Googleは3月5日、同社が販売するインベントリーにおいて、「代替識別子」によるターゲット広告とトラッキングをいずれも認めない旨を世界に伝えた。この発表を受けて、広告業界の専門家らは首を傾げた――GoogleはサードパーティCookieに代わる識別テクノロジーを提供する企業を破滅に追い込むつもりなのだろうか?
Googleは3月5日、同社が販売するインベントリーにおいて、「代替識別子」によるターゲット広告とトラッキング(追跡)をいずれも認めない旨を世界に伝えた。この発表を受けて、広告業界の専門家らは首を傾げた――GoogleはサードパーティCookieに代わる識別テクノロジーを提供する企業を破滅に追い込むつもりなのだろうか?
無論、決めつけるのは早計だが、広告主がGoogleのデマンドサイドプラットフォームを利用してプログラマティックに広告を購入する場合、一部の識別子は機能できなくなると予想される。ただ、そんな壊滅的影響の恐れがあるにもかかわらず、識別テクノロジープロバイダー勢は依然、前向きの姿勢を押し出している。
「彼ら[Google]がバイサイドにおいて我々の識別子を認めないのは確かだろう」と、LiveRamp(ライヴランプ)のSVP/アドレサビリティ&エコシステム部門トップ、トラヴィス・クリンガー氏は言う。LiveRampはサードパーティCookieに代わる識別子を開発した先駆的一社であり、パブリッシャー勢に対し、広告主/エージェンシーが有料で効果測定に利用できる自社のIDを売り込んでいる。
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一方、GoogleのDSPは広告主に広く受け入れられているが、市場には無論、DSPはほかにも存在する。LiveRampのIDはメディアマス(MediaMatch)をはじめ、ほかのデマンドサイドプラットフォームに認められている点をクリンガー氏は強調する。「識別子で取引するほかの主要DSPはすべて、すでに押さえてある」。
クリンガー氏いわく、オープンマーケットプレイスでの購入については、GoogleはLiveRampの識別子を認めないだろうが、広告主がプライベートマーケットプレイスでの取引において、GoogleのDSPディスプレイ&ビデオ360を利用してパブリッシャーのインベントリーを購入する場合は、パブリッシャーとオーディエンスバイヤーが閉じた環境のなかで直接交渉するわけであり、同社のIDは機能すると、確信している。無論、現段階ではまだ何とも言えないが。
LiveRampはさらに、Googleのアドエクスチェンジは同社の広告識別子を完全にはブロックしないだろうと、希望的観測も抱いている。いま現在、クリンガー氏の言うとおり、Googleは同社の識別テクノロジー、ATS(Authenticated Traffic Solution)を認めていない。だが、氏はウォール・ストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)の記事を引き合いに出して、自信を覗かせる。氏が注目するのは、「アドエクスチェンジをはじめ、Googleの広告インフラストラクチャーを利用する企業にはおそらく、各々の識別子を使う広告を依然、販売できる可能性がある」との指摘だ。これはつまり、LiveRampがGoogleのアドエクスチェンジと提携し、同社の識別子をGoogle以外のDSPに利用できるようになれば、「我々のパブリッシャーにとって、新たなサプライパスになることを意味する」と、クリンガー氏は言う。
株価は下向き、気持は前向き
実際、識別テクノロジープロバイダー勢は、株価が下落し、情報不足が識別子業界に暗い影を落としていてもなお、Googleの発表を前向きに解釈しようと努めている。「Unified ID 2.0に広告業界の誰もが高い関心を示した事実を見ればわかるとおり、関連付け広告の価値を維持しつつ、消費者のプライバシーも保護できる新たな識別ソリューションの構築には、業界中が大いに注目している」と、識別テクノロジーにおけるLiveRampの最大のライバル、ザ・トレード・デスク(The Trade Desk)の広報は文書で答えた。ザ・トレード・デスクの株価は3月3日に12%下落、 LiveRampの株価は8%下落した。
テック企業、エージェンシー、ブランド、パブリッシャーはいずれも、識別子に関してGoogleが何を認め、何を認めないのか、はっきりとはわかっていない。「Googleが使いたいと思うものが何であれ、それが基本になる」と、デジタルエージェンシーPMGのサーチ、ソーシャル&ショッピング部門トップ、ジェイソン・ハートレー氏は言う。「それがわかれば、我々も手が打ちやすくなる」。
テック企業マグナイト(Magnite)のチーフテクノロジーオフィサーで、オープンソースシェアード識別子を扱う企業プレビッド(Prebid)のチェア、トム・カーショウ氏は一方、Googleの発表をLiveRampやザ・トレード・デスクにとっての凶報とする見方をきっぱりと退け、「何から何まで間違っている」と断言する。識別テクノロジーはあくまで、非特定化データを介したパーソナライズド広告の実現を基本としており、それはGoogleの姿勢に合致していると、氏は指摘する。
「今回の発表に人々がここまで浮かれているのは、[Googleの広告部門による]実質的なものとしては、この1年で初めての発言だったからだ」と氏は言う。Googleがオープンウェブにおけるログインデータを捨て、代わりに同社がChromeで押しているコホートベースのターゲティング法を選んだことは、まさに決定的だったと、氏は指摘する。Googleは業界の他企業に導入を強いているのと同じテクノロジーを利用すると発表したのであり、それが業界に安心感をもたらしていると、カーショウ氏は言う。「実際、何年も前にそうして然るべきだった」。
「これは業界全体の話だ」
Googleの発表により、マーケターおよびパブリッシャーは識別子ベースからコホートベースにターゲティングを切り替えた場合のリスクと利点の見極めを急ぐよう、プレッシャーをかけられていると、リサーチ企業ガートナー(Gartner)のVP/有名アナリスト、アンドルー・フランク氏は言う。「今回の発表は、Googleが自社のあらゆる広告プロダクトにおけるユーザーレベルでのトラッキングおよびターゲティングの廃止をあらためて認めたものであり、したがって今後、パーソナルIDの利用同意を基本とする[ザ・トレード・デスクの]Unified ID 2.0 と、たとえばプライバシー・サンドボックス(Privacy Sandbox)が提供するコホートレベルの識別およびターゲティングテクノロジーとのせめぎ合いがますます激化することになる」と氏は言い添える。
今回のGoogleの発表は、エージェンシーが今後も広告キャンペーンに対する多様なアプローチを続けていくことを意味すると、PMGのハートレー氏は言う。「どこか一社の識別子プロバイダーだけの話ではない。一種類のIDだけの話ではない。これは業界全体の話だ」。
KATE KAYE(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU