MARKETING ON PLATFORMS

SNSのアルゴリズムで急成長する、米 ネットワークビジネス :「パンデミックはビジネスチャンスと捉えている」

新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、これを新たなビジネスチャンスとして捉えている人は少なくない。

今夏、ジュディ・ルドルフ氏は化粧品やスキンケア用品を扱うボディショップ(The Body Shop)のネットワークビジネス用ブランドであるボディショップ・アット・ホーム(Body Shop At Home)と独立コンサルタント契約を結んだ。ボディショップはサードパーティの販売員をマーケティングチャネルとして募集している。これまで英国とオーストラリアで展開してきたボディショップ・アット・ホームだが、来春の米国でのローンチに向けて急ピッチで準備を進めているようだ。

「新型コロナウイルスの感染拡大とオンライン販売の急増が同時に発生し、これをビジネスチャンスと捉えた」とルドルフ氏は語る。同氏はこれまで、ネットワークビジネスを展開するさまざまなブランドと独立販売員として提携し販売をおこなってきた。そんな同氏がボディショップのネットワークビジネスプロジェクトについて聞いたのは、Facebookで知り合ったほかの販売員からだったという。ルドルフ氏は当初、商品割引も目当てにこのプロジェクトに参加したが、その後も何千という販売員が参入している。

ルドルフ氏はほとんどの商品をFacebookパーティー(いわばFacebook上で開催されるホームパーティだ)で販売している。ボディショップ・アット・ホームの商品についてはFacebook上で5日間のイベントを実施し、自身が商品を使用する様子を数日かけて生配信する予定だ。「1日はスキンケア、別の日にボディケア、さらに別の日にヘアケアを配信する」と同氏は語る。

感染拡大が収益に好影響

今年、独立販売員を活用したネットワーク構築に勤しんでいるのはボディショップだけではない。ステイホームやオンラインショッピングの急増により、小売業界は大混乱に陥った一方、ネットワークビジネスを展開するブランドは密かにその恩恵を受けている。

米国では突如として雇用が不安定化したことに加え、春に政府が返済免除の融資や補助金などの支援策を実施した。これに目をつけ、販売員を増やそうと試みるネットワークビジネス企業が増えているのだ。これらの企業は、Facebookやインスタグラムで「パンデミックのさなかだからこそ一緒に働こう」という広告を打ち出している。タイム(Time)の報道によると、たとえばネイルポリッシュ分野のネットワークビジネスブランド、カラーストリート(Color Street)は、SNSで「支援金を自分のために使い、資金を増やそう」と広告を出している。

現在、ニュースキン(Nu Skin)やプリメリカ(Primerica)といった大手ネットワークビジネス企業は売上を伸ばしている。米国の大手ダイレクトセールス業界団体、ダイレクトセリング・アソシエーション(Direct Selling Association)が調査をおこなったところ、63%の企業が、感染拡大は「米国内の収益に好影響を及ぼした」と回答している。政治的な投稿の拡散を支援するSNSのアルゴリズムが、そのままマルチ商法にも活用できることが明らかになった形だ。

大きな恩恵を受けた企業のひとつが、キッチン用品ブランドのタッパーウェア(Tupperware)だ。ここ数十年、右肩下がりで減収となってきた同社だが、ここにきてパンデミックによりFacebookやZoom、WhatsApp(ワッツアップ)、TikTokで「タッパーウェアパーティー」が大流行し、大幅な増収となっている。

パンデミックの中で成長

今やネットワークビジネス業界において「ダイレクトセールス」はもっとも使われているキャッチフレーズと言えるかもしれない。米連邦取引委員会(FTC)は、ダイレクトセールスを「小売の店舗を除く、個人間の販売を前提としたビジネス」と定めている。ダイレクトという言葉からD2Cが思い浮かぶかもしれないが、一般的にダイレクトセールスにおける売り手は企業に属さない独立した販売員が担っており、大半のD2Cスタートアップは当てはまらない。一方、ネットワークビジネスはまず販売員が製品を購入し、その製品を他人にすすめ、買わせることで収入を得られる仕組みだ。

ネットワークビジネス企業を研究してきた専門家のウィリアム・キープ氏によると、同業界の規模は小売業界全体の収益の1%程度にとどまっており、2020年までの数十年は「緩やかに衰退している」状態だったという。同氏は、パンデミック以前は同業界に「明確な縮小傾向も、拡大傾向もなかった」と語る。

ダイレクトセリング・アソシエーションの会長、ジョセフ・マリアーノ氏は、米DIGIDAYの姉妹サイトのモダンリテール(Modern Retail)の取材に対し、「今年に入って業界はさらに苦戦すると予測していた」と明かす。「3月や4月ごろは先行きについてかなり悲観的だった」。だが同氏は現在、年末までに2〜5%の成長を見込んでいる。これですら「正直なところこれもかなり慎重な数字だ」という。成長を後押ししているのが、Facebook上で急増している独立販売員だ。

ネットワークビジネスそのものも急激に増加しており、今や名の通ったブランドすら検討し始めている。ボディショップの場合、後押ししているのは好調なグローバルセールスだ。英国では数年前からボディショップ・アット・ホームが展開されていたが、今年に入って収益が80%増という数値を記録。英国におけるボディショップ全体の収益の3分の1近くを占めている。

古いビジネスモデルと新たなマーケティング戦略

ネットワークビジネスはすでにさまざまな分野で展開されている。そして、すべての企業ではないにせよ、早い段階で現金化するために販売員に対して製品を一括購入した上で販売するよう求めているところが多い。キープ氏は、ネットワークビジネスの問題は「実際に販売を担当する販売員が売れようと売れまいと、企業側は必ず収益を得られること」にあると指摘する。たとえば、ルドルフ氏も担当しているララロー(LuLaRoe)の場合は初期投資として6000ドル(約63万円)が必要になる。

ただし、手数料モデルでの販売契約を結んでいる場合は、企業も販売員も商品が売れたときに収益を得るシステムとなっている。ボディショップ・アット・ホームはこちらの方式であり、販売員が求められる支払いは79ドル(約8300円)のみで、在庫分の購入は不要だ。オンラインでボディショップ・アット・ホーム専用のリンクを介し、他人にボディショップのオンラインストアから購入させる、または新たな販売業者を獲得すると手数料を得るシステムとなっている。

一方で、今年のネットワークビジネス業界で伸長している企業の大半に共通するのが、SNSで虚偽的な主張を行い大量の販売業者を募集していることだ。多くの企業が、特に業界がターゲットとしている女性に対し、「在宅ワーク」という売り文句を使ってきた。独立販売員はステイホームに適した仕事だという主張だ。化粧品ブランドのアルボンヌ(Arbonne)が展開していたある広告には次のように書かれている。「今やみんなが大騒ぎ。でも私は自宅でのんびり、ウイルスとは無縁の生活で、自宅にいながら数億円規模の世界的ビジネス」。

なかには、インスタグラムのミームアカウント(面白いトピックやトレンドに関するまとめアカウント)を使って募集メッセージを拡散している企業すらある。たとえば4月には、シャンプーブランドのモナート(Monat)がミームアカウントを使い、「ステイホームでも、家でじっとして何も変えられないわけじゃない」と販売員募集を宣伝している。

「ブームは長続きしない」

FTCは、6月に販売員の売上の虚偽申告や自社製品がCOVID-19の治療に役立つとの虚偽記載をおこなっていた16社に対して警告文書を発行している。FTCは、さまざまな調査が示すとおり、「たとえ『合法的』なネットワークビジネスに参加しても、企業側の謳い文句に反し、ほとんどの人はほぼ稼げない」と指摘している。司法長官は、ララローをはじめとする多数の企業をねずみ講だとして非難している。

また、FTCは、マルチ商法の企業による誤解を招くような表記に対し、今後さらに取締りを強化していく方針だ。キープ氏は、「20年前であれば、これはねずみ講ではないか? というのが大きな争点になっていただろう。一方、現在では『ねずみ講かどうかに関わらず、誤解を招く表現を禁止する』というのが当局の方針となっている」と語る。

だからこそ、キープ氏はマルチ商法のブームは長続きしないのではないかと語る。「確かにここ数カ月、タッパーウェアの株価上昇は目覚ましい。だが、それだけだ。それをもとに将来の予測はしない」と続けた。

[原文:‘They saw an opportunity with the pandemic’ How social media platforms gave multi-level marketing a coronavirus surge

Michael Waters(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)