世界最大規模のオンラインプラットフォーマーと各国政府との攻防が激しさを増すなか、マーケターたちは知らぬ顔を決め込んでいるように見える。というのも、巨大プラットフォームに資金を直接的に投じつつその相手に表立って噛みつくなんてことは両立し得ないことに、随分前から気づいているからだ。
世界最大規模のオンラインプラットフォーマーと各国政府との攻防が激しさを増すなか、マーケターたちは知らぬ顔を決め込んでいるように見える。というのも、巨大プラットフォームに資金を直接的に投じつつその相手に表立って噛みつくなんてことは両立し得ないことに、随分前から気づいているからだ。
ただし、マーケターたちが本心ではどちらを応援しているのかは明白だ。
政府は規制に乗り出したが
10月に米国の議員らがGoogleの市場シェア独占を規制しようとしていることが明らかになったものの、その対象がより支配の闇が深いオンライン広告ではなく検索サービスだったため、多くの広告主が失望した(10月20日には米司法省がGoogleを反トラスト法違反で提訴している)。そしてその数日後、FacebookとTwitter、Googleの親会社であるアルファベット(Alphabet)、それぞれのCEOが出席する米上院の公聴会が開催され、その失望はさらに大きくなった。オンラインプラットフォームにおける現行のコンテンツ管理方法に問題はないと各社CEOが主張する一方で、その管理プロセスの透明性をどう高めていくかについては、4時間以上の聞き取りのなかでほとんど議論されなかっただめだ。
Advertisement
あるマーケターは、この一連の流れは予想できていた語る。以前から政治家、特に米国の政治家は目を付ける企業は間違っていないが、問題の見立てを間違えていると思っていたという。
「政府による介入を長い間待ち望んできたが、今回の動きがすぐに本当の変化につながるとは期待できない」と、あるグローバールブランドのCMO(chief media officer)は、匿名を条件に語った。
このように、巨大プラットフォーマー規制の見通しはかなり疑問視されているし、そもそも彼らによる市場独占をどうすれば破れるのかは定かでない。しかも次の展開によっては、独占を破る機会が完全に失われてしまう可能性が──少なくとも米国では──ある。
「(現在の流れを踏まえても)米国でプラットフォーマーの規制がうまく進まない可能性は間違いなくある。それはこの問題の政治色があまりに強くなってしまったからだ」と、シリコンバレーで企業の経営に携わってきた経験を持つマエル・ガヴェ氏は語る。「問題が政治化してしまうと規制はもちろん、誰もが望む対応、つまり法改正も実現できなくなるかもしれない」。
疑念を抱きつつも止められない
大手広告主ですら、懸案を抱き続けながらも巨大プラットフォーマーに揺さぶりをかけられず、政府に頼ろうとしている。広告主は以前からGoogleやFacebookのような企業が提供するテクノロジーは、「反競争的」な方法で独占的に構築してきたのではないかと疑念を抱いていた。そして、巨大プラットフォーマーのそうした行為を公然と批判するマーケターたちが後を絶たないような時代もあった。それでもやはり、プラットフォームとしての魅力は強すぎた。よくないとことだ思いながらも、広告主はこれらのプラットフォームに広告を出し続けている。
「Googleが私たちのニーズを自分たちのニーズよりも優先するとは思えない。Googleのテクノロジーを使って、Googleが販売するインベントリーを購入することには不安を感じていた」と、先述とは別のグローバールブランドでCMO(chief media officer)を務める人物は語る。「だが数年前に比べて、この問題に目覚めるブランドが周囲でも増えている。そうした企業は広告費にも見直しをかけていて、広告を減らす方向に動いている」。
しかしオンライン広告への広告支出が増え続ける限りは、巨大プラットフォーマーの財源も増え続ける。それは、直近の四半期でGoogle、Facebook、Amazonの広告売上が加速していることからも明らかだ。広告主はこうしたプラットフォームへの広告出稿停止を検討していると口にするし、ハイネケン(Heineken)のように実際に出稿停止を試してみた企業もあるが、全面的かつ永続的に停止している企業はほとんどない。なぜならそれは、さまざまな面で確実に効果の出ているメディアチャネルを進んで捨てることを意味しているからだ。
よほど肝の座ったCMO(chief media officer)でなければ、パンデミックと景気後退が世界的に広がる今、巨大プラットフォームに対する危機意識を発揮する余裕はないだろう。
「マーケターが覚悟を決めるべき」
「マーケターはこうした問題を何年も前から認識しているので、議会によるプラットフォーマーを対象とした反トラスト法調査の結果にも驚くことはないだろう」と、ある企業のマーケティング部門で購買ディレクターを務める人物は語る。「政府の動きは、いかにもプラットフォーマーを問題視しているかのようなポーズの側面がある」。
それでも、規制の流れが広告主に恩恵をもたらす期待が完全に失われたわけではない。現在進行している複数の調査は、あらゆる大手プラットフォーマーの経営に影響を及ぼす可能性があるものだ。また欧州でも米国でも、市場を支配するプラットフォーマーに政治家たちが照準を合わせていることは間違いない。今回の規制の試みが失敗に終わったとしても当然形勢を立て直し、再び同様の試みがなされるはずだ。ただし、明確な結果が出るまでにはもう少し時間がかかるだろう。
「これまで出席してきた広告主を交えた会議で、(GoogleやFacebookから離れ)SnapchatやTwitterに出稿する広告を増やすこともできるが、ROIを上げるにはかなりの労力がかかるので実行しない、とマーケターたちが口にするのを何度も聞いてきた」と、ガヴェ氏は話す。「そうした発言は自己実現的予言になってしまっている。マーケターが覚悟を決めて、比較的小さなプラットフォームに人員や予算をかけていかない限りは、結局は不満だらけの巨大プラットフォーマーに広告費を投入することになる」。
SEB JOSEPH(翻訳:半井 明里/ガリレオ、編集:分島 翔平)