメディアの新たな寵児といわれるTikTokは、いまのところ、数ある競合プラットフォームの猛追をかわしつづけている。一方、同じショートフォームの動画投稿アプリであるTriller(トリラー)は、最大のライバルであ […]
ソーシャルメディアの新たな寵児といわれるTikTokは、いまのところ、数ある競合プラットフォームの猛追をかわしつづけている。一方、同じショートフォームの動画投稿アプリであるTriller(トリラー)は、最大のライバルであるTikTokの影からようやく抜けだしつつあるようだ。TikTokが潜在的な広告予算を食い尽くす勢いを見せるなか、うまくいけば、クリエイターや広告主の注目をとらえることができるかもしれない。
昨年10月、TikTokのライバルを自任するTrillerは、意気揚々と広告主へのセールス活動を展開していた。音楽動画の制作機能を主軸として、あたかもパブリッシャーが広告商品を売るように、インフルエンサーを売り込んだ。それがいま、Trillerの照準はライブ配信事業に向けられている。デジタル時代のプライムタイムテレビを狙ったシフトだという。現に昨年は、音楽のライブ配信プラットフォーム「ヴァーサス(Verzuz)」を買収し、さらにボクシングの試合をライブ配信する「Trillerファイトクラブ(Triller Fight Club)」を立ち上げている。
Trillerのマヒ・デシルヴァ最高経営責任者(CEO)はこう語る。「我々の売りはもはや短尺の動画だけではない。『TrillerTV』でリニアの番組に相当するコンテンツを作り、通販番組のQVCのような体験を提供している」。
Advertisement
一方、IMGNメディア(IMGN Media)の最高戦略責任者を務めるノア・マリン氏は、「試行錯誤のためのチャネルがまたひとつ増えるのだから、企業にとっても悪い話ではないだろう」と述べている。実際、広告主のあいだでは、マーケティング予算の投資先を多様化したいという議論が続いている。しかしいまのところ、企業はTrillerをその程度の存在、つまり試行錯誤のためのチャネルとしか見ていない。広告主(さらには広告費)をTrillerにコミットさせるには、何かもうひと押しが必要となりそうだ。
MAUはTikTok、Snapに遠くおよばず
インフルエンサー、エージェンシー、プラットフォーマーらが情報源として活用するインフルエンサー・マーケティング・ハブ(Influencer Marketing Hub)によると、公開から6年になるTrillerの月間アクティブユーザーは、現在約6500万人だという。ちなみに、CNBCによると、同じソーシャル動画アプリのSnap(スナップ)は、つい最近、月間アクティブユーザーが5億人に達したと発表している。また、エージェンシーのオムニコア(Omnicore)のブログ投稿によると、TikTokの月間アクティブユーザーは6億8900万人で、Snapをさらに上回る。
インフルエンサーを獲得するためのTrillerの謳い文句は「マネタイゼーションの無限の可能性」で、デシルヴァ氏によると、目下、ヴァーサス、Trillerファイトクラブ、TrillerTVなどのリニアなコンテンツ、さらにはeコマースにも注力しているという。
「従来のメディア、ライブイベント、ライブエクスペリエンスとの連携には大きな可能性を感じる。デジタルの世界と融合させれば、まったく新しいコンテンツの楽しみ方やスポンサー体験が実現できるだろう」。
イベント事業に期待をかける企業も
また、インフルエンサー・マーケティングを支援するキャプティヴェイト(Captiv8)のクライアントたちは、Trillerに期待しているようだ。キャプティヴェイトの共同創業者でCEOのクリシュナ・スブラマニアン氏によると、現在、同社が扱うブランドのマーケティング予算のうち、約10%がTrillerを含む実験的なプラットフォームに投資されているという。同氏は具体的な金額については明らかにしなかった。
キャプティヴェイト、およびそのクライアントが関心を寄せているのは、Trillerのイベント事業だ。スブラマニアン氏によるとその理由は、同社のクライアントがあらゆるプラットフォームで露出の機会や拡散の機会を模索しているからだという。クライアントの詳細についても訊ねたが、回答は得られなかった。
スブラマニアン氏は、電子メールによるコメントでこう述べている。「コロナ禍でも開催されるイベントの多くは、対面とバーチャルのハイブリッドで、しかもマルチデバイス形式だ。このようなタイプのイベントでは、発想力を働かせる余地がさらに広がる。ブランドとインフルエンサーは、従来よりも独創的な手法で連携することができるだろう」。
実際、ペプシ(Pepsi)やドクターペッパー(Dr. Pepper)など、一部の先進的なブランドは、すでにTrillerを活用し、さまざまなコンテストやブランドアクティベーションを展開している。
「最終的には規模の問題だ」
その反面、Trillerはメインストリームのクリエイターや広告主に本格的に浸透しているとはいい難い。何をするにもスピードや投資が不十分で、結果、TikTokに遅れをとるのかもしれない。昨年、TikTokが潜在的な利用禁止の危機に見舞われた際、多くのマーケターは固唾をのんで成り行きを見守った。インフルエンサー・マーケティング・エージェンシーのウェイラー(Whalar)には、ウェイラータレント(Wahlar Talent)というクリエイターの管理部門があるのだが、この部門を統括するヴィクトリア・バチャン氏は、当時をこう振り返る。「米政府による利用禁止の脅威が去ると、TikTokはすぐに以前の業務(と広告費)を取り戻した」。
バチャン氏によると、「いまではすっかり安定しているようで、広告主は競うようにTikTokを重用している」という。
Trillerに関しては、インフルエンサー・マーケティング・エージェンシーのタクミ(Takumi)のクライアントも、状況は似たり寄ったりだ。メルセデスベンツ(Mercedes Benz)やケロッグ(Kellogg’s)を含む同エージェンシーのクライアントは、Trillerに関心は示すものの、実際に広告予算を投じているわけではない。
「Trillerには広告主を納得させられるだけのストーリーが必要だ」と、タクミのメアリー・キーン・ドーソンCEOは指摘する。彼らの新しい戦略が、TikTokとの比較を避けて、イベントのライブ配信でナンバーワンをめざすなら、それは合理的な選択肢かもしれない。
「彼らは少し遅れてパーティにやってきたようなものだ」と、キーン・ドーソン氏は話す。方向性は定まったとしても、クリエイター向けのブランディング、啓発活動、アクセシビリティに関しては、いまだ課題が多い。何にもまして、もしTrillerが広告主の獲得を望むなら、まずはオーディエンスを増やし、クリエイターの獲得に注力するのが先決だろう。
「最終的には規模の問題だ」と同氏は指摘する。「クライアントにしろ、エージェンシーにしろ、キャンペーンを実行するなら、できるだけ時間効率が良く、もっとも効果的な方法で実行したい」。
決定的に欠けている要素
IMGNメディアのマリン氏によると、Trillerには決定的に欠けている要素があるという。それはほかでもない、ユーザーのオーガニックなSNS投稿だ。たとえば、TikTokの場合、すでに一般ユーザーの投稿したコンテンツが大量に存在しており、広告にしろ機能にしろ製品にしろ、その基礎の上に展開している。他方Trillerの場合、もっとも基本的な日々の利用規模が、主要な製品や機能を大きく普及させる臨界点、いわゆるクリティカルマスに到達していない。
IMGNのクライアントのうち、リーバイス(Levi’s)やアディダス(Adidas)を含め、Trillerに広告費を支出している企業はひとつもない。マリン氏によると、引き合いは来るものの、いざプラットフォームとして選択する段になると、同じような機能が使えるなら、クライアントはTikTokやTwitchなど、Trillerよりも大規模なユーザー基盤を持つプラットフォームを選ぶのだという。
これが3、4年前の話なら、ソーシャルの話題はFacebookが独占しているにちがいない。マリン氏によると、幸いにも、この2年間で、Snap、Twitch、TikTok、さらにはTrillerなど、新規の参入が続き、より望ましいペイドソーシャルのエコシステムが構築されてきた。おかげで、広告主は「すべての卵をひとつの籠に盛る」ことを避けて、広告予算の投資先を分散できるようになったという。
マリン氏いわく、「広告主にとってもオーディエンスにとっても選択肢が増えている。どんな場合も、選択肢は多いに越したことはない」。
KIMEKO MCCOY(翻訳:英じゅんこ、編集:村上莞)